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第四話:キノコは森の恵み


「……お腹すいた。ほんまに、死ぬほどお腹すいた……」


神殿を脱出して小一時間、うちは鬱蒼とした森の中をトボトボと歩いていた。

豪華なローブに可愛いブーツ、頭には魔法使いの三角帽子。見た目だけは一人前の大魔導士(ただし幼女)やけど、中身は今にも餓死しそうな抜け殻状態である。


「アカン、このままだと異世界観光どころか、第1章『コハル、行き倒れる』で強制終了やん……。なんか、なんか食べられるもんは……ん?」


絶望に暮れながら地面を見つめていたうちの目に、信じられないものが飛び込んできた。


大木の根元。湿った土からニョキニョキと生えている、茶色くて肉厚なキノコ。


「……あれ? これって、もしかしなくても……」


うちはすかさずガイドブックを取り出し、『鑑定スキルLv1』のカードをセットして、キノコをじっと見つめた。


『マツタケモドキ(食用):元の世界の「マツタケ」に酷似したキノコ。香りが非常に強く、焼いて食べると絶品。毒性は一切なし』


「マツタケやん!!!(モドキやけど)」


おぉ、神よ……! 存在消去されたんはまだ根に持ってるけど、この恵みには感謝するわ!

記憶の片隅にある、昔おじいちゃん家で食べたあの芳醇な香りが脳裏に蘇る。


「よし、食べるで! 焼きマツタケや!」


食べると決まれば行動は早い。

まずは火ぃ起こさなあかん。……え? 魔法? いやいや、さっき魔法のコピーで死にかけたばっかりやし、そもそも今のうちが持ってるんは『マジックブリット(魔弾)』だけや。

あんな極太レーザーでキノコ炙ったら、一瞬で消し炭になって森ごと大炎上してまうわ!


「ここは野生の勘と、テレビで見たサバイバル知識の出番やね」


うちはその辺に落ちている、よく乾いた小枝と松ぼっくりをせっせと集めた。

乾燥した木に溝を掘り、別の硬い枝を力一杯こすりつける。キコキコキコキコ……。物理攻撃力はゴミやけど、ここは根性と執念や!


「あ、ついた! 煙出てきた!」


火種をほぐした枯れ葉に移し、そっと息を吹きかけると、パッと小さな炎が上がった。

松ぼっくりに火が移り、パチパチと心地いい音を立て始める。


「ふぅ……魔法なんて頼らんでも、人間やればできるもんや。……よし、マツタケモドキを投入!」


手頃な平たい石を火のそばに置き、その上でマツタケをじっくりと炙る。

少しすると、じゅわっと水分が浮き出てきて、辺りにめちゃくちゃいい香りが漂い始めた。


「んんんーーー! 堪らん! いただきます!」


熱々のキノコを口に放り込む。


「んっはーーー! 歯ごたえシャキシャキで、香りが鼻から抜けるぅぅ! 塩も何もないのに、素材の旨味だけで白米3杯はいけるわこれ! 生きててよかったーーー!」


あまりの美味さに涙が出そうになる。

はふはふと焼きマツタケを堪能しながら、落ち着いた頭で改めてガイドブックのカードホルダーをチェックすることにした。キャラクター確認、これ大事。


「えーっと、現在のうち(コハル)、外見12歳。物理攻撃力は底辺、だけど魔力だけはSSS級のバケモノ(自覚なし)。持ってるスキルは『ガイドブック』『鑑定Lv1』『探索Lv1』『魔力操作Lv1』。魔法は『マジックブリットLv1』が99枚……よし、覚えた」


現状を把握したところで、目の前にはまだまだ大量のマツタケモドキがニョキニョキ生えている。


「これ、全部カード化して保管しとこ。ホルダーは99スロットもあるし、同じカードなら99枚まで重ねられるんやろ? 最高の非常食やん!」


うちはマツタケモドキを次々と収穫し、ガイドブックにかざしていく。

本が淡く光ると、キノコがシュンッと吸い込まれ、アイテムスロットに『マツタケモドキ×30』のカードが作成された。これ、ほんま便利やわぁ。


そうこうしているうちに、森の奥はだんだんと薄暗くなってきた。


「うわ、もう夕方か。異世界の夜とか絶対危ない野生動物出るやん。……どこで寝よ?」


辺りを見回すと、すぐ近くに、大人が何人も乗れそうなほど太い枝を伸ばした、めちゃくちゃ大きな木があった。


「よし、あそこの上で寝ることにしよ。ちょっと枝をお借りしますよーっと」


うちはよいしょ、よいしょと幹にしがみつき、ちんちくりんな体を駆使して木の上へと登った。

太い枝の分かれ目に座ると、思いのほか安定感があって、まるで天然のベッドみたいや。


「ふぅ……初日から激動すぎやろ。机投げ飛ばして、ロリ化して、マツタケ焼いて、木の上で野宿って……どんなJKライフやねん」


夜風がローブの裾を優しく揺らす。

お腹がいっぱいになったら、急に強烈な眠気が襲ってきた。


うちは三角帽子を目深に被り直し、太い幹に背中を預けてそっと目を閉じた。

明日は、明日の風が吹く。まずはこの森を抜けて、人がいる街を目指さなあかんなぁ……。

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