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第七十四章 晃と女神 翼人の墓

 ネイシャと共に、森の傍らにある白翼の翼人の所に飛んで向かった。


 翼人であるネイシャは自前の羽を広げて、そこに風魔法の風を吹き上げさせ、自由に上昇と滑空を繰り返している。

 俺はファイエーが作った風魔法を発生させる仕組みを内蔵したスカイボードに乗り、風魔法をコントロールするだけという手間で空を飛んでいる。

 そのコントロールも、風の強弱だけで、基本はボードの下方向から上方向に風が吹くだけという仕組みだ。後は、ボードに乗って体重移動でバランスを取り、方向転換を行うというモノ。


 ネイシャは風魔法を自力で起動させ、魔法力を使いながらコントロールしているわけだけど、俺は魔法力も使わずに、風の強弱だけをコントロールしているだけ。だから、俺の方は他の魔法を難なく使う事が出来る。


 魔法はイメージを実現させる方法だから、明確なイメージを二つ同時に頭に思い浮かべる事が出来るのなら、二つの魔法を同時に使う事が出来る。


 まぁ、普通は無理だけどね。


 無理にやろうとしても、交互にイメージする状態になって、両方のイメージが中途半端になる。


 光魔法の灯りは、起動して灯りに自分自身が照らされると、イメージ以上の現物が目の前に有ると言う事で、それほど強いイメージの維持は必要ない。灯りの事を忘れなければ、イメージする必要もないみたいだ。そのおかげで、灯りを出したまま他の魔法を使う事もできる。


 他の魔法ではそうはいかないみたいだけどね。


 ネイシャにしてみれば、夜間に空を飛ぶ事もないし、夜空で空を飛びながら灯りを出しても役に立ちそうもなしね。

 ただ、弓を射る時に集中しすぎると風魔法が止まる事はあるだろうなぁ。

 風が無くなっても翼を広げていれば滑空出来るけど、その時に狙われて攻撃されたら避ける手段が限られるという状況になりそうだ。


 スカイボードの、板の部分は必要ないけど、風を発生させる仕組みの方を利用して飛び、魔法の方は防御や攻撃に使えるようにしておいた方がいいのかな?


 ファイエーに相談してみよう。


 そして白翼の所に到着。黒翼の十五人も到着していて、色々と話し合っているようだ。


 「おはよう!」


 そう言って翼人たちの前に降り立つ。


 「アキラ殿。おはようございます。早速ですがご相談したい事が」


 バヤガの息子がそう言ってきた。なんか面倒ごとでもあったかな?


 それから、黒翼の方の代表とバヤガの息子と話した所、黒翼の方で体調不良や病気、怪我を抱えているのが何人か居るという事が判った。

 昨日見た所、そんな感じじゃ無かったんだけど、未来が見えてきた所で気が抜けて、我慢が出来なくなったという事らしい。


 黒翼の方は森の木を切って、ベッドとか仕切りとかを作る許可が欲しいと言って来たんだけど、白翼の方が俺の許可が必要だと突っぱねたそうだ。黒翼の方も、それはもっともな事だと納得していて、どうするかを俺と相談したいという事だった。


 俺、使い潰して良いって言ったよね? しかも、ポーションも渡したよね?


 再度、他の場所に一族で移動する事を念頭に、ここの森は使って構わないと言い、必要なら全部の木を切り倒せと念押しした。


 それと、病人、怪我人は俺が診ると言って、念のために十五人全員を並ばせて診察と治療を行った。

 怪我人は、だいぶ前に骨が折れて、そのままくっついた状態だった。ネイシャと同じだね。同じように骨をチョップで叩き折り、元の場所に戻してから治療魔法でしっかりと繋げた。

 病人は怪我をした所が膿んでおり、まずは膿んだ部分をこそぎ落とす事から始めた。出来るだけ元の状態に戻るようにと手を加えたけど、失った所が凹んだ状態で塞がっただけだった。

 痛みもなくなり、動きも阻害される事がないので喜んでいたけど、見た目の痛々しさで俺としては不満の残る治療だった。


 その他は、軽い栄養失調で、内臓を活性化させてから果物類を多く取らせる事で落ち着きを取り戻した。


 更に俺の仕事は無くならない。


 まだまだ集まってくる予定だから、作業用の斧、鉈、そして弓が必要になる。森があるから簡単な槍は作れそうだけど、弓は木の質に大きく左右されるし、しっかりと乾かしたり、湿って腐らないようにするためにニスを塗ったりと、いろいろ手間をかけないと役に立たないだろう。


 だから、転移して店売り品をたっぷりと買ってくる必要がある。果物や野菜類も買わないとならないしで、やる事は後を絶たない。


 とりあえず、前に作った沐浴用の水場に水をたっぷりと補給し、飲み水用の池にもあふれるぐらい補充した。

 ネイシャとグラウには空から森の周りを回り、モンスターが現れないかを警戒し、現れたら翼人の方に知らせるようにと頼んだ。


 翼人たちには、沐浴場やトイレの使い方を教え、服を着替えさせてから、モンスターの解体や肉の切り分けを行って、これから来る翼人たちのために準備するように頼んだ。


 そして、俺は周辺三カ国を廻る買い出し業者になった。


 時間的な余裕が有れば、商人のアルシンさんに頼めたんだろうけどねぇ。商売の伝のない俺はそれぞれの店でちまちまと買い物するしかない。


 特に上等な物は必要ないって事が救いかな。良い物よりも直ぐに使える物が必要だからね。


 昼を少し過ぎた所でようやく一段落。空間圧縮の魔法がかかっているドラゴンの翼皮膜で作ったカバンに、入り切らなくなった時点で買い物を中断し、白翼の所に戻った。


 古着、新しい下着、樽で買い込んだ野菜と果物、大斧、鉈、弓矢一式、大鍋にズンドウ、食器。


 弓矢一式は店にある物を全部買ってきた。店の主人が驚いていたけどね。数は十六。矢は二百五十本。矢筒も十六にして、弦は五十本。


 あと、大きめの砥石も三つばかり買ってきた。翼人たちの持っているナイフも、だいぶ古びていたからね。


 で、早速分配。買ってきた弓矢は熟練の者に限定させ、これから集まってくる翼人たちの為にも残しておく事にする。見習いや子供たちには、森の木を切って即席で弓矢を作って使って貰う事にした。


 大方の分配が終わった所で、女たちが協力して果物を切り分けてくれた。白黒入り交じって、まったりとオヤツを口にした。


 なんだ、普通に協力出来るじゃん。


 水や食料が無くなったせいでギスギスした雰囲気になっただけで、飢えなければ乗り越えられるんだねぇ。

 これってことわざに有ったよね。えっと、なんだっけ。

 「衣食足りて礼節を知る」だっけ? 英語だと、「Well fed,well bred.」だっけ? 英語だと、良く供給されれば良く育つ、って意味にもなるから、ちょっとだけ違うかなって思った記憶がある。


 まぁ、飢えは怖いってことだねぇ。


 落ち着いた所で、俺はスカイボードに乗ってバヤガたちの方へと様子を見に行く事にした。状況によっては黒翼の所と同じように俺の命令という説得が必要かも知れないしね。


 空を飛ぶ事約三十分。歩きなら丸一日はかかりそうな距離も、空を飛ぶと簡単に到達出来る。


 スカイボードでの飛行では、本来なら真正面からの風を受けるので体力も消耗し、体温も下がってかなり疲労するはず。

 でも俺は風の防壁を張って、真正面からの風をやり過ごし、風に当たらないために体温も下がらないという状況で進んでいる。


 魔法ってホント便利。


 そして、空中でマッタリとしながら目的地に到着。ここにはバヤガが来ているはず。


 翼人たちの所に降りていくと、鷲羽根の翼人たちだった。数は十一人。先頭の、鷲羽根の代表とバヤガが言い争っているようだ。


 「こんちわ!」


 「アキラ殿!」


 よく見ると、バヤガが鷲羽根の代表から槍で攻撃されていた。バヤガは武器も構えず必死に避けている。

 あ、脇をかすった! 横凪の槍が髪の毛を削った! バヤガがジャンプして足の甲が串刺しになるのを避けた!


 「バヤガって器用だねぇ」


 「何を呑気な!」


 バヤガが抗議してくるが、鷲羽根の方の代表は必死に槍を繰り出してくる。


 「貴様のせいで俺たちがどれほどの辛酸を舐めたと思っているんだ!」


 更に槍を振り回してバヤガを責める。


 まぁ、被害者の方の気持ちも判るけど、加害者の方の気持ちも判るんだよねぇ。


 ブン! ブン! っと槍が振り回され、バヤガがそれを避ける。


 どうにも進展が無いね。バヤガの方は戦意を見せずに避けるだけなのに、鷲羽根の方の代表は構わずに攻撃を繰り返している。

 しかも、けっこう本気の攻撃だ。バヤガの方が運動神経が良いいせいで避けられているけど、ちょっとでも気を抜けば殺す勢いの攻撃が当たりそうだ。


 「あー、ちょっと待って貰えますか?」


 俺が前に出て手を挙げて「待った」をかける。


 「貴様もこいつの仲間か!」


 そんな俺にも槍を突き出してきた。


 左手のスタンガンを向けて引き金を引く。


 パシッ!


 出力を押さえてあったから、痺れて痛いってだけの衝撃が襲ったはず。


 鷲羽根の代表はスタンガンが当たった手を押さえて、驚いた顔をしていた。


 「貴様! 攻撃したな! もう勘弁出来ん!」


 何言ってるんだこいつ。


 俺はスタンガンの出力を上げて、気絶はしないけど、全身が痙攣する程度にセットして、また撃ち込んだ!


 「ギャッ!」


 悲鳴を上げて引きつって倒れた。うん、良い感じの出力になってるね。


 「もしもーし。ちょっと待ってくださーいって言ったのが聞こえませんでしたかー?」


 と言ってまたスタンガンを撃ち込む。「ギャッ!」


 「俺は、待ってくださーいと言いましたよねぇ?」


 と言ってまたスタンガンを撃ち込む。「ギャッ!」


 「待ってください、って意味はわかりますかぁ?」


 と言ってまた撃ち込む。「ギャッー!」


 「俺の言ってる事、聞いてますかぁ?」


 バシッ! 「………」


 「もしもーし!」


 バシッ! ビクビク!


 そこで、バヤガに止められた。


 「おや? どうしました?」


 「いくら何でも、ちょっと酷いんじゃないか?」


 「これは、ちょっと痺れるぐらいで、死なないようにしてるんですけどねぇ」


 「世の中には、死んだ方がマシ、って言葉も有るんだが……」


 「ええ、そうですねぇ。でも、あの男には、それを感じるのはもうちょっとかかると思いましたが」


 「………」


 なんか、バヤガが押し黙っちゃった。なんで?


 まぁいいや。これで、鷲羽根の翼人たちと、まともに会話が出来るだろうね。


 そこで、俺はその場に石の桶を作り出し、今までと同じように水をいっぱいに入れてから少し離れる。


 離れた場所に石のテーブルを作り出し、その上にバヤガを促して荷物の肉を乗せさせた。


 貪るように水を飲んでいる鷲羽根の集団が落ち着くのを待っている間に、バヤガからあの代表とのいきさつを聞いた。


 それによると、一時白翼のグループは水場を確保していたが、一年ぐらい前に突然鷲羽根の襲撃を受けたそうだ。

 なんの交渉も無しにいきなり襲われ、なし崩し的に全力での戦闘になってしまったそうだ。


 他の翼人たちとは、交渉のみで拒絶して、後で女たちがこっそりと革袋一袋分の水を分けて、実際に分けるほど水は存在しないと言う事を理解して貰っていたらしい。

 それでも、水場を独占していた事は事実だったため、バヤガとしては白翼に対する非難は甘んじて受けるつもりだったようだ。


 水を飲み終わって落ち着きを取り戻した鷲羽根の一人に直接聞いてみる事にした。


 あの代表じゃないので、会話は普通に出来た。それによると、バヤガの言い分とも違いが出ず、あの時は代表が無理に戦いに持って行き、強引に奪うしかないと命令したそうだ。

 しかも、女子供も一緒に戦いに出して、白翼を皆殺しにしろとも言ったそうだ。


 乱暴な独裁者。


 そんな代表だったわけだ。


 その男は今、足下でヒクヒクしてる。これが復活したらまた良からぬ事になりそうだ。翼人たちが集まった時にも混乱する要因になりそうだよね。


 さて、どうしよう。


 この男は、パッと見、四十代前半だろうか? 寿命が短いこの世界からしたら三十代かもねぇ。他の鷲羽根の翼人たちはガリガリに痩せているのに、この男だけは太っていた。

 きっと、他の翼人たちは槍を振る事も出来ないほど弱っているんだろう。


 グループの中で、この男がどんな威張り方をしていたか容易に想像できちゃうねぇ。


 聞いてみたら案の定の内容で、自分は動かずに食料になりそうなモノを探させ、それを分配するのも独断だったそうだ。

 この男だけが武器を持っていたし、唯一の大人の男だったため、逆らう事も出来なかったそうだ。


 武器もないのに、白翼の水場を襲って、皆殺しにしろとか命令したんだ?


 女たちは襲われたのか? と、聞きにくい事をあえて聞いてみたら、代表以外は親子の関係が四組で、水場の奇襲で子供を亡くしたマーサおばさんがそれを許さなかったそうだ。

 この代表は、誰かの親か親戚なのか? とも聞いたら、この代表の家族は別のグループになっているらしく、このグループに血縁は居なかった。


 血縁が居ないのなら、やってしまっても良さそうだねぇ。


 「バヤガ。俺はちょっと遠出してくるけど、その間、ここを頼めるかな?」


 「遠出? 何処に行くんだ?」


 「ちょっと、汚い荷物を、南の山脈まで届けてくるだけだよ」


 バヤガも俺と鷲羽根との会話を聞いていたので、かなり憤っている。そのため、止める事もなく、ただ。「わかった」と言ってくれた。


 俺はカバンからロープを取り出し「汚い荷物」を縛り、スカイボードにロープの端を括り付けた。


 そして重いスカイボードにいつも以上に風を叩き付け、猛スピードで南下した。


 高度もけっこう取っているから、風の防壁の外では真冬並みに寒くなっているだろう。ロープで括り付けて、吹き流しのように垂れ下がっている汚い荷物を見ると、所々が白くなっている。あれって氷かな。


 約百五十キロの距離を一時間ほどかけて到着。向かい風だったらしく時間がかかったようだ。


 速度を落として下を見ると、山々が連なり、山岳地帯特有の風景が見て取れた。針葉樹の森もあり、綺麗な川も流れてる。


 良い所だなぁ。


 なんて眺めてたら、下から矢が飛んできた。


 スカイボードの風と、風の防壁のせいで、矢が当たる事はほとんど無い。それでもちょっと焦ったけどね。


 矢の飛んできた方向を見ると、ゴブリンをもう少しだけ人間体型にしたようなモンスターが、弓を構えて俺を狙っていた。

 他のゴブリンらしきモンスターも、俺を狙う事を真似しだした。


 あいつらにしてみれば、変な鳥が居るから撃ち落として喰おうぜ、って感じなんだと思う。


 ちょっと、喰われる気にはなれなかったので、旋回して場所を変える事にした。


 あっ。


 だけど、スカイボードに括り付けていたロープが切れたのは、不可抗力だよ?


 俺のせいじゃ無いよね?


 運が悪かったんだよねぇ?


 あっ、ほら! 俺も喰われたく無いから、弓矢で狙われてるし、ここは、逃げちゃっても仕方ないよね?


 そして、一度高度を上げてその場を離れ、モンスターが居ない丘を見つけてそこに着地した。


 転移魔法を紋様で作り出し、転移可能場所を探して、バヤガの居た所を選択。転移した。


 「うわぁぁぁ!」


 鷲羽根の青年の叫び声で出迎えられた。


 「あっ、ゴメン。転移魔法の事は言ってなかったねぇ」


 「これが魔法?」


 まぁ、驚くよね。俺がスカイボードで飛び上がったのも、そう言う物だという目で見ていたらしい。


 「バヤガ。魔法については何か話した?」


 「いや。翼人たちが元のように集まって協力しないと、全滅するという事と、集まっても生活出来るだけの準備が有るという事を中心に話した。魔法の事は、自分には再現不可能だったので話してない」


 「あ、それもそうか」


 魔法が使えるようになるから、指定した場所に集まって。なんて言って、本当に集まるヤツなんて居ないよねぇ。まぁ、本気で暇してるのなら別だろうけど。

 とにかく、希望を与えて、生きる活力を持って貰わないとならないよね。


 「はい! 注目してくださーい!」


 手を叩いて、鷲羽根の十人の翼人たちの注目を集める。


 「ここから丸一日歩いた所に森があります。その森の横に白翼の人たちの生活場所があります」


 「森? なんだそれは」


 あ、バヤガの方が反応した。そう言えば、バヤガが出発してから森を持って来たんだったね。


 「昨日、俺は、遠くにある森をひとくくり、転移の魔法でこの砂漠に持って来ました」


 ああ、ほとんどの翼人が、何を言っているんだ? って顔してる。実物を見ないと納得出来ないだろうねぇ。


 「森については、その目で見てもらう事にします。ですが、森を丸ごと持って来たんで、そこに住む動物やモンスターも一緒に持ってきました。

 ですので、そこに行けば食料は余裕であります。

 白翼のグループだけじゃなく、黒翼のグループも合流して、翼の一族が集まるための受け入れ準備をしています」


 食料が余裕であると言うだけで、ここのグループは移動してくれるって感じだ。


 「もし、この岩の台地の上に居る翼の一族が全て集まったら、俺は、翼の一族に魔法を教える約束をしています。

 それは、風の魔法、水の魔法、火の魔法、土の魔法、そして、傷を治す事の出来る治療魔法です」


 魔法というのがどう言ったモノかもわかってない感じだったけど、治療魔法には食い付いてきたと言う感じだ。


 「これが風魔法です」


 そう言って、風魔法を起動させ、十人の鷲羽根の翼人に向かって風を吹かせた。


 足下から上に上がる風を吹かせ、少しずつ強くしていく。


 何人かが、その風を受けて翼を広げた。その翼を広げた翼人に向かって、強い上昇気流を起こしてぶつけた。


 そして空に舞う翼人たち。若い男三名と、誰かのお母さんらしき女性二名が空に飛び上がり、今は滑空でゆっくりと降りてくる。

 そして、少し離れた位置に降りると、元の位置に歩いて戻ってきた。


 「これが風魔法で、慣れれば風に乗って空を飛ぶのは簡単になります。俺には翼がないので、この板を使ってますが」


 スカイボードの事は説明が面倒なんで、風魔法で飛んでるってことにした。似たようなモノだしね。


 「先ほど、水を出したのも水魔法です。テーブルを作ったのは土魔法です。

 俺は、翼の一族が集まったら魔法を教え、もっと生活しやすい場所へ飛んでいけるようにと考えています。

 いきなりではなく、しばらく身体を治したり、体力を付けたりして、時間をかけて旅の準備をするという前提ですが。

 そのための食料や、木材などの資材を、白翼の所に置いたんです」


 俺の横ではバヤガがウンウンと頷いている。


 「ですので、ここにいる鷲羽根の皆さんも、白翼の所に集まり、皆で協力してください。

 これは、俺からの命令です」


 俺からの命令と言う所で、皆の反応が一瞬険しくなった。それも仕方ないけどね。


 「もう一度言います。俺からの命令です。逆らうようならどうなるかは、先ほど見たと思います」


 縛って、モンスターの居る山に置き去りにしてくるよ、って事だね。


 「俺からの命令です。逆らう事は許しません。白翼の所に集まって、他の翼人たちとも協力して生活してください」


 隣でバヤガが、フッ、っと笑った。


 「厳しい命令に聞こえるが、言ってる事は昔のように皆で一緒に生きろと言う事だ。それに何の憂いがあるか? 我々はこの命令を喜んで受ければいい。いや、受けなければならないのだ。

 それに、命令なのだ。個人的な恨みが有っても、それは押し沈めなければならない。恨みを忘れろとは言わん。だが、命令だ。恨みを表に出すな。昔を思い出せ」


 あ、なんか、格好良くまとめられちゃった? 美味しい所を持ってかれたって気がするけど、「バヤガ」を信頼してくれるようになれば後々も安心出来そうだ。


 「じゃあ、バヤガ、皆に食事させてから案内してくれ」


 「判った。任せてくれ」


 「実は、転移で皆を運ぶ事も出来るんだけど、いっぺんに受け入れ先に到着しちゃうと混乱するから、明日の朝一って所で頼むよ」


 「なるほど。判った。女子供ばかりだから、到着する予定は立てられないが明日中にはたどり着けるだろう」


 「うん。じゃあ、俺は、他の二人の所へ様子を見に行くよ」


 バヤガに手を振ってからスカイボードで空に舞う。その俺が空に舞う姿を数人の翼人たちが眩しそうに眺めてた。


 南、やや西よりって感じで進み、白翼の所をバヤガと一緒に出発した男の元へと向かう。こちらは、もう少しで翼人のグループに接触する所だったので、少し時間を空けてから合流する事にした。


 苦労して一日歩いたのに、そこに俺が簡単に到着したらやるせなく感じるだろうからね。


 そして合流。


 話し合いはそれほど難航しなかった。ここのグループは羽根の色や模様がまちまちで、俺は密かにミックスと呼んだ。

 白翼の男によると、こういうミックス状態のグループが普通なんだそうだ。


 実は白と黒以外の、鷲羽根もミックスに入るらしく、全体的には似たように見えても風切り羽根の模様が違うとかは良くあるそうだ。


 そんなグループだからか、食料が有るのなら合流する事には別に拘らないという雰囲気だった。確かに水や食料が少ない時は剣呑な関係になったが、それは仕方のない事だと理解してくれたのは大きい成果だね。


 いつもと同じように石の桶を作って水を満たし、テーブルを作ってそこで肉を調理するようにと促した。そして、一応翼人たちの診察をその場で行った。

 ここのグループはあまり大きな怪我をしていた者は居なかったが、実は数日前に大きな怪我が原因で亡くなった者が居たという話しにはちょっと引いてしまった。


 こういう時はなんて言ったらいいか判らないよねぇ。


 幸い、その関係者も、運が悪かったという事は理解しているし、それで俺を責めるとか言う愚かな事をするつもりがなかったのは助かった。


 そこを離れる段階で、俺は「命令」と言う言葉でこれからの事を説明した。白翼の所に集まって、恨みが有ってもそれを表に出さないように「命令」し、翼の一族全てと協力し合っていく事を「命令」する。

 逆らうようなら、翼の一族全てが絶滅するよ、って言って、ちょっと離れた所に雷を落とした。


 気を引き締める上でも必要な脅しだったつもりだけど、子供たちに「スッゲー!」「俺にもあんな事出来るようになるのか?」なんて言われたのには苦笑するしかなかった。


 子供って強いんだねぇ。


 いつの間にか、自分が子供じゃ無くなっている事に気付かされて、「おっちゃん」へと近づいている事をヒシヒシと感じる。


 「おじさん」というのは生々しいし、「おっさん」ってのはなんか嫌だ。やっぱり「おっちゃん」がいいなぁ。って、なんか共感が少ないよ?


 後は白翼の男に任せて、最後の一人の所に飛んだ。


 そこでは、既に移動を開始していて、十二人の列が出来ていた。そこにスカイボードで降りていき、白翼の男の前に降り立った。


 この男は俺の見た目で五十代という感じの男で、白翼のグループの最年長の男だ。俺を認識してから手を振って、俺の方に駆け寄ってくる。フットワークが一番軽いって感じた男でもある。


 「アキラ殿。どうしました?」


 「いや、様子を見に来ただけだよ。他の二人の所にも寄ってきた」


 「そうですか。バヤガたちの方は問題なく?」


 「うん。皆しっかりと集まる事を納得してくれた。ここは一番問題が無さそうだね」


 「いえ、それが……」


 何でも、栄養失調と怪我で、直ぐにでも白翼の所に向かわないとヤバイ状況らしい。俺は直ぐに石の桶を作って水を満たし、飲み終わった順に診察をしていった。


 本当にやばかった。


 歩いては居たけど倒れる寸前で、急遽、転移でルブロンダルの店に行って果物類と薫製肉を買い込んで与えて、なんとか助かったという感じだった。


 治療魔法は調子は良くなるけど、栄養が補給されるわけじゃ無いからねぇ。


 俺の持って来た食料を泣きながら食べるのは、ちょっと切なくなるよぉ。


 食べ終わった翼人たちは、その場に座り込み、それ以上は歩けないという感じで疲労に襲われていた。きっと、ようやく安心したせいなんだろう。

 ここで、ゴチャゴチャと色んな事を言っても、たぶん聞いてないって事になりそうだねぇ。


 俺は一緒に買ってきた干し肉の塊を人数分に切り分け、白翼の男に明日の食事として保管して貰うように頼み、今はぐっすりと眠らせてやれと言って、その場から飛んだ。


 これで、確保出来た翼人は五十八人。まだ四分の一って程度だ。


 白翼の所に五十八人が集まったら、また救助部隊を出さないとならないね。今度はもう少し食料を持たせて、二人組で行かせるようにした方がいいだろうねぇ。


 一つの市と言えるぐらいの大きさがある一枚岩のテーブル台地の上を、はぐれた翼人が居ないか確かめながら飛んでいる。


 一人だけはぐれているとかだと、性格的な問題も有りそうだけど、食料があればそれも少しは収まるだろう。とにかく、人数が居なくては種族的にも絶滅を避けられない。

 人数がいれば、個人的には役に立たない技能でも、集団の中では役に立ったりするし、数は正義だよねぇ。


 そんなわけで、エイプリルに生物らしき反応のある場所を調べて貰いつつ、もうそろそろ傾いてきた陽を見ながら空中散歩していた。


 どれだけ飛んだだろうか、ちょっと距離感が判らなくなった所で、地表にでっかい翼が広がっているのが見えた。

 人の足もついているから翼人だろう。行き倒れているような感じだ。


 とにかく、さっさと助けないとねぇ。


 ほとんど落ちているような状態でスカイボードを操り、緊急着陸する。そして駆け寄って、その場で回れ右した。


 げぇ。


 死んでました。


 肉の部分はついばまれて、赤く染まった骨が剥き出しになり、頭の部分は別の場所に転がってました。


 助けようと思っていた人が無惨な姿をさらしている、ってのは来るモノがある。冷たい、ゾワゾワした、悔しさと悲しみと、気持ちの悪さが腹の底から上ってくるようだ。


 落ち着いてからじっくり見てみる。


 年や性別はもう判らない。手荷物も無いようで、どういった状況で死んだのかも判らない。だけど、このままにしておくのも忍びない。


 翼人をこのまま鳥や獣に喰わせるのも鳥葬とか言うのかな? なんて不謹慎な事も一瞬頭をよぎったけど、それを振り払って手をあわせて成仏を願った。


 ナンマンダブ、ナンマンダブ。


 土魔法で穴を掘り、そこに落としてから土を「発生」させて穴を埋める。やや盛り上がるようにしてから、石の板を作り出して墓標にした。


 墓標に何か書くべきかな? でも、名前も判らないし、男女かも判らない。「名も無き翼人ここに眠る」とかだと、本人にしてみれば失礼な物言いだよねぇ。


 結局、平面な石版に翼の絵を描いただけにした。


 南無阿弥陀仏って書くよりはいいよね?


 もう一度手を合わせて、スカイボードで空に上がった。


 次の生物の反応を探すと、少し離れた所に反応があった。距離的には三キロ程かな。歩いて三十分はかかりそうな所も、スカイボードだと五分もかからない。


 生物と思える動きを観測した位置に到着。


 近くによって見てみると、それはのたうち回る大ミミズだった。


 いわゆる、サンドウォームかな?


 でも、全身に砂をまぶしたようになっていて、苦しんでのたうっているように見える。


 もしかして、身体が乾いて苦しがってる? 雨の後にミミズが地表に出てきて、そのまま身体が乾いて干涸らびているのを偶に見る事があるけど、今、まさに、干涸らびかけている状況なのかな?


 何故、こんな岩の上に? 岩の上じゃ、地面の中に潜れ無いよねぇ。


 どうしよう?


   武士の情けで、トドメを刺してやる。

   看取った後、穴を掘って埋め、墓石にミミズの絵を描く。

   干涸らびないように水をかけてやる。

   土魔法で動く手を作り出し、大ミミズを岩の下に運んでやる。


 あっ、栄養失調の翼人たちに、食料として………。ってのは止めておこう。


 なんか、命を大事に、っていうコマンドが入っている気がして、水をかけてやってから岩の台地から下に運んでやる事にした。


 丁度この位置はテーブル台地の端に近くて、手間ではあるけれど、時間がかかるような面倒は無い。


 いや、手間はかかるんだよ。


 それでも、スカイボードの上に立ったまま、空中から観測しつつ、土魔法を操って大ミミズを砂漠に降ろした。

 大ミミズの大きさは、太さが一メートルぐらいで、長さが三十メートルぐらいあった。形もまさにミミズそのもので、なんで台地の上に居たのか本当に謎だ。


 台地から少し離れた位置にミミズを運び、再び水をたっぷりかけてから、土魔法で大きな穴を作り、その中に落とし入れてからその場所を離れた。


 これ以上は自力で何とかしてくれ、って気持ちでね。


 俺の知っている小さなミミズだと、花壇ぐらいの柔らかい土じゃないと、地表から地面に潜れなかった気がする。一度潜れば、柔らかい所を選んで土の中を掘り進んでいくんだよね。


 あの大きさだと、掘った穴の底でも固すぎるかも知れないし、余裕で掘れるのかも知れない。


 どっちだろう?


 どっちだとしても、もう俺には何も出来ないしね。まぁ、あれで、何とかなるような気はする。


 後は、あの大ミミズを美味しく喰うようなモンスターに見つかる前に、地面の中に潜れるかな、って所だね。

 とか、考えてたら、本当に何かが近くに寄って来る気配を感じた。


 ここで、大ミミズが簡単に喰われるのは気分が悪い。でも、自然界の弱肉強食の掟では、当然の成り行きになる。

 この状況で俺はどんな態度を取ったらいいんだ?


 自分の態度を決めかねている間でも、何かは確実に近寄ってきている。


 俺はスカイボードを巡らせて、周辺の警戒を始めた。まだ、視界には何も入ってこない。


 大ミミズはまだ穴の底でのたのたしてるだけ。


 どうする? 近づいてくる何かを追い払うか? 近づいてくる何かに大ミミズを喰わせるか?


 どうする? 俺!


 そして、その何かが、俺の前に姿を晒した。


 馬だった。


 茶色いヤツで、荷馬車を引くようなヤツ。野生らしく、手綱も鞍もついていない。


 俺は大きく息を吐いた。ああ、緊張が一気に解けていく。


 けど、なんで、こんな砂漠の真ん中に馬が? しかも、気配だけで姿が見えていなかったよ?


 確かに岩がゴロゴロとしているけど、この大きさの馬が隠れるほどではなかったはず。


 じゃあ、ただの馬じゃない?


 一度抜け落ちた緊張が戻ってくる。馬に擬態した何かか?


 あの馬は空を飛ぶだろうか? スカイボードで風がかなりの勢いで吹いているせいで、相当な音がしている筈なのに、なんであの馬はこちらに近づいてくるんだ?


 俺はスカイボードを少し下がらせ、カバンから超振動ブレードを取り出して構えた。左腕には拳銃も握り、久しぶりの全力戦闘スタイルだ。


 「エイプリル! あの馬は何かのモンスターだと思うけど、力量は計れるかな?」


 『申し訳ありません。通常の荷馬車用の馬としか認識出来ません』


 「なら、強敵と考えても良さそうかな?」


 『同意します』


 戦闘という状況になったら、いきなり全力を出して、逃げ切る事を考えた方がいいって事だね。


 まず、距離を取る。こっちの間合いは長いんだから、向こうに合わせる必要は無いよね。遠くからフォトンで穴だらけにして勝ちってのが一番良い。


 そう思ってスカイボードの風を強めようとした時、馬が前足を曲げて前膝をつき、頭を下げた。まるで一種の土下座のように。

 もしくは、最上級の礼儀って感じだ。


 「戦う意志はないってことかな」


 俺がそう呟いた時に、馬が少しだけ頭を上げた。その目を見てみると、確かな知性を持って俺を見つめている。

 ただ、馬の目だからか、やや斜めに顔を傾けて、片目だけで俺を見ているって感じなんだよね。


 馬だと、完全な真正面は見づらい視角だろうねぇ。


 でも、なんかあの視線には覚えがある。


 「あっ、アルシンさんの所の馬!」


 思わずそう口に出してしまった所で馬が光に包まれた。直視出来ないレベルの光があふれ、超振動ブレードで影を作ってそれに耐える。何があるか判らないから、目を閉じるって事は出来ない。


 そして光が弱くなったのを確認して、ブレードを下ろして馬を見た。


 馬は居なかった。


 代わりに、かなり細身で針金細工のようにも見える線の細い美女が居た。その細身の美女が片膝ついて頭を下げてる。さっきまでの馬と同じように、少しだけ顔を上げて、俺をじっと見ている。


 その真剣な表情に、俺はスカイボードの風を止め、地面に降り立った。


 ようやく静かになったけど、俺と細身の女との間にはまだ緊張があった。


 武器を構えて、何時切り込むかタイミングを計りつつ、無言で睨む俺。そして、跪いて頭を下げつつも俺を見つめる女。


 じっと、無言で見つめ合う。


 い、いかん。このままだと愛が芽生えてしまう。


 冗談はともかく、このままじゃ何も進展しないね。まだ敵じゃないと決まったわけじゃないけど、一応俺も武器を収めておこう。

 超振動ブレードをカバンに戻し、拳銃を背中のホルスターに収めた。


 魔法は直ぐに撃てる状態だけど、一応、手ぶらにはなった。それを見た細身の女は立ち上がり、優雅に腰を折って再度頭を下げた。


 両手でスカートをつまみ上げて、片足を後ろに廻すつつ頭を下げる女性的な挨拶形式ではなく、まるで紳士がするような、片手を背中、片手を腹に置いて腰を折るという形式の挨拶だった。


 その形に意味はあるのかな?


 何か意味があるとしたら、俺は地面に正座して、両手を前について深々と頭を下げた方がいいのかな? うん、きっと、意味は伝わらないね。まぁ、意味もないし。


 とりあえず、向こうの意図を聞かなくちゃ。


 「一応、この姿では始めてお目にかかります。わたくし、パラヴェルトの神をしておりますヴァーレと申します」


 か、神様? でも、パラヴェルトって何だろ? 場所? 物? 生物? 思想?


 「パラヴェルトとは、ここよりずっと西に有ります、海に面した土地の名前になります」


 疑問に思っていたら、すんなりと答えを教えてくれた。でも、一つの土地の神様? 土地神様ってことかな。


 「そのような認識で構いません」


 あれ? 俺の思考を読み取っている? なんか懐かしい感覚だけど、アレとの会話と違って、なんか鬱陶しいな。


 「申し訳ございません。これよりは言葉による質疑応答のみの情報交換といたします」


 そこで、何となくカバンのシンボルが気になりだした。光と闇、海と大地と樹による命のシンボルだ。カバンに手を入れると、直ぐにシンボルの一個が手に触れた。それと、世界樹から貰った世界樹の葉が入っている琥珀も手に触れたので、一緒に取り出した。


 それを両手に握り、改めて土地神という女の姿をした存在を見つめ直す。


 すると、始めは凄い美女と思ってたのが、それほどでも無いんじゃない? とか、まるで地下に居るのを上から見下ろしているような感覚になった。


 なんだろ、これ?


 ヴァーレと名乗った土地神様も、なんかげんなりとした顔になったような気がする。


 「申し訳ございませんが、その、手にお持ちの物を下げてはいただけませんか?」


 「あー、つまり、このシンボルが苦手なんだね。このシンボルの先にいる存在が、かなり上位に居るってのが判っちゃう?」


 「うっ」


 いま、土地神様がひくついたね。


 この地上の、一地方の土地神様とアレとは格が違うって事なんだろうねぇ。たぶん、この土地神様は、この世界にモンスターや魔法が来てから生み出された神様なんだろうね。そしてアレは元々の、古くから有る存在って事なんだねぇ。


 俺がそう心の中で確信していると、ヴァーレはもう一度頭を下げた。うん、確定だね。


 これ以上は誤魔化せないと思ったんだろう、大きなため息を一つついて改めて俺に向かい合った。


 「大いなる神の使徒であるアキラ殿に願い奉ります」


 「ちょっと待て!」


 いきなりの口上に俺は待ったをかけた。


 「なんだ? その神の使徒っていうのは?」


 「え? 違うのですか?」


 「違う! 俺は単なる人間だ。神の使徒の一柱から頼まれて、アルバイトみたいな事をしている自覚はあるけど、神の使徒になった覚えはない!」


 「は、はぁ。ですが、我らよりも強大な力を持ち、全ての精霊を統べるその器は、我らのような神の器さえ超えております。

 それを、単なる人間と申されるのは、我らの立場が惨めにもなるというものです」


 「たぶん、俺の力が強いのは、頼まれた先の神の使徒の力に因る物だと思う。だから、俺が凄いんじゃなく、アレが凄いんだ。

 それから、全ての精霊を統べるってなんだよ。いろんな精霊と関わっているけど、俺が支配しているわけじゃないよ。偶々、精霊に好まれているってだけ何じゃないの?」


 「そ、そうは申されましても………」


 「とにかく、凄い力と精霊に縁はあるけど、俺は単なる人間だよ」


 「は、はい。畏まりました」


 なんか、変な事になっちゃってるなぁ。魔法とは、神の力にも等しいモノ。だとしたら、その魔法の力が強いのなら、神と呼ばれても仕方ないのかな?


 「で、その単なる人間の俺に、何の用があったんだ? アルシンさんの時よりも前から、俺を見ていたんだろう?」


 「はい。実は、我らが土地にアキラ殿をお招きしたいと考えております」


 自分所に来て? 神の家に招待ってわけじゃなく、土地に来てくれって事かぁ。だとすると、俺がアレに頼まれてやってる活動を、その土地でも行ってくれって事かな?


 邪推すると、俺の活動で知識と魔法を得て、人が強くなったのを、神としての自分の信仰にするつもりとか?


 あっ、一瞬だけどヴァーレが目をそらした。


 実際は動かなかったんだけど、感覚的な目でそんな動きをしたって感じに見えた。これは、気のせいじゃなく、シンボルが見せてくれた事っぽいな。


 相変わらず、俺の心を読むのは止めないようだ。こういうのは礼を失するという失礼って事だよねぇ。

 まぁ、俺が心を読ませないように出来るようになれば良いんだろうけどねぇ。


 「も、申し訳ございません。普段、言葉による交流を行う機会が無い身故に、力の扱いに不慣れでした」


 他人の心を覗き放題、ってのは神の特権なのかなぁ? まぁ、ここまで言って、心を覗く事を止めなかったら、パラヴェルトとかいう場所に行くのも無しだよねぇ。


 あっ。今ヴァーレがビクついた。


 じっと見つめてみる。


 -あ~、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ。なんで? なんでばれるのよぉ。本人は人間だって言ってたのに、やっぱり神の一柱じゃないの? 神の眷属相手でもばれるはずがないのに、そんなにアタシの欺瞞技って役に立たないのぉ? なんでぇ? うちの街に来てくれないとマズイよぉ-


 え? 今のって、このヴァーレの心? 人の心を覗いた事もないのに、いきなり神と自称する存在の心が覗けた? これって、このシンボルを通じたアレの力なのかなぁ?


 まぁ、まずは、心を覗いている事をばれないようにしながら、真意を探らないとね。


 「じゃあ、なんで俺が行く事が必要なのか、そこん所を聞かせて貰おうかな? 知識を与えるだけなら、神託とか、いろいろ方法は有りそうだよね」


 「はい。ですが、神託にて伝えられるモノは、神託を下ろす者の知識に因る所が大きく、全く未知の状態の知識を与える事には向いておりません」


 「ああ、明日の天気は晴れ、っていうような、知っている言葉を並び替えて伝える事は出来ても、今まで聞いた事もない言葉の羅列は正確には伝わらないってことかぁ」


 「はい。その通りでございます」


 「じゃあ、自分自身が神として降臨したり、人間として降臨したり、神の化身を仕わしたり、眷属を送ったりとか、いろいろ方法は有るんじゃないのかな?」


 「………」


 「もしかして、ことごとく失敗?」


 またビクッ、っとなったよ。どうやら、その土地の状況はかなり酷いようだ。


 「さーて、知っている情報をことごとく出してもらおうかな?」


 俺は上から目線で見下しながらちょっと震えだしたヴァーレを見つめた。


 -うわわわわ。最悪。もっとこっちに有利に事を進めろって言われてたのに、最悪の条件で頼み事をする事になっちゃうじゃない。どうしよう。どうしよう。やっぱ、アタシなんかには、この現人神を説得するなんて無理だったのよー。助けてー! カーシャ!-


 ? カーシャというのがもう一人居る? 作戦を考えたのがカーシャなのかな? 近くに居るようには思えなかったんだけど、端くれとはいえ神のする事だからねぇ。

 そう思って気配を探ったら、なんとあっさりと見つかった。どうやら、あの大ミミズに擬態していたようだ。大ミミズの中からじっと探る視線を感じる。


 「あ、あの、いかがしました?」


 いきなり背を向けて、大ミミズを落っことした大穴に歩き出した俺にヴァーレが声をかけてきたが、更に無視して大穴の縁でかがみ込んだ。


 「そんな所で、そんな格好してないで、ヴァーレと一緒に頼み込んできたらどうだ? カーシャ?」


 その俺の言葉で、ヴァーレはその場に座り込んでしまった。


 そのままそこに居たんではカーシャも出るに出られないだろうから、俺は下がって、ヴァーレと大ミミズと、丁度正三角形を作る位置に立って、カーシャを待つ事にした。


 すると、穴の底が光り出し、光が収まってから一人の少女が空中に浮かんで出てきた。おそらくカーシャという神か、神に準ずる存在だろう。


 カーシャはヴァーレの横に移動して片膝をつくと頭を下げ、その横で呆けたようにアヒル座りしているヴァーレの後頭部を鷲掴みにすると、思いっきり地面に叩き付けた。


 「お初にお目もじ申し上げます。わたくし、パラヴェルトの一柱なる女神、カーシャと申し上げます」


 顔を地面にめり込ませたヴァーレを強引に押さえつけつつ、涼しい顔でカーシャは挨拶をしてきた。


 まだ、この時点で、二人からの詫びは無い。

 交渉をする席で、交渉役の正反対である真後ろに、密かに隠れ潜んでいたという行為は、だまし討ちしているのと同じ事だよね。それに対する言い訳をどうするのか興味がある。


 でも、顔を地面にめり込まされたままになっているヴァーレが、じたばたと暴れる勢いを弱くしていってるよ?

 人間だったら酸欠で、そろそろ危ないかも? まぁ、神と名乗るほどの存在なら、大丈夫なんだろうねぇ。


 「まず、なんで、あんな所に、あんな格好で居たのか、説明してくれるかな? ああ、俺は、むやみに試されると言う事が嫌いで、試すという行為が許される相手かどうかという事も、知っているか教えてくれるかな?」


 「っ!」


 カーシャが言葉にならない声を、一瞬だけ漏らした。


 俺が、誤魔化す為の方便を塞いじゃったからねぇ。ここから、どんな言い訳が出てくるかが楽しみだ。何しろ、相手は神だよ? きっと、思いもよらない方便が飛び出すんじゃないかな。


 あっ、カーシャの目が泳いでる。


 「あ~、本日は、ご挨拶だけでもと思い、ご機嫌を伺わせて頂きました。ご尊顔を拝する事が出来、無量の喜びでございます」


 なんか、言葉がおかしくなってない? とりあえず、誤魔化して一旦退却ってつもりかな?


 「あまり機嫌は良くないな。出来れば、二度と見たくない。では、帰って貰おう」


 「そ、そ、それはぁぁ」


 俺は背を向け、スカイボードに乗って飛び上がった。そのまま一枚岩のテーブル台地の側面である崖に沿って飛ぶ。

 目的は、尾行されるのが嫌だという事と、崖の下に翼人たちが居ないかというのを確認するため。


 まぁ、尾行とかはする必要のない存在だと思うから心配はしてないんだけど、粘着されるのは嫌だよねぇ。


 向こうとしては、どうしても俺に用が有るみたいだから、無礼が原因で二度と会いたくないと言われただけで引き下がるはずはないよね。

 ただ、俺に対して大幅な譲歩が必要になると言う立場になった事は、しっかりと確認したはず。


 どんな頼み事が有るかは知らないけど、出来るだけ俺に有利な状況にしないと、何をさせられるか判らないからねぇ。


 「エイプリル。パラヴェルトとかいう場所は判る?」


 『はい。その位置から西に一万二千五百キロほどの位置にある海洋都市です』


 「遠いねぇ。どんな、国、政治、民衆、民族意識っとかは、調べてある?」


 『はい。もともと、始めから感知出来ていた都市でしたが、艦長がルブロンダルを選択した事から、調査対象から外していた地域でした。位置としてはルブロンダルとの時差が約十二時間になる場所です』


 「なるほど。そんな場所じゃ、ルブロンダルとかの調査が終わるまで、考える範囲に入れないってのは仕方ないね」


 『はい。ですが、艦長の活動範囲が広がりましたので、ターナの街との関わりが始まってから調査対象に入れてあります』


 で、エイプリルが昆虫型のインセクターという情報収集用ロボットを使い、街の様子を見て、人々の会話を聞き、人の生活から政治形態まで調べていったそうだ。


 それによると、まず一部の特権階級が政治、商業、軍事のトップとして仕切り、食欲、性欲、権威欲を満たすためだけの社会にしているそうだ。

 人は、特権階級か、それ以外の奴隷か、と言うぐらいに明確に仕分けされ、奴隷の命が次々に失われていっているそうだ。

 そのため、奴隷を補充するために周辺の国に攻め入り、人や金品を奪い取るだけの戦争を繰り返しているらしい。


 普通なら、そこまでの軍事力の差が出来るはずも無いんだけど、一部の特権階級という存在は「神の奇跡」という魔法を使い、自軍の奴隷兵士を操り、敵兵士を無力化して、戦力差のある戦いを簡単に勝ち抜いているそうだ。


 「つまり、魔法の力を持った、古代ローマ帝国のカリグラの治世みたいなモノかな?」


 『申し訳ありません。こだいろうまていこく、かりぐら、という名称が不明です』


 「あ、いや。俺も適当に言っただけだから、流して」


 こういう事があるから、俺の地球とは違う世界なのかな? って思ってしまう。でも、俺の時代の日本語は通じるんだから、色々と謎だよねぇ。


 「まぁ、とにかく、とんでも無い国だというのは判った。しかも、普通に俺が行っても、直ぐに奴隷扱いされるだけってのも判った。

 神の奇跡とやらの魔法って、精神魔法で相手の心を操るやつ?」


 『はい。その術に囚われると、他の事を考えない、死を恐れない戦士になるようです』


 「その魔法の知識がグラウの知識になっていたようだねぇ」


 『はい。それと、奴隷身分の者たちに疑問を覚えさせない事と、戦争時には敵兵を生きたまま捕らえた後に、精神魔法で自分の味方を殺すように洗脳して帰すという方法も行っています』


 「その魔法が神の奇跡かぁ。そんなんで崇められたら、神様としても困りそうだねぇ」


 『その状況を改変する事を願いに来たのでしょうか?』


 「それだけとは思えないよねぇ」


 『その状況を良しと考える神と、良しとはしない神が居る可能性があります』


 「それは俺も思った。神と神の駆け引きに使われるとかだと、ろくな事になりそうもないから、その時は依頼を完全に断る事にするつもりだよ」


 『最良の選択と推察します』


 「それと、命のシンボルと、世界樹の琥珀をペンダントにするための鎖を頼むね。これが無いと、神という存在に舐められてしまいそうだ」


 『了解しました。早急に準備します』


 「あっ、もう一つ必要だった。精神魔法の阻害アクセサリー。あれは量が必要になりそうだね」


 『精霊の紋様の詳細が判りましたので、効率的な物に造り直して量産します』


 「よろしく」


 これから、何か大きな波にぶち当たる事になるかも。上手く乗りこなせれば良いけど、下手をしたら飲み込まれてボロボロにされるかも知れないね。


 それから俺は、一枚岩の崖に沿って飛び、岩から離れた位置に二十人ほどの翼人を見つけた。


 岩の上より栄養失調が深刻で、二十名を一度に転移させて白翼の所に運んだ。


 翼人同士の争いは無かったようだけど、常に周囲を警戒しなければならない状況に疲れ切り、精神的な疲労も重篤な状況だった。翼人の仲間たちの中央に寝かせ、少し騒がしくても、多くの仲間が居るという環境で落ち着きを取り戻すだろう。


 白翼と黒翼の女たちが協力して作ったスープを、涙を流しながら食べていた姿は、白翼と黒翼の翼人たちの心にも、大切な物をなくしてはいけないという思いを刻み込んだ。

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