第十四話:トリガーハッピーとインキャその2の王都脱出劇
コハルがキャラバンを巻き込んでオークを消し炭にしていた頃、ベルガモン帝国の王都では、ちょっとした政変レベルの大騒動が巻き起こっていた。
「……だから言ったんだ! なんであんなに目立つ真似をするんだよ!」
「へ? ガンマンは堂々とするもので〜す。コソコソするのは西部の名折れ(なおれ)ですから!」
「意味わかんねえよ! 見ろ、おかげでこんな状態じゃねえか! くそ、目立たず、気づかれずが僕のポリシーなのに……!」
黒装束(頭巾なし)の小暮君は、王都のど真ん中で頭を抱えていた。
王城を力技でぶち抜いて脱出したのはいいが、当然ながら一瞬で発覚。現在、二人の背後には銀の甲冑を着た精鋭の帝国兵が、それこそ一重二重と波のように押し寄せてきている。
ジャラジャラと甲冑を鳴らす追っ手の足音が響く中、さらに最悪なことに、曲がり角の向こうからも大きな鉄盾を構えた兵士の群れが壁となって迫ってきた。
「オ〜、サンドイッチですか。いけませんね、コグレ」
「まずい……っ! こうなったらミカちゃん、僕が魔力を練るから、1分、いや30秒だけ時間を稼いでくれる!?」
小暮君は覚悟を決めた。
魔力Aの『影法師』たる彼の真骨頂、影から影へと空間を跳び越える【影転移】を使うしかない。ただし、これには精密な集中と魔力を練る時間がどうしても必要なのだ。
「お〜、了解で〜す♪」
ミカは愛銃のピースメーカーを指先でクルクルと回しながら、機嫌良さそうに微笑んだ。
実は彼女、さっき小暮君に「ミカちゃん」と呼ばれたことが(何か新鮮で〜す。悪くないで〜す)と思っていたりする。
それに、ミカはウエスタンと同じくらい、日本の『ジャパニーズ・ニンジャ』も大好きだったのだ。
黒装束に身を包み、大真面目に影の術を仕込もうとしている小暮君の姿は、彼女の目には最高にクールな東洋の神秘に映っていた。
(※注:決して小暮君に惚れたわけではない。あくまで属性萌えである。がんばれ小暮君。きっとそのうち……いや、ないか!)
「さあ、私の魔力が尽きるのが先か、ジェントルマンたちがハチの巣になるのが先か、ショータイムです!」
ミカの右眼が妖しく輝き、サイト(照準)が敵の盾の隙間にロックオンされる。
魔力Bを練り上げて作った魔力弾が、一発必中のホーミング機能をもって次々と撃ち出された。
――バァン! ババァンッ!
「ぎゃあっ! 腕が!?」
「ひぃっ、盾の隙間を弾が曲がって当たったぞ!?」
前後の兵士たちが次々と足や腕を撃ち抜かれ、おしくらまんじゅうのようにドミノ倒しになっていく。時間を稼ぐどころか、一人で戦線を維持、いや制圧しつつあるトリガーハッピーの戦闘力はまさに恐怖そのもの。
「よし、ミカさん、僕に掴まって!」
きっかり1分。魔力を極限まで練り上げた小暮君が、ミカの腕をガシッと掴んだ。
その瞬間、二人の足元の影がぐにゃりと広がり、底なしの沼のように二人を包み込んで収束する。
シュンッ。
兵士たちが煙に巻かれたように目をこすった時には、通路には転がる負傷兵だけで、二人のかき消すような気配はどこにも残されていなかった。
◇
「ぶはっ……! げほっ、げほっ!」
次に二人が顔を出したのは、王都を囲む巨大な外壁の遥か外側。
街道沿いに生えている、大きめの木の影の中だった。背後には、遠くにそびえ立つ帝国の城壁が見えている。
「ふぅ……大成功、だ。完全に壁の外まで一発クリア……」
「オー! ワンダフル! これがニンジャの術ですか、コグレ!」
ミカが目を輝かせてパチパチと拍手を送る。小暮君は泥のように疲れ果て、木に背中を預けてへたり込んだ。影転移の魔力消費は半端ではない。
「はは……。何はともあれ、これで晴れて自由の身だ。……本当に、今日の天気が晴れててよかったよ」
曇りや雨だったら、影が世界中に広がりすぎて座標がバグるか、最悪どこに飛ばされるか分からなかったのだ。お天道様に感謝である。
小暮君は、息を整えながら西の空を見つめた。
「これで帝国からは完全に指名手配だろうけど……行くよ、ミカさん。神宮寺さんを探しにいこう」
「イエス、マイ・ニンジャコグレ! コハルの大好きな『タコ焼き』を求めて、西への大冒険の始まりですね!」
「だからタコ焼きじゃねえって言ってるだろぉ!」
すでに帝国を巻き込んだ大犯罪者ユニットと化した二人は、コハルが向かったはずのイシル王国(西側)を目指し、力強く歩き出すのだった。




