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第四十七章 晃と敵討ち ケイナ

 小1時間ほどでユーンは城に戻ると言って、小鳥になって飛んでいった。


 俺たちも一眠りする事にして、今日の収穫をメイに渡してそれぞれの寝床に潜り込んだ。


 そして朝は普段の時間よりも早め、ようやく日が全て顔を出したぐらいの時間に起きた。まだジェイたちは寝ているので、邪魔しないように操縦室に入って昨日の書類についてエイプリルの報告を聞くことにした。


 「別宅の方にあった誓約書と同じだけど、特に大口契約の書類ばかりってことなんだ?」


 『はい。最大のモノで、金貨2千枚、平均750枚。合計18750枚に相当します。』


 「別宅のを合わせると?」


 『24405枚になります。』


 「それって、国家予算並とか?」


 『このワズムルの国家予算規模で言いますと、約30分の1という感じになります。』


 「うわ。金貨千枚とか、6千枚とかで騒いでいるレベルじゃ無かったのかぁ。

 でも、書類上の金額で、それをグイイトが全部持っている訳じゃないんだよね。盗み出した上納金って全部でいくらになった?」


 『今回集まった金額は、2302枚になります。』


 「庭付きの、ある程度立派な屋敷が買えちゃう金額だよねぇ。」


 『それ以外に、土地の権利書も5点ありました。』


 「え? それじゃあ。」


 『はい。レイミーさんのご実家の権利書もありました。名義はアルバン=シーエン。朽ちかけてはいましたが、門の表札にはシーエン家の文字がありましたので、名義の変更は無い模様です。』


 「そっか。良かった。この件が終わったら、レイミーに渡そう。

 他には? 何か、気になる事でいいから、あったら教えて。」


 『現在、誓約書と借用書の記名から、人物との照合を行っていますが、記名が無い人物が4名存在します。』


 「4人ぐらいなら、誤差の内じゃないの?」


 『その4人は、ラッシュ城務大臣、エイブルズ荷役大臣、コンエンス税務主計長、ジルアル近衛隊隊長です。』


 「あの4人のが無いってのは、特別に分けて保管しているってのは考えられそうだけどね。」


 『はい。ですが、グイイトの行動範囲の中に該当するモノが無く、行動パターンからは逸脱した行為と考えられます。』


 「つまり、グイイトとその4人との関係が、誓約書とかの関係とは違う内容なのかも知れないって事だね。

 なにか裏がありそうって事で、グイイトと同様に、その4人も全行動をマークして。」


 『了解しました。』


 「それと、そろそろグイイトの屋敷をぶっ壊す頃合いだよね。」


 『すでに、屋敷の近くに下級種のドラゴンを確認しています。』


 「ドラゴンかぁ。けっこう派手だね。」


 『ドラゴンよりも小型種になりますと、モンスターの行動が人間を餌とする目的に切り替わりやすく、今回の目的にそぐわないと推察されます。』


 「単なるグイイトの使用人だしねぇ。とばっちりで命を奪う事になるのも考え物だよね。

 判った、使用人たちには出来るだけ逃げる時間を与えるように、ドラゴンを誘導しちゃって。」


 『了解しました。誘導を開始します。』


 これで、グイイトは金欠状態になるはず。手持ちで幾らかはあるだろうけど、余裕がある訳じゃないだろうね。

 クロアロンとしての活動も制限されるだろうし、上納金を上げている下僕から、さらに巻き上げようとするだろうか? 痛み止めの薬欲しさに、特別上納金を設定して巻き上げるかもしれないねぇ。


 「エイプリル。俺たちが実際に行動するのは、これで終わったと思うけど、どうかな? 後は、ルーノス親方の所から、一般的な移動手段で、時間をかけて登城すればいいと思うけど。」


 『はい。城で、ポリグラフを使用してグイイトを追いつめつつ、盗み出した誓約書でさらに追い打ちをかけるという手段の場合、当日まではこちらの行動は控えた方が得策と思われます。』


 「当日に、誓約書を書かされた人をまとめて証人として呼び出すってのも有効だろうね。」


 『誓約書から解放されるという条件なら、有効証言が多く提出されると推定されます。証言時にポリグラフを使用すれば、検証の手間も省けるでしょう。』


 「うん。それで行こう。

 で、ちょっと横道に逸れちゃうけど、ポリグラフってのは嘘発見器のことだよね。俺たちの元いた世界でもかなり有効だと思うんだけど、なんで使われてなかったのかなぁ?」


 『プライバシーの問題と、心身症などにより、意志と心身が別の反応をする場合があったり、催眠術や自己催眠でも虚偽の反応を作り出す事が出来るためです。』


 「ああ、なるほどねぇ。じゃあ、俺たちが作った嘘発見器にも同じように対処出来ちゃうのかな?」


 『検証されていませんので、回答不可能です。ただし、魔法による催眠術が使用された場合、その可能性はかなり高くなると推察されます。この後、心理学等の研究が始まった場合も、懸念されると思われます。』


 「そうだよねぇ。でも、まぁ、今はスタートとして、このまま使ってもいいと思う。」


 『同意します。まずは、基礎的な考え方の普及と地ならしが優先されるべきです。』


 「よし、じゃあ、ルーノス伯領に行って、親方たちと合流しよう。」


 基本的な行動は決まったから、操縦室を出て、ようやく起き出したジェイたちに説明をしていった。


 朝食を取り終えてから、装備を砂漠用の黄色い砂色の装備に変える。俺たちがゲートを作った者たちだってのを、しっかりアピールするため。まぁ、普段の格好でも充分目立つんだけどね。


 目立つためってことで、ガジェットのシンも一緒に来てもらう。グイイトの金や書類の入ったコンテナを背負って貰って、そのまま城に入れるようにするため。

 もう一つコンテナを背負って貰って、それには嘘発見器や通信機、水道やコンロ、ストーブ、魔法指南書や、ポーション製作装置、水晶加工用などなどの、譲渡予定の便利道具を詰め込んだ。


 コンテナを2つ背負うという事で、大きさも少しだけ大きくなって貰い、コンテナを左右にバランス良く配置したら、ちょっとしたスペースが出来上がった。

 そこにパイプを組んでクッション及びリクライニング機能付きの椅子を取り付け、長時間でもお尻に優しい、俺たち専用の馬車に仕立て上げた。いや、亀車か。馬よりも早いんだけどね。


 ファイエーは、手錠や精神魔法阻害機能付きのプレートを完成させていたが、もう少し研究したいという事で、後で合流することになった。

 完成した手錠とプレートはエイプリルが量産中。2日もあればかなりの量が出来るそうだ。


 そして、シンの背中に揺られて親方の所に到着。亀の背中って揺れが少ないんだね。


 「おめえたちは、合うたびに奇抜な格好になっていくんだな。」


 親方の開口一番のセリフには、なにも言い返せなかった。


 丁度親方たちも王都へ出発する予定だった。俺たちは転移魔法で簡単に移動出来るから、俺たちの移動は考えてなかったそうだ。グイイトの件が無ければ、実際そうだったしね。だけど、グイイトに俺たちが疑われて警戒されないように、見える移動手段でゆっくり近づいていくという作戦には、親方も充分納得してくれた。


 親方の馬車は3台。親方の所の使用人と用心棒が乗る1台が先頭。親方と娘が乗り込む馬車が2番目。3番目には、荷物専用馬車。俺たちはその後ろを行く事にした。本来なら、2番目と3番目の間に入る事になるけど、戦闘力を考えると殿をとったほうが一番安心ってことになった。


 そして出発。丸2日の旅が始まった。


 シンの背中は、約2メートルの高さになっているけど、シンが気を遣っているらしく、変な横揺れもない。少なくても、俺にとっては馬よりも快適だ。気候は冬直前ってことで、肌寒くなっているけど、マントではなく、ポンチョの方を装備しているため、身体の方はホカホカだった。

 各自、真水の水筒、リンゴジュースの水筒、コーヒーの水筒を持ち、ビスケットにチョコバーも渡してある。チョコバーは、初めのうちは濃い味付けで苦いと不評だったけど、最近は少しずつ受け入れているようだ。まぁ、皆にとっては珍味扱いなんだろうけどね。


 4つ取り付けたシートは、自動車のシートと似たような感じで、両側が盛り上がり、中央が窪んでいる。身体を包み込むような形になっていて、リクライニング機能付き。4点式のシートベルトもあり、完全に眠っちゃっても大丈夫。


 これで携帯ゲーム機でもあれば完璧だったのにねぇ。


 道中は特に何事もなく、シンがデカイ身体をしっかり表して歩いているのもあってか、モンスターにも盗賊にも会わなかった。


 ファイエー用のシートが空いていたために、親方の娘が興味本位で乗り込んで座っていたとか、それをオヤジの方が奪い取って座り心地を楽しんでいたとか、くだらない事はあったけど、概ね平和に1日目を終了した。


 俺たちとしては、宿の固い寝床は勘弁して欲しかったけど、宿を利用して移動してきたという実績は必要だったので、宿の外にシンとガジェットを残して宿泊する事になった。

 ちなみに親方たちは街のとりまとめ役の家。俺たちの分は伝えてなかったので、いろいろな用意が出来ていなかったそうだ。内容的には宿と変わらないって事で、夜だけは別行動になった。まぁ、こういう事も自然な流れではなるため、もし監視役がいても疑われる事もないだろう。


 ここの所夜中に活動したり、不規則な生活だった上、シンに揺られるシートの上で眠ったりしてたから、宿の硬いベッドではなかなか寝付けなかった。そこで、取引材料代わりに持ち歩いていたブランデーを3人で分けて、ほろ酔いになったところでぐっすり眠った。


 「お酒って美味しいんですねぇ。」


 って言っていたジェイには悪いけど、このレベルの酒は、まだこの世界では作れない。悪い味を覚えさせちゃったかなぁ。


 翌日は、喉がカラカラで目覚め、ボーっとした状態で出発した。そんな飲み過ぎたつもりはないんだけどねぇ。


 で、何度目かの休憩でラジオ体操をしていた時、それに気がついた。


 「エイプリル? 俺って監視されてる?」


 『その可能性は大きいと思われます。現在、森の奥で下草に隠れてはいますが、艦長を凝視しています。位置は艦長の10時の方向。距離20。』


 「望遠鏡って無かったよねぇ。それで20メートル先から監視って、けっこう手練れかな。」


 『ガジェットに捕らえさせますか?』


 「持っていそうな武器はこの世界で作られた刃物だけかな? 毒物は持っていそうかな?」


 『所持品については詳しくは判りません。インセクターのカメラアイでは限界があります。』


 「そっかぁ。じゃあ、位置が判るように発信器かなんかつけられる?」


 『一番小型のインセクターを腰に付けているカバンの下に貼り付けました。』


 「よし、それで様子を見よう。俺たちが普通に移動しているってのを、しっかり報告して貰わないとね。」


 『了解しました。』


 あとは、俺が監視に気がついていないっていうアピール。その場所から前に出て、少しだけ監視者に近づいた位置で、おもむろに立ち小便。元々、このための休憩時間だもんね。


 タオルを首にかけて、水魔法で手の平に水を出現させて手をこすり洗う。タオルで手を拭きつつ、魔法ってホント便利だなぁ、とつくづく思う。


 トイレ休憩だから、終わったらさっさと出発。


 リクライニングして、ゆったりしているように見せて、レイミーとジェイに通信を送る。内容は監視がいた事。とりあえず手を出しては来ないはず、という事と、それでも暗殺される可能性も少しあるって事を伝えておく事にした。


 グイイトの反対勢力が、俺たちが取り込まれると思って、その前に消しておこうとする場合も考えられるしね。


 今回、親方以外の反対勢力との連絡はとっていない。もし、反対勢力が妨害にかかってくるようなら、それはグイイトを安心させる材料として使っちゃおうって考えてる。


 もし俺たちを消そうとする勢力が手を出して来るとしたら、次の昼休憩か、夜の宿だろう。馬車での移動中は、確実性が薄くなるから仕掛けては来ないと思う。まぁ、こういう、思いこみをしている所を狙われるって場合もあるから、気を抜く事は出来ないんだけどね。


 「どんな狙われ方をされるんでしょうか?」


 「俺の予想としては、弓矢に投げナイフ、確実性を高めるために毒を使った矢かナイフかなぁ。」


 「盗賊とかと一緒に襲ってくるでしょうか?」


 「どうだろう。利用した盗賊を、あとでまとめて殺しちゃうという証拠隠滅ができるならそれもあるかもね。きっと、誰がやったかは知られたくは無いだろうからね。」


 「なるほど。それで、休憩時間に、陰から弓矢ってことですか。それで、対処はどうします?」


 「実際に手を出して来たら、ガジェットに全部お任せするよ。一応、むき身の所以外なら、当たっても軽く殴られたぐらいのモノだしね。あ、ああ、皆、ヘッドギアのアイシールドは下ろしておいて。

 まぁ、ガジェットの素早さなら、弓矢でも届く前に打ち落としちゃうだろうけどね。

 あとは、ガジェットに犯人を生きたまま捕まえて貰って、城の兵士につき出しておしまい。

 自殺されないように、猿ぐつわしないとならないかな。」


 「改めて、この装備って凄いんですね。」


 「頭の所に隙間があるのが欠点かもね。本来なら、あの海に潜った時のヘルメットか、昆虫頭のヘルメットをかぶった方がいいんだけどね。」


 「あれですか。あれってかなり息苦しく感じますよね。本当に息苦しいわけじゃないんですが。」


 「うん、俺もそう思う。だから、それを理由に、普段はこのヘッドギアにしてあるんだ。」


 「納得です。」


 他人から見れば、俺もジェイもくつろいで寝ているようにも見える。実際は通信を使って小声で話しているので、俺たち3人がしっかり警戒しているとは思えないはずだ。


 この会話はガジェットにもエイプリルにも聞こえているはずだから、襲撃があった場合はきっちり対応してくれると思う。

 予期せぬ事態ってのは常にあるから、油断はならないんだけどね。


 でも、襲撃は予期されたモノだった。


 飛んできた弓矢をあっさりとつまみ、ガジェットは弓を握ったままの襲撃者を、猫の子のようにつまんで持って来た。


 顔は頭巾をしているので判らないが、腰のカバンを見ると、裏に小さなインセクターがついていた。グイイトの監視者じゃなく、反対派の刺客だったのかぁ。

 とりあえず、自殺を防ぐために猿ぐつわをしようと、頭巾を引っぺがす。その頭巾で猿ぐつわにしようとしてたんだけどね。


 顔を見たらけっこう美人の女性なんで驚いてしまった。


 美人の女っていうのを利用して、捕まった時に懐柔する事も考えているのかな。まるでクノイチみたいに。

 とりあえず、性格を別にすれば美女は身近に2人もいるので、愛でるのならそちらで行こうと、目の前の美女はしっかり拘束する事にした。


 頭巾をナイフで2つに裂き、1つはたっぷりねじってから猿ぐつわとして噛ませ、もう1つは腕を後ろ手にがっちり縛った。


 エイプリルは今、手錠を大量生産中だったはず。ちょっとタイミングが合わなかったねぇ。


 俺たちの騒ぎに気がついた親方たちが走ってくる。


 「どうしたー!」


 「毒付きの弓矢で、俺を暗殺しようとしていたので、捕まえてみました。」


 「暗殺? おめえ、恨まれるような事でもしたのか?」


 「この国で恨まれるような事って、エンデ伯の所の馬鹿息子ぐらいですねぇ。」


 「あー。」


 「たぶん、馬鹿息子の方じゃなく、グイイト大臣にゲートが渡るのを、妨害しようとした勢力の間者とかだと思います。」


 俺の言葉に、ガジェットに捕まっている女がビクリと反応した。ほんの小さな、普通なら見過ごしちゃう程度の動きだったけどね。


 「ああ、なるほどな。で、どうする?」


 「謁見の予定がある者が登城中に命を狙われた、ってのは、国としては犯罪にあたります?」


 「毒矢で殺そうとしたって事でも、充分犯罪だろうが、登城中ってのもあるし、警邏隊長の判断で奴隷売り渡しになる感じだな。

 これが王都の中なら、兵団長か、大臣レベルだろうな。」


 裁判制度も、刑法もないこの世界だと、程度によって刑を判断する者が変わるみたいだねぇ。つまり、警邏隊長がごまかしたら、上には報告も上がらずにもみ消す事も出来るって事だね。


 「では、王都に入る時に衛兵に引き渡しましょう。」


 「お? いいのか?」


 「ええ、かまいません。」


 親方は、裏から衛兵に手が回っていれば、そのまま釈放されてしまう可能性があるぞ、って事でいいのか? と聞いてきた。それに対し、俺は、再襲撃上等って返した。


 ある程度騒ぎになって、俺たちに対する警戒心を解く必要があるからね。全ては、グイイトを俺たちの前に引きずり出し、陛下と他の重臣たちの前で全てを暴かなければならないのだから。


 そして女襲撃者は簀巻きにされ、荷物用馬車の荷物に縛り付けられた。俺の意向で、特に身体検査はせず、モンスター捕獲用の鎖でグルグル巻きにしている。隠しナイフとか持っていても、どうにもならない状況のはずだ。


 それからは何事もなく王都に到着。王都の入り口を守る兵士に、ルーノス伯の名前で女襲撃者を引き渡して王都へと入っていった。

 ワズムルだから外壁が無いんだよね。モンスターの襲撃に脅えないっていう意思表示だけど、人間による内乱とか侵略とかにはどう対応するつもりなんだろう。


 王都の中に入った俺たちは、親方の知り合いの貴族が持っている別宅に到着した。グイイトの別館も、元はこういう使われ方なんだねぇ、って話したら、愛人を囲うのも良くあるそうだ。愛人と、愛人との間に生まれた子供が住んでいる、貴族の別宅なんて珍しくもないそうだ。中には孫も一緒に住んでるとかもあったりするそうで、愛人との間の子供が娘の場合、その孫は………。というタダレた関係ってのもあるみたいだけど、正妻も知っている公然の秘密とかいうものらしい。


 モラルとかいうのも、そう言ったゴシップが知れ渡るようなメディアもないから、けっこうやりたい放題なんだねぇ。


 そういう、下半身の暴走列車とは縁の無い俺には遠い世界のお話ってことで、限りなく華麗にスルーってことにする。


 別宅の庭にシンを置いて、ガジェットはその見張り番。シンの能力なら、見張りなんて置かなくても対処出来るんだけど、少しだけ目立つためにガジェットに立番していてもらう。


 俺、ジェイ、レイミーで部屋の中を魔法探査。少しでも魔法力を使った物が無いかを調べて、ついでにジェイのスザクや、レイミーのリュウにも魔法感知をしてもらった。結果、何もないとなって、ようやく落ち着いて与えられた個室でくつろぐ事が出来た。


 「ここで2泊して、明後日には登城だね。」


 「今日はもう寝るだけになるでしょうけど、明日はどうします? ここで大人しく待ってますか?」


 「ファイエーとの合流と、ファイエーの作った道具も取りに行きたいから、明日は小型輸送艇に戻ろうと思うけどね。ガジェットとシンに居て貰えれば、俺たちがここに宿泊していて、外に出てても散歩だろうって思われると思うしね。」


 「その散歩中を狙われるとかはどうでしょう?」


 「ああ、その心配があったねぇ。小型輸送艇へは転移呪文で行って、帰りは西の空き地に作った陣に戻ればいいかな。」


 周囲の警戒はエイプリルとガジェットに任せ、俺たちは宿屋のベッドよりも、ほんの少しだけ柔らかいベッドで眠りについた。


 翌朝は、目覚めてからタオルを背負って庭に出て、水魔法で手に水を出してから顔を洗い、携帯用の歯磨きで歯を磨きながらガジェットの報告を聞いている。


 目の前には、献上品のコンテナを背負ったシンと、昨日の女襲撃者を拘束したガジェット。


 ボーっとしながら、シャコシャコと歯を磨きつつ、まじまじとその女を見つめる。うん、美人なんだけど、間抜けなんだねぇ。もったいない。こういうのを残念美人って言うのかなぁ。


 なんか、恨みがましい目で俺を睨んでいる。


 「ガジェット?」


 「はい。」


 「うちでは飼えないから、元の場所に戻して来なさい。」


 「了解しました。」


 水魔法で手の平に水をわき出させて、口の中を濯いでから部屋に戻っていった。


 朝食後は、親方は城で明日の打ち合わせ、俺たちは小型輸送艇に戻ってファイエーと合流。ガジェットはシンとお留守番。って事で、注目を集めておいて貰う。


 そしてしばらく振りの小型輸送艇の中。まずはファイエーに出来上がったアイテムの説明を聞いていった。


 精神魔法阻害アイテム。

 魔法力吸収プレートの裏に、グラウから聞いた精神魔法を妨害する力を発し続ける銀のプレートを貼り合わせてある。

 量産はエイプリルが行って、銀には硫化防止処理も施されている。これを、俺たちが装備しているヘッドギアに貼り付けておけば、催眠術などの効果を持つ魔法に対して抵抗出来るようになる。


 あくまで、ある程度の効果という事で、催眠術魔法を使う者のレベルが高ければ、抵抗しきれずにかかってしまう事もあると言っていた。

 ゲームで言えば特殊効果付きのアクセサリーだね。耐精神+2 って感じかな。


 魔法起動妨害アイテム。

 魔法術としての、最後の起動を阻害する道具。呪文を唱える事も出来るし、それによる魔法力の蓄積も感じられるが、それを起動することができない状態になる。

 術式を彫り込んだプレートの上に、いつも魔法の電池代わりに使っている水晶を乗せただけのシンプル設計。水晶を持ち上げると魔力が途切れるので、スイッチのオン・オフが出来るようになっている。エイプリルによって、そこはレバー式のスイッチにされていた。

 水晶とプレートだけでいいんだけど、高さ2メートル程のスタンドのような形になっていて、有効範囲は半径4メートルぐらいだそうだ。


 魔法力消去アイテム。

 魔法起動妨害アイテムと同じような物だが、これだけはほとんど検証していないそうだ。何しろ自分で実験すると、使役獣として作ったライを消してしまう可能性があるためで、エイプリルの作業ロボットの協力で、雷撃と真空の刃の魔法はかき消された事を確認しただけだそうだ。

 ただ、1回、30秒で水晶が魔力を枯渇させてしまい、その水晶が全回復するのは数日はかかるらしい。外から魔法使いが補充してやればいいらしいけどね。

 これもレバーでのスイッチ型になったけど、どこに置くかが問題。効果範囲は1メートルぐらいなので、守りたい重要人物の椅子にでも仕込むしか使い道がなさそうだ。


 そして、魔法起動妨害アイテムと同じものだけど、簡易バージョンで手錠型と、首輪型の拘束具。

 魔法使いの犯罪者用で、装着した者の魔法力で、装着した者の魔法を封じるというタイプ。


 試しに俺たちが着けてみたが、起動しにくかったのは確かだけど、起動はできた。グラウによると精霊の力押しだろうという事だった。ジェイたちは判るけど、俺は精霊を持ってないよ? かけらだけでも効果あるのかねぇ。


 とにかく、一般レベルでも魔法使いの犯罪者を拘束できるのは重要な要素だね。


 これで、準備は調った。何らかの魔法を使えるグイイトには、手錠と首輪でしっかり拘束しないとならないだろう。

 いや、俺たちとしてはレイミーに敵討ちをさせてやりたい、ってのもあるんで、それは必要無いかも知れないけど、国に魔法を教えるのなら、犯罪者対策は必要だしね。


 エイプリルには引き続き、魔法使いの犯罪者対策のアイテムを作ってもらって、ルブロンダルやシャシルへと渡す分を作ってもらう。その製法も合わせて。

 各国の魔法使いたちにも、同じようなモノを研究するように頼んであるけど、いくらあっても困らないだろう。


 必要な事はやり終えたってことで、あとはワズムルの城での対決だけとなった。ファイエーを含めて、俺たち4人で西に作った転移陣に移動して、親方が借りた貴族の別宅へと歩き出した。


 『接近警報。礼の捨て猫です。後方7時。』


 エイプリルの喩えは俺にしか判らないよねぇ。皆がクエスチョンマークを掲げているんで、俺がスタンガンを向けて、最小レベルで撃ち込んだ。気絶しないレベルだけど、けっこう痛いと思うよ。


 「ギャッ!」


 気絶しないまでも、かなりの痛みが全身に走って、全身が上手く動かせない瞬間を感じたようだ。本来はもう動けるはずだけど、警戒して上半身を起こしただけで俺たちを睨み付けている。逃げるか、追い打ちをかけるか、どちらかのチャンスを狙って居るんだろう。


 「捨て猫ってどういうことです?」


 「ああ、今朝、ガジェットが拾ってきたんだよね。で、俺たちってペットを飼えないからねぇ。ガジェットに、元の場所に戻して来なさい。って言っておいたんだ。」


 「な、なるほど。」


 ジェイが腹筋を震わせている。本人を目の前にねぇ。


 「ま、餌やらなければ懐く事もないだろう。さっさと帰って、夕飯の準備を始めよう。」


 そして、縛るわけでもなく、そのままにしてゾロゾロと歩いていった。追撃もなく、無事帰り着けました。罠か何かと勘ぐったかな? 俺としては、反グイイト派なら、殺さない方が得策だと思っただけなんだけどね。


 屋敷に戻って、俺たちの予定の最終確認。


 結局、決め手は嘘発見器になった。


 陛下や、反グイイト派の大臣たちの前でグイイトのクロアロンとしての非道行為をぶちまける。そして、盗み出した資料の人物を呼んで嘘発見器で検証。その後、レイミーに正式に敵討ちを申請してもらい、他国の商売人にさえ喧嘩を売り、国として危うい状況を作り出していた事を理由に、犯罪者という身分のまま討ち取ってもらう。


 とりあえず、クロアロンの所が状況証拠だけなんだよね。誰があの魔法のアイテムを渡したのかも判らないし。

 誓約書を書かされた全員がクロアロンに嵌められたと証言すれば、それだけで逃れられないと思うけど、グイイト=クロアロンのラインが薄いまま。嘘発見器で一応は証明されるけど、逆に証明はそれしかない。この世界の裁判制度を考える上でのひな形になるかも知れないのに、物証がないのは、向かい風を思いっきり受けた髪型している兄ちゃんに、異議あり! って指さされそうだ。


 人を指さしちゃいけません。


 時間もないし、時間があっても証拠はなかなか集まらないだろうってことで、もう、このまま行く事にした。あとは臨機応変にという、すばらしい投げやり方針。


 最悪でも力業で強引に解決って事もできるけどね。


 そして、遠足の前の就寝気分。寝酒として、4人でチビチビとブランデーを傾けた。


 小さなカップに1杯だけってのが良かったのかな。翌日はスッキリした目覚め。まぁ、固いベッドで、ちょっとだけ身体が痛いけどね。


 顔を洗いにジェイと一緒に裏庭に出ると、今日も捨て猫がガジェットにつままれていた。


 ブラーンと足を浮かしたまま、首根っこをつままれた猫のように見える。


 で、無言で顔を洗い、歯を磨いて、何も言わずに戻っていった。きっと、ガジェットが無言で元の場所に戻しに行くだろう。


 なんか、後ろの方で、心が折れる音を聞いた気がするけど、きっと、気のせいだよね。


 午後一番。親方を先頭に登城して、城の中にある控えの間で待機中。シンの背中に乗せてある4つのシートは朝のうちに取り払って、身体を一番小さくしてもらい、献上する物が入ったコンテナだけを背負って貰っている。シンは控えの間に入れなかったので、外の廊下でガジェットと一緒に待機している。扉の所にいる衛兵が、微妙な顔をしていたのが印象的だったけどね。


 そして、いよいよ、国王陛下と謁見。


 控えの間から謁見の間へ行く途中は前方に5人、左右に4人ずつ、後ろに6人の正装した衛兵が付き従い、ゆっくりとした速度で、粛々と歩いている。


 シンに乗せて貰って、一眠りしようかなって本気で思ったけどね。


 そして、ようやく謁見の間。入り口から王の前まで、やっぱり時間がかかった。そして、似合わない正装をした親方が、まず、国の栄華と繁栄を願う口上、国王の治世と祝福を願う口上、自分の身分と今回の謁見の目的、そして俺たちの紹介という長ったらしい決まり事を消化していった。


 親方の忍耐力って凄いや。


 俺だったら我慢出来ずにちゃぶ台ひっくり返して、こんなメシが食えるかー! って関係ない事叫びだしそうだ。いや、マジでそう思った。


 そして、俺が代表として呼ばれ、親方の横に立った。


 前には国王陛下。その横に王子。王妃は王子を産んで直ぐに亡くなられたとか。左右にはいろいろな大臣たち。大臣の後ろにずらりと騎士たちが並び、俺の一挙手一投足をじっと睨み付けている。


 まずはお辞儀をして、適当に行く事にした。


 「本日は、国王陛下直々のお目通りいただき、大変感謝いたします。ルーノス伯より紹介のありましたアキラと申します。普段は傭兵を生業としております。」


 まるで、胡散臭い商人だなぁ。このキャラクターで行っちゃおうかな。


 「本日は、ゲートシステムの普及に御助力頂きたく参上致しました。どうか、よろしくお願いいたします。」


 「うむ。面を上げよ。ゲートの事は聞いて居る。それによって、我が国が潤い、人の生活も潤沢になる物だということだな。ならば、我が国としても、そちに助力を与え、ゲートの普及を願うのも当たり前のこととなろう。ならば……。」


 「恐れながら陛下に申し上げます。」


 陛下の言葉を遮る大臣。グイイト、キターー!


 「国全ての情勢に関わる案件に、このような素性の疑わしい輩に事を任せるのはいかがな物かと存じます。ここは一つ、我が国内の他の者に一任させ、その効果を確認した上、国として動くべきかと。」


 グイイトは、自分の下僕になった大臣にゲートの管理を任せ、その上がりを貪ろうってつもりなんだろうね。反グイイト派もそれを懸念して、俺を殺そうとしてきたってわけだ。


 「失礼ながら陛下に申し上げます。

 このゲートの設置などを、我らが直接関われないのであれば、我らはこの件より引かせて貰うつもりであります。」


 本当は、設計図も上げるから、そっちで勝手に増やしてよ。ってつもりなんだけど、グイイトを焦らせるために言ってみた。


 「ふん! 余程、知られたくない事情がありそうだな。陛下を謀る逆賊であるのかな?」


 自分に逆らえば、逮捕して拷問するぞ、ってか? ならば、こちらも脅迫しちゃおう。


 「殿下に申し上げます。先日お渡しした痛み止め等の薬はいかがでありましたか?」


 「な?」


 「ああ、あれか、大変評判がいいと聞く。もしあるのなら、また納めて欲しいのだが?」


 この王子ってどっちだろう。本物? それともユーン? いい感じで応えてくれたなぁ。


 「あの薬は、大変手間がかかりまして、現在、作り置きさえない状態でございます。再び納めろと申しましても、充分な余裕がありませんと、手もつけられない次第。申し訳ありませんが、今しばらくお待ちください。」


 俺の言葉に、グイイトがワナワナと震えている。さらにもう一押ししよう。


 「国王陛下に申し上げます。

 我々は、ゲートをルブロンダル、及び、シャシルへと普及させ、その信を得ている次第であります。その我々を、疑わしいと一方的に決めつけ、逮捕すらしようという態度には、とても残念で仕方がありません。

 ゲートは街と街を安全に結び、しいては国と国を安全に結び、人の移動、物の取引に大いに役立ち、人を、そして国を豊かにしてくれる物です。

 きっと、モンスターに対抗する知恵や力を育ててくれるでしょう。

 ですが、今日、この国はそれを拒絶したと、我々は考えます。

 我々はこれより、信を得たルブロンダルとシャシルとのみ取引を行い、この国には近づく事さえ控えるつもりであります。」


 あ、ちょっと言い過ぎたかな。


 他の大臣たちもざわついている。そして、その目がすべてグイイトに集まっている。


 「ま、待て! い、いや、お、お前たちは我が国を脅迫しようというのか!」


 その場違いな言葉に、さらにざわつきが起こる。グイイトが強行して、強権発動となる?


 「ふっはははは。」


 まずは笑ってみた。


 「な、何がおかしい。」


 「この国を脅迫するのに、わざわざゲートを使ったりはしませんよ。」


 「なんだと?」


 「我々は傭兵ですが、旅をして、いろいろな場所を渡り歩いています。その際、見つけたのがゲートであり、魔法です。

 その旅の中で、ワイバーンと戦い、倒し、ドラゴンを倒し、一つ目巨人のサイクロプスを屠ってきました。

 先日、ルーノス伯領とエンデ伯領を襲った南からの襲撃では、千のモンスターの半分ほどを殲滅してきました。

 脅迫? 何のために? 今現在のワズムル国家には、脅迫する価値もありませんよ。」


 「な、な、なんだとう! 無礼な! この者たちを捕らえろ!」


 「黙れ!」


 俺の喝に一瞬静まる。


 「もう一つだけ重要な事を言っておく。

 俺を排除しようと言うのならそれもかまわない。

 だが、俺と手を組むと、その力が手に入る、という事もよく考えろ。

 すでに、ルブロンダルとシャシルは、その力を手に入れているぞ。」


 これで、俺を捕らえようというグイイトは、国に対して反抗的な態度をとっているという形になったはずだ。


 でも、なんか、胸のあたりがむかむかする。昨日の1杯だけの寝酒が残ってる? 触りたくない物を触らなければならない時のような、鳥肌が立つようなゾワゾワ感。なんだろう?


 「大した事もない語りの傭兵が大きく出たな。我々はそのような言葉には騙されない。」


 たしか、ジルアル近衛隊隊長だったけかな。あっさりと剣を抜いて俺に向かって突き出した。


 「栄えあるワズムル国の親衛隊よ、王の敵を捕らえよ!」


 その言葉で剣を抜く騎士たち。俺は、この時初めてジルアルと目を合わせた。


 確信!


 俺は、カバンの中にしまい込んでおいた銃を抜き出し、ためらう事もなくジルアルの眉間を打ち抜いた。


 眉間に大きな穴を開けて倒れるジルアル。


 廻りの時間が止まっているかのような錯覚がするほど静かに感じる。でも、そんな事にかまってられない。俺はさらにジルアルに向かって銃弾を撃ち込む。


 落ちるマガジンを掴み、カバンの中のスペアと交換。さらに狙いをつけた。


 その時、 ラッシュ城務大臣、エイブルズ荷役大臣、コンエンス税務主計長の3人が俺に向かって飛びかかってきた。


 飛びかかってきた3人は、ジェイ、レイミー、ファイエーの魔法でそれぞれ弾き飛ばされる。


 そして、弾き飛ばされた影響だろう。顔の皮が破れ、その下の地の顔が顕わになった。


 リザードマン。


 シャシルと同様、大臣の皮をかぶって侵入していたようだ。


 「な、なんだ?」


 親方が四つんばいで逃げてくる。


 「何がどうなった?!」


 「あの4人は、リザードマンに身体を乗っ取られていたんですよ。どんな呪術だか知りませんが、外見はまったく変わらずに、中身だけがリザードマンになるようです。

 シャシルでも同じ事がありました。

 グイイトは、あの4人に力を貰って、好き勝手していたようですね。」


 俺の声は意外に広く響き渡ったようだ。反グイイト派は、なんか鬼の首でも取ったように騒いでいる。


 お、俺の今までの準備が、全て無駄に………。


 「親衛隊! リザードマンの先兵で無ければ、国王陛下を守れ!」


 俺の声に慌てる騎士たち。浮き足立つのは判るけど、俺に言われて初めて動くってのは無しにしようよう。


 まぁ、それもしょうがないかな。何しろ、その声で、俺に向かってくる親衛隊騎士が3人いたほどだから。


 すかさず、ガジェットが回り込んで、一瞬で弾き飛ばす。ガジェットの腕の一振りで、全身鎧を着た騎士が10メートル近く吹っ飛んだよ? 人間って飛ぶモンだねぇ。


 あ、人間じゃなかった。


 吹き飛ばされた騎士の腕の皮膚が裂け、中から鱗の皮膚がのぞき見える。


 「グラウ? こういう時に、人間とリザードマンを見分ける魔法ってあるかな?」


 「そんな都合のいい魔法なぞないわい。有効そうなのは、光の呪文ぐらいかのう。」


 「あ、そうか、闇の魔法を使っているのなら。」


 周りの大臣たちが逃げまどう中、ジェイたち3人が大臣の皮をかぶったリザードマンを牽制している。ガジェットは親衛隊騎士の3人。親方は国王陛下の所に親衛隊と一緒にいて、事の成り行きを見守っている。できれば逃げ出して欲しいんだけどね。


 俺はガジェットの後ろで、ちょっと下がって灯りの呪文を唱える。


 光の呪文には威力を高めたり、特殊な動きをさせたり、形を持たせるという形容詞的な呪文体型が無い。今までも、書いてあったとおりに唱えているだけ。火、水、風、土にはあるんだけどね。

 で、起動部分はそのままにして、その前の部分を繰り返してみた。


 4回繰り返して、灯りの呪文を起動!


 結果は、変わらなかった。失敗。ただ、無駄な時間を消耗しただけ。今日はツイてない。


 一応灯りの呪文は起動したんで、その光に追加の魔法力を注ぎ込む。


 謁見の間は高さが8メートルぐらいあるんで、その半分ぐらいの位置に灯りを漂わせて、強く発光させた。


 あ、なんか、リザードマンたちが苦しんでる?


 光を見ないように俯いて手で顔をガードしている。なんか、後ろにいた反グイイト派の大臣の1人も苦しんでる。


 真上に上げた灯りはそのままにして、別の灯りを作り出し、苦しんでいる反グイイト派の大臣にぶつけてみた。実体のない灯りの呪文だから、普通はなんとも無いはず。

 だけど大臣は殴られたように後ろに吹っ飛び、当たった所は煙まで出してる。


 何故煙まで?


 疑問に思ったら、何度もトライ。


 って進学用参考書に書いてあったなぁ。

 という事で、再び光を押しつけた。そして再び煙が出る。悶え苦しむ大臣。どうせ中身はリザードマンだろうと思っていたら、中身はまだ人間らしい。というか、半分だけ人間?

 中身と入れ替わる途中だったようで、身体から半身のリザードマンが飛び出ている。まるでサナギから蝶が出てくるような感じもあったが、それよりもおどろおどろしい感じ。正直見たくなかった。


 そして、2人? 1人と1匹? は身体が繋がったまま息絶えたようだ。


 周りの大臣たちもドン引き。


 どういう呪術で入り込むんだろうねぇ。これはしっかりと調べなければならないね。


 光に反応したのは7人。そのうち1人は今息絶えた。残り6人。もとい、4人。今、ガジェットに1匹。ジェイに1匹、潰されて、燃やされた。


 なんか、手こずってる? と、思ったら、近くにいた人間を人質にされて、それを振り解くのに使役獣が苦労しているようだ。


 ガジェットは素早さで問答無用の立ち回りをしているけど、レイミーは水の龍で壁を作り、そこに静電気をまとった虎が飛び回っている。


 そして今、ガジェットが人質を無理矢理引きずり出して、ライがリザードマンの首筋にかじりついた。もう1匹のリザードマンは、レイミーの魔法で凍り付いていた。


 人質さえ居なければ問題ないようだ。


 残りは親衛隊の騎士2人。その目は、完全にリザードマンの目になっていて、周りを威圧しながら睨み付けている。


 「陛下? どうします? 生きたまま捕らえますか?」


 親衛隊の隊長も居なくなり、親衛隊そのものも機能しなくなっているようだから、俺から方針を確認する事にした。


 「そうだな。たとえ何かを聞き出す事が出来なくとも、捕らえて、その身を調べる事には意義があるだろう。」


 陛下に聞いたのに、応えたのは殿下だった。陛下? 立場ないよ?


 でも、ちょっと余裕を見せすぎたかな。


 注意が逸れた瞬間を狙って、親衛隊の騎士になっているリザードマンの1匹が、陛下に向かって飛び出した。ガジェットはもう1匹の牽制で動けない。


 俺はスタンガンをかまえて撃とうとしたけど、その陰から出てきた人物を見て、任せる事にした。


 出てきた女性は短剣を下から振り回し、リザードマンの首筋を切り裂き、次の瞬間には体当たりをして弾き飛ばしていた。


 城の中の小間使いの格好をしていた女性は、自分の生足が顕わになるのもかまわず、さらに蹴りを入れてから、短剣を心臓の位置に押し込み、足蹴にしながら引き抜いていった。


 その間、約2秒ほど。なかなかの手際だね。


 そして直ぐに陛下たちの護衛にまわる。親衛隊よりも役に立ってるよ。格好いいし。


 「ナイス! ニャンコ!」


 と、サムズアップしたら、膝をついて朽ち折れた。あれ?


 とにかく残り1匹。


 「闇を召還されないように、一気に行くよ。例の首輪と手錠を用意。誰でもいいから嵌めちゃおう。」


 皆がカバンから首輪や手錠を取り出す。それを確認して。


 「ガジェット!」


 俺の叫びで、ガジェットが一気に動いた。大きく回って、リザードマンの背後に回る。そして、俺たちは突撃した。


 俺は、首輪を顔めがけて投げつけ、その場から横に回る。ジェイが腕に飛びつき、手錠を片方だけ嵌める。ファイエーは低い起動で飛び出し、足に手錠の片方を嵌めた。そしてレイミーが首輪をかける。


 そしてガジェットが羽交い締めにして、腕の片方だけの手錠を強引に両腕状態にした。そこに俺が足にタックル。両足に手錠を嵌めさせた。


 バランスを崩して倒れるリザードマン。


 「ガジェット。土魔法で手足に重りを作って。」


 「了解しました。」


 魔法の起動を妨害する手錠でも、離れた所から起動状態の土魔法が近づいてくるのは、なんの影響も与えないようだ。

 これで、最後のリザードマンを捕獲完了。

 ゆっくり立ち上がり、陛下と殿下の所に歩いていく。


 「とりあえず、この場にいたリザードマンは倒しました。ですが、まだ入り込んでいる者が残っている可能性もあります。」


 「そなたたちの働き、誠に感謝する。しかし、あれは何だったのか、説明してはくれぬか?」


 相変わらず王子が偉そうにしゃべってるよ。陛下? いいの?


 「まず、このリザードマンは、西の王国シャシルの、さらに西にある亜人の領域から来たと考えられます。

 そして、シャシルもまた、元老院の重鎮の身体がリザードマンに乗っ取られました。シャシルの国王は力を奪う魔法により衰弱し、国政のほとんどを乗っ取られていました。

 今回、このワズムルで行われていた事も、同じ計画の1つであったと考えられます。

 そして、あのグイイトは、リザードマンから力を貰い、その力で人々を騙し、殺し、私腹を肥やしていたようです。それは、リザードマンの計画を隠すためだったようですね。」


 グイイトを見ると、衰弱した顔のまま、その場にへたり込んでいる。ヤツらがリザードマンだと知らなかったかな。


 「グイイトは、クロアロンという架空の人物を作り出す魔法の道具をリザードマンから受け取り、その道具で他人を操り、ルブロンダルやシャシルにも手を出していたようです。

 このクロアロンという名も両国に知れていて、このまま続けば、国としての対応が始まっていたかも知れません。」


 つまり戦争の火種を作っていたってことだね。リザードマンにとってはかなりの利点があったようだ。


 「し、知らん。知らん。わしは知らん。何を言っているんだ。」


 「ラッシュ、エイブルズ、コンエンス、ジルアルの4人から、10日ごとに何を受け取っていた?

 あの4人は、どこからそれを集めた?」


 グイイトの前に立って、見下すような目で見ながら言った。脅えているようだから、さらに脅えさせて、諦めさせる戦法。


 「な、な、なぜ、何故それを。」


 足を上げて、思い切り床を踏み叩く! ドン!


 「ガジェット! コンテナを!」


 俺の意図を理解したガジェットが、金と誓約書の入ったコンテナを持ってくる。


 「ここに、お前が書かせた誓約書と、10日毎の上納金が入っている。」


 「な! ぬ、ぬ、盗んだ、盗んだのはお前か!」


 「その誓約書を書かされたヤツらを呼んでこようか? どれだけ、クロアロンに嵌められたって応えるだろうか? そのクロアロンに騙されたヤツ全員が、なぜ、お前に従う形になってるんだ?」


 「あう、あう、あ、……。」


 「お前が、リザードマンから、魔法の赤い石を受け取って、それを使っていたのも判ってる。お前の屋敷のどこに、それを隠したのかもな。

 もう、おしまいだよ。」


 「いやだ、いやだ、いやだ、わしは、わしは、悪くない、悪くない、悪くない、……。」


 頭を抱えて、ブツブツ言い出した。


 さぁ、ここからが本番。


 俺は陛下に向かって一度礼をして、胸を張って話しかける。


 「陛下! このグイイト大臣の処遇は、いかがしますか?」


 「うむ。まずは大臣職の剥奪だな。そして、リザードマンとの関係を聞かねばならない。話しを聞かずとも、国に対する罪は重い。極刑を逃れる手段は有り得ないだろうがな。」


 よし、国の役職もなくなり、犯罪者に落ちた。


 「陛下。ここで、頼みがあります。」


 「うん? ここで?」


 「俺たちの仲間の1人は、この国で、ある商人の娘でした。しかし、クロアロンの奸計で家族を奪われました。

 重要な参考人であることは重々承知してはいます。ですが、彼女は仇を討つために傭兵に身をやつし、目的を果たすために力を追い求め続けました。

 私事ではありますが、是非にも、彼女の本懐を遂げさせてやりたいと望みます。」


 「なるほど。グイイトはこの国の大臣の役職を持って、人々を騙し、殺し、奪う事を続けてきたのだな。この国の王として、大変申し訳なく思う。

 お主たちが居なければ、この国はリザードマンによって支配される国になっていただろう。それを鑑みても、その願いは聞き届けなければならないものだな。

 ワズムル国国王の名をもって、仇討ちの許可を与える。グイイトを討ち取り、見事本懐を遂げて見せよ。」


 「はっ。」


 一度大きく礼をして、レイミーに合図を送る。


 レイミーは、近くにいた騎士から剣を借りて、2~3度振り、そして両手で持ってかまえた。その目は潤んでいる。手も震えている。


 あとは、レイミー自身の事。俺たちは手を出せない。


 「グイイト! いや、クロアロン! アルバン=シーエンの娘、ケイナ=シーエンだ!」


 「な、なに?!」


 え? なんか、国王陛下が反応したよ? 王子も捨てニャンコもなんか驚いている。


 「父さん、母さん、姉さん。商会の皆も家族のようなものだった。皆の仇、ここでとらせて貰う!」


 「ま、待て!」


 いきなり国王陛下から待ったがかかった。


 「敵討ちの中止ですか?」


 俺が聞いてるけど、レイミーなんか睨み付けてるよぉ。


 「いや。敵討ちはいい、だが、少しだけ待って欲しい。」


 どういう事だ? とりあえず、レイミーの所に行って、肩を抱いて落ち着かせる事にする。肩なんか、ガチガチに力が入っていた。


 捨てニャンコが凄い勢いで走っていって、ほんの2~3分なんだけど、かなり長い気がした。


 そして、走って入ってきたのは、ご婦人とその娘らしき女性。


 その2人を見て、レイミーが震えている。


 「母さん。姉さん。」


 ぽつりと呟いた。


 ルブロンダルの口入れ屋で、2人を貴族の使いの者が買っていったという話しを聞いた。その貴族の使いが反グイイト派か、国王の直接の部下だったのだろう。ここまで来れば、それは容易に想像できるね。


 俺はレイミーの背中を押した。


 2~3歩歩いてから、剣を落として走り出した。


 「母さん! 姉さん!」「ケイナ!」


 3人は互いを抱きしめあい、その存在を確かめあっていた。


 俺は落とした剣を拾って肩に担ぎ、陛下と王子の元へと歩いていった。


 「ルブロンダルで奴隷として売られる所を助けたのは、陛下の部下ですか?」


 「うむ。もともと、わしとアルバンとは浅からぬ付き合いがあっての。2人目のケイナが生まれてからは合う機会が減ったが、それでも、わしには掛けがいのない友であった。それが、不自然な損失を出したり、覚えのない請求が来たりしての。その時にわしを頼ってくれれば、このような事にはならなかったと思って悔やむ毎日であった。

 2人は売られる直前に救い出したが、ケイナだけは行方不明でのう。もう絶望視しておった。本当に、お主には感謝する。」


 さて、どうしよう。


 俺は、持っていた剣を元の騎士の所に持っていき返した。


 グイイトはガジェットが踏みつけて動けないようにしている。


 俺は、カバンから軍用ナイフをとり出して、レイミーに近づく。


 「レイミー、この位置から、このナイフをグイイトに向かって投げてくれ。」


 ここからグイイトまでは10メートル弱。いきなりの投げナイフだと、当たるとは思えない。


 「この一発が、レイミーの敵討ちだ。当たっても、当たらなくても、それでおしまい。もし生き残ってたら、後は城の拷問係に任せよう。いいかな?」


 目を真っ赤にしたレイミーが、俺の言葉を噛み締めてから、ゆっくり頷く。そしてナイフを受け取り、何の躊躇もなく投げつけた。


 早! もう少し思い入れとかなかったのかなぁ?


 ナイフは見事右肩に命中。ぐっさりと根本まで突き刺さった。


 俺はグイイトの元に行き、無造作にナイフを引き抜き、タオルで血をぬぐいながら、陛下に言った。


 「陛下。グイイトの身柄、陛下にお任せします。

 レイミー、終わったね?」


 ケイナではなく、レイミーという名の傭兵は終わった。


 泣きながらその場に座り込むケイナを姉と母親が両側から抱きしめていた。

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