第十五話:残された勇者たちと、なんだか不穏な王宮
トリガーハッピーな金髪ガンマン(ミカ)と、影に潜む黒装束(木暮君)が鮮やかに帝国を脱走した翌日。
ベルガモン帝国の王宮は、前日の大騒動の余波と、ある「決定的な喪失」によって、お通夜のような空気に包まれていた。
特に、クラスのアイドルであったミカを失ったヒカルと、男たちの落胆っぷりは目を見張るものがあった。
「ミカさん……君はどこへ行ってしまったんだ。僕という光がありながら、なぜ影に怯えて逃げ出すような真似を……」
ガチで凹んで頭を抱えるイケメン勇者・ヒカル。
その後ろでは、オタク連中が床に四つん這いになり、文字通り血の涙を流しながら慟哭していた。
「嘘だろおい! ガンマン衣装のあの眩しすぎる美脚が、もう見られないなんて……!」
「異世界召喚のモチベーションの8割が消滅したわ! 誰だよ一緒に逃げたの!」
「確か、コグレとかいうやつらしいぞ」
「木暮? ……誰それ、そんなやつクラスにいたっけ?」
散々な言われようである。
コハルとはまた別の意味で、そもそもクラスに存在していたことすら怪しまれている陰キャその2の木暮君。
がんばれ木暮君。きっと西の空の下にいるコハルだけは、君のその薄い気配と、何よりシバき倒し慣れた「後頭部」のことを鮮明に覚えているはずやから……!(多分な!)
そして、クラスの端で血の涙を流している、神父。
インキャその1の人は、血の涙を流していた。
「小暮君、君は君だけは、僕の同士だと思っていたのに、」
そんな男たちの絶望を余計な雑音とばかりに切り捨て、怪しい笑みを浮かべた帝国の魔術師たちが、勇者たちにゾロゾロと近づいてきた。その手には、前回のものよりさらに禍々しい輝きを放つ、新しい金属の腕輪が握られている。
「勇者様方、大変申し訳ございません。先日お配りした腕輪ですが、初期不良といいますか、耐久力が著しく低いことが判明いたしました。このままでは、皆様が魔力をコントロールされる際に、最悪、暴走しかねません」
「つきましては、こちらの『改良型』への交換をお願いいたします」
魔術師たちは言葉巧みに説明するが、もちろんそんなのは真っ赤なウソ。
本当は、ミカにパキッと簡単に叩き割られた前回のものを反省し、さらに強固な『絶対服従・奴隷の呪い』が二重三重に強化された、ガチ仕様の拘束具への交換であった。
(ミカと小暮君が特殊なのである)
「あ、ああ……。暴走するなら、替えないとね……」
空な目で、勇者ヒカルが応じる。
最初にヒカルが腕輪をはめ替えさせられる。
その瞬間、腕輪から放たれた紫色の細い光の糸が、ヒカルの首筋へと吸い込まれて消えた。
「――勇者様、お体の具合はいかがですか?」
「ああ……。何か、いい感じだ」
どう聞いても感情の籠もっていない、完全な棒読みである。
続いて腕輪を交換されたオタクたちや脳筋の格闘家たちも、さっきまで血の涙を流していたのが嘘のように、どこか虚ろな目で「あー、いい感じっすねー」「帝国のために戦うわー」と、ロボットのように呟き始めた。完全に精神をハッキングされとるやんけ。
そんな中、ヒカルの取り巻きであるバカ女子たちが、トロンとした目でヒカルの腕にしがみついた。
「ねぇ、ヒカルくん……。なんだか急に、私、すっごく胸がドキドキしてきちゃった……」
「僕もだよ。なんだか急に、部屋で二人きりになりたくなってきた……」
……って、おい。
ヒカルの取り巻き女子たち、なんか様子がおかしいぞ? 完全に目が据わって、あっちの方(ピンク色)のスイッチが入ってないか?
いやいやいや! この物語は、ポジティブ幼女がガイドブック片手に美味しいものを食べ歩く、健全なゆるふわ異世界観光ファンタジーのはず。そんなドロドロした昼ドラみたいな展開は求めてへんねん!
しかし、がっちり洗脳の腕輪をはめられたヒカルと女子たちは、周囲の静止を無視して、いつの間にかふらふらとヒカルの個人部屋へと消えていった……。
オタク達の握った拳に血が滲む。
あれ?こいつら変わらない?いや、でも魔法士達の言う事は、従順に聞いているみたい。
「も、問題ないかな」
……うん。もう勝手にして。好きにしてください。




