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第七十五章 晃と奇跡 天使の望み

 次の日、またしても悲しい目をしたネイシャに起こされ、寝ぼけ眼で朝食の準備をした。


 今朝はトーストとコーンスープ、それに、昨日買ってきてカバンに入れたままだった肉をスライスしてバターで炒めて塩胡椒しただけの物。

 朝から濃いような気もするけど、ネイシャは喜んでかっこんでる。メイがいないと、俺の作る料理は残念男飯になるからなぁ。


 毎日の食事って難しい。


 朝食が終わって後片づけ。そして、エイプリルが作ってくれた物が届いていたので、コンテナを開けてアイテムの整理となった。


 自然界から魔法力を蓄え、魔法を使う時に魔法力を使える仕組みの水晶結晶に、水を発生させる紋様が刻み込まれた水晶の板がステンレスの枠組みの中に収まっている物があった。

 これは使用者が居なくても水があふれ続ける魔法の道具。

 それが一ダース、十二個有った。


 「飲み水用と沐浴場用としたら、ちょっと多くない?」


 『森の維持に必要と判断しました。さらに、森が二単位必要になる場合も考慮しました』


 「二単位って……。一単位、半径一キロって事かな? でも、必要かなぁ?」


 『現状では、翼人たちが完全に集まるのに時間がかかると判断しました。風魔法の伝授が無ければ、時間の短縮は難しいと推察します』


 「あ~。やっぱ、そうだよねぇ。有る程度集まった所で、魔法を教えておいた方がいいかなぁ?」


 『目標を二百名とした場合、現状で風魔法の伝授を行っても構わないと推察しますが?』


 「もう、一部のグループだけが魔法を持つという特権を独占するって状況は無くなったと判断しても良いわけだね?」


 『はい。独占の為の情報操作は不可能な数と判断します。

 それに、魔法の呪文を石版等に書き写して掲示しておくという方法もあります』


 「識字率がどのくらいか判らないけど、それしかないか。集めるのに時間がかかると、野垂れ死ぬ翼人も出てきそうだしね」


 『救出した翼人たちの状況を見るに、既に限界点は超えていると判断します』


 「判った。今日にも皆に風魔法を教えよう。今日一日で慣れて貰って、明日には大人数での捜索を行って貰う事にしよう」


 方針が決まったので、再びコンテナの整理。


 たっぷりのシンボルと、シンボルに付ける鎖が何十本も有ったのには、ちょっとビックリ。エイプリルによると、作る機械に任せただけなんだそうだ。

 さっそく俺のオリジナルのシンボルに鎖を通して首から下げてみる。


 こういうアクセサリーが似合う人間じゃ無いんだけどねぇ。


 俺が着けたのを見てネイシャも欲しがった。


 エイプリルが作ったコピーのシンボルには、鎖が通せる穴が開いている。そこに鎖を通して、ネイシャに着けてやった。


 世界樹の琥珀に着けるペンダントの台座も同梱されていたので、ネイシャには見えないようにしてセットして身に着けた。欲しがっても、これは一つしかない、俺だけが委ねられた物だからねぇ。


 次に、精神魔法の阻害アクセサリー。これを着けておけば、精神魔法に操られないで済む。

 まぁ、力量次第なんだけどね。


 新しいモノはシールになっていて、ヘッドギアに貼り付ければ良いだけになっていた。ちょっと強力な粘着液らしく、皮膚に張っても二~三日は剥がれないそうだ。扱いは慎重にしないとねぇ。


 俺がヘッドギアに貼り付けているのを見て、やっぱりネイシャも欲しがった。で、グローブの甲の所に貼り付けてやった。この位置でも少しは効果があるだろう。それに、ネイシャはそう言う現場に行くわけではないしね。


 さらにコンテナをあさった所、精神魔法阻害アクセサリーと、魔法力集中紋様、二枚のアイシールドが内蔵されたヘッドギアが出てきた。


 わざわざ、シール張る必要無かったのね。


 新しいヘッドギアには、紋様の意味から推察した魔法陣が組み込まれ、周囲の魔法力や俺自身の魔法力を測定出来るようになっていた。

 さらに、確認したい場所や相手の魔法力を解析する事も、少しだけなら可能なようだ。


 その魔法力の分析は新しく組み込まれた二枚目のアイシールドに描かれていて、それを下ろさないと見る事が出来ないそうだ。


 普段から細かく分析してたら邪魔そうだし、それが当たり前だと思ったけど、エイプリルにしたら、普段から周囲を警戒出来なければ意味がないそうだ。

 警戒と分析を自動化できないか検討すると言っていた。


 新しいヘッドギアを着け、水があふれ出る魔法の道具を三つ持って準備完了。


 スカイボードは持って行くけど時間がないので、ネイシャとグラウを連れて白翼の所に転移魔法で移動した。


 急に現れた俺たちに、翼人たちが一斉に警戒するけど、俺を認識した後は直ぐに平常運転になる。


 「おはよう。ちょっと、話しがあるんだけど、いいかな?」


 少し大きめの声で、誰とも無しに声をかけると、バヤガの息子と黒翼の代表だった男が駆け寄ってきた。


 「いかがしました? アキラ殿?」


 「うん。これからもこの周辺に散らばった翼人たちを集めないとならないんだけど、今のままだと時間もかかるし、良い方法では無いよね?

 だから、この時点で風の魔法を教えて、皆には空を飛んで、捜索活動して貰った方がいいと考えたんだ」


 「そうですか。確かに、一々歩いて捜索するというのは難儀だと相談していた所です」


 「風以外の魔法は、やっぱり、皆揃ってからと思うんだけど、捜索に時間がかかると力尽きてしまう翼人が居るかもしれないしね」


 そして、捜索に加われない者も含めて、全員を集めてもらった。


 と、言っても、まだこちらに向かって歩いているのも居るから、白翼の留守番の七名、黒翼の十五名、昨日の夕方に崖の外で見つけた二十名だけだけどね。


 翼人四十二名の前で、まずは全員に向かって風を吹きかける。ファイエーが居れば、風の精霊の影響が期待出来るんだけどねぇ。


 とりあえず、翼人たちは風には馴染みがあるはず。


 ゆっくり風魔法の、風を発生させてコントロールする呪文を唱える。


 「風が、自分のイメージ通りの方向に吹く事を考えるんだ。強さも、方向も思いのままだ。羽根を広げて、その羽根に風が当たる事を考えながら唱えるんだ」


 何度も、何度も同じ呪文を唱えさせる。


 すると、何人かが習得し出した事が判った。


 「風が自分のイメージ通りになったら、その風を羽根に当てて、自分の身体を持ち上げてみろ」


 その言葉に従い、風を強めて身体を浮かせる翼人たちが居た。


 「身体を持ち上げる事が出来たら、一度高く飛んで、その後は滑空で帰ってこい」


 もう十人以上が滑空を楽しんでいる。一度、滑空していた者たちを呼び寄せて、最後のアドバイスをした。


 「呪文を唱え終わっても、イメージを持続させていれば魔法は終わった事にはならない。だから、風が必要のない滑空状態でも、弱い風が自分を押しているってイメージを持ち続けるんだ。そして、滑空からまた上昇する時にそのイメージの風を強めればいい。

 そうすれば、呪文を唱え直さなくてもいいんだ」


 そして、長時間魔法を維持し続ける訓練をしろ言って、俺はまだ風魔法の習得に苦労している翼人たちの方に向かった。


 長時間の魔法維持の訓練が始まっても、起動させる事が出来ない翼人は五人居た。風に関わる翼人にしては多い方なのかな?


 俺は、風魔法でその翼人たちの身体を浮かせたまま、呪文を唱えるように言う。もし起動したら、そのまま上昇しろと言ってあったが、しばらくはそのまま、俺によって浮かされているだけだった。


 でも、何かをきっかけにしたのかは判らないけど、残りの五名が風魔法を起動させる事に成功し、空に向かって上昇していった。


 あのきっかけが、どんなモノなのか判れば、他の人の魔法習得にも役に立ちそうなんだけど、皆、きっかけがあったのは確かだけど、それが何かはよく判らないって言うんだよねぇ。


 兎にも角にも、ここにいる翼人たち全員が風魔法による飛翔を獲得した。


 俺は、はしゃいでいるバヤガの息子や黒翼の代表をなだめながら、風魔法の取り扱いを話し合う事にした。


 「まず、頼みたいのは二つ。

 一つは、バヤガたちが帰ってきて、他の翼人たちと合流したら、そっちの翼人たちにもしっかりと教えてあげて欲しい事。その際、当然だけど、差別化が起こらないように、しっかりと、知っている事は全部教える事。

 二つ目は、風魔法の扱いで、危険が有り、やってはいけない行為を明文化するつもりで取り決めて、特に子供たちにルールとして教えて欲しいって事なんだ。

 例えば、風魔法を使っている同士で近づきすぎると、風のコントロールが乱れて、場合によっては互いに墜落する事になるかも知れない。だから、飛んでいる時は、広げた翼が触れない距離を必ず空けておかなければならない、っていう感じでね」


 「あ、なるほど。落とすかも知れない物の持ち方をしながら人の上を飛んではいけない、とか、色々ありそうですね」


 「以前から、飛ぶ時の注意はあったが、教える者がその時に適当に言うだけで、統一した決まり事は無かったからなぁ。以前よりも自由に飛べるようにもなったわけだし、しっかりとした飛ぶためのルールは必要だな」


 バヤガの息子も、黒翼の代表も、しきりに感心しながら頷いている。


 飛ぶ速度が速いから、地上を歩いている人にぶつかるだけでも大きな事故になるしね。


 「以前は、山の崖とかで、上昇気流を待ってたんだろう? 同じように、魔法で上昇する時は、同じ場所からって決められないかな? 同じ場所は無理としても、生活地域内では禁止とか」


 「ああ、それは必要だな。緊急時は仕方ないとしても、普段は飛び立つ場所と降りる場所を決めておいた方が事故は防げるだろう」


 「飛んでも良い場所でも、余り低く飛ぶのは良くない事とした方が良いと思ったが」


 「戦いの訓練では必要になるが、普段はする必要のない危険な飛び方だもんな」


 「急上昇や急降下も、子供には負担が大きすぎるんじゃないのか?」


 「自分の力量を知るには必要な飛び方だろう」


 なんか、バヤガの息子と黒翼の代表が、意見を白熱させて行ってる。良い事なんだけど、俺としては置いてけぼりって雰囲気。


 なんか、危険行為を禁止するPTAの会議にでも紛れ込んでいるような感じもする。


 元々、そういう危険行為の禁止をして貰うはずの話し合いなんだけど、なんか、子供たちから恨まれそうな勢いになってるよぉ。少し、方向性を変えておこうかな。


 「あぁ、それと、戦える者には、飛びながら弓を撃つ練習も必要だね。槍を持って、上空から落とすとかも練習が必要かな?」


 「おお、確かに。子供の安全を考えるのなら、まず大人がしっかりと戦えないとな」


 「ええ。以前よりも自由に飛べる分、戦い方は増える事になるわけですしね」


 「なら、まずは全体に、生活地域では飛ばない事を取り決め、大人たちへは飛びながらの弓の練習を指示した方がいいな」


 「良いですね。では二人に任せます」


 いろいろ言っておきたい注意も有るけど、こういうのは自分たちで見つけないと身に付かないらしい。一番始めのルール作りだもんねぇ。まずは好きにやって貰おう。


 二人が翼人たちを集め出して、俺の役目が終わった感じがしたので、俺は水の魔法具を設置する事にした。


 ちなみに、ネイシャは風魔法の伝授が始まった時点で空に舞い、飛び始めの翼人たちに飛び方を見せていた。今は他の翼人に混じって注意事項を熱心に聞いている。


 ネイシャには飛びながら弓を撃つ練習もさせておいたから、そこでも率先してお手本になってくれるだろう。


 そして、まずは飲料水用の池に、水を発生させ続ける魔法具のセットを行う。


土魔法を使って池の縁に小さな台を作る。そして、大きな石の桶を作って乗せ、そこからあふれ出た水が次の石の桶に流れる仕組みにする。


 作った段は二段だけ。


 ここには二百人ぐらいが一時的に生活するだけだから、あまり混乱する仕組みは良くないよね。


 普段使いは池の水を汲んで貰って、特に綺麗な水が必要なら、一段目か二段目の石の桶の水を使って貰えればいい。


 ただ、二百人が一度に組み上げる事も考えて、水を発生させている魔法具は常時稼働させておく。池からあふれたら、森の方に水が流れるようにもしておいた。


 次に、沐浴用の溜池に水を発生させる魔法具を設置する事にする。


 ここは、多くの翼人たちが身体を洗い、そこからあふれた水はトイレに利用される仕組みになっている。洗濯場へ流れる仕組みも有るので、二つの魔法具で同時に供給するようにした。


 そして作業を終え、翼人たちの所に戻ってみると、女たちは食事や干し肉の準備に追われ、子供たちは離れた場所で飛び回り、大人たちは弓を持ったまま飛ぶ練習をしていた。


 女たちから、作業台としてのテーブルを作ってくれと頼まれたり、薪にする木を乾かしてくれと頼まれたり、けっこう女性陣からは気さくに声をかけられる。そこで、俺とネイシャが着けているシンボルについて聞かれた。


 「これは、光と闇、そして大地と海のシンボルを四方に置いて、中心に樹のシンボルを置いた形にした命のシンボルです」


 「それを持っていると、何か良い事があるのかい?」


 「良い事があるわけじゃないですけどね。

 これは、大いなる神様の使徒である天使が認めた印なんです。

 神様は全ての生みの親なんで、人にしても、獣にしても、岩にしても、樹にしても、全てに平等な存在なんです。なので、人だけを特別扱いしてくれる存在じゃないんです。

 で、たくさん居る神の使徒たちのうちの一柱の、このシンボルの天使は、人が強く、幸せに暮らす事を願っているんです。

 俺が、この場所に来たのも、この天使の頼まれごとのせいなんですよね」


 「じゃ、じゃあ、わたしたちを助けてくれたのは、その天使って事なのかい?」


 あれ? なんか、間違ったかな? まぁ、俺が感謝されるよりも気が楽かな?


 「直接助ける事はしません。助かる道を指し示す事は有ります。助かりたければ、この道を歩けと示すだけですけどね。その道を歩くのは自分たちですよ。しかも、本当にその道で正しいのかは、人の身では計り知れないんですけどね」


 「あ、あたしたちは、その神様に何かしないとならないのかい?」


 「人が強く、賢くなって、幸せに暮らしていればそれで満足してくれますよ。逆に、頭を使って考えるという事を止めて、力ずくで他人の物を奪い、荒んだ生活をして、不幸な最後を遂げる事を悲しむという存在です」


 自分で言って、そうだったかなぁ? って内心で首を傾けているんだけどね。


 「そんな、そんな存在がいるの?」


 「人の幸せを願って、人の不幸を悲しむというだけの存在ですけどね」


 「あ、あの。わたしたちは、その神様に、してあげられる事はあるんでしょうか?」


 「別に、何かをすれば、特別扱いしてくれる、ってわけじゃ無いんですよね。だから、捧げ物も必要ないし、生け贄も必要ありません。ただ、人が賢く、愚かではない選択をして、幸せに暮らしていれば喜んでくれます」


 だ、だよね? 合ってる? 違う? もしかして、夏至の日に生け贄の心臓が必要? 皆でわっしょいってやらなくちゃいけない?


 「で、でも、ここにアキラさんを遣わしてくれたんですよね?」


 「まぁ、結果的には。

 俺は、この大きな岩の地下に、天使から渡された物を埋めに来たんです。

 そして、それは人の守護の星を引き寄せるために必要なんです」


 「人の守護の星?」


 「今は見えないですが、引き寄せたら夜空にちょっとだけ他よりも大きな星が輝きますよ。それが人の守護の星です。

 それによって、ほんの少しだけ、人が賢く、強くなるように力を貸してくれるようになるかも知れません。

 それは、ほんの小さな力なんで、人の身では気付かない程のモノですけどね。

 でも、微かな力でも、人にとって良いように導いてくれます」


 「あ、あの、その、そのシンボルは、わたしにもいただけるのでしょうか?」


 「こういう形をしていればいいってだけなんで、特に材料に拘る必要は無いみたいですけどね。俺はコピーを持っているので、差し上げますよ」


 その後は、まぁ、バーゲンのおばちゃん状態だった。エイプリルにコピーを作ってもらっていたので、足りなくなると言う事は無かったけど、ここに一つの宗教を作っちゃったのかなぁ? って事には、ちょっとだけ怖さを感じた。


 「これは、どうやって使えばいいんでしょうか?」


 「幸せになれる選択をしたら、その事に感謝の祈りを捧げるだけでいいですよ。あくまでも、選択するのは自分。そして、それを得るのは自分の力、ですからね。

 自分の選択、自分の力に、感じないほど小さな力を貸してくれたかも、って気持ちでいるのが良いと思いますよ」


 そこで、シンボルを手にした女たちが目を閉じて感謝の言葉を口にし出した。


 これによって心の平安が保てるのなら安いモノなのかも知れないね。


 とか、思っていたら、突然空が輝きだした。何? 爆発? 異常気象?


 天使だった。


 をい!


 女たちが祈りを捧げた方向に天使の金色のシルエットが現れ、その光が翼人たちを照らしている。


 「「そなたらの感謝の祈り、確かに受け取った」」


 声ではなく、音でもない。でも体中に響く不思議な意識の伝達を感じた。


 そして、現れた時と同じように、さっさと消えてしまった。


 「天使様が我々にお声をかけてくださった」


 茫然自失という感じで誰かが呟いた。


 やり過ぎだろう! 目立ちたがり! そんなに信仰が欲しいのか! 俺は密かに怒りまくりだ!


 天使が直々に奇跡を見せてしまったら、後からも奇跡をアテにするようになって、奇跡がなければ信仰じゃないってなる可能背が大きいはず。こうなったら奇跡はこれっきりで、もう絶対にないって言い含めないと、狂った宗教になってしまう。


 「アキラ様。天使様が、天使様が」


 「あーそうだねぇ」


 「天使様は、我らと同じ翼人でしたね」


 「あー、確かに形的には同じですねぇ。でも、あれは人とは違う存在なんで、同じとは思わない方がいいと思いますよ」


 「天使様は、天使様は我々をお認めくださったのですね」


 「え?」


 「天使様は、天使様は、我々をお許しになられたのですね」


 ど、どういう事?


 「エイプリル? これって何? アレからなんか聞いてない?」


 『申し訳ありません。可能かどうか試してみます』


 翼人たちは膝をついて、天使が居た空を見つめて手を組んで祈ってたりしてるよ?


 「あの? 翼人たちは、天使と関わりがあったの?」


 手近な翼人の女の一人に聞いてみた。


 「天使様とは知りませんでしたが、翼を持つ、我らと同じ形の大いなる存在に、反逆し、罰を与えられたという昔語りがございます。そのため、我々は羽ばたく事を禁じられ、自らの力で空に昇る事が出来なくなったということです」


 いや。ぶっちゃけ、その身体の構造だと、羽ばたいて飛ぶ事って出来ないからね? じゃあ、昔は風魔法で空飛んでたけど、それを禁止された過去を持つって事かな?


 「天使様がアキラ様をお寄越しくださったのなら、我らは許されたのだ。ああ、感謝します」


 どんどんヤバイ方向に行ってない? どうしよう?


 このまま、天使を信仰する集団にしてしまう? それとも、天使とはこれっきりにして、信仰のない現実主義者に作り替える? 今なら、いろんな方針に変えられそうだよね。


 『艦長に報告します』


 「エイプリル! どうだった? アレとは話せた?」


 『はい。かつて、別の天使が居たそうです。その天使は新しき世界に嫌悪を示し、魔法やモンスターの排除を画策していたそうです。ですが、他の天使とは意見が合わず、大きな力は行使出来なかったそうです。世界全てを嫌悪し、その中で一番の嫌悪を示したのは天使と同じ形を取る翼人でした。せめて、その翼人たちだけは滅ぼそうと、翼人と風の精霊との繋がりを切り裂き、風の息吹を感じる心を失わせたそうです。その後、その天使は他の世界に行く事になったそうです』


 「うーわー。翼人たちにとっては、救いのない話しだねぇ」


 『はい。翼人たちをどうするかは、艦長に一任するそうです』


 「それって、丸投げって言うよね?」


 『はい。同意します』


 「…………」


 どうしよう。出来れば、翼人たちには元気になって貰いたい。だから、その方向で物語を作っていこう。

 歴史のねつ造とも言えるねぇ。せめて、辻褄は合うようにしよう。


 「あー、聞いてくれるかな?」


 俺がそう言うと、そこにいた全ての翼人たちが俺に注目した。


 ヤバイ。嘘は付けない雰囲気だ。ねつ造は止めて、なんとか誤魔化せないかな。


 「今聞いた所によると、翼人たちと風の精霊との繋がりを絶ったのは別の天使だそうだ」


 「!!」


 翼人たちに衝撃が走ったようだ。せっかく許されたと思ったのに、違うかも知れないという事に、一瞬絶望を感じたのかもね。


 「だけど、その天使は今は居ない。そして、今の天使は、翼人たちを認め、その翼の内に翼人たちを入れる事を認めている」


 翼人たちの目がキラキラしだした。


 「他の人たちと同様という事だけど、翼人も守護する対象の人として扱い、風の精霊との繋がりを守り、幸せになる事を期待するそうだ」


 ようやく落ち着いてきたかな。


 「大丈夫。翼人たちは、天使から直々に、祝福を受けた。これからは、堂々と空を飛んで良い」


 わぁぁぁ! って騒ぐかと思ったんだけど、ほとんどの翼人が跪いて祈るように感謝していた。


 先ほどシンボルをあげた女たちは、シンボルを捧げ持つようにして泣いている。ああ、これは、他の翼人もシンボルを欲しがるだろうねぇ。


 その後、やっぱりという展開になり、供給所の係員になってひたすらシンボルと鎖を手渡していった。


 「エイプリル? シンボルと鎖は足りるかなぁ?」


 『増産します』


 キリンさんは? などと考えつつ、ここにいる翼人たちは四十二人に配り終わった。バヤガたちが帰ってきたら三十人以上増えるんだよねぇ。更に目標は二百名以上。始めから誰かに渡しておこうか?

 でも、なんか、俺から貰う事が誇らしいって感じなんだよねぇ。まぁ、確かに関係者ではあるけれどねぇ。


 ようやく皆が落ち着きを取り戻してきた時に、歩いてきたグループの一つが到着した。


 既に、黒翼のグループが合流したという経験や、力尽きそうな二十名のグループを受け入れたという経験を持っているため余り混乱する事もなく、白黒合わせて無難に処理して行ってる。


 昨日受け入れた力尽きそうな二十名のグループは、空を飛ぶ魔法の訓練は参加出来たが、実はそれだけで力尽きていた。

 空を飛んでいた時は興奮して楽しんでいたが、天使騒ぎが終わったら残りの体力も使い尽くしたのか、ほとんどが座り込んでしまった。

 フラフラになりながらシンボルを受け取りに来て、シンボルを握ってニヤニヤする姿はちょっと怖かった。


 白黒両方から休んでいろと言われ、手伝う事を諦めた二十名は、何故かシンボルを握って祈りを捧げてた。


 いや、休んでろって。


 合流した方も、まずは休んで、消化に良い物をゆっくり食べる事から始めろと言ってある。空きっ腹に大量の食料を流し込んだ後の腹具合は、ほとんどが知っているから対応も問題ない。


 白黒の女たちが用意したスープを涙しながら飲んでいるグループに向かって、何をどう説明するか悩んでいるって、バヤガの息子が相談に来た。


 「とりあえず、後二つのグループが揃ってから、まとめて説明した方が手間ないよねぇ」


 「そうですね。それまでにこちらでも、どう説明するのか考えておきます」


 「うん。まぁ、始めは許された事からかな。空飛ぶのは、今日は疲れ切ってて出来そうもないからねぇ」


 「あ、そうですね。空飛ぶ体力もないのに、話を聞くだけってのは辛いかも知れませんね」


 「まぁ、後は、妙にニヤニヤしながら世話をしているのを改めた方がいいってぐらいかな。かなり、不気味がられているよ」


 「あ、ははははは」


 一通り食事が済んで、沐浴場に案内する所でバヤガの率いるグループが到着した。


 同じようにゆっくりと食事させる事にして、対応を二つに分ける。


 さらに、バヤガの率いたグループが沐浴を終えた所で、最後のグループが到着した。


 沐浴を終えた翼人の女たちが白と黒の女たちを手伝い、同時に全体での食事になって今日の成果を報告し合う場になった。


 そこで、バヤガの息子がまず昔語りで伝わっていた話しを始めた。


 バヤガや新しく合流した翼人たちは、何故今更そんな昔話をするんだ? という雰囲気だった。


 「我々の先祖は、翼に風を受けて空を飛び、楽しんでいた。しかし、翼を背に持つ大いなる存在が怒り、我々の先祖は空を自由に飛ぶ風を失った。

 以来、我らは翼を持つ大いなる存在に許しを得て、再び空に戻る日々を夢見ている」


 昔語りはそこで終わり、普通ならそこから山に登って、谷間の上昇気流を見つける話しになるそうだ。


 「そして、今日、大いなる翼を持つ者の真実が解き明かされました。

 この世の全てを作った神様には、その助けをする多くの使徒が居るそうです。そして、その使徒の姿は我らと同じ翼を持つ姿で、我らから風を奪った存在も、神の使徒、天使だと言う事です」


 バヤガや、今日合流したグループが少しだけ驚いている。ちょっと半信半疑だね。


 「我らから風を奪った天使は、別の世界へと向かったそうです。ですので、この天使に許しを得る事は永遠に出来なくなりました。

 しかし、本日、別の天使様が我らの前に現れました。その天使様は以前の天使様とは違い、人が賢く、強く、幸せになる事を望む天使様で、我ら翼人をその翼の内に入れお守りくださると仰ってくださいました」


 今日合流したグループががやがやと騒がしくなってる。


 「新しき天使様により、我々は空を飛ぶ事を許され、我らが祈りを聞き届けくださいました。

 我ら翼の民は、今日、空を取り戻しました」


 バヤガの息子のセリフに合わせて、後ろに控えていた者たちが一斉に空に舞った。


 なに? 打ち合わせ済み? エンターテイメントの才能がありそうだねぇ。


 しばらくして舞っていた者たちが戻ると、バヤガの息子が再び前に出てきた。


 「今日、我らが前にご降臨くださった天使様は、もう姿をお見せになってはくれないようです。なぜなら、奇跡を見せる存在ではなく、我々にほんの少しだけ幸せになる力をお貸しくださるという存在だからです。

 ですが、既に天使様の奇跡は我々の前に現れていたのです。

 実は、アキラ殿は、天使様の使徒であったのです」


 一斉に俺に注目が集まった。


 しまった~。この展開なら俺に話しが振られるのも当然だったよねぇ。ぼーっとしてて考えてなかった。さっさと逃げれば良かった。


 でも、俺が何か話さないと収まらない状況みたいだ。仕方ないねぇ。


 大きなため息をついた後、少し遠回りしてバヤガの息子の隣に歩いていく。


 「俺はアキラ。元々翼を持たない人間という種族になる。魔法使いだ。

 この世界には、俺のように翼を持たない人の方が多く存在する。君たちのような翼人というのは少ない存在だ。もし、俺のように翼を持たない種族と出会う事があったら、その点を考慮して、気を付けて付き合っていって欲しい。中には、友好的な態度で近づき、だまし、力ずくで利用としようと言うのも多くいるから、よく考えて行動してくれ」


 ここにいる多くの翼人たちは、俺を、事故などで翼を失った者と見ていたようだ。


 「それから、俺がこの地に来たのは、アレから依頼されての事だ。ここの大岩にヘビーコアを埋め込み、それによって星を一つ引き寄せるためだ。

 星を引き寄せる事はアレが行う事になっているが、引き寄せる起点としてこの地が選ばれたわけだ。

 その星は、小さいけれど、でも、他の星よりも強く輝くだろう。その星は、人の守護のために輝く事になる」


 え? これだけで泣いてる翼人も出てきたよ? 涙腺脆いねぇ。


 「星を引き寄せる時には、この岩の台地に大きな災害が訪れる事になるかも知れない。大きく揺れ、地はひび割れ、崩壊する所も出てくるかも知れない。

 そのため、この台地の上に人が居ては、星を引き寄せる事が出来ない。それ故に、星を引き寄せる時には、この地に人が居ないで欲しい」


 そこまで話した時に、バサリと羽音が一度だけして、フクロウのグラウが俺の肩に留まった。


 グラウは今までネイシャと一緒にいて、そのネイシャは翼人の子供に友達が出来たそうだ。何でも、白翼の男の子だそうで、俺は密かにその男の子を物理的に抹殺する手段を考えている。最大レベルで縦穴を掘り、そこに突き落としつつ、最大レベルで雷撃し、最大レベルで全ての熱を奪った後に、最大レベルで氷の槍を突き刺すというモノだ。


 うちの子は嫁にやらん!


 よし、準備は万端。Xデーを何時にするかが問題だ。


 そのネイシャも俺の方に駆けてきた。最近は飛行時間が伸びて、空を飛ぶ遊びが大好きになっている。

 なに? 巣立ちが近いの? それを考えると、目から汗が………。


 「つまり、星を引き寄せる時は、翼人たちはここを旅立っているか、全員で空を飛んで避難していて欲しいんだ」


 「ここに、アキラ殿が作った物はどうなるんだ?」


 「翼人たちが集まったら、風の魔法だけじゃなく、土の魔法、水の魔法、火の魔法も教える。土の魔法が有れば、土を固い石に加工する事も、山にして沐浴場を作る事も出来るようになる。だから、ここに作った物は壊れても、別の場所に似たようなモノは直ぐに作れるはずだ。ここは、翼人たちが体力を取り戻し、魔法を習得するための一時的な避難所としか考えていないからね」


 せっかくの物がもったいないっていう意見はもっともだけど、土魔法を習得した翼人たちが数人いれば、何処にでも、半日足らずで作れるものだからねぇ。


 「その移動するために、必要になりそうな物を作るために森を持って来た。足りない物も有るだろうが、工夫して作り出して欲しい」


 「アキラ~」


 ネイシャが空気を読まないでからみついてきた。まだ、大事な話の途中だよ。


 「ネイサ!」


 「え?」


 いきなり、鷲羽根の女性が声を上げてこちらに駆け寄ってくる。あれは、バヤガが引き連れてきたグループの、確かマーサおばさん、だっけ?


 「ネイサ! ネイサ! ネイサ!」


 集まった翼人たちをかき分けながら近づいてくる。それを見て、ネイシャも反応した。


 「マ、マ」


 ネイシャのお母さん? 生きてたんだ?


 ネイシャの直前で立ち止まり、ネイシャをじっと見つめるマーサ。ネイシャも、どうしたらいいか判らないようだ。


 俺はネイシャの背中を強く押して、マーサの所に押し出す。


 そして、マーサはネイシャを抱きしめた。


 ネイシャの方はまだどうして良いか判らないようだ。それでも、「マ、マ」と言って震えている。


 やがて、ポロポロと涙を流した後に、マーサを抱きしめ、大きく、泣き出した。


 「うわー! うわー!」


 と、こっちが困っちゃうぐらいの子供泣きだ。


 マーサの方も「ごめんね、ごめんね」と言いつつ泣いて抱きしめている。


 今まで、ネイシャは涙をこぼした事は有っても、泣いた事はなかった。ここ一年で、始めて安心出来たんだろうね。


 しばらく泣かせておいて、それから少しだけ横にずれて貰った。ネイシャは、もう絶対に放さないって感じにマーサの服を握りしめて抱きついている。マーサも同じような気持ちらしい。


 「俺は、九日ほど前に、このテーブル台地の東の果てでたった一人で彷徨っていたネイシャに出会った。ヘビーコアをこの大岩に埋めている作業の途中でね。

 その時のネイシャは、人と会話をするのも一年ぶりぐらいで、ほとんどの言葉を忘れていた。身体もガリガリで、もう生きる事を諦めていたような状態だった。

 普通なら、放っておいて、どうなっても関係ないと思う所なんだけど、俺はネイシャを保護した。

 後は、ずっと俺が面倒を見るか、ネイシャの居場所を探すかの二択になったんだ。

 で、翼人たちには再び集まって貰って、ネイシャの居場所になって欲しかった。

 俺が、翼人たちを集めているのは、それだけの理由なんだ。だから、俺に感謝する必要はない。ネイシャの居場所になってくれるって事で、俺が感謝したい。ありがとう」


 なし崩し的に、俺からの言葉はこれでお終いになった。


 神様とか天使とかの話しは、全部ネイシャが持って行っちゃったねぇ。さすがはネイシャ。


 おっと、ネイサってのが本当の名前なんだろうね。


 それからは、バヤガの息子によって、明日から空を飛ぶ練習と、残りの翼人たちを探す計画、受け入れるための準備、生活雑貨などを作り出す作業などがあるので、なんらかに関わって役に立って欲しいという言葉で締めくくられた。


 俺は翼人たちの所から離れ、一人で暗くなりかけた砂漠を歩いていた。


 「何じゃ。寂しいのか?」


 肩に止まっているグラウが覗き込みながら聞いてきた。


 「ちょっとね。手間がかかった分、居なくなると手持ちぶさたになるよねぇ」


 「なんじゃ。随分と素直じゃな。つまらん」


 「グラウこそ、ネイシャが居なくなって寂しいんじゃない?」


 「な、な、何を言っとる。ワシが寂しがるなど有るはずが無いじゃろう!」


 「はい、はい。そうだね」


 「ちょっと待て、それはワシが照れ隠しをしていると言っているわけか? 違うじゃろ!」


 「ははは。良く勉強させて貰ったしねぇ」


 「それはそうじゃが、だからと言ってなぁ、あの騒がしい小娘が居なくなったから寂しいなどと思うわけが無いじゃろ」


 しばらくはこのネタで、からかえそうだ。




 次の日は朝から野菜類、古着、下着、弓矢を買いに行ってから翼人たちの所に向かった。


 既にちょっとした村のような雰囲気になっており、煮炊きしているグループや縄を綯うグループ、薪、革、矢を作るグループが出来て、それぞれが生き生きと作業している。


 「アキラー!」


 荷物を下ろしている俺の所へネイシャが飛び込んできた。


 急いで後を追ってきたマーサが慌てて謝ってくる。そんな事は必要ないと笑顔で言うんだけど、まだまだ俺は尊いお方らしい。


 「アキラ! アキラ! これ欲しい!」


 そう言って示すのは命のシンボル。


 昨日合流した翼人たちの分だね。一応数は足りるから、ネイシャに渡して配って貰おうかな。


 古着屋で貰った端切れに十二個ずつ包んでネイシャ、じゃなく、ネイサとマーサに渡す。


 「バヤガたち白翼の三人にもあげてなかったんで、渡してください」


 そう言って送り出した。きっちり全員に行き渡るかな? それとも誰かががめて、持っていないってのが出てくるかな?


 そんな事を試すような行いは狡いかな? ちょっとだけ、この結果は知りたくなった。


 「グラウ。ネイサに付いてあげてくれるかな?」


 「お主は、色々甘いようじゃの」


 「判ってるけどねぇ」


 それだけ言って、グラウと別れた。今日は、スカイボードに乗って、この周辺を隅々まで飛び回る予定。バヤガたちも非常食を抱えて三人一組で飛び、彷徨っているグループを捜すそうだ。


 バヤガたちはまだ準備中だけど、俺は一足先に空に舞い上がった。まず、高度を上げて、目指すは一番離れた場所。さらに、大岩のテーブル台地から離れた位置まで飛んで、周辺をくまなく探すつもりだ。


 エイプリルの観測で、何らかの生き物が居る地点は判っている。それを一つ一つチェックするという感じで廻るだけ。効率優先だけど、全部の翼人たちを見つけるのはこうするしかない。


 範囲が広すぎる上に、何も無い砂漠地帯なんで、エイプリルのインセクターでの捜索は効率が悪いそうだ。まぁ、投入するインセクターの数も少ないんだけどね。俺があっちこっち行くモンだから、フォローしきれなくなってきているようだ。


 そして、地道な捜索によって、今日は四人のグループが二つ。二人のグループを二つ見つけた。


 かなり警戒していて、始めは攻撃してきたり、隠れたまま出てこなかったりと面倒くさかったけど、強引に転移で運んで、水と食事を与えた所で落ち着きを取り戻した。


 運び込んでしまえば、後は翼人たちに任せられるから、俺の方は楽が出来る。けど、バヤガたちは手持ちの食料だけだから、きっと苦労してるだろう。


 と言うわけで、バヤガたちの応援のために、再びスカイボードで飛んだ。


 今回は三人一組で四組の捜索隊が出動していた。彷徨っている翼人たちを見つけられなくても捜索隊を回収するつもりで飛んだが、二組の捜索隊が彷徨っていた翼人のグループを見つけていた。


 全てを俺の転移魔法で回収。今日だけで三十三人。


 もしかしたら、この砂漠地帯に入らずに、どこか、緑の多い場所に避難している翼人も居るんじゃないのか? という疑問を呈した所、多くの者たちからあり得るが、見つける事は更に困難になると言われた。


 実際、この大岩のテーブル台地に居なければ、ヘビーコアの起動に影響されないんだから、それでも構わないんじゃないのか? って感じた。せいぜい、崖の近くじゃなければ、それで問題ないだろう。


 人の種族的には二百名以上が生めよ増やせよ、ってやらないと絶滅しちゃうとか聞いた事がある。余り信憑性のある数字じゃないとか聞いたけど、実際、そんなモノかなとか思ったんで、だいたい二百名って思ってる。


 遺伝的な事を考えると、最低は二十数名とかって話しも聞いたけど、倫理的には酷い事になるとか、ならないとか……。


 まぁ、数は多い方が良いんだけど、後から探せるのなら、急ぐ必要はないのかな。


 急がないとのたれ死にしちゃう環境で無ければ、後回しでも良さそうだよね。


 そんな相談をして、これから五日間かけて、この大岩のテーブル台地の上と周辺を探し、七日後に全員で避難してヘビーコアを起動させる事になった。


 その間、俺の仕事は周辺を飛んで翼人を探す事や、周辺三カ国の町から生活物資を買ってくる事になったが、それとは別に、懸念事を考える必要があった。


 それは、元々翼人たちが住んでいた山岳地帯を占領したモンスター軍団。


 翼人たちの言うように、西から来たのならそのまま東か、豊かな南に侵攻する可能性が高いだろう。わざわざ砂漠の北を目指すとは思えない。


 だけど、ハイエナよりも貪欲で飢えているモンスター軍団が、他の生物の生活を見逃すだろうか?

 斥候が砂漠地帯を抜けて翼人たちの生活を見つけたら、砂漠と言えども侵攻して来る可能性はある。

 なので、エイプリルに頼んでインセクターでの情報収集をしている。


 こちらの翼人捜索にインセクターを多く回せなくなっているという本末転倒気味の処置だけど、結果を考えると仕方のない選択だと思う。


 翼人たちがモンスターに襲われても、空を飛んで逃げる事は出来るようになった。けど、生活場所を壊されたらやっていけなくなるしね。そうなったら、遠からず、モンスター軍団の餌食になるしかなくなってしまう。


 逃げた先で生き残れるか? という疑問の答えを、ここの翼人たちは身をもって知ったはずだしねぇ。


 エイプリルの観測では、モンスター軍団は南の平地への侵攻を続けているそうだ。だけど、南に住む人たちの抵抗にあって、拮抗状態が続いているらしい。

 だから、山岳地帯にずっと駐屯しているって事かぁ。

 まぁ、南に侵攻しても、少なくない数は山岳地帯に残すだろうとエイプリルは言っていた。


 目的が繁殖場所の確保なら当然だよね。


 繁殖されて増えたら、更に北へ侵攻する可能性も高くなる。


 しかし、モンスター軍団という集団がどういった考え方で動いているのかも判らない。繁殖場所を広げるのに異種のモンスターを率いて軍団を作るだろうか?

 統率された軍隊であるのなら、どうやってモンスターを従えているんだ?


 ターナの街の近くにあった大陥没の底では、邪霊が恨みの力でモンスターを従えていた。恨みの力で、ほとんど正常な判断が出来なくなっていて、守りをないがしろにした攻撃方法で俺たちに立ち向かってきた。

 ある程度は守りの概念が有ったみたいだけど、ほとんどは物量作戦と呼べるモノでしかなかった。そのため、一番始めに致命的な攻撃を浴びせれば、たいていはそれで片が付いた。


 だが、山岳地帯にいたモンスター軍団は?


 一度、汚いゴミを捨てに行った時、矢や投げやりで攻撃された。その時は攻撃を避ける事に始終したけど、攻撃してきたモンスターは一部だったと思い出した。

 他のモンスターは、攻撃しているモンスターを囃し立てたり笑ったりしていた。

 それはつまり、戦いの状況では無かったけど、あのモンスター軍団は自由な心を持っていたと言う事じゃないのかな?


 「エイプリル。南の山岳地帯のモンスター軍団は、どんな方法で従えさせているんだ?」


 『明確な理由は不明です。個々の知能は低いようですが、軍隊としては統率の取れた動きをしています』


 「それって、命令系統があって、それにしっかり従っているって事?」


 『はい。現在、二段階の命令系統を確認しました。推定では四段階は存在する見込みです』


 「それって、おかしくない? 多少は、部族の長の命令を聞いて戦争をするとか言うのならわかるけど、二段階以上の命令系統で戦うなんて、モンスターとは言えなくなりそうだ」


 『はい。知能程度を考慮すると、命令系統に従う部分だけ整合性が見られません』


 「例えば催眠術とかでは?」


 『催眠による判断は本人の知能を使って行われます。知能以上の判断を催眠術により引き出すには、潜在的な部分を考慮しても不足すると推察します』


 「うん。論理的思考なんて、本能の前には意味がないっていう感じだしねぇ。ああいうのは恐怖による支配しか受け付けないと思ったけど、怖がっている感じはした?」


 『有りませんでした。命令を受ける時にのみ、論理的な思考を行っていた事が矛盾点になります』


 「普段は違うけど、でも、別の何かに支配されているって事かな?」


 『同じ結論に達しましたが、その方法が不明ですので、確定出来ません』


 「うーん。後は、持ち物とかぐらいかな? 何か、持っていなくてもいい物を持ってたりした?」


 『個体により装備は異なっています。共通するのは装飾品を肌に直接埋め込んだり、貼り付けているという程度です』


 「装飾品?」


 『推定ですが、財産としての戦利品を身に着けていると考えられます。貴金属のネックレス、腕輪、指輪などで、磨かれた宝石を肌に埋め込むのは、個体によって趣が変わるようです。片腕に集中して埋め込む者や、顔に集中する者、装備に隠れて見えないようにする者などが居ます。装飾品の数が、有る程度の強さの証明になると推察されます』


 「魔法を仕込んだ宝石で洗脳しているのかと思ったけど、ちょっと違うのかなぁ」


 『現在、魔法力を感知できるインセクターを制作中です。魔法による支配が行われていた場合は、これによって計測できるようになる可能性があります』


 「じゃあ、後は、それの報告待ちだねぇ。あと、同時に南の平地の人たちの事も調べて。

 こっちが終わったら、そこに行って、その人たちに加勢できるか考えよう」


 『了解しました。若干の情報が有りますが、報告しますか?』


 「どんなの?」


 『人種としては獣人になります。色々な種族の獣人が入り交じった共同体になります。国には属しておらず、町の長が最高指導者となります。元々軍隊は無かったようですが、襲撃された事によって組織が構築されたようです』


 「なるほど。そこに俺が入っても違和感無いのかな?」


 『形態的に珍しい存在と見られると推定されますが、特に人間を区別する風潮は存在しません。ただし、人間という存在を知っているかは不明です。報告は以上です』


 「判った。引き続きよろしく」


 『了解しました』


 結局、まだ判らないという結論。エイプリルが居てこうなんだから、俺個人では何も出来なかったんだろうねぇ。


 いくら、魔法が凄くても、一人では何も出来ないね。




 翼人たちの所へと、とぼとぼと歩いていたら、なにか騒がしい雰囲気があった。


 なに? お祭り?


 「我々にも戦う力が備わったのだから、これを生かさない事も無いだろう」


 「だが、我々のほとんどは避難してきた女子供だ。なんの力もないのと同じではないか」


 「だから、戦える大人たちだけで良いんだ。空高くから槍を投げるだけで良いんだから。成人前の子供でも出来る事もある」


 「それは乱暴な考え方だ。その戦いの場所まで行って、戦いになるとしたら、戦う力が無くなってしまう者も多く出るだろう」


 「それなら前線基地を作れば良いだけだ。我々にはそれだけの力もある!」


 数人が対面して言い争いをしていた。「戦い?」「前線基地?」あまり、穏やかな話題では無さそうだね。


 「どうした?」


 俺が声をかけると、一斉に静まりかえった。中央で言い争っている中心人物に目星を付けて、もう一度「どうした?」と声をかけた。


 「アキラ殿。我々は空を取り戻した。天使様による加護も受けられた。ならば、この力を使って、我らが故郷を取り戻すべきではないのか?」


 「危険です! 我々はほとんどが女子供で、戦いをする力なんて無い」


 「お前は故郷を取り戻すつもりはないのか? それでも天使様の加護を受けた翼人か!」


 「ちょっと待て!」


 俺は、たぶん、こめかみに血管が浮き出ていたかも知れないね。


 「全員聞け!」


 そう叫んで、今まで関心がなかった者たちの注目も集める。


 「まず言っておく!

 お前たちの祈りを聞き届け、加護を与えた天使は、戦いを司る天使では無い! 種族の尊厳を守る天使でもない! お前たちが戦いに敗れても、それに関わる存在じゃない!

 お前たちの故郷がモンスター軍団により踏みにじられても、何の憂いも感じない! そう言う存在だ!」


 かなりの動揺が翼人たちの中に走った。


 「それが嫌なら、シンボルを捨てろ! それだけで良い!」


 シンと静まりかえる。泣きそうになっている翼人も多く居た。


 「天使は、人が賢く、強く、幸せに生きる事を望んでいると言った。だが、それは、他の者を打ち砕き、自分だけが幸せになる事ではない!

 戦い? 確かに、他の者に力ずくで奪われる事には抵抗しなければならない。だが、まずは、奪われないようにと備える事が必要だ。そのための『賢さ』なんだ」


 少しは希望を持つ翼人たちが出てきたようだ。


 「強さとは、他人と比べるモノではない。確かに、モンスターを退ける力は必要だ。だが、それは確実に生きて、子供たちを育て、その経験を伝える為にこそある。勇気だとか、尊厳のために死んでも、何の役にも立たない。後から無駄死にする者を呼び込む害悪でしかない」


 戦いを望んでいた者たちは、ちょっと不満そうだ。


 「まず、幸せがある。それは、家族が互いに笑い合っていて、明日が来るのを当たり前のように考える事が出来る生活ではないのか?」


 そこで、言葉を止める。実際、翼人たちは明日をも知れぬ放浪生活をしてきた。それを再び考えさせる。


 「その幸せを守るために、故郷を蹂躙したモンスター軍団と戦う事は必要か?」


 女たちからは賛同の意志が感じられる。戦いを考える方も引いてきた。


 「この幸せを守るために戦う事は必要だ。奪われないようにし、さらに力を磨いて、守り抜く力を大きくしていかなければならない。

 だが、故郷を取り戻すという尊厳のために、ここの守りの力をそぎ落とすのは、『賢い』事か?

 故郷を取り戻す戦いで、戦える大人たちの大半が死んで、ここに戻ってきたら、女たちが何者かに殺されていた。なんて事を考えて見ろ。『尊厳』なんてモノを掲げあげても、それで何かを無くしてしまっては意味がない」


 もう、戦いを考える方の大半も判ってきたようだ。


 「力を付けろ! 知恵も付けろ! そして、幸せを守る事の最善の策を選択しろ。それが、天使の望む事だ!

 尊厳のために幸せを犠牲にする事は、天使が悲しむ事だ。

 それは、自分の欲望のために他人から幸せを奪うのと同じ事だ。

 他人から自分の幸せが奪われる事の辛さは知っているだろう。自分の愚かな選択が、他の者たちの幸せを奪う事にもなる事を考えられる賢さを身に着けろ」


 戦えば、自分たちが格好良く勝ち、全てが上手くいくなんて、都合良く考えちゃうモノだよね。でも、命がけの戦いだと、互いに命がけで必死に相手を殺そうとしてくる。そんな当たり前の悲惨で、無惨で、予測不能の戦いの状況を考えるのは、戦いを知らない世代には無理なのかな。


 「お前たちの故郷を襲ったモンスター軍団は、今は南の平原に向かって侵攻している。南にいる獣人たちの町は必死の抵抗をしてモンスター軍団を退け、拮抗状態が続いている。

 つまり、山岳地帯にはまだモンスター軍団の本体が駐留している状態だ。

 その数は千を超える規模だ。

 モンスターの力は人の比ではない。矢も槍も、相当な高さまで打ち上げられる。翼人が二百人集まっても、全てが撃ち落とされるだけだろう。

 モンスターの攻撃が届かない高所からでは、どんな攻撃でも効果がないしな」


 やっと、戦いを考える翼人の代表格が折れたようだ。


 「天使は、人が賢く、強く、幸せになる事を望んでいる。その望みはお前たちの望みではないのか?

 お前たちの望みであるのなら、このシンボルを持ち、しっかりと考えて欲しい。

 賢く、強く、幸せになる事を。

 これは、命のシンボルだ。

 そう、命のシンボルなんだからな」


 そう言って掲げた俺のシンボルと、皆が持っているシンボルが、一瞬だけ強く輝いた。


 をい! 奇跡を起こすな!


 翼人のほとんどが、泣いて跪いてる。やり過ぎじゃない? まぁ、愚かな選択は少しは無くなるかなぁ? だといいなぁ。

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