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殴り賢者はバレている  作者: 七風


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「先生の世界には、まだ知らない魔法もあるのかなぁ?」

 タイムジェイルでの特別訓練について、参加を希望する生徒が何人かいることは分かった。


 しかし、実際に訓練へ向かう前に、決めておかなければならないことも多い。


「まずは、参加する人たちが何を身につけたいのか、整理したほうがよさそうだね」


 アリスがそう言って、机の上の資料をまとめ直した。


「全国大会までに伸ばしたい能力は人それぞれだと思う。単純にレベルを上げたい人もいれば、新しい魔法を覚えたい人もいるだろうし」


「そうですね。皆さんの現在の能力と、身につけたいものが分かれば、それに合わせて訓練環境を用意できます」


 リーゼロッテが頷いた。


「私の世界の魔法に適性があるかどうかも、実際に調べてみなければ分かりません。適性があれば学んでみるのもいいでしょうし、そうでなければ、今持っている能力を伸ばす方向で考えればいいでしょう」


「なるほど。最初から全員に同じ訓練をさせるわけじゃないんだね」


「ええ。全員が同じ能力を身につける必要はありませんから」


 アリスは納得したように頷いた。


「じゃあ、まずは自分の目標を考えてみようか。まだ決められない人は、あとから変更してもいいと思う」


「そうだな。何のために訓練するのか分かっていたほうが、頑張りやすいだろうし」


 政宗も賛成した。


 それぞれが少し考える時間を取る。


 最初に口を開いたのは、政宗だった。


「俺は、レベル50を目標にしたい」


「レベル50か」


 龍太が反応する。


「ああ。今よりも確実に強くなりたいし、全国大会でも結果を残したい。その先はプロの冒険者として活動するつもりだからな。まずは、そこを目指したい」


「俺もレベル50を目標にする」


 龍太も続いた。


「レベルが上がれば、それだけ対応できる依頼も増えるだろうしな。戦闘で余裕ができれば、仕事の選択肢も広がる。今のうちにできるだけ強くなっておきたい」


「私も、レベル50を目標にしたいです」


 ヒカルが真剣な表情で言った。


「ただレベルを上げるだけじゃなくて、今の自分に足りない部分もきちんと鍛えたいと思っています。せっかくの機会ですから、最後まで手を抜かずに取り組みたいです」


「私もレベル50を目標にするよ」


 アリスも頷いた。


「生徒会長として大会の準備を進めるのはもちろんだけど、私自身も選手だからね。みんなに任せきりにするわけにはいかないし、自分の力も伸ばしておきたい」


 続いて、小金沢が考えを口にした。


「俺もレベル50を目指します。新しい魔法や技術を覚えられるなら、それも積極的に学びたいですね。戦闘以外でも役立つ知識が手に入れば、将来の仕事にも生かせるでしょうし」


「瑠奈はどうする?」


 アリスが尋ねると、瑠奈は少し考えてから答えた。


「私もレベル50かな。せっかく行くなら、ちゃんと成果を持って帰りたいし! それに、異世界の魔法が使えるようになったら、いろいろ試してみたいじゃん?」


「瑠奈らしいね」


 ヒカルが小さく笑った。


「でしょ? 強くなるのも大事だけど、せっかくなら面白いこともやりたいし!」


 瑠奈は楽しそうに頷いた。


 羽生も、自分の考えをまとめてから口を開いた。


「俺もレベル50を目標にしたいです。政宗たちと一緒に活動するなら、もっと力をつけたい。誰かに守ってもらうだけじゃなくて、自分も仲間を支えられるようになりたいんです」


「いい目標だと思うぜ」


 政宗が頷いた。


「一緒に頑張ろう」


「ああ。よろしくな」


 羽生の表情に、少しだけ明るさが戻った。


 それぞれの目標が決まると、アリスは簡単に内容をまとめていった。


 レベル50を目指す者が多いが、それだけが目的ではない。新しい魔法や技術を学び、実戦で使えるようにすることも大切だ。


「琴と柳は、どうする?」


 アリスが尋ねると、琴は少し考えてから答えた。


「私たちは前回の修行でレベル60まで上がっているから、今回はレベルを目標にするより、今持っている能力をさらに磨く方向で考えたいかな」


「だな。あたしらは一度経験してるし、今回は新しく覚えられることがあれば試してみるくらいでいいと思うぜ」


 柳も気負いのない様子で頷いた。


「もちろん、行くからにはちゃんと訓練するけどな」


「うん。せっかくの機会だからね」


 琴も同意した。


 二人にとってタイムジェイルは初めての場所ではない。以前の修行がどれほど大変だったかも知っているし、そこで得られたものが大きかったことも覚えている。


 だからこそ、必要以上に気負うことなく、今回の目的を考えられるのだろう。


「乙羽は、どうする?」


 今度はアリスが乙羽に尋ねた。


「私もみんなと一緒に行くよぉ。みんなで合宿なんて、なんだか楽しそうだもんねぇ」


 乙羽は楽しそうに笑った。


 もちろん、強くなることに興味がないわけではない。せっかくタイムジェイルに行くのだから、自分も訓練をして、新しいことを覚えてみたいと思っている。


 それに、琴と柳が最後まで頑張るのなら、乙羽も一緒に付き合うつもりだった。


「先生の世界には、まだ知らない魔法もあるのかなぁ?」


「ええ。乙羽がまだ学んでいない魔法や技術もあるでしょうね」


「じゃあ、それも教えてほしいなぁ。みんなと一緒に修行しながら、私もいろいろ覚えてみたいよぉ」


「分かりました。乙羽にも、きちんと訓練できる環境を用意しておきますね」


「ありがとぉ、先生」


 乙羽は満足そうに頷いた。


 強くなることも、新しい魔法を覚えることも、仲間たちと一緒に過ごすことも、今回の合宿の楽しみだった。


 琴と柳も経験者として参加する。ならば、三人で一緒に修行する時間もあるだろう。


 乙羽は、それを楽しみにしているようだった。


     ◇


 次に決める必要があるのは、合宿の日程だった。


「全国大会までの準備期間を考えると、あまり先延ばしにはしたくないね」


 アリスはカレンダーを確認した。


「ただ、学校の授業もあるし、平日に長時間抜けるのは難しい。週末に行くのがよさそうかな」


「それがいいと思います」


 リーゼロッテも賛成した。


「タイムジェイルの内部時間は、皆さんの希望に合わせて調整できます。地球側でどれくらい時間を使えるのか、あらかじめ決めておけば問題ありません」


「じゃあ、今週末の土曜日から日曜日にかけてはどうかな?」


 アリスが提案する。


「土曜日に出発して、日曜日には戻ってくる。地球側では一泊二日の予定にしておけば、家族にも説明しやすいと思う」


「内部では、どれくらい訓練するんだ?」


 政宗が尋ねた。


「今回は、長期間の個別指導を行うより、集中的な戦闘訓練を中心にするつもりです」


 リーゼロッテが答えた。


「召喚魔法陣を使い、複数のモンスターを相手に戦ってもらいます。皆さんのレベルや実力に合わせて相手を調整し、経験を積めるようにします。短い時間で多くの戦闘を経験することが目的ですね」


「なるほど。数をこなして、実戦経験と経験値を稼ぐわけか」


 政宗が理解したように頷く。


「そうです。もちろん、ただ戦い続ければいいわけではありません。必要な休息を取り、魔法の扱いを学び、戦い方を見直す時間も確保します」


 長期間の修行を行うこともできるが、今回は全国大会までの準備として、まずは短期集中型の合宿を試すことになった。


 参加する生徒が多いため、一人ずつ長時間の指導を行うよりも、全員が実戦経験を積める環境を整えるほうが効率的だからだ。


「では、今週末に実施する方向で準備を進めよう。参加する人は、家族への連絡も忘れないようにね」


 アリスが念を押した。


「タイムジェイルに入ると、地球側とは連絡が取れなくなります。何も知らせずに姿を消せば、心配をかけることになるでしょう」


「確かに、前もって説明しておかないと大変だな」


 政宗が頷く。


「うん。帰ってくる予定も伝えておけば、家族も安心できると思う」


 ヒカルも同意した。


 タイムジェイルの中では、地球側の通信機器を使うことはできない。内部で長い時間を過ごしていても、外から連絡を取る手段はないのだ。


 だからこそ、出発前の連絡は欠かせなかった。


     ◇


 日程が決まると、話題は持ち物へと移った。


「内部では長い時間を過ごすことになるから、着替えはある程度必要ですね」


 リーゼロッテが説明した。


「ただし、洗濯はできます。何か月分もの服を全部持ち込む必要はありません。何日か着回せるだけの衣類を用意して、洗濯しながら使えばいいでしょう」


「なるほど。普段の旅行よりは多めに用意するけど、全部の日数分はいらないってことだな」


 政宗が確認する。


「その通りです。寝間着や下着、タオル、洗面用具なども忘れないようにしてください。生活に必要なものは基本的に揃えられますが、普段から使っているものがあれば持ってきても構いません」


「それなら、荷物はそこまで大きくならなそうだね」


 アリスがメモを取りながら言った。


「着替えと洗面用具、それから必要な日用品。あとは各自で必要なものを考えておけばよさそうだね」


「それと、暇つぶしの道具も持っていったほうがいいですよ」


 リーゼロッテが付け加えた。


「暇つぶし?」


 瑠奈が首を傾げる。


「タイムジェイルの中では、地球のインターネットには接続できません。普段使っている動画サイトやSNSも見られませんし、オンラインゲームも遊べません」


「えっ、マジで!?」


 瑠奈が驚きの声を上げた。


「じゃあ、動画とか見られないの?」


「地球のネットに接続することはできません。ただし、あらかじめ端末に保存しておいた動画なら見られます。ゲームも、オフラインで遊べるものなら問題ありませんよ」


「そっか。じゃあ、好きな動画をダウンロードしておかないと!」


 瑠奈はさっそくスマートフォンを取り出した。


「何を持っていくか、今のうちに考えておこうっと」


「本を持っていくのもいいかもしれないね」


 ヒカルも考え始めた。


「訓練の合間に読めるものがあれば、気分転換になると思う」


「俺はゲーム機かな。オフラインでも遊べるタイトルを確認しておこう」


 政宗も持ち物を考え始めた。


「私も、必要なものを整理しておくよ。準備しておけば、当日に慌てなくて済むからね」


 アリスはそう言って、持ち物の項目をメモに追加した。


 一方、リーゼロッテも何やら真剣な表情で考え込んでいた。


「……私も、動画をいくつか用意しておきましょう。あとは、携帯ゲーム機も持っていったほうがよさそうですね」


「先生も遊ぶ気満々じゃねえか!」


 柳がすかさず突っ込む。


「当然です。皆さんの訓練を見守る時間もありますからね。待っている間にできることは用意しておくべきでしょう?」


「まあ、そうだけどよ……」


 柳は苦笑した。


「先生、ゲーム機って何を持っていくのぉ?」


「それは秘密です」


「えー、教えてよぉ」


「当日のお楽しみということで」


 リーゼロッテは、どこか得意げに答えた。


 乙羽は楽しそうに笑った。


「じゃあ、私も何か持っていこうかなぁ。訓練の合間にみんなで遊べるものがあっても楽しそうだよねぇ」


「おっ、いいな! 修行ばっかりじゃ疲れるし、休憩時間も楽しみたいぜ」


 柳が賛成する。


「うん。もちろん訓練はちゃんとするけど、みんなで過ごす時間も大切にしたいね」


 琴も頷いた。


「せっかくの合宿だからねぇ。みんなで頑張って、休むときは楽しく過ごそうよぉ」


 乙羽はそう言って、琴と柳に笑顔を向けた。


 二人も笑って頷いた。


     ◇


 話し合いが終わるころには、合宿に向けて決めるべきことがかなり整理されていた。


 参加者はそれぞれ自分の目標を持ち、アリスが能力と希望をまとめる。リーゼロッテはそれをもとに、訓練環境と必要な教師を準備する。


 出発は今週末。


 それまでに家族への連絡を済ませ、着替えや日用品、暇つぶしの道具を用意しておくことになった。


「では、細かい準備は各自で進めよう。質問や変更があれば、私に連絡してね」


 アリスが締めくくる。


「うん。みんな、忘れ物には気をつけてねぇ」


 乙羽がのんびりと付け加えた。


「乙羽が一番、持ち物を忘れそうだけどな」


 柳が笑う。


「んぅー? 私は大丈夫だよぉ」


「本当かよ?」


「たぶんねぇ」


「たぶんって……」


 琴が小さく笑い、周囲にも和やかな空気が広がった。


 全国大会に向けた特別訓練。


 それは、ただレベルを上げるためだけのものではない。


 自分に足りないものを見つけ、新しい技術を学び、仲間とともに成長するための機会だ。


 タイムジェイルでの合宿が、それぞれにとってどのような経験になるのか。


 その答えは、今週末に明らかになる。


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