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第八話:諦めるな小暮君! 興味を持て小暮君!


その頃、テンプレ異世界召喚を満喫してワイワイガヤガヤと盛り上がるクラスメイトたちから、さらに数歩引いた日陰のポジションに、一人の男子生徒が佇んでいた。


彼の名は小暮コグレ君。

隅っこでボソッと呟いていた神官の陰キャ君とは、また別のベクトルで存在感の薄い、クラスきってのインキャその2である。

ちなみに、彼の脳内に届いた職業クラスは『影法師』。これ以上ないくらい彼にぴったりな、日陰のプロフェッショナルであった。


そんな小暮君は、王女様の説明もそこそこに、ずっと自分の頭をひねっていた。


「……なぁ、なんかおかしくないか?」


小暮君の元の席は、コハルのすぐ前の席だった。

普段の教室なら、ヒカルくんが女子を侍らせてキザなセリフを吐いた瞬間や、オタク連中がラノベ知識でドヤ顔をした瞬間に、必ず後ろから「なんでやねん!」という切れ味抜群のエセ関西弁ツッコミが飛んできていたはずなのだ。


それなのに、今はどうだ。

床が光って異世界に飛ばされ、王女様が出てきて、みんながステータスオープンと叫んでいる。コハルにとっては最高のツッコミのフルコース(食べ放題)状態のはずなのに、周りがやけに静かだった。


「う〜ん、何かおかしい。……何かが、致命的に足りない気がする」


小暮君、もう少しだ! 頑張るんだ! 君の違和感は完全に正しいぞ!


「……そういえば、後ろからの鋭い『どつき』が、ない……?」


小暮君が、そっと自分の後頭部をさする。

いつもコハルがツッコミを入れる際、セットで飛んできていた小気味いい頭へのペシッという衝撃。それが今、無性に恋しい。

……って、小暮君!? 君、実は最近そっちの新しい扉(属性)に目覚め始めて――。


「ち、違うんだ! 別に叩かれたいわけじゃないんだ! ただ、あの衝撃がないと一日のリズムが狂うというか何というか……!」


必死に脳内で弁明する小暮君。どうやらコハルは、自分でも知らないうちに、前の席の男子をそっち系(?)へと調教してしまっていたらしい。恐るべきエセ関西人パワー。


頑張れ小暮君! 職業が影法師だからって、決して君の心が暗いわけじゃない。ただ、いつもコハルの強烈なキャラクターという影に隠れてしまっていただけなんだから!


「あれ? 小暮、お前そこにいたんだ?」


近くにいたオタクの一人にそんなことを言われても、気にする必要はない。姿を消す隠蔽や隠匿こそが影法師の真骨頂なのだから、気配が消えているのはむしろ褒め言葉だ。


「うん、いたよ……。それよりさ、何か足りないと思わない?」

「え? 何が? 王女様可愛いし、テンプレ完璧じゃん」

「いや、そうじゃなくて……」


あと少し。もう少しで何か(コハルの存在)に気がつきそうな、非常に惜しいところまで来ている小暮君。神様の記憶処理の結界に、彼の「ツッコミを欲する本能」がヒビを入れかけている。


しかし、オタクの冷めた一言に、小暮君はふっと視線を落とした。


「……まぁ、僕には関係ないか」


諦めるな小暮君!! そこで思考を放棄したら、コハルが完全に歴史の闇に葬り去られてしまう!

もっと後ろの席に興味を持て! 小暮君!

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