第一話:召喚は突然に
それは、ほんまにいきなりやった。
学校の昼休み。みんなが昼食後のひと時をだべって――いやいや、優雅に過ごしていた時のこと。
なんの前触れもなく、教室の床がブワッと眩しく光りだしたんよ。
「うわ、これ知ってる! 異世界召喚ってやつだよ!」
「まじかよ! やったぜ、俺の時代キタ――!!」
……うん。なんか一部のオタク連中の、無駄に冷静かつはしゃぎ倒してるっぷりが地味に腹たつ。状況把握早すぎやろ。
そんな中、クラスの主役(笑)であるイケメンのヒカルくんが、キリッとした顔で叫んだ。
「みんな、僕から離れないで! 僕が守るから!」
そう言って、周りの女子生徒だけを庇うように抱き寄せている。相変わらずやな、あいつ。っていうか、こっちはこっちで別のベクトルで腹たつわ!
「ちょっと待てヒカル、一応うちも女子やで〜! なんでうちの周りだけモーセの十戒みたいに綺麗にスペース空いてんねん!」
叫んだものの、光はさらに強くなる。
しかも運の悪いことに、うちが座ってる机の真下だけ、ピンポイントで「焦げ茶色の怪しい魔法陣」がアホほど自己主張激しく発光し始めた。
「うおっ!? 眩しっ! っていうか何これ、うちの席だけなんか不穏な光り方してへん!? 待て待て、怖い怖い!」
パニックになったうちは、何をトチ狂ったか、目の前の机をガシッと掴んで――思いっきり窓の外へと放り投げちゃった。
「ふんぬーーーっ!! 飛んでけ異世界!!」
ガラガラガシャーン!! と、窓ガラスと机が虚空へ消えていく。
それにしたって、クラスごと召喚って設定、ベタすぎやろーーー!!
◇
「……って、あれ?」
次に目を開けた時、視界を埋め尽くしていた白い光は消えていた。
代わりに目に飛び込んできたのは、青い空。そして、今にも崩れ落ちそうな石造りの柱。
「どっかの、崩れかけた神殿……?」
慌てて周囲を見回す。だけど、さっきまであれだけ騒がしかった教室の気配は微塵もない。ヒカルくんも、彼に群がっていた女子たちも、オタク君たちも、誰もいない。
「……誰もいない? ミカ〜? キョウコ〜? 委員長〜? どこに行ったん〜?」
しーーーん、と静まり返る古代遺跡風の場所。風の音だけが寂しく通り過ぎていく。
え、ちょっと待って。クラスごと召喚されたんちゃうの? なんでうち一人だけポツンと取り残されてるわけ?
「嘘やん、はぐれた? 召喚の段階ではぐれるとかある!?」
一人で頭を抱えて足元を見下ろした、その時だった。
「…………っていうか。うち、小さくなってへん?」
なんか、視点が妙に低い。
自分の手を顔の前に持ってきてみる。……ちっちゃい。指が短くて、まるっこい。
慌てて自分の体をペタペタと触ってみる。胸元は元から平坦やったけど(泣くところではない)、全体的にサイズ感が明らかに縮んでいる。
「いやいやいや! 服も体に合わせて綺麗に小さくなってるんは親切やけど! ローファーもぶかぶかになってへんけども!」
うちはその場にしゃがみ込み、神殿の床に溜まった雨水の水たまりを覗き込んだ。
そこにしがみつくように映っていたのは、どう見ても12〜13歳そこらの、見知らぬ幼女の姿だった。
「なんでやねん!!!!(大声)」
誰もいない崩壊神殿に、うちの魂のツッコミだけが虚しくこだました。




