第十三話:主人公イベントと、驚異の草刈り
「おっちゃんらの馬車、めっちゃ快適やわぁ。揺れが心地よくて眠なってくる……」
キャラバンの馬車の荷台、ふかふかの藁の上に座らせてもらったうちは、ゴンを撫でながら極楽気分を味わっていた。
歩かんでええって素晴らしい。やっぱり文明の利器(馬車やけど)には頼るもんやね。
――と、優雅に寛いでいたその時。
ヒヒーーーンッ!!
突如、先頭の馬が激しくいななき、馬車が急ブレーキをかけた。荷台の樽や袋がガタガタと音を立てる。
「おい、待ち伏せだ! オークの群れだぞ! 武器を持て!」
「嘘だろ、こんな街道の近くにまで出やがったのか!?」
外からおっちゃんたちの怒鳴り声が聞こえてくる。
うちはゴンの頭をポンと叩き、馬車の隙間から外を覗き込んだ。そこには、緑色の肥満体に、豚のような鼻をした醜悪な魔物――オークが5匹、棍棒を振り回してキャラバンを取り囲んでいた。
「うわ、本物のオークやん。異世界バトルものの定番、お約束展開キタ!」
おっちゃんたち護衛の商人が剣を抜いて応戦しようとするが、オークの圧倒的な怪力に圧されている。
その時、うちの腕から飛び出したゴンが、街道の真ん中で「キャうん!」と鋭く鳴いた。
ゴンがその場でくるくると激しく回転すると、周囲の空気が渦を巻き、目に見えない鋭い風の刃が発射された。
ザシュッ!
「ブゴッ!?」
先頭のオークの腕に深い傷が刻まれ、棍棒が地面に落ちる。
ピコーン!
『ゴンの固有能力:【妖術・かまいたち】をカード化しました』
『かまいたち:イタチが鎌を持ってくるくる回転する風の術。魔力の込める量で回転数が変わり、攻撃力も上がる。魔法スロットに格納されます』
「おぉっ、新技キタ! ゴン、ナイス教材!」
うちはすぐさまガイドブックを開き、新カードの増殖に取りかかる。ただし、今はガチの戦闘中や。
「今回は、絶対に、気絶せんように……少なめにコピーや!」
うちのSSS級魔力をほんのちょびっとだけ使い、30枚ほど『かまいたち』を量産。よし、頭痛はない! 安全圏や!
「よっしゃ、これよ! これこそ旅の途中でピンチのキャラバンを救う、王道主人公っぽいイベントやん! うちの見せ場、いただき!」
テンションが上がったうちは、馬車の荷台から颯爽と飛び降りた。
「おっちゃんら下がって! うちがやったる!」
「えっ、嬢ちゃん!? 危ないっ!」
うちは量産した『かまいたち』のカードを指に挟み、残りのオークたちに向けた。
解説によると、魔力を込める量で威力が変わるらしい。
(よし、うちの魔力やったら……小指一本分くらいを意識すれば、草刈り感覚でマイルドにいけるハズやね!)
……が。初の主人公イベントに張り切りすぎたうちの右手は、無意識のうちに「小指一本分」を遥かに超える、とんでもない魔力をカードに注ぎ込んでしまっていた。
「カード解放! かまいたちっ!!」
カードが光を放った瞬間。
現れたのは、可愛いイタチの幻影――**なんかじゃなかった。**
ギガガガガガガガガザシュウウウウウウウンッ!!!!
「ひゃあああああ!!! なんやのこれえええええ!!!」
放たれたのは、直径5メートルを超える超高速回転する巨大な風の鋸刃。
それは草刈りどころか、周囲の街道の地面をガリガリと削り取りながら猛進し、オークたちを一瞬で巻き込んだ。
くるくる回転するどころの騒ぎではない。毎分何万回転しとんねんというレベルの超振動の風刃は、オークたちを文字通り一瞬で真っ二つ(垂直&水平)に両断し、背後の森の木々を数十本まとめて綺麗に伐採して遥か彼方へと消えていった。
静まり返る街道。
残されたのは、綺麗に整地された更地と、バラバラになったオーク(の残骸だったもの)。
明らかに、弁解の余地のないオーバーキルであった。
「……あ、あれ?」
うちが冷や汗を流しながら固まっていると、剣を握ったまま腰を抜かしていたキャラバンのおっちゃんが、引きつった笑顔でうちを見上げてきた。
「あ、あのな、お嬢ちゃん……。助太刀してくれたことには、山の神に誓ってめちゃくちゃ感謝する、感謝するんだがな?」
「は、はい……」
「もう少しなんだ……その、手加減をしてくれるとありがたい。あれじゃあ、ギルドに持っていくオークの耳(討伐証明)も、売れる皮も肉も、何一つ素材が残ってねえんだわ……粉々で……」
「あ……」
ガイドブックのホルダーを見る。自動カード化システムすら、原型がなさすぎて作動していない。ただの塵になってしもた。
うちはガリガリと頭を掻きながら、12歳フェイスの営業スマイルを浮かべた。
「はははは! いやぁ、つい、主人公イベントやと思って力入ってもうたわ! 堪忍な、おっちゃん!」




