第二話:『ガイドブック』ってなんやねん!
「……とにかく、一旦落ち着こう。うん、現状確認や。深呼吸、すーはー、すーはー……」
いや、落ち着けるかーーーい!
なんやねんこのちんちくりんボディ! 16歳のキラキラ(?)女子高生ライフを返せ!
「はぁ……。怒ってもお腹が減るだけやな。まずは何がどうなっとるんか……ん? なんやろ、足元でなんか光っとる?」
崩れかけた石畳の上に、ぽつんと一冊の本が落ちていた。表紙がうっすらと淡い光を放っている。
恐る恐る手を伸ばして触れてみた、その瞬間。
ピコーン!
『特殊スキル:異世界ガイドブックを習得しました』
脳内に直接、無機質な機械音が響いた。
「へ? スキル……ガイドブック? い、いやいやいや! 普通こういうのってさ、一騎当千の爆裂魔法とか、王宮騎士団長もびっくりな神速の剣技とかちゃうん!? なんで『ガイドブック』やねん! うちをどこへ案内する気や!」
思わず本に向かってセルフツッコツミを入れてしまった。
でも、手に取ってパラパラとめくってみると……。
「……いや、何気にこれ、めちゃくちゃ作り込みがええな? ○〇の歩き方シリーズもびっくりなクオリティやん」
1ページ目を開くと、そこにはポップなフォントでこう書かれていた。
『異世界にようこそ! まずはステータスを確認してみよう!「ステータスオープン」って唱えてね☆
【本誌の特徴】
・地図、現在地、近隣の都市の特徴、ダンジョン攻略情報などがリアルタイムで記載されます(新情報は自動更新)。
・各国の観光名所や美味しい名物を全力で楽しんでいただけるよう、愛を込めて編集しております♪』
「最後、旅行会社のパンフレットか! 異世界観光に全振りしすぎやろ!」
呆れつつさらにページをめくると、厚みのある表紙の裏側に、カードダス(古い?)のファイルを豪華にしたような透明のポケットがぎっしり並んでいた。
『巻末付録:ストレージホルダー
・アイテムやスキル、魔法をカード形式で保存できます。
・スキルカードはホルダーから出すと習得できます。習得済みのスキルを再び使うとレベルが上がります。
・魔法は「見る」だけで自動でカード化され保存されます。カードを使うと発動しますが、一度使うとなくなる使い捨てです。ただしカードの【コピー】が可能!(※魔力を消費しますのでご注意を)。
・アイテムホルダー:99スロット、魔法ホルダー:50スロット、スキルホルダー:25スロット。各スロット同じカードを99枚までスタック可能。カードの他者譲渡は不可』
「な、なるほど……? 魔法は使い捨てやけど、コピーすれば無限に使えるってことか。カードの複製とか、なんかちょっと男のロマンっぽくてワクワクするやん。スキルスロットが25もあるんも地味に凄そう」
さらに、本の間に薄い冊子が挟まっているのに気づいた。
「『別冊付録:古今東西魔法大全集』……って、これただの紹介本やん! 挿絵だけじゃ魔法覚えられへんって注意書きあるし! ほんまに見るだけかい!」
でも、その別冊の裏に、キラキラ光るおまけカードがいくつか張り付いていた。
「おっ、おまけカード! 『探索スキルLv1』、『鑑定スキルLv1』、『魔力操作Lv1』……よし、これ全部セットオン! ほんで、魔法スロットの方にも最初からなんかあるな? 『マジックブリット(魔弾)Lv1(※コピーおすすめ)』……おすすめされたら、するしかないやろ!」
うちはカードに意識を集中させて、「コピー、コピー、コピー……」と心の中で念じてみた。
すると、カードから光が溢れて、同じカードがシュババババ! とスロットに増殖していく。
「お、おもろい! どんどん増えるやん! 限界までやったるわ!」
調子に乗って限界の99枚まで一気にコピーを量産した、その時。
「……ッ、うわ、頭が、急に……だ、だるい……」
急激に視界がぐわんぐわんと歪み、ものすごい疲労感が襲ってきた。
立っていられなくなり、うちはガイドブックを抱きしめたまま、神殿の床にごろ寝する。
「アカン……魔力使いすぎた……無理……おやすみ……」
◇
「……はっ! い、いつの間にか寝てもうた!」
どれくらい経ったんやろ。すっかり体のだるさは消えて、すっきり爽快。
起き上がってガイドブックを開くと、魔法スロットには限界まで詰まった『マジックブリット』のカード。
「ふぅ、死ぬかと思ったわ。コピーには魔力が必要って、こういうことか……気をつけよ。……ん? 魔法スロットの端っこに、何にも書いてない真っ白なカードがあるな?」
不審に思ってその白いカードをホルダーから抜いてみると、表面にすうっと文字が浮かび上がってきた。
『コハルちゃんへ。手違いで一人だけ変な場所に落としちゃってごめんね! 体が縮んだのもその時のバグです。お詫びにスターターセット一式をカード化して入れておいたから使ってね! ちなみにこの世界に魔王はいないし、元の世界に戻る方法もないけど、コハルちゃんの存在が消えたことへのアフターケア(周囲の記憶処理とか)はばっちりしといたから安心してね☆ ――神様より』
「……って、神さん的な人からのお手紙かーーーい! ほんでアフターケアの方向性おかしいやろ! うちの存在消去されてるやん! 戻られへんの確定させるなぁぁぁ!」
神への怒りで震える手で、お詫びのスターターセット(カード化済み)を確認する。
* 『魔法使いの鍔広の帽子(高級・壊れない・汚れない・持ち主コハル)』
* 『魔法使いのローブ(高級・破れない・汚れない・持ち主コハル)』
* 『おしゃれな膝まである革のブーツ(折り返しが可愛い・壊れない・疲れない・持ち主コハル)』
* 『魔法の箒(※要魔力操作Lv3)』
「……くっ、めちゃくちゃ至れり尽くせりで悔しい……! 防御性能完璧やし、ブーツとか普通にデザイン可愛いし、箒まであるやん! まぁ、魔力操作Lv1やからまだ箒には乗れへんのやけど!」
ひとしきりツッコミを入れ終えると――。
グゥゥゥゥ〜〜〜。
誰もいない静かな神殿に、うちの情けない腹時計が鳴り響いた。
「……うん。怒ったら、ほんまにお腹すいた。元の世界に戻れんのは絶望やけど、とりあえず飯や! なんか食べ物探さんと干からびてまうわ!」
うちはお詫びの装備一式を実体化させて身につけると、ガイドブックの地図を頼りに、よちよちと神殿の外へと歩き出した。




