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第七十二章 晃と白翼の翼人 インフラ

 穴掘りは午前中に一回、午後に二回のペースで、全力の一割、約一キロずつ削る事になった。一日の合計が約三キロ。五日か六日ぐらいで完成する予定だ。


 ネイシャのリハビリは、午前中はラジオ体操モドキと、俺の風魔法の中で翼に風を感じる練習。午後は弓矢の練習とリビングスペースでの勉強という形になった。


 当然だけど、弓矢の練習は喜び、勉強は嫌がったが、しっかりと勉強しないと弓矢の練習はやらせないというルールを作って承諾させた。


 そんな五日間があっという間に過ぎ去り、トンネルは目標地点の十五キロに届いた。今はエイプリル主導でヘビーコアを固定するための細工を施している。

 具体的には部屋を広げ、中に入れたヘビーコアの台座を固定用の台座に改造している。


 おそらく、ヘビーコアは空に引っ張られて持ち上がり、天井にぶつかって、更に加重が天井にかかるはず。ヘビーコア自体も星型で突起が出ているため、場合によっては岩を砕いて行く可能性が高い。

 そのため、天井にかかる荷重が点では無く、面で当たるように台座で補完し、更に硬化剤で固める事にした。


 残骸とはいえ、宇宙の移動要塞と遠心力のかかる綱引きを行うわけだから、エイプリルの持つ技術をめい一杯使って頑丈に作らなければならない。


 「出来れば、もっと広い範囲で頑丈に固定したかったねぇ」


 『ヘビーコアをこの形に作ったアレが、納得した物であるという可能性に頼るしかありません』


 「もしくは、実働時に形状や質が変化するとかだね」


 『この状態でも、依頼通りで有る事を考えれば、問題は無いと言えると推察します』


 「そうでないと、大混乱だよねぇ。

 で、後はどのくらいで終わる?」


 『観測用のカメラを設置した後は、この部屋全てを硬化剤で満たす事にします。

 艦長には、資材を搬入した後、部屋の入り口を塞ぐ作業をお願いします』


 通信用のケーブルと中継器は既に設置されている。このケーブルを切断しないようにトンネルを塞ぐのが俺の役割って事だ。


 その俺の横を、硬化剤のボンベが乗った台車を引く装甲車が通り過ぎた。


 作業用ロボットたちが台車からボンベを降ろしていってる。


 「ここを閉じれば、とりあえず俺たちの作業は終わりだよねぇ。

 周りの安全確保はどうなってる?」


 『この一枚岩のテーブル台地上に、相当数の温血動物の反応を確認しています。中には十数体ずつでの集団を作っているモノも居ました。ですが、すべて二十体以下の集団であり、常に移動していました。

 中には、集団同士での戦いもあり、その数は減少傾向にあります』


 「あまり生きるのに適切な場所じゃないんだねぇ。岩の上なら、水も少なそうだしね」


 『はい。ですが直接確認はしていませんので、艦長からの指示が有ればインセクターでの確認をする用意はあります』


 「うーん。あまり必要あるのか考える所だけど、このまま、ヘビーコアを埋めて終わりました、なんてのはガキの使いみたいな感じなんだよねぇ。

 ネイシャの事もあるし、岩の周囲と上ぐらいはしっかり調査しておこう」


 『了解しました』


 「ああ、俺も出るよ。空飛ぶボードも乗りたいからねぇ。

 でも、空飛ぶボードって名前も何とかしたいなぁ。良い意見ある?」


 『持ち上げるという意味を込めて、リフ…』「はい、却下!」


 『風魔法からウィンドボード、もしくはスカイボード、フライングボードと言う所でしょうか。あまり長くなると略称が通称になる場合もあります』


 「一番文字の少ないスカイボードで良いって気がしてきた」


 『了解しました。これよりスカイボードで統一します。スクータータイプも便宜上スカイボードと呼称する事にします』


 このスカイボードという言葉は、ジェイたちにはどんな言葉で聞こえるんだろうねぇ。


 そんな事を話している間に資材の運び込みが終わった。これから部屋を塞いだ後に、硬化剤の吹きつけ作業が始まる。

 その作業をする作業用ロボットたちは、そのまま閉じ込められたままになる予定だそうだ。もったいないとか思うんだけど、しっかりと中から固めないと不安が残るため、二機だけ残って貰う事になった。


 トンネルは十五メートル。そこに、作業用ロボットが出てくるための二メートル弱の穴を開けておいても良いんじゃないのかな?

 と提案したけど、ちょっとでも崩落が有ったら塞がる事になるので、無駄な事、アンド、余計な脆弱を作って残すような行為として却下された。


 作業用ロボットを回収するのなら、全てが終わった後に一人分の穴を掘って行く方が現実的だそうだ。


 そして、二機の作業用ロボットと資材を確認し終わり、俺は土魔法で「発生」を起動し、固い岩盤をイメージしてトンネルを埋めていった。

 埋めるのはヘビーコアを入れた部屋の入り口から、約五百メートル。

 十五キロの内の五百メートルだから少ないように感じるけど、人の身にとっては五百メートルは長いよ。


 穴掘りの時のようなやり過ぎは出来ないから、慎重に目に見えている範囲で行う事にする。


 約二十メートルごとに下がって埋めるという作業を繰り返し、ようやく目標をクリアした時には気疲れでヘトヘトだった。


 後は中の硬化剤の作業が終わるのを待つだけ。閉鎖空間で除湿しながら乾くのを待つため、余計に時間がかかるようだ。

 念のために二日以上空ける事にして、その後撤収する事にした。


 その間、俺はこの周辺の調査をする事に。


 まぁ、まずは気疲れでヘトヘトなんで、たっぷり休ませてもらうけどね。


 小型輸送艇に戻ると、グラウとネイシャの勉強会が終わった所だった。何故か二人の羽根が飛び散り、二人共にボロボロだったけど、いったい何が起こったんだろう。


 「別に大したことも無かったぞ?」


 「無かったぞ!」


 二人に聞いてもこの応え、って事は聞かない方が良いんだろうなぁ。


 コーヒーサーバーからコーヒーを取って、ソファに深く座り込む。思わずため息が漏れた。


 「だいぶ疲れたようじゃの」


 「疲れた?」


 最近はグラウはネイシャの言葉で話している。そしてネイシャはそれを真似て話すのが好きだ。好きと言うよりは、俺が喜んでいるのを感じて言葉遊びを楽しんでいるようなんだけどね。


 子犬みたいな感じだけど、少しでも言葉に慣れるためには良い事だよね。


 「ようやく一段落だからねぇ。ここまで七日もかかるとは思わなかったしね。今回は失敗の方が多かったから、余計に手間がかかったという自業自得だしねぇ。

 魔法の影響力が大きくなって、それを押さえるために気疲れしたってのが本当のところかな」


 「単純に強くなると言うのも考え物じゃな」


 「考え物? じゃな!」


 「やっぱり一歩一歩階段を上がって来たわけじゃないからねぇ。力を抜いて階段を下りて確かめるという手間をかけている感じだよ」


 「まぁ、これからを考えると、無駄な経験ではなさそうじゃがな」


 「むだ? けいけん? じゃがな!」


 「慣れるのにはもう少し時間がかかりそうだけどねぇ」


 そしてコーヒーを啜る。疲れた身体に染み渡った。本当に疲れているようだ。そこにネイシャがにじり寄ってくる。


 「アキラ! 弓矢! やろう!」


 今、日曜のお父さんの憂鬱をこれ以上ないほどに実感した!


 神様は六日で世界をお作りになって、七日目に日曜と祝日と夏休みと冬休みと、有給休暇と産休をお作りになられたのだぞ? 休日に休むのは神様が人間に与えた唯一絶対の命令なんだよ?


 だから、そんなキラキラした目で見つめないで。


 もう弓矢の練習に出る事が決定してるっていう目で見ないで~。


 結局負けました。


 まぁ、ネイシャが矢を撃つのを見てるだけなんだけどね。見てない所で弓矢の練習をしてはいけないと言い含めてあるから、これも自業自得なんだけどねぇ。


 滑り止めのバンテージやグローブの調子も良いみたいで、今では十メートルの距離で岩に弓矢が突き刺さる事もある。一番始めに作った岩の的は上半分が削れて的の役に立たなくなっている。


 力については筋肉がつかないと上がらないだろうけど、的を射るコントロールはかなりのモノだ。ここでは獲物が居ないから試せないけど、森に行ってウサギでも狩らせて見てみたいと思う。


 「ネイシャ! 滑空で撃って」


 昨日からの方法として、岩壁に登って高い位置から飛び降り、背中の翼で滑空しながら弓を撃つという練習をやらせている。


 強く羽ばたく事はまだ出来ないけど、滑空状態で自分自身を支える事は充分に出来るようになっている。その姿勢で弓を撃ち、的に当てるという離れ業でも、ネイシャはかなりの命中率を誇った。


 空を舞うと言う事も恐れないで、楽しそうに空中の感覚を楽しんでる。


 これなら連れて行けるかな。


 「ネイシャ! しゅーりょー! 矢を回収して!」


 渋々という文字まで見えそうな態度で矢を回収して、俺の所に来て悲しい目を向けてくる。まるで、明日が人類滅亡の日とでも言っているようだ。


 「俺はこれからスカイボードで出かけるけど、ネイシャはどうする? ここで矢の練習しててもいいけど?」


 「ネイシャ! 行く!」


 既に目がキラキラしている。


 スカイボードは既に見せているし、一度だけだけど、一緒に乗って空も飛んだ事がある。岩壁を登らなくても簡単に高度をとれるため、ネイシャにとっては便利な道具に見えているようだ。


 ボードを地面に置き、俺が前、ネイシャが後ろの位置に立って準備完了。ネイシャは俺の背中に抱きついている。


 そしてスカイボードに魔法力を一気に流し込む。


 爆発したようにボードが弾かれ、俺とネイシャとグラウを乗せたスカイボードが空に舞った。


 更に下からの風を強め、前進しながら上方へと駆け上がる。


 一枚岩のテーブル台地は高さが二百メートルほど。その台地の高さを追い越し、更に空に駆け上がる。

 そして、風の勢いはそのままに、前傾姿勢を強めて前進と高度維持のバランスを取る。


 自然の風の影響もあって、バランスを取るために左右にボードを振ったり、波を越えるように上下に揺れるボードの上で足をクッションのように使って姿勢を保つ。


 「ネイシャ。そろそろいいよ」


 俺の合図でネイシャが手を放し、翼を広げて空中に飛び出した。


 滑空状態で空に舞うネイシャ。俺も前進の速度を落としてネイシャに合わせる。


 この状態だと、ゆっくりと降りている事になるが、ある程度の所で俺がネイシャの下に周り、ネイシャに肩を貸して引っ張る事にしている。そのままゆっくりと上昇して、そしてまた滑空する。


 俺はこれを空中滑り台と名付けた。


 ネイシャが疲れたり、俺が合図したら、俺の後ろに降りて掴まるという約束事も出来ている。


 そして、一枚岩のテーブル台地の上を、ゆっくりと飛びながらの空中散歩が続いた。

 偶にグラウがネイシャの斜め前を飛んで、翼の羽ばたかせ方を見せたりもしていた。


 「アキラー! グラウー! あれー!」


 しばらくしてから、ネイシャが何かを見つけたようだ。俺にはまだ何なのか判らない。


 合図をしてネイシャを俺の後ろに降ろす。グラウも俺の肩に戻った。


 「俺にはまだ見えないな。ネイシャ? 指差して」


 目の前に魔法の拡大鏡を作り出す魔法が有ったはずだけど、しばらく見てないから直ぐには出てこなかった。カバンを漁れば単眼鏡も有ったはずだけど、面倒なんでネイシャに任せた。


 俺の背中に抱きついたネイシャが、右手で右斜め下を指差す先に土煙っぽいのが小さく見える。


 とりあえず、見えない事には判断がつかないと言う事で接近を試みる。前傾姿勢を強めて、坂道を滑り落ちるように滑空していく。


 そして、それがようやく見えてきた。


 「あれってストーンゴーレム?」


 岩で出来た人型で、高さは四メートルぐらいありそうだ。


 「いや。あれはモンスターじゃな。ロックジャイアントの一種じゃろう」「じゃろう」


 グラウが補足してくれた。ゴーレムってのは、魔法で作った動く岩とかの事で、魔法で動くロボット的な物だったね。モンスターって事は、一応は生物的なモノって事なんだろうなぁ。


 「あれでも生き物なんだねぇ。あれ? 何かを襲ってる?」


 襲われている方は小さくてよく見えなかった。いや、小さいんじゃなくて、遠くて小さく見えていたようだ。要は、それだけロックジャイアントがデカイってことだね。


 「襲われている方は人のようじゃの」「じゃのー」


 「うん。あれ? 飛んだ? あ、翼人だ」


 ネイシャと同じ翼を持つ者のようだ。でも、そこにいた翼人は、全て真っ白な翼を持っていた。


 「グラウ? 翼の色で棲み分けしているとかある?」


 「基本的には無かったはずじゃ。じゃが」


 「じゃが?」「じゃがじゃが?」


 「小さなグループに分かれているのなら、その可能性も有るじゃろう」


 「エイプリルの調べでは、十数人の小さな群れしかないって事で、人の集落とは思えないって判断しちゃってたけど、バラバラになる原因でも有ったのかな」


 群れを作る生き物は、単独では生きられない事が多い。でも、多すぎても生きられないって事も多いんだよね。


 あ、白い翼の翼人が、ロックジャイアントに吹っ飛ばされた。

 皆、弓矢で応戦しているけど、ロックジャイアントには効果が薄いようだ。


 「とにかく、助けて話しを聞いてみよう」


 俺はスカイボードの速度を落としつつ、ゆっくりと高度を下げて近づいていった。


 そして、地上の白い翼人たちが俺たちに気付いた時、後ろのネイシャが空中に飛び出した。

 そのネイシャの翼を見て驚く白い翼人たち。なにか確執が有ったかな?


 「こんにちは。手を貸しましょうか?」


 まず、変な敵対をされちゃ困るんで、声をかけて警戒を解く事にした。


 「き、貴様は何者だ! 鷲羽根の者か?」


 「俺自身は翼を持つ者じゃないよ。それより、いいのかい? あれを倒さないとならないんじゃないのか?」


 途中からボードを飛び降りて、地面に降り立ってからそう聞いた。


 「翼なき者の力など借りん!」


 そう強がって、俺の話を聞こうともしない。まぁ、ありがちな対応だねぇ。


 一度引き下がろうかと思ったけど、ネイシャはやる気十分なようだった。滑空状態から地面に降り立ち、弓を構えてロックジャイアントの足に狙いを付けている。


 今まで見た事もないほど弓を引き、そして丁度膝の皿の位置に矢を撃ち込んだ。


 ロックジャイアントの足の岩が弾けた。


 さらネイシャは同じ場所に矢を射ていく。ゆっくり、慎重に、力を込めて足の岩を砕いていく。そして五本目でロックジャイアントは膝をついた。


 俺は手を挙げ、ネイシャに充分だと合図を送る。ネイシャはその場を動かないが、構えを解いて様子を見ている。ここにいる白い翼の翼人たちよりも状況が判っているねぇ。


 「えっと、手を貸しましょうか?」


 俺は更に聞いてみた。ここにいた白い翼の翼人たちは、全部で十人。男が六、女が四で、男の子の子供が二人だ。四人の男たちが戦い、女が子供を庇うようにしている。


 「き、貴様らに何が出来る!」


 意地になっているようだ。


 「あのロックジャイアントを倒すんですよね? 頭を砕いてもいいですか? それとも手足を切り落としますか?」


 比較的のんびりと言ったけど、なぜか青い顔をして引いているような雰囲気だ。何故だろう?


 「出来るというのなら、手足を切り落としてから頭を砕いてみろ!」


 なんか怒ってるなぁ。カルシウムでも足りないのかな。


 俺はスカイボードを地面に置き、カバンから超振動ブレードを取り出して片手に構えてスイッチに指をかけた。相手は岩の塊だから、超振動のレベルはちょっとだけ高くしておこう。


 そして、片膝ついて動けなくなったロックジャイアントに向かってダッシュ。一直線じゃなく、左右に振りながら軌道を読ませない動きで迫り、まず突き出された右腕を薙いで、二撃目で右腕を根本から絶った。

 背中に回り込み、後ろから左腕を絶ち、膝をついた左足を太ももの真ん中で切り落とす。


 ロックジャイアントは盛大にぶっ倒れたんで、右足を絶つのは楽が出来た。


 最後は頭を砕くんだったねぇ。でも、その必要も無いような気がするけど、もしかしたら周りの岩を集めて復活するとかかも知れないんで、超振動のレベルをもう一つ上げてから頭に突き刺した。


 ロックジャイアントの頭は簡単に爆砕して、その破片が当たってちょっと痛かったのは内緒だ。男の子はやせ我慢をしないといけないモノらしい。


 「このロックジャイアントに取れる素材とかあるのかなぁ?」


 そう呟いてみるけど、白い翼の翼人たちはあっけにとられた顔をして何も言わなかった。


 俺が超振動ブレードをカバンに仕舞い、近くに寄ってきたネイシャと共にロックジャイアントを見物していた時、ようやく白い翼の翼人たちが動き出した。


 「お、おい。お前たちは何者だ? 鷲羽根の者ではないのか?」


 恐る恐るという感じで聞いてきた。取って喰いやしないのにねぇ。


 「俺は人間だよ。まぁ、ここら辺じゃ見ない種族だろうね。もともと翼を持たない種族だ。

 一緒にいるのは、東の外れで出会ったネイシャ。七日前に出会ったんだけど、本人は一年以上孤独に生活していて同族の事はよく覚えていないそうだ。

 鷲羽根? そこら辺の事を教えて貰うと助かるんだが?」


 「う……。

 お、俺は白翼のバヤガ。鷲羽根とは、最近は会っていない」


 なんか、隠してる? あまり情報を伝えたくないってのは判るんだけど、それ以上に隠しているっぽいなぁ。それだけ俺を信用していないってのは仕方がない事なんだろうけど、それをこじ開けるのは骨が折れそうだねぇ。


 「大事な事なんでしっかり教えて欲しい事がある。

 鷲羽根とか白翼とか、翼人の種類ってのはどのくらいあるんだ? なぜまとまって暮らしていない?」


 たぶん、これが隠している事の真相なんだと思う。始めの言葉も、鷲羽根の手は借りないとか言ってたしね。


 「そ、それは、翼を持たぬ種族には関係のない話だ」


 「それは困るな。大事な事だと言ったよね? 本当の事をどうしても聞きたいんだ。場合によっては力ずくで、って事も考えてるほど、大事な事なんだよね?」


 俺の力量は見たはず。俺たちが駆けつけるより前から戦っていたのに、俺とネイシャがあっという間に倒しちゃったって事を、しっかり認識していてくれると良いんだけどねぇ。


 「う、そ、その前に、あれの解体を早くやらせて貰えるか?」


 手足と頭を失ったロックジャイアントの胴体が横たわっている。あれに、何か必要な物でもあったのかな?

 でも、ここは、俺の方の交渉が有利に進むために利用させて貰おう。


 「フォトン」


 俺はロックジャイアントに向けて指を差し、省略呪文を唱えた。


 同時に破裂して、粉々になってロックジャイアントはほぼ消えた。本当に生物だったらしく、血液らしきモノも少しだけ飛び散った。

 体液としては全部で一リットルぐらいしかなかったんじゃないのかな? この砂漠地方で順応したモンスターだったみたいだ。


 「あ、あ……」


 なんか、バヤガと名乗った翼人が絶望の声を上げた。他の翼人も同じように絶望している。


 「さて、解体する必要が無くなったので、さっさと教えてくれると助かるんだけど?」


 まるで悪人の口調だね。でも、なんか楽しい。


 「なんてことだ。なんてことだ」


 バヤガはその場に座り込んで放心状態だ。それほど必要なモノがあの岩の塊にあったのかな?


 「なんて事をしてくれたんだ! やっと、やっと確保出来ると思っていたのに!」


 「何の事だ?」


 「水だ。あれの中に水が有った筈なんだ」


 「え? あれから水を取ろうとしても、せいぜい両手で一杯だけすくえる程度の血ぐらいしか無かったんじゃないのか?」


 「そうだ! その血だ。我々の水場はモンスターどもに占拠された。もう、微かな血だけが我々に残された水なんだ。それに、今のモンスターには綺麗な水もあった。子供たちには必要なモノだったんだ!」


 「ふーん」


 まず、大したことじゃない、という態度を見せる。そして、土魔法で硬い大理石のような石を発生させ、中をくりぬいて一メートル四方の石の桶を作り出した。


 目を丸くしているバヤガの目の前で、今度は水魔法の発生で綺麗な水を桶の中に満たしていく。


 乾燥した砂漠地帯だと水を発生させる事は難しいかも、と思っていたが、意外と簡単に発生できた。


 「あ、あ、あ」


 バヤガが絶望と希望の入り交じった目で見つめている。俺は桶の中の水を両手ですくい取って、ごくごくと飲み下した。


 俺を見つめる翼人たちの目が熱い。


 そして、俺は桶に足をかけて、思いっきり蹴飛ばした。


 倒れた桶から水がこぼれ、あっという間に地面に染みこんで消えていく。


 「な、な、なにを…」


 俺は空になった桶を元通りに起こして縁に座ってからバヤガを見つめる。


 「とても大事な事を聞きたい、って言ったよね?」


 「…………判った。知っている事は何でも話す」


 勝った。


 俺は石の桶に再び水を満たし、その場を離れて距離を取った。そして直ぐに石の桶に翼人たちが群がった。

 まずは子供たちにたっぷり飲ませている。


 ああ、コップも作った方が良かったねぇ。


 どうやら、このテーブル台地の上の領域は、わずかな水を求めて争う不毛の大地という状況のようだ。さすがに水が無ければ生きられないから、せめて川のある場所に移動すればいいのにねぇ。


 立派な翼もあるんだから。


 で、石の桶の水を一通り飲み尽くした所で落ち着いて話す事になった。一応、空になった桶には再び水を満たしてある。


 「何でも話そう。だがその前に聞きたい。どうやって水を出したんだ?」


 まぁ、当然聞き出したい情報だよねぇ。


 「俺は魔法使いなんだ。水の魔法を使えば水を出す事が出来、風の魔法を使えば空を飛ぶ事も出来る」


 「魔法使い。そんなおとぎ話のような存在が居たのか」


 試しに、風魔法で俺の方から翼人たちの方へと風を発生させた。それをちょっとだけ長く、一定量で発生させ続ける。


 嵐や山岳地方でもない限り、風は一定量で吹き続けるという事はない。その不自然さに気付いた翼人たちがざわつき始めた所で風を切った。


 「そ、その。我らでも、その魔法を取得する事は出来るのか?」


 「さあ? それは判らないな」


 曖昧な返事をして、俺から出す情報は極力少なくする。まだまだ、ここの状況は判らないからね。


 「すまないが、どうか水の魔法だけでも教えて欲しい」


 「その前に、俺の方の質問が先だったよね」


 「あ、ああ。すまない」


 そして、白い翼を持つ翼人の代表であるバヤガが、このテーブル台地に住む翼人たちの事を教えてくれた。

 念のため嘘発見魔法をかけてあったけど、一カ所も嘘は無かった。




 バヤガの話しによると、翼人たちは元々、もっと南にある山で暮らしていたそうだ。翼の色も家族で違っていたが、それを気にする者たちは居なかった。

 山には緑も水も豊富にあり、山の合間を飛び回りながら、苦労はあるが、現実的な努力は報われるという普通の生活を当たり前のように享受していた。


 しかし、突然、西から大量のオーガや四つ足の大型モンスター、空を飛ぶ鳥の出来損ないのような不気味なモンスターが襲ってきた。

 始めは翼人たちの猛者がその強弓で戦い、撃ち落としていたが、数の差が大きく違うためにどんどん劣勢になっていった。


 このままでは翼人たちの集落は全滅する。


 そう判断した複数の村長たちの会議は、村々を捨てて脱出することを決めた。女、子供を少数の戦士で守りつつ北を目指す。

 西から攻めてきたモンスター軍団は、そのまま東に侵攻する可能性があり、南もまた開けた平地が侵攻に適している。

 選択出来たのは、砂漠が広がる北のみだった。


 少数のグループで北の砂漠に入り、それでも不安で、この一枚岩のテーブル台地に登った。


 もともと、翼人たちの翼は、飛び上がるほどの羽ばたきをする事が出来ないそうだ。


 二~三回、頑張って羽ばたき、数メートルほどジャンプする事ができるだけで、山の合間に暮らしていた時は、吹き上げる風を利用して飛んでいたそうだ。


 そして、台地の上に登った翼人たちを、食糧問題と水不足という危機が襲った。


 元々、少数グループで分かれて避難していたために、そのグループごとに食料や水を奪い合う剣呑な雰囲気が生まれ、直ぐに本格的な争いに変わった。


 それ以後。翼人たちは少数のグループでテーブル台地の上をさまよい、互いに傷つけ合いながらわずかな水を求めてさまよっているそうだ。




 「元の山の方は、まだモンスター軍団が占拠しているのか?」


 「我々が逃げてきたのは約二年前になる。その間、何度か確認に出た者がいるが、唯一戻ってきた者が言う事には、モンスターによる村が出来ていたそうだ」


 「エイプリル。確認出来るかな?」


 『その地より百五十キロ南に東西に延びる山脈があります。その山の数十カ所にモンスターによる野営地のような状況を確認しました』


 「今もモンスターが陣取っているようだね」


 「そうなのか? そ、それで、魔法は……」


 「魔法を教えるのには条件がある。

 それは、翼の一族が一つにまとまる事だ。それが出来たのなら、水の魔法も、風の魔法も、火の魔法も、土の魔法も教えよう」


 「まとまる………。

 今更、そんな事が可能だろうか」


 「逆だな。今この時にまとまらなければ、翼の一族は全滅だ」


 「あ、ああ。確かにそうだ」


 俺は密かに、足先を使って地面に簡単な記号を書いた。三角形を三つ並べただけだけどね。そして周囲を見回し、しっかりと頭の中に入れる。そしてスカイボードを小脇に抱えた。


 「ちょっと待ってろ」


 とだけ残して転移魔法で以前、水晶を掘り出した山に作った転送魔法用目標陣へと飛んだ。


 周りは何も無い岩肌。その場でスカイボードに乗って風魔法でジャンプ。空中に舞って森のある場所を探した。

 そして木々の上を飛びながら獲物を探す。

 丁度いい感じに、大雄牛のモンスターを発見。モンスター自身の大きさは三メートルって所だけど、角がそれと同じぐらい長い。こんな森の中で、よく邪魔にならないなぁ、っと思ったら、首を振り回すごとに周りの木々をへし折っていた。

 なるほど。邪魔にはならないんだね。


 でも自然破壊が過ぎるよねぇ。


 と言う事で獲物に決定。

 ボードを急旋回させて牛のモンスターの真上から垂直落下で接近。超振動ブレードで一気に首を切り落とした。同時に風を発生させて落下のブレーキをかける。


 ほとんど間に合わなくて、滅茶苦茶足が痺れる事になったけど、見事獲物をゲット。

 血抜きとかが面倒くさいから、そのまま手を付いて、へし折られていた木と一緒に転移した。


 いきなり消えた俺が、いきなり三メートルの大牛と一緒に現れたため、目の前にいたバヤガは腰を抜かして驚いていた。


 「な、な、な……」


 「脅かしてしまったねぇ。とりあえず、これ全部やるから、好きなように処分してくれ」


 そう言ってから、ちょっと離れた場所に土魔法でテーブルを作った。十人が座れるようにデカイモノを作り、十個の丸椅子も用意。更に石で出来た皿を二十枚とコップも石で作り、テーブルの横に先ほどのモノよりも大きな石の桶を作って水を満たした。


 水の桶とは反対側に石で四角く囲った枠を作り、ちょっとしたかまどに仕立てる。

 牛と一緒に転移して持って来た木から水魔法で水を消去し、超振動ブレードで細かく裁断して薪にした。

 薪を一束枠の中に入れて火魔法で点火。土魔法で作った石の板を枠の上へ乗せれば、鉄板焼き風の調理台になる。


 魔法って便利だ。


 「本格的な話しは明日しよう。じゃあ。ネイシャ! 帰るよ」


 あっという間の出来事に、ぽかーんと見ている翼人たちを尻目に、俺とネイシャはスカイボードに乗って空へと駆け上がった。




 穴掘りの拠点に帰還して、夕飯の前に一つの実験をする事にした。


 「ネイシャ。これから風の魔法を使うために呪文を教えるから、よく聞いて覚えるんだよ」


 そう。ネイシャに風魔法を教えて、翼で空を飛ぶ事を教えようと言うモノ。白い翼の翼人は、翼で羽ばたいて空を飛ぶほどの力は無いと言っていた。

 確かに、背中からの筋肉を見てみると、羽ばたいて身体を持ち上げるほどの力は無いのが判る。


 鶏肉の胸肉という部分があるけど、鳥ってのは胸全体が翼を羽ばたかせるための筋肉になっている。人間のような薄い胸板じゃ、筋肉的には全然足りないはず。さらに、翼人には人間の腕が普通についていて、背中から翼が伸びている。まるで、後から付けたような翼だ。


 胸板の筋肉が羽ばたきのためにはまるで使えないから、翼人は空に舞い上がる事が出来ないってわけだ。


 せいぜい、翼を広げて、動かないように固定するのが精一杯なんだろうね。


 山に居た時は上昇気流に乗って飛べたけど、それがないと二~三メートルジャンプして滑空するだけ。

 でも、上昇気流が有れば飛んで、舞い上がれるってことだ。


 それを魔法で再現させる。


 ネイシャに呪文を教え、風を強くするポイントや、イメージの仕方を覚えさせていく。


 自分が風に吹かれるイメージをさせながら何度も同じ言葉を繰り返させ、しっかりと覚えたと思えた時点で、本気で空に舞い上がれと命令した。


 そして、本気の呪文は強い風を呼び起こし、ネイシャを空に舞い上げた。


 「アキラ~!」


 「風が欲しければ、また呪文を唱えるんだ! 一度起動した魔法をそのまま維持するのも忘れないで!」


 空中を滑空しながら呪文を唱え、どんどん上昇していくネイシャ。ちょっと舞い上がりすぎ?


 文字通り、心まで舞い上がっているのかも知れない。


 俺はスカイボードに乗って飛び上がり、ネイシャのそばまで昇っていった。


 「ネイシャ! 後ろから前に、風に押して貰ったり、風の力に頼らずに滑空したりして、いろいろやってごらん」


 ネイシャの周りを旋回しながら声をかける。なんか、ワクワクし過ぎていて、俺の声も届いていない感じがするよ。


 「アキラ! アキラ~!」


 はしゃいでるねぇ。まぁ、いいか。しばらく遊ばせておこう。


 「グラウ。一緒に飛んで、ついていてあげて。俺は夕飯の準備をしておくよ。適当な所で引き上げさせてね」


 「判った。じゃが、わしも余り飛べんからの」


 「グラウが疲れたと言えば、ネイシャも諦めるでしょ」


 そう言ってグラウを送り出し、俺は小型輸送艇に戻った。いつも通りのメニューに、今日は厚切りハムを付けよう。ネイシャの魔法のお祝いと、同族を見つけたお祝いだね。


 そして、まるで狙いすましたように、夕食の準備が終わると同時に二人が帰ってきた。


 「ネイシャ。顔と手を洗っておいで」


 乾燥したこの地で風をたっぷり浴びているから、全身砂まみれなはず。まぁ、今は手と顔だけで良いだろう。夕食が終わったらシャワーだしね。


 もし、ネイシャの同族が見つかり、元の生活に戻るって事になったら、毎日のシャワーはどうなんだろう?

 もともと、水浴びも少ない種族なのかも知れないしねぇ。


 翼人の一族がまとまったら、彼らのインフラも改善させないと、ネイシャを預ける事も出来ないよね。


 いつも通りがっつくネイシャ。毎度毎度、ゆっくり食べろとは言っているんだけど、飢えの期間が長かったせいで、頭では判っていても止める事が出来ないようだ。

 追々、変わっていくのを待つしかないね。


 でも、熱く焼いた厚切りハムは、その熱さのためにゆっくりと食べるしか無かったようだ。切り分けたハムを味わって食べている姿は、ほのぼのとして幸せな気分になる。


 この幸せそうな顔をしっかりと保つ事が出来るだろうか? とりあえず、エイプリルに水を生み出す魔法具の量産を頼もう。燃やすための木も無いから、コンロも必要なんだよねぇ。

 あ、ターナの街でも必要なんだった。なんか、いろいろ入り用が続くねぇ。エイプリルが空にならないか心配になってくる。




 次の日。俺はスカイボードで、ネイシャは自力で空に舞い、昨日の白翼のグループの所に飛んで行った。


 ネイシャは、風魔法を完全に使いこなしている。戦闘機動みたいな運用はまだだけど、通常飛行なら問題ないレベルだ。

 空を飛ぶって事が遺伝子に組み込まれているのかな。高所恐怖症みたいなモノも無いようで、けっこう羨ましい。


 実は、俺自身はちょっとだけ怖いと感じている。ボードから押し上げられているという感覚があると普通に感じるけど、身体が浮き上がった時に感じる無重量感覚になると、心臓が全開でバクバクして、頭も一瞬真っ白になったりする。


 まだ、この魔法を使っている俺自身を、俺自身が信用しきって無いって感じだ。


 念のための空間魔法の落下防止装置はしっかり着けているのにね。


 でも、まぁ、偶に怖くなるっていうのが有っても、基本的には空中波乗りを楽しんでいる。気流の流れで、ボードが跳ね上げられたり、急に下りになったり、左右にぶれるなんてのもあったりしてバランスを取り続けないとならないけど、それを制して目的地に飛んでいくってのは空の中で自由を感じて気分が爽快になる。


 今回はネイシャと二人で空を楽しもうと思ったけど、残念ながら速度を出すって所はネイシャにとって苦手な作業のようだった。


 鳥にとっても、水平移動で速度を出すってのは難しいらしい。


 一度上に舞い上がって、それから降下速度を使って速度を上げて水平状態に戻るか、そうじゃなければ必死に羽ばたきを繰り返すしか方法はないそうだ。

 羽ばたきが苦手なネイシャの翼じゃ、簡単にはいかないって事だね。


 そう言う時は、俺がスカイボードで速度を上げ、その俺の肩にネイシャを掴まらせて移動する事にした。


 あれ? ネイシャにもこのスカイボードは使えるんじゃない?


 ネイシャなら安全装置は必要無さそうだから、あとでやらせてみよう。突き詰めて考えると、ベルト型のスカイボードでもいいのかもね。


 そんな事を考えているうちに目的地である白翼の翼人たちの所に到着した。


 俺に気付いた翼人の子供が手を振ってくるので、手を振り替えしながら旋回してゆっくり降りていく。ネイシャはまだ飛び足りないのか、上昇下降を繰り返して遊んでいる。まぁその内飽きて降りてくるだろう。


 「やぁ、どうも。調子はどうです?」


 そんな挨拶をしながら降りていったが、白翼の翼人たちのほとんどは飛び回るネイシャに釘付けだった。


 「この辺りの風では、我らを押し上げる力など無いはずなのに、あの娘はどうして飛んで居られるんだ?」


 バヤガのつぶやきはここにいる翼人たち全ての疑問のようだった。


 「ああ、ネイシャには風の魔法を教えたんだよね。昨日、ここから帰った後に。

 直ぐに乗りこなして。好きなように飛び回れるようになったのは流石は翼人という事かな」


 「風の魔法が有れば、このような所でも簡単に飛べるというのか」


 あ、なんか、目に涙がにじんでいる。他の翼人たちには、本当に泣いているのもいる。そこまで、空に対して憧れていたのかな。いや、空を飛ぶ事がプライドだったのかも知れないねぇ。


 昨日の続きの話しをしたかったんだけど、翼人たちはネイシャから目を放したくないようだ。ネイシャが飽きるまで待つ? なんか、それも面倒なんで、手を振ってネイシャを呼び寄せる。


 有る程度満足したネイシャが降りてきた事で、ようやく翼人たちも納得したようだ。


 「さて、翼人たちを集める為の計画を話そう」


 昨日作った10人掛けのテーブルから少しだけ離れた位置に俺とネイシャの椅子を土魔法で作り、全員に着席を促した。


 「まず、聞きたいのは、翼人たちはこの岩のテーブル台地に何人ぐらい登って来て居るんだ?」


 「我らの翼人たちの村々で、避難をしたのは全てで四百名前後だと思われる。だが、ここまでたどり着けたのが何人で、さらに、今日まで生き残っているのが何人かと言うと、はっきりとは判らない」


 「エイプリル? このテーブル台地の上で、翼人たちのグループと思われる群れっていくつぐらい有るかな?」


 『獣やモンスターの群れも含んで居ると想定されますが、二体以上で行動していると推定される数は百二十一グループです。その内、人間大と推定される反応が有るのは六十一グループになります。

 その六十一のグループに含まれる反応数は、全てで百六十八体になります』


 「全てが翼人だった場合でも、二百名を切るんだねぇ」


 『家畜がいる場合や、翼人が狩りのために単独行動を行っている場合は、獣などとの区別がつきませんので、数値としては概算になります』


 「うん。でもまぁ、山から逃げてきた人の半数が生き延びられなかったってのは、ほぼ間違いなさそうだね」


 俺とエイプリルの会話は、白翼のグループにも聞こえていた。そのため、半数という数字はそれなりに大きく感じたようだ。


 「我らには、それを嘆く資格すら無いのかも知れん。わずかな水を他の翼人たちから守るために、幾度も追い返したのだ。我らが殺したようなものかも知れん」


 俺の地球の話しだと、こういう場合は緊急避難という扱いになるんだろうね。

 海で溺れそうな時に、一人分の重さにしか耐えられない浮き輪を自分が確保するために、他人を蹴落として溺れさせる事をしても、殺人罪は適用されない、っていう法律だね。


 今、バヤガや、他の白翼の翼人たちが、自らの行いを嘆き、恥じているのも、水と食料が有るという余裕があるためだろうしね。


 「とりあえず、二百人分の水と、食料になる獲物を確保した方が良さそうだね。

 そして、翼人たちがまとまったら、俺が魔法を教える。その後は、どこか暮らしやすい所に飛んでいけばいいって事になるんじゃないかな?」


 「水と獲物はどうやって?」


 「俺がここの岩盤に穴を空ける。水漏れしないように表面処理するから、そこに水を溜めておけばいい。あと、水場からは離れた場所に飛び出せないぐらいの深い穴を掘って、そこに獲物を入れておけばいい。まぁ、家畜みたいな感じでね。

 穴掘りと水、獲物の確保は俺がやるから、あんたたちは弁当と水を背負って、仲間捜しをしてくれ」


 「うむ。そうだな。昨日もらった肉は切り分けて干している最中だが、干しながら持って行けばいいだろう。この際、味は二の次というのは仕方のない事だ」


 「ああ、干し肉を作るには大量の塩が必要だったんじゃないのか?」


 「そうだな。無い物は仕方ないので、あのモンスターの血で代用した。血抜きされていなくて助かったよ」


 「ああ、なんつうか、すまない。獲物を捕りに行く時に、塩や胡椒も仕入れてくるよ」


 「コショウとはなんだ?」


 「あ、そうだねぇ。ちょっと辛い木の実で、粉にして肉に振りかければ、肉の臭みが気にならなくなるものだよ。血や香草を使わなくても、焼いただけの肉が旨く喰えるってものだ。あとで持ってくるよ。

 他に早急に必要な物とかはあるかな?」


 「欲を言えばキリがないのは判ってはいるんだが、子供たちの服や薬なども有ればと願う。これから翼人たちが集うのなら、余計にそう言ったモノが必要になるはずだ。獲物を捕ってきて貰えるのなら弓は二の次でいいのだろうが、ナイフや鉈のような物が有れば女たちも仕事が楽になるだろう」


 「薬はどうしようかな。とりあえず、俺が今持っているポーションを全部渡しておこう。十個ほど有ったはずだから、それで当面を乗り切ってもらう」


 カバンから小瓶と、それを入れる袋を取り出し、バヤガに渡す。


 「これはなんだ?」


 「ポーションって言って、怪我を治しちゃう魔法の薬だよ。即死してなければ重い傷でもあっという間に治しちゃうと言う、なかなか反則的な薬なんだよね。

 でもまぁ、腕が切り落とされて無くなっちゃったとかいうのを、治す程じゃないってのは覚えておいて。

 一回につき一個。中の液体を飲ませるか、傷口に直接振りかけてやれば、大抵の傷は跡形もなく治って消えちゃうよ」


 「そんなモノが有るのか。早速ですまないが、我らが仲間のベイトに使わせてやってもよいだろうか?」


 「え? 今、怪我人しるの?」


 「うむ。昨日のロックジャイアントとの戦いで、腕を痛めたらしい。今日になって赤く腫れあがってきた。なので、折れてはいないがヒビぐらいは入っているかも知れん」


 「ああ、それなら俺が診るよ。治療魔法が使えるから、いざという時用のポーションは使わないでおこう。

 ついでに、身体の調子が悪いのも診るよ。空きっ腹に肉を喰ったせいで、腹の調子が悪いのも診るから一緒に並ばせてくれ。

 あ、子供は悪い所が無くても一応確認するから」


 それから治療魔法による簡易診療所が開設された。いや、野戦病院の方が近いかな。


 やっぱり、皆、栄養失調で内臓が上手く働いていないようだ。治療魔法で活性化させたが、しばらく不調は続きそうだった。それに、ビタミン不足が深刻になる一歩手前という感じも受けた。

 肉よりも果物や野菜類が早急に必要なようだ。


 何処かの街で仕入れるか? でも、街の野菜類は街の中で消費される分しか栽培されていないのが現状だ。

 本来ならそれ以上栽培しても売れないし、他の街の誰かが大量に買った場合、その街の分が不足するって事にもなる。


 旅の宿があるのなら、流れてくる客のために規模によっての余裕が有るはずだから、大きな街なら数十人分の余裕はあるだろう。

 首都クラスの街なら三カ所行けるから、そこを廻って出来るだけ買ってくる事にしよう。


 診察と治療も一通り終わって、次にするのは再びの感がある穴掘りだ。今度は縦穴だけどね。


 俺が作ったテーブルセットから五十メートル離れた所に行き、そこを中心に半径十メートルの円をイメージして穴になる部分の土を消していく。

 深さ五メートルほど。二階建ての家の天井ぐらいの高さになるぐらいに掘り進み、後は水漏れしないように表面の質と密度を変えていく。


 穴掘りよりも、水漏れしないようにする方が手間がかかった。


 壁に階段を彫り込み、それを登って脱出。そして水魔法で綺麗な水を一気に流し込んだ。


 俺の魔法力の底上げが続いているため、一瞬で満杯だ。この魔法力の底上げはずっと続くのかなぁ? 続いても続かなくても良いけど、どっちになるかははっきりさせて欲しいねぇ。


 おおよそ、五百五十トンの池があっという間に出来た。


 次は、捕らえてきた獲物を入れるための、檻代わりの縦穴だ。池からはさらに五十メートル以上離れてから、縦横十メートル、深さ五メートルの穴を五つ作り、更に少しだけ離れた所に半分の大きさの穴を四つ作った。


 目に見える範囲でイメージ出来る状況なら、やりすぎる事も無いから安心して使える。


 後は、中に入れる獲物を捕ってくるだけ。入れやすいように、穴の中心地に転送魔法用目標陣を描いておこう。ここに転移すれば、逃げようとした獲物が自動的に穴に落ちるって感じにしておく。

 穴以外の場所に土で柱を作って檻の準備は完了した。


 そして、まずは服やナイフ、そして大量の果物類の仕入れから。なんか、獣人の所でも似たような事をしてたなぁ。


 「グラウ。ネイシャについていてくれるかな。わざわざネイシャを連れて行くような感じじゃないしね」


 「まるで、使いっ走りじゃな」


 「そ、それは一番言われたくなかった~」


 「お主がこやつらに、そこまでする義理はあるのか?」


 「ネイシャの居場所が見つかるかも知れないからねぇ。ほとんど、それだけのためにやっているようなモンだよ」


 そして、俺だけで周辺三カ国の王都へと転移。それぞれの王都で果物や野菜類を樽で買い込み、衣服も大人用も含めて古着の店から買い込んだ。もちろん、新品の下着もたっぷり。


 店のおばちゃんから、「おや、またかい」なんて言われてちょっとだけ凹んだけどね。


 街にゲートが有った場合はそれを利用して移動し、街から街へと移りながら塩やコショウも手に入れた。


 周辺三カ国はそろそろ冬も本番を迎える。一冬を乗り越えるための保存食や革製品も比較的量が出ていたので、カバンや水筒、ナイフの鞘やベルト類もたっぷり仕入れる事が出来た。


 全てを一度にと言う事は諦め、ここ数日用として割り切って買い物を終了し、次は肉になる獲物を狩りに行く事にした。


 今度は、以前、人魚との交流があった場所の近くの森。たしか、銀の採掘のために来た場所だ。


 かなり南の、赤道に近い場所なので、周辺三カ国よりも暖かい。そのため森も茂り、そこに住む獲物も多いと思われる。


 スカイボードで森の上空を飛び回り、獲物を追い込むのに丁度いい場所を見つけ、獲物を雷撃魔法で追い立てる。

 追い込んだらスタンガンで痺れさせ、次の獲物を探しに行くと言う事を繰り返した。


 結果は、シマウマ風のモンスターが二頭。ダチョウ風のモンスターが三頭。水牛風のモンスターが二頭と言う所でまとめて転移した。


 土魔法で地面から土の腕を生やし、それを操ってモンスターたちをそれぞれの穴に仕分けしていく。こういう動きをさせるのは苦手で、ここまでで一番苦労したけどなんとかやりきった。力を入れすぎると握ったモンスターを潰してしまうし、力が足りないとすっぽ抜けて大怪我をさせてしまう可能性がある。


 どうせ肉になるってのはあっても、その時まで健康な方が美味しいからねぇ。


 とにかく、肉の確保は出来たので、野菜や果物を女たちの所に持って行く事にした。


 たぶん、ネイシャ効果なんだろうけど、女たちからは余り警戒されてはいない。ニコニコとした期待の目で見られながら、樽をカバンから取り出して渡していく。細かい部分は始めて見る物だと言っていたけど、たぶん何とかなるだろうという事だ。地域的には結構離れた場所の野菜や果物だからねぇ。


 そして、ナイフや鉈、革製品、衣服の山を積み上げた。


 着替えに関しては、女たちにとっては切迫していたらしく、とても喜んでくれたが、恥ずかしがりながら、水浴びしたいという願いを言われた時は、ちょっとだけ困ってしまった。


 確かに、身体を洗ってから綺麗な服を着たいよねぇ。特に下着類はね。


 服は翼のない人間用の物だから、都合が良いように服の背中の部分をナイフで切るように指示しておいて、俺は沐浴出来る場所作りをする事にした。


 この後、二百人規模になる事を考えたら、適当な物でお茶を濁したら二度手間になりそうだよね。


 まず、男用と女用に分けて、定番の覗きは出来ないように大きく引き離し、高い壁で囲う事にする。そして、大きな山を作って三段構造にし、上段は綺麗な水を蓄えておく溜池。二段目は沐浴するための場所で階段状にして二十人は座ってゆっくり出来るようにしておく。三段目は排水エリアで、トイレもここに作った。


 後は、排水を流す溝を作って、テーブル台地の上から下に流して捨てるという作りにした。


 作り終わって、一番感謝されたのはトイレで、完全個室な上に、終わった後に水が流れて洗えるようにした。トイレットペーパーが確保出来ない現状のための代替案だったけど、彼らにとっては極上の待遇になるそうだ。今までがどうだったのかは、あえて聞かない事にしたけどね。


 それと、沐浴場とは別ラインで洗濯場も用意。洗剤はどうしようか迷ったけど、将来的にも確保出来る物じゃないから、水だけで洗うタイプにした。形は横長なテーブルの上に石の桶を乗せた物にして、まるで大きな製氷皿のような仕切りを作り、個別の洗い場という形にした。

 上の仕切りを外すと水が出てきて、下の栓を抜けば水が排出されるという物で、他人の洗い物の汚れた水を気にしなくて良いようにしておいた。


 水については俺がいれば補給できるし、翼人たちがしっかりと集合したら、俺から水を発生させる魔法の道具を渡すと言っておいた。


 けっこう細かい事にまで拘ったため時間がかかってもうすぐ夕方という時間になってしまい、是非一緒に食事をという誘いを断ってネイシャと共に小型輸送艇まで帰る事にした。


 ネイシャは、今日一日中、グラウと共に周辺を飛び回って翼人の探索をしていたそうだ。


 お昼を食べていなかったと、お腹が空いたと言って寄ってきたのを引き取り、近くの翼人に「また明日」と告げて転移で戻った。


 ネイシャにとっては初めての転移。どんな反応をするのかな? と、思っていたけど、キョロキョロして、そこがトンネル前の小型輸送艇のある場所だと判ったら、すぐに中へ向かって走り出した。


 なんか、反応薄いねぇ。


 後で聞いたら、アキラのやる事だから。


 という、どっかで聞いたセリフを聞かされる事になった。


 俺って、どう思われているんだろう。いや、聞かないでおこう。考えないようにしよう。怖い怖い。

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