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第四十六章 晃と空飛ぶ怪盗 人という字は……

 ワズムルへ到着する30分の間にも、エイプリルからグイイトの交友関係や、調べる事が出来た犯罪歴などの報告を聞く事になった。


 というか、たった1日でかなりの関係が調査出来たようだ。親方の助言通りに羽振りの良さそうなのに、手当たり次第インセクターを付けていたら、そのまま入れ食いだったそうだ。


 グイイトに首輪を付けられた連中は、10日に1度、グイイトに決められた上納金を支払う事になっている。その際、ある程度以上の金額を納める者が、それ以下の連中の金を集金し、それを、また上位の集金係に渡して、最終的に4人がグイイトに渡す事になる。ピラミッド状の階級世界みたいだけど、納める金額が違うだけで、それぞれは同じ立場でしかない。


 ほとんどが、ヤクザにみかじめ料を支払っているようなもんだ。


 エイプリルは、その金がどこに保管され、誰がどう運ぶかも調べていた。


 「これは使えそうだね。エイプリル、最終的には誰がグイイトに渡すか判るかな?」


 『現状はまだ実行されてはいませんが、あと数日中に、ラッシュ城務大臣、エイブルズ荷役大臣、コンエンス税務主計長、ジルアル近衛隊隊長により、グイイト書務大臣との会合の席で渡されるようです。』


 俺には馴染みのない大臣職だけど、大臣って、仕事があればそれに対応した役職名が付くから、馴染みが無くても当たり前だろうね。

 グイイトの書務ってのは、書記かな? その仕事の形態を自分で決められるのなら、部下に仕事を任せて、自分は楽に副業に精を出せるって仕事にしてるだろうねぇ。


 「その金が保管されている場所や、誰が運ぶかとかも判ってる?」


 『はい。城の中にある、それぞれの執務室の隠し戸棚に、専用の箱があります。基本的に大事な書類を入れる物ですが、その中でも極秘文書を入れる物に、グイイト書務大臣のサインの入った物を使うようです。

 運ぶのはそれぞれの部下になりますが、特に決まった者は居らず、極秘扱いの書類を運ぶだけと教えられているようです。』


 「自分の集金を、公的な仕事にしちゃってるんだね。もし、金が入っているのがばれても、それぞれの下僕が勝手にへそくりを隠してたってことにするんだろうね。

 グイイトってどんなヤツ?」


 壁のモニターに、やせ細った、年老いた僧侶みたいな男が映し出された。なんか、場違い? いや、似合わない、というか、違うんじぇね? って感じが。


 「ユーン、あれがグイイトで間違いない?」


 「うむ。間違いない。あれがグイイトだ。」


 「エイプリル! グイイトの健康状態は?」


 『はい。詳しい診察は行っていませんが、黄疸の症状が見受けられます。その他の合併症も疑われ、それらが悪性であった場合、余命は100日以下と推察されます。

 詳しい診察を行いますか?』


 「詳しくする必要は無いな。だけど、早めに決しないと、病気で死んでしまうっていう懸念ができたわけだね。」


 レイミーの真剣さが上がったようだ。横に置いてあるブレードの柄を握りしめる手に、力が入ったのが判った。


 「これも、攻める手として使わせて貰おう。エイプリル、グイイトにはどんな症状が出ていると思う?」


 『皮膚のかゆみが出ているのは、掻爬痕からも推察されます。確認していませんが、食欲不振や腹部の痛み、倦怠感もあると推察されます。』


 「エイプリルはかゆみを抑える塗り薬とか持ってる?」


 『この場合は、医療用薬品としての麻酔剤入りの塗布剤が必要になるかも知れません。』


 「一般市販薬じゃないレベルで、普通なら医師の診断が必要な物ってわけだね。かまわない、その方が好都合だ。それを5~6回塗れるだけの小さな容器に入れて、高く売りつけよう。それと、いつも俺たちがお世話になっている胃の薬と、かなり強めの痛み止めも用意しよう。

 1回分で金貨100枚ぐらい。かゆみ止め、痛み止め、胃の薬で1回金貨300枚だ。」


 「グイイトの病気を治してあげるんですか?」


 「いや、病気が原因の痛みや不快感を、一時的に感じさせなくするだけ。

 たぶんだけど、グイイトの病気はポーションじゃ治らないと思う。治療魔法なら可能性はあるけど、きっちり治せるのはそうは居ないと思う。少なくとも、この国には居ないだろうね。ケルス先生なら出来るかも知れないけど、グイイトがそれを知る手段はないだろうしね。」


 「でも、グイイトは、病気の苦痛が減るわけですよね。」


 「うん。そして、それがないと我慢が出来なくなるはず。そこが重要なんだ。前と同じ苦しみなのに、薬で簡単に楽になるってのを知っちゃうと、それが我慢出来なくなっちゃうものなんだよね。それが、かなり高い金額のものなら諦めるだろうけど、支払えるって状態なら我慢出来ないと思うよ。

 1回金貨300枚。1日に2~3回で10日で6000枚以上。グイイトはそれ以上持っているだろうから、財産が減るのは判っていても、出そうとするだろうね。」


 「なんか、えげつないですねぇ。」


 「これを、弱みにつけ込むって言うね。

 そうして、グイイトに金を必要とさせる。それと同時に、エイプリルに調べて貰った大臣たちからの上納金を、グイイトに渡る前にこっちで盗んじゃう。」


 「さらにえげつなくなりましたね。大臣たちは大丈夫ですかねぇ。」


 「かなり怒られて、自力で金を用意しろと命令されるだろうね。

 それで、グイイトに付いていく事が負担になれば儲け物だよ。」


 「なるほど。グイイトの取り巻きを引き剥がしていくわけですね。」


 「エイプリル、グイイトの実家の屋敷って、王都からどのくらい離れてる? 早馬でどのくらいかかるかな?」


 『通常の行程ですと、片道7日程度と推定されます。早馬ですと、2日から3日と考えられます。』


 「なら、明日か、明後日あたり。俺たちの謁見の前日に、グイイトへ連絡が入るように時間を調節して、グイイトの屋敷を、モンスターに襲って貰おう。

 エルダードラゴンというわけにはいかないけど、下級のドラゴンあたりに屋敷をボロボロにしてもらおう。」


 「そうすると、僕たちの謁見の時に、グイイトが居ないとかなりませんか?」


 「上納金が盗まれて、痛み止めで金がいるって時に、屋敷がボロボロって連絡が入るんだ。

 利権や、直接的な金も動くゲートの話を、グイイトが放っておくかな?」


 「きっと、目の色変えて、こびりついて来そうですでね。」


 「うん。精神的にも、まともじゃない状態に追いつめられるよね。

 とりあえず、それを第1段階ってしようと思う。

 グイイトの罪を暴くにはまだまだ足りないから、さらに追いつめる必要はあるけどね。

 エイプリルには、薬の用意と、さらなる調査をお願い。」


 『了解しました。』


 「ユーンには、王子に化けて貰うか、王子に頼んで、3回分のお試しとして、薬をグイイトに渡して貰いたい。この時、グイイトがそれを必要としているってのを知らない振りをしてもらって、必要としている誰かに使ってあげて、とか言って渡して。同時に、3回分で金貨900枚だってのもね。」


 「うむ。面白そうだな。

 それに乗って、さらに求めてきたらどうする?」


 「初めから、ユーンには9回分は渡しておくよ。そして、金貨と引き替えに残り6回分を渡しちゃっていい。それ以上を求められたら、業者に頼んでおこう、って言って時間稼ぎしておいて。

 俺たちの謁見の時には、かゆみや痛みに我慢しながらの対応をしてもらうつもり。」


 「そうか、さらにえげつない事を考えていたのだな。」


 「俺たちは今日と明日で、グイイトへの上納金が集まる所から、それを密かに盗み出す。量と数がありそうだから、皆、別々の行動になるかな。少なくとも、2人ずつぐらいで別れて、慎重に行動ってことになるかもね。」


 「その盗んだ金って、どうするつもりなんですか?」


 「グイイトを失脚させたら、城の中がかなり混乱するはずだからね。その時の非常用として使って貰おうと思う。」


 「なるほど。元々、グイイトに入るはずだった金と思えば、気兼ねなく盗み出せますね。」


 「盗まれる方は、グイイトに取り込まれた哀れな被害者ではあるけど、グイイトが力を付けるための仕組みの1つになっているんだから、その分は痛い目にあってもらおう。

 グイイトの力に逆らえなかったんだ、って言い訳は聞くつもりはないしね。」


 そして、エイプリルの調べた、グイイトに上納される金の位置と、詳しい隠し場所を検討して、誰がどこを担当するか、どういった時間帯に実行するかを決めていった。


 そして、出来た薬をもってユーンは城に。


 ユーンには、薬を渡した後は、カロイ王子と、国王陛下の護衛を頼んだ。


 俺はレイミーと一緒に、ジェイはファイエーと一緒に、担当する地域の下見に出かけ、目立ちたくなかったのでガジェットには留守番して貰う事にした。


 エイプリルに調べて貰った、俺の担当する地域の家を、レイミーと一緒に眺め、トロトロと歩いていた。しかし、商家と貴族の屋敷が集まった地域で、レイミーの足が止まった。


 門はしっかりしているが、その内側には火事で焼け落ちたらしき建物の残骸だけしかなく、焼け残った残骸も、ゴミとして山になっている。ここで、関係者が帰ってきたという風には知られてはならない、って考えているのかな。まるで他人が無責任に眺めている風を装っている。でも、唇をかみしめ、ズボンの端を握った手は震えている。


 俺は、勝手に門を開け、ズケズケと中に入り、レイミーに手招きをして一緒に中に入ろうと誘った。


 躊躇は一瞬だった。レイミーは一気にかけだし、俺を抜いて屋敷跡に走っていった。


 ぽつんと残る俺が悲しい。


 いや、狙い通りだからいいんだけどね。


 レイミーは、ある一角で、膝をつき、何かを掘り出すように、捜し物をしていた。


 そして、その何かを見つけたようだ。それを胸に抱きしめ、泣き出した。


 レイミーが落ち着くまで、ゆっくり泣かせてあげようと思ったのに、門から、1人のちんぴら風の男が入ってきた。

 レイミーが気付かないうちに処理しちゃおう。


 俺の方からもちんぴらに近づいていき、

 「クロアロンの手下か?」

 と、一方的に言った。実は、全くの当てずっぽう。もしかしたら、単に土地の管理を任された者に雇われただけかも知れないんだけどね。


 「なっ、てめえ、何者だ。」


 当たったようだ。良かった、良かった。やっぱ、クロアロンって、頭が弱いのしか使ってないのかもね。


 昨日、グラウから聞いた、強制催眠術の呪文を唱え、そのちんぴらにかけてみた。


 成功。


 ドラゴンでさえ催眠状態にする呪文だからか、あっさり効いたようだ。


 「お前は俺の言う事だけを素直に聞け。それ以外の行動はするな。判ったら返事をしろ。」


 「わかった。」


 「今日、ここには、何をしに来た?」


 「命令。土地の買い取り手が現れるまで、定期的に見回っている。」


 売り出し中だったのかぁ。土地の管理を任された者に雇われてるってのも、あながち間違いでも無かったんだねぇ。


 「ここの土地の名義は誰なんだ? クロアロンか?」


 「名義……、知らない。」


 うわ、使い物にならない。クロアロンって凄いなぁ。あとはもう、ダメ元で聞くだけ聞いてみよう。


 「クロアロンは、どこにいる?」


 「都の東。グイイトの屋敷。別宅だと言っていた。」


 おや。意外な答え。


 「クロアロンってのは男なのか? 女なのか?」


 「知らない。判らない。」


 「会った事はないのか?」


 「いつも、直接命令されている。」


 「それで、男か女かも判らないのか? クロアロンってのは人間か?」


 「知らない。判らない。疑問に持つなと言われた。」


 なんか変だ。疑問に持つなと言われたから、疑問に思わなかった? まるで催眠術じゃないか。


 「お前にかかっている心を縛る命令を全て解く。3つ数えて、俺が手を叩いたら、忘れろと命令されたクロアロンの事を全て思い出す。3、2、1、」 パンッ!


 思いっきり手を叩き、その音に驚いたようにちんぴらの身体が跳ねた。そして、


 「あ、あ、あ、ば、ばけもん。バケモンだ。化け物が俺の頭に。」


 混乱している。俺の術まで解けちゃったようだ。暴れ出さないうちにもう一度催眠術をかけた。


 「リラックスして、頭を眠った状態にして、俺の質問にだけ答えろ。判ったら返事だ。」


 「わ、判った。」


 「クロアロンの正体はなんだ?」


 「う、う、う、怖い、やめてくれ、怖い、怖い、怖い。」


 「3つ数えて、俺が指を鳴らしたら、お前はクロアロンを怖くなくなる。3、2、1、」パチン!


 「あ、あ、……。」


 「クロアロンの正体はなんだ?」


 「う、う、う、こ、怖い、怖い、怖い。やめてくれ。いやだ、怖い。」


 なんてこった! 英語で言うとオマガー! これホントに英語か?


 とにかく、考えられるのは2つ。1つは俺の催眠術のレベルよりも深い位置で精神を縛られている。2つ目は、怖いというのがクロアロンの正体。


 1つ目は魔法の実力勝負で負けたという所だけど、昨日初めて1回だけ使った事があるという魔法なんで、別に負けてもショックじゃないけどね。ホントだよ?

 2つ目は、クロアロンが闇を操っている場合。クロアロン=闇という認識なら、クロアロン=恐怖ってのも判る気がする。


 「エイプリル。東のグイイトの別宅は確認出来た?」


 『はい。すでに調査を完了させていた場所です。現在、インセクターを再度向かわせています。』


 「なら、このちんぴらは必要なさそうだね。

 お前はこれからここを出て、いつもの生活に戻るんだ。ここを出てしばらくしたら、ここで俺たちに会った事と、ここでの事を全て忘れるんだ。ここでの事を忘れたと同時に、心を操っている術は全て消える。お前はいつものお前を取り戻す。

 では、行け!」


 俺の適当な命令でも、ちんぴらはフラフラと歩いていった。あの調子なら、素直に忘れるんだろうな。


 ふと、この術でグイイトに自爆させるとか考えたが、魔法のせいでばれたんだと思われるのは、なんか納得いかなかった。グイイトの手落ちでばれたんだ、ってのを突きつけて、悔しがらせたいってのが本音だね。


 一応は、密かに、この方法で自暴露させる手も温存しておくけどね。


 「レイミー、行くよ。可能なら、ここでクロアロンを排除しておこう。」


 すでに、俺の直ぐ後ろまで来ていたレイミーが強く頷いた。


 ヘッドギアのアイシールドを下ろして、目的地までのナビゲーションを表示させる。


 「ジェイたちにもこの事を知らせて、目的地で合流してもらおう。説明と誘導を頼む。それと、ガジェットも。」


 『了解しました。』


 流れ的に俺だけで対処したって場合に、たっぷり怒られたからね。手強そうなのは皆でってやらないと、後で何を言われるか。


 小走りに王都の中を進み、約30分。けっこう離れてた。


 すでにジェイとファイエー、ガジェットが、ギリギリ屋敷が見える路地裏で待っていた。


 「お待たせ。外から見て、なにか変わった事はあったかな?」


 「いえ、手下らしき行商人風の男が何人か出入りしていたぐらいですね。グイイト関係の役人や兵士は見なかったと思います。」


 「エイプリル、クロアロンはいた?」


 『いえ、該当する人物は確認できません。』


 「出かけてるのかな?

 グイイトはクロアロンに一定の価値を認めているから、こんな風に屋敷を貸し与えているはずだよね。だから、グイイトを追いつめるために、クロアロンは是非にも排除したいんだよねぇ。」


 「それは判りますが、それに拘ったら足下をすくわれそうですね。」


 「うん、そうだねぇ。慎重にしないとね。

 エイプリル。屋敷の見取り図を出してくれ。」


 俺たちの目の前に屋敷の概略が立体投影される。


 屋敷は平屋建ての1階建てだけど、この地方独特の尖った、背の高い屋根を持っている。狭くなるだろうけど、屋根裏部屋でも普通に使えそうだ。

 この地方では、屋根裏部屋というのは、基本的に冬を越すための資材を入れておく倉庫として使うようだ。そのため、雨漏りしないようにがっちり作られているし、風通しも良くなるようにしてある。大雪の対策として尖った屋根なので、丁度いい空間の有効利用って所だね。


 でも、この大きさの屋敷になると冬の備えは半分ぐらいで済むため、残りの天井裏は秘密の出入り口や隠し部屋とかに使っているようだ。

 政治家の別宅だからなんとなく納得だけどね。


 1階の部屋数は12。厨房や倉庫、使用人用のスペースで半分。残りの半分が寝室や執務室、リビングや食堂、客室になっていて、大きさは屋敷の7割を占めている。


 屋根裏部分は、寝室や執務室の上が隠し部屋で、客室や食堂の屋根裏には、こっそり覗くためのスペースが作られていた。


 エイプリルの調べだと、執務室の上の隠し部屋に、かなりの金が置かれているらしい。


 思わず、ニヤリとしてしまった。


 「ガジェット。今日の夜にでも、小型輸送艇かファイターとか使って、隠してある金を盗んじゃって。単純に、屋根に穴開けて、ごっそりとやっちゃっていいから。まぁ、ばれないように静かにね。」


 「了解しました。」


 グイイトの金か、クロアロンの金かは判らないけど、どのどっちかってのは確定だよね。なら、後から利用出来ないようにしておかないとね。


 「クロアロンは、どの部屋を使うかな? この屋敷の主としての寝室や執務室かな? それとも、客室とリビングと食堂かなぁ?」


 クロアロンを襲撃するにはどこがいいかと考えていたら、目の前の道路を1人の商人風の男が歩いて行き、屋敷に入っていった。


 「エイプリル。今入った男の行動を、映像で見せてくれ。」


 屋敷の立体映像を映していたモノが、路地の建物の壁に平面映像を映すタイプに変わった。


 商人は玄関ホールを抜けて奥に進み、迷うことなく執務室へと入っていった。

 執務室では、誰もいないデスクに向かって何かを言っているように見える。


 これって!


 「エイプリル!」


 『確認しました。

 インセクターのカメラアイでは捕らえられない存在が居る可能性があります。

 もしくは、何らかの通信システムがある場合も考えられます。』


 「あの商人の動きからすると、あの商人にはそこにクロアロンが居るように見えている感じだな。」


 『可視光線及び、赤外、紫外域の波長での観測でも、クロアロンの存在は確認出来ませんでした。インセクターのカメラアイではこれが限界になります。さらなる観測機器の投入を検討しますか?』


 「これが魔法だったら、これ以上やっても無駄かもね。さっき会ったちんぴらは、心を操られていた。けど、命令はここで受け取っていたみたいだ。だから、何らかの意思伝達手段はあるって事だよね。それも、魔法を介して伝わっているようだから、これ以上の調査は無駄だと思う。」


 「えっと、つまり、魔法が使われているから、エイプリルさんにはこれ以上調べられないって事でいいですか?」


 「うん、その通り。

 ここは、今晩にでも忍び込んで、調べてみるよ。あの昆虫頭で忍び込めば、見つかっても、俺たちとは思われないだろうしね。

 それで、クロアロンが見つければ倒しちゃうし、見つからなくても、魔法の道具とかが無いか調べられるしね。」


 「わ、わたしも。」


 レイミーが言ってくる。駄目と言っても聞かないって意志を込めているようだ。


 「うん。俺が調べている間に、周囲の警戒を頼むね。でも、引く時はしっかり冷静に引くってことを約束して。」


 「わ、判った。」


 「その間、僕たちはどうします? ここら辺で、外側から警戒しますか?」


 「ジェイたちは、予定通りにグイイトに集まる前の段階の集金を盗み出して。ここから大量の金が盗まれたと知ったら、警戒が厳重になって、動きにくくなる可能性もあるから、今日中に主だった所はやっておきたいしね。

 俺たちも、ここがすんなり終わったら、元の予定を消化するつもり。」


 それから俺たちは、脱出用に転移魔法の陣を複数作り、ついでに砂漠で昆虫人たちが侵略拠点にしていた砂の城の跡地にも転移魔法の陣を作っておいた。


 砂漠には、クロアロンの手下や、グイイトの部下とか、邪魔な連中を放り出すつもり。


 殺すほどでもないけど、完全に許せないようなのをここで隔離するつもりだから、水の入った樽と、堅いパン、そして、干し肉を置いておいた。

 ここに放り出された者たちが、それをどうするのかは自由にさせるつもり。


 クロアロンやグイイトの手下になった不幸だよね。


 そして小型輸送艇に戻って、ちょっとだけオヤツを食べて、仮眠をとる。

 疲れていたのか、意外にすんなり眠れて、予定していた時間にメイに起こされた。


 まずは、石鹸などは使わないで、お湯だけで身体を洗い、つける装備は宇宙服。ヘルメットは現場に着く前につけるけど、海で使った顔の見えるタイプではなく、まるで昆虫の頭のように見える、戦闘機用の装備品を使う。

 そこに、真っ黒な、膝下まで隠れる大きさのポンチョ型の軍用雨合羽をつけて準備完了。


 メイの作ってくれたサンドウィッチを食べて、心と体を落ち着けてから小型輸送艇を出た。時刻はだいたい午前1時ぐらい。


 小型輸送艇の直ぐ近くで転移呪文を唱え、ガジェットを除いた俺たち4人は王都の一角にある空き地に転移した。


 ジェイとファイエーの組みと別れ、俺とレイミーはクロアロンが居るグイイトの屋敷に向かう。俺の走る頭の上には、グラウが翼を広げ、時折羽ばたきの音がするが、ほとんど音もなく滑空している。

 使役獣は、見られるとやっかいだけど、見られなければかなり便利になる、ってことで、全開で使う事になった。


 俺のグラウ以外は、皆、背中に乗って高速で逃げられるというメリットを持っているんだよね。


 今回もガジェットの使役獣である、地の神獣の写しであるシンはお留守番。身体が大きい陸亀だから目立つためだけど、実はとんでもなく早く走れる特技を持っている。やって貰った事無いけど、2メートルを超す人型ロボットであるガジェットを乗せて、ドリフト走行しながら峠を攻める事も出来るはずだ。きっと、プロジェクトに誘われて全国ツアーしちゃうレベルだと思う。


 ジェイのスザクは本当に燃えている火の鳥なのに、ジェイ自身には単なるぬくもりに感じる程度の熱さしか感じないそうだ。ジェイの着ている服も、なぜか焦げ目1つつかない。

 敵に周りを取り囲まれても、炎の塊になって、歩いて脱出出来るだろうし、その背中に乗って、優雅に飛んで逃げるとかも出来そうだ。


 レイミーのリュウは水で出来た龍だ。どういう仕組みかは判らないけど、空中を泳ぐように浮いている。普通に正体を現すと10メートルを超える姿になるけど、大きくなると川が丸ごと空中に泳いでいるようになるそうだ。レイミーはその背に乗る事も出来るし、その身体を構成している水の中に入る事もでき、溺れる事もなく快適に過ごせるらしい。


 ファイエーのライは、普段はニャンコなのに、正体は3メートルオーバーの虎だ。常に静電気の雷光が全身を覆い、たまに雷のような稲光が全身を駆けめぐる事もある。しかも、虎の体躯を持っているので、ガジェットのシンに継ぐ力を持っているし、その走る速度は一陣の風のごとしと表せる。身体の静電気と相まって、電光石火と言えるほど、あっというまに走り抜けて敵を痺れさせる事も出来る。当然、ファイエーは感電もしないし、背に乗っても風であおられる事もないようだ。


 俺のグラウは、しゃべる辞書代わりのフクロウだ。

 以上。


 なんか、ちょっとだけ悲しくなった。いや、便利なんだよ? 俺には一番必要なモノだと思うよ。でも、皆の使役獣と比べると派手さがないよねぇ。


 まぁ、俺には、エイプリルが搭載されたゲンブという宇宙戦艦があるからね。


 そんな事を考えつつ、皆の使役獣なら、余程の事がない限り安全は保証されているようなものだと納得し、皆の心配から、目の前の事案に心を向けた。


 グイイトの別宅。元々は愛人でも囲うつもりだったのかな。王都内にあるグイイト自身の屋敷からは、離れすぎず、近すぎずという位置に建っている。そのため、屋敷からの警備が駆けつけるのには若干の余裕があり、俺たちの作戦なら大騒ぎになる前に脱出出来る予定だ。


 別宅の形状は、街で見かける家と変わりはないが、やはり大きさは別格になっている。特に見張りが置いてあるわけでもないので、忍び込むのは楽になると考えられる。


 雨合羽のフードを取って、ヘルメットを装着。実際はしっかり装着しなくても問題なんだけど、身体の方も宇宙服を着ているため、首の所のジョイントをしっかり締めるとかなり安定する。まぁ、有り得ないけど、いきなりの毒責めとか、水没、真空の刃とかにはしっかり対応できるしね。


 そして、別宅の裏に回って、裏口の方から庭に侵入。クロアロンが居た執務室の窓の下に到着。

 ヘルメットの表示を変えて、赤外線映像で建物の中を確認すると、ほとんど青色の表示で部屋に熱源が全くないのが判った。見回すと、別の部屋で使用人が寝ているのも確認できて、身体を横にしている者だけで、その全ての体温が安静時の低い温度というのが確認出来た。


 しっかり寝てるね。


 レイミーに向かって頷くと、立ち上がって窓の鎧戸を開ける。ガラス窓は存在しないので、内側の窓は鎧戸の板の間隔を広げた感じになっていて、板の角度を変えられる構造になっている。要は、簡単なブラインド構造。


 軍用ナイフを隙間に差し込み、かんぬきになっている木の棒を一気に切って、窓を開けて中に滑り込んだ。


 ピッ!

 「これより天井に穴を開けます。」


 「判った。」


 ガジェットの通信に短く答える。耐圧構造の宇宙服だから、普通の声だとほとんど外には漏れないけど、慎重に声を潜めて短く受け答えする事を心がける。ちなみに、ガジェットは通信用に声を出さないで音声データを送ってくるけどね。


 レイミーに入り口を指さし警護を頼み、俺は執務室の机の周りを調べて回る。


 机の下、椅子、引き出し、インクや書類入れを1つ1つ手に持って調べていくが、怪しい物は何もない。


 ふと思い立ち、バイザーを上げて、直接目で見てみる事にした。


 真っ暗で何も見えなかった。


 めげずに、魔法の灯りを小さく出して、俺の頭の右後ろに置いて、周りを見てみる。コップ状の物があれば、懐中電灯の様に使えたかなぁ、なんて考えながら。


 そして、テーブルの上に、でかでかと魔法陣の様な紋様と赤黒い石、チェスの駒みたいな人形が置かれているのが見えた。


 なんで見過ごしてたの?


 試しに、バイザーを下げて、光量調整したデジタル補正済みの映像で見てみる。


 テーブルの上には何もなかった。木製の天板だけがしっかりと見えている。


 「これって、魔法力で出来ている物なのか?」


 「ほっほ。よく見てみぃ。ドラゴンドロップがあるぞ。」


 グラウの指摘でよく見てみると、赤黒い石が3つ置いてあるのが見えた。陰影が机の天板に似ていたんで、保護色のようになっていたようだ。


 「前に見た物よりも小さいな。」


 「1つの物を割ったか、元々小さい物を使ったかじゃな。中央の石に術式が刻まれ、他の石が人形を映し出しておったのじゃろう。石自体が魔力の供給源でもあるんじゃろうな。」


 「この術って、やっぱり通信機なのかな?」


 「お主たちが国に配っている物よりも洗練されておるぞ。じゃが、その分、かなり危険じゃな。判っているとは思うが、色んな術を送りつける事も出来る訳じゃでな。」


 「通信機なんだけど、声や姿だけじゃなく、自分の分身をここに映し出すというような感じかな。」


 「それが一番近いのぉ。」


 「このドラゴンドロップから、クロアロン本人の場所は逆探知出来るかな?」


 「魔力を感じる事に特化した魔法使いが数十人いるならともかく、基本的には無理じゃな。」


 「エイプリル。この部屋の監視は継続して、またここに石を置いた者が現れたらマークしておいて。」


 『了解しました。』


 「この石は、研究価値があるんだけど、持っていたら、俺たちの事がばれる危険もありそうだね。」


 そう言ってから、ドラゴンドロップに軍用ナイフの刃をあてて、体重かけてかち割った。


 真ん中から真っ二つ。細かい破片も飛び散った。


 「もったいないが、正解じゃな。」


 残り2つの石も砕いて、俺とレイミーはグイイトの別宅から外に出た。


 「たぶん、あの屋敷に出入りしていた商人の内の1人がクロアロンなんだろう。それを見極めるまでは、クロアロンを倒すのはお預けだね。」


 そのあと予定していた他の家を廻り、ほぼ同じ手順でターゲットの家に進入し、隠し金庫や、机の引き出しなどから、グイイトに渡るはずの上納金を盗み出して行った。


 午前4時過ぎぐらい。空が明るくなる前に作業を終了させ、転移魔法で小型輸送艇に戻る。すでにジェイとファイエーも戻っていた。


 メイに空のコンテナを持って来てもらい、本日の収穫を無造作に突っ込む。ガジェットは金以外にも、あの隠し部屋にあった物を全部持って来ていたので、金以外はコンテナの外に置いてある。


 「俺たちは昼前ぐらいまで、ちょっと寝させてもらうよ。盗み出した物のチェックはよろしく。」


 「『了解しました。』」「かしこまりました。」


 俺たちは宇宙服から抜け出し、ベッドの中に潜り込んだ。




 昼食は冷凍ピザ。それを熱々に暖めて貰い、この街で買ったリンゴのジュースで流し込んでいる。


 「今頃は、グイイトの所に上納金が盗まれたという報告が行ってるかな?」


 「普通は行っていると思いますが、何故疑問形なんですか?」


 「上納金だからね。支払うまでは自分の財布の金なんだから、盗まれた分を立て替えれば問題にはならない。それを、わざわざグイイトの不興を買ってまで報告するかどうか、ってことでね。」


 「なるほど。今回は、下の連中が損しただけ、ってわけですか。」


 「だからここで、最終集金係の4人の所から、しっかり盗み出さないとならないんだ。グイイトに上納金を献上している身分だからね、そう、自由になる金は持ってないと思う。それが盗まれて、立て替えするなら、それはそれでいいし、立て替え出来なければ、それはそれでいい結果になると思う。」


 「グイイトが作り出した組織の中で、不信が広がるのが目に見えるようですね。」


 「盗まれた、という報告がグイイトに入らなければ、グイイトの所から金を盗み出すのも楽になるしね。」


 「ですが、城の中ですから、どうやって侵入するのかという問題がありますね。」


 「ああ、グイイトの城での執務室は、外に向かって窓があるからね。そこから入れば問題ないよ。4人の直属の下僕の方も同じだしね。夜には誰もいないし、警邏の兵も廊下の方はうろつくけど、執務室の中までは見回らないからね。」


 「グイイトの執務室って、たしか5階だった筈ですが。」


 「うん。5階の高さがあるから、普段でも、誰も見上げない場所だと思うよ。

 そこに、小型輸送艇か、ファイターで吊り下げて貰って、窓から入らせて貰おうと思ってる。」


 「ああ、その手がありましたね。そう言えば、これって飛ぶんですよねぇ。」


 「ジェイのスザクだと光っちゃって目立つけど、レイミーのリュウでも、似たような事が出来そうだよね。」


 「そう言えば、そうでした。僕は、城にいるユーンさんに協力して貰うとか考えてました。」


 「飛んで行けなかったら、そうなってただろうね。」


 そこで昼食は終わり。リンゴジュースのカップを残して、メイがテーブルの上を綺麗に片づけていく。

 ああ、上げ膳据え膳はホント楽。堕落しそうだ~。


 「エイプリル。クロアロンの方は何か変化あったかな?」


 『3人の男が執務室を訪ねて来ました。その内の2人は誰もいない事をいぶかしんで、しばらくしたら帰っていきました。3人目の男は、机の上の、壊れたドラゴンドロップを回収して帰っていきました。』


 「そいつが本命だね。どんな男だった?」


 『映像で出します。』


 小型輸送艇の壁に設置されたモニターに、商人風の男の姿が映し出される。営巣の中で男は、ハンカチのような布を取り出すと、割れたドラゴンドロップを拾い集めていた。その時の顔が大きく映し出される。


 「グイイトじゃないか。」


 「確かにそうですよね。」「うん!」「ふぁぁぁ。」


 「エイプリル?」


 『はい。確認しました。グイイト本人に間違いありません。』


 「えっと、整理すると、グイイトは上納させている誰かから、あの魔法のアイテムを取り上げたかしたで、手に入れたという可能性があるね。もしくは誰かから、意図的に渡されたという可能性もね。

 ただ、それだと、儲け度外視の商売の妨害が腑に落ちないんだ。」


 「そうですよね。すると、グイイトはクロアロンに騙されているか、利用されているかですかね。」


 「そうだよね。エイプリル、グイイトの監視と、別宅の監視を継続。グイイトに接触してくる人物をしっかり追跡して。」


 『了解しました。それと、グイイトの屋敷の中の映像を獲得しました。ごらんになりますか?』


 「? 妙な言い回しだね。とりあえず、見せて。」


 壁面のモニターに映ったのは、薄暗い私室。箱みたいなベッドがあるから、グイイトの寝室なのだろう。光量の調整がされて、部屋の中が明るく映し出される。


 そこには、ズタズタにされた壁掛け。ほとんど役に立たなくなった状態の棚。足の折れたテーブルが壁にもたれかかっていた。壁には何かでひっかいた後のような線が無数に走っている。


 「部屋で暴れ回ってるのか?」


 『おそらく、痛みや不快感による発散行為だと推察されます。』


 「あんなになるまで暴れるもんなの? それほどひどい症状?」


 『おそらく、長期間に及ぶ苦痛のため、精神的な体力が枯渇しての行動だと思われます。』


 「精神的な体力って、言葉が矛盾してない?」


 『痛みに耐える場合には、体力を消耗します。また、不快感を我慢する場合も、肉体的な体力が高いほど安定する事が確認されています。個人差が大きいために、一概には言えませんが。』


 「ああ、なるほど、それで、精神的な体力か、わかった、ありがと。

 で、そう言う事だとすると、グイイトってのはかなりギリギリって事なのかな?」


 『グイイトの私室の映像ですが、こちらもご覧ください。』


 傷だらけの部屋の映像が動き、初めの位置からは見えなかった所が見えてきた。そこには、ポーションを入れるためにエイプリルが作って俺が配った、小さな瓶がかなりの数、散乱していた。


 「ポーションを大量購入して飲み続けていたのか。でも、ああいう、内臓に病気を持っている場合、ポーションだと一時的に体調が戻るぐらいしか効かなかったよねぇ。」


 「すると、アキラの痛み止め作戦はかなり有効ってことですね。」


 「だよねぇ。だけど、なんか哀れだね。」


 俺の言葉を聞いたとたん、レイミーが勢いよく立ち上がった。手にはしっかり剣が握られている。おそらく、グイイトに哀れみをかけた言葉が許せなかったんだろうね。


 「レイミー、落ち着いて。グイイトの状況が判っても、俺たちのやる事は変わってないよ。」


 全身に力が入って震えている。今にも飛び出しそうだけど、実は、俺と同じに、少しだけ哀れみを感じたのかも知れない。そんな自分に腹が立っているって所だと思う。


 「ルブロンダルでツーロ商会の妨害していたのも、ポーションの独占が目的でしょうか?」


 「うん、それが目的なら、儲け度外視のやり方も納得出来るね。」


 『艦長。別宅より盗み出した書類の分析は終了しています。』


 「あ、それがあったか。結果を教えて。」


 壁のモニターに書類1つ1つが映し出されていく。


 『書類は55種あり、内50種が、グイイトに従うように強要する類の誓約書でした。4種が借用証書で、グイイトは貸し付けも行っていたようです。残り1種は、それら全てをまとめた一覧表です。』


 「尻尾は押さえたかな? でも、正式文書なら、それを出しても犯罪って事にならなさそうだね。」


 「え? そうなんですか?」


 「例えば、その誓約書を書かせるために、手下を使って脅迫したとか、嫌がらせ工作をした、って証拠があれば別だろうけど、それは、存在しないクロアロンがやった、って事になってるしねぇ。クロアロンとグイイトの関係を証明出来なければ、グイイトは無関係として逃げ切れるわけだね。」


 「あんな魔法でクロアロンを作っていたってのは、証拠になりませんよね。とぼけられたら、どうしようもありませんし。」


 「実物持って行っても、グイイトがそれを使っていた証拠にはならないしね。」


 「うーん。それを言ったら、なにを証拠にしても、無駄って感じになりますねぇ。どうします?」


 「実は、あのエルダードラゴンを眠らせた精神魔法を使えば、自白させる事は出来るんだ。」


 「なんだ、そういう手があったんですか。なら、安心ですね。」


 「でも、昨日使ってみて判ったんだけど、これは、そう言う目的で使ってはいけない魔法なんだ。」


 「え? 眠れって言えば、痛みを感じないほど深い眠りになるんですよね? なら、真実を話せって言えばいいんじゃないんですか?」


 「そうなんだけど、例えば、まるっきり関係ない人間に、お前はこういう犯罪を犯してきたんだ、自首して反省しろ、死刑になるのなら、甘んじて受け入れろ、って命令を擦り込む事もできるんだ。

 そうすると、表面的には、犯罪を犯した事を悔やむ人間が自首してきた、としか見えないってわけだ。」


 「嘘を擦り込む事も出来るって事ですか? なんか、かなり危ない魔法ですね。国王とか大臣に魔法をかけて、円滑に国を乗っ取るとかも出来そうですね。」


 「そう。だから、これこそ、封印しないとならない魔法なんだと思う。」


 「グイイトもそれに近い魔法を使っていたんですよね。なにか、対抗手段が必要ですか?」


 「ああ、そうだった。グラウ? なにかある?」


 「もう少し具体的に言ってもらわんと、都合のいい知識は出せんぞ。」


 「うーん。じゃあ、かかってる精神魔法を解く魔法か、そのための道具は? あ、前に言っていた、魔法そのものを、使えなくする道具とかもあったら教えて。」


 「ふむ。その3つとも存在するな。」


 グラウの教えてくれた情報の1つ目は、

 精神魔法を解く魔法と、魔法効果を消す魔法。そしてしばらくの間魔法を起動させないようにする魔法。

 精神魔法を解く魔法はそのままだけど、魔法効果を消す魔法は、俺たちの使役獣をも消してしまう効果があったり、強ければ水晶の中の魔法力さえも消してしまう事が可能らしい。

 しばらく魔法が使えないってのは、妨害魔法としてよくゲームで見たヤツだろうね。

 そして、この3つの魔法はそれぞれの属性専用になっていて、火の魔法使いは火の魔法にしか影響を与えられないということだ。

 精神魔法ならそれを使える俺だけが妨害出来るってことになるが、元々俺は魔法属性に関して規格外的な感じなんで、他の属性の妨害も俺なら出来るだろう、って言われた。


 グラウの教えてくれた2つ目は、3つ目とかぶる内容だった。

 魔法を消し去る道具の方が万能に見えるけど、魔法そのものを起動させないようにする道具の方が消耗効率がいいってのは当然だね。でも、魔法がかかったまま近づいてくる、とかの対策にはならない。風魔法で作られた真空の刃を防ぐ事も出来ない。


 で、T.P.O.に合わせた使い分けが必要になる。


 俺たちなら、精神魔法に対抗する道具だけをアクセサリーにして装備するしかできない。


 城の中で、国王陛下を守る時は、部屋全体に精神魔法解除の道具、部屋の壁沿いに起動阻害の道具、王の近くには全魔法消去の道具という配置が考えられる。

 魔法消去で城全体を覆うってする方が理想だけど、王の近くだけという狭い範囲でも、水晶50個以上は必要になるので、コストパフォーマンス的にとんでもない話しだ。


 ちなみに、魔法力を込めた水晶は、使った分の魔法力を周りから取り込んで回復する事ができる。でも、この回復量を上回る使用をすると、中の力自体が減っていく。すると回復量も回復速度も減り、それを連続で繰り返すと最終的に魔法力は枯渇する。

 ゲートは、基本的に回復量だけで起動しているような感じだ。ポーション製作や通信機でさえ1つで賄えるのに、それを8個も必要とするのもそれだけ力を必要とする仕組みを枯渇させないようにするための処置だった。


 ゲートでさえ8個なのに、50個以上なんて、コストパフォーマンス悪すぎ。


 城に腕のいい魔法使いがあふれるまではお預けだね。


 魔法使いが犯罪を犯して、投獄される時などは、魔法使いの魔法力だけで起動する魔法消去の道具を使い、その後、魔法起動阻害の牢獄に入れるとかが理想だね。


 魔法起動阻害機能付きの手錠ってのもあったらしい。


 そこで俺は、ファイエーに頼んで、精神魔法阻害機能付きのアクセサリー、魔法起動阻害機能付きの手錠、魔法起動阻害の牢獄用の道具を作ってもらう事にした。アシスタントはガジェット。

 こういった道具は頑丈じゃないとマズイから、ガジェットの力を使って製作して貰う。ガジェットの目を中継してエイプリルにも手伝って貰うつもり。


 今日の夜中にはグイイトの隠し金庫と、ラッシュ城務大臣、エイブルズ荷役大臣、コンエンス税務主計長、ジルアル近衛隊隊長の上納金を盗み出す予定。


 ファイエーとガジェットには工作して貰うから、俺とレイミーとジェイの3人で5カ所を回らなくてはならない。場所を検討した結果は、俺がグイイト、レイミーがラッシュとエイブルズ、ジェイがコンエンスとジルアルを担当する事になった。


 ファイエーたち以外は、特にやる事は無くなってしまったが、レイミーは仮眠をとる時間まで剣を振ると言って外に出てしまった。俺とジェイは、グラウから聞き出した精神魔法の、嘘発見器を道具化出来ないか検討する事にした。

 これも、ファイエーに任せる案件なんだけど、時間的に余裕がないし、呪文の解析ぐらいは俺たちにも出来るようにしておきたい、ということでやってみる事にした。

 ファイエーの方の作業が終わったら、任せてちゃうけどね。


 で、


 エイプリルに手伝いを頼んだら、あっさりと完成。俺たちには理解していない部分も解析されちゃって、早速テストモデルを作ってみると言っていた。


 初めから丸投げでも良かったかも。


 自分たちの存在意義を考えながら、出来上がった嘘発見器を試す事になった。


 エイプリルの作った嘘発見器は、丸い水晶玉に呪文を刻むだけという単純な物だった。それに手を当てると白く光り、嘘を言うと白い光が赤くなるというもの。

 魔法力を込めて留めておくというモノじゃなく、手で触れた者の魔法力で光るという形式で、呪文を唱えて起動する魔法の、対象の選択や起動位置の設定を取り除いたシンプル設計だそうだ。


 試しに俺とジェイで交代で質問をし合い、作動を確認する事にしたが、プライベートな恥ずかしい体験を探り合うという修羅場に発展しそうになったため、こういう使い方は良くないよね、と、互いに牽制することになった。


 質問の仕方は、俺がテレビで見たバラエティ番組を参考に、全ていいえで応えてください、という形にしようとしたが、嘘だとしっかり赤く光るために、曖昧さをなくすためにはっきり質問しても大丈夫だということになった。


 水晶球を置く台座を石で作ってもらい見栄えを整え、これをワズムルの国王へ献上品として渡す事にする。これは、裁判で冤罪を防ぐのに役立ちそうだから、他の国にも数個ずつ渡す事にした。

 ただ、渡した後に、各国の大臣たちが投獄される可能性が高いという問題は、どうしようかと悩むけどね。


 そして、夕方になったので、ビスケットの上にチーズを乗せたおつまみをほんの少しだけ腹に入れて、夜中まで寝る事にした。

 メイにはファイエーへの食事や、夜になったら使う宇宙服の準備を頼んで、ベッドの中に潜り込む。ちょっと高めの温度設定の部屋の中で、ぬくぬくとした気持ちでしっかり眠れた。


 そして夜の0時ぐらい。メイに起こされ、それぞれシャワーを浴びて準備を済ませ、宇宙服に昆虫頭のヘルメットをしっかり装着し、ドラゴンのカバンを忘れずに持って、小型輸送艇を出た。


 外では3機のファイターが音もなく空中に待機しており、大きめの足場がついたワイヤーが下ろされていた。


 ワイヤーの足場に両足を乗せ、腰のリングホルダーに命綱代わりのフックを通し、レイミーとジェイの様子を確認する。2人とも俺のやった様子を真似てワイヤーにしっかり掴まった。


 「よし、行こう。」


 そして、音もなく浮かび上がったファイターに吊り下げられたまま、空中散歩という事になった。俺も含めて、空を飛ぶという感覚を直接味わう事に、ちょっと恐怖を感じる3人。

 ヘルメットの内部に映像が映るというタイプで、光量を調節した明るい景色が見える。そのため、夜中だというのに街の屋根の上を移動している様子が生々しく見えている。


 俺のグラウ、レイミーのリュウ、ジェイのスザクは、それぞれの主の横を悠々と飛んでいる。


 「これは凄いねぇ。かなり怖いし。」


 「ほ、ほん。ホントです、よ。」


 「ちょっと、楽しい。」


 3人の距離は20メートルぐらい離れているけど、ヘルメットの無線通信で隣にいるように話せる。ジェイはかなり怖がっているけど、レイミーは楽しんでいるようだ。遊園地の絶叫マシンで楽しむタイプだね。


 「窓から入る時は、ワイヤーごと中に入って、しっかり足をついてからフックを外してね。」


 「は、は、はい!」「判った。」


 ジェイが心配だ。いざという時に、スザクで飛んで逃げられるのかな? って勘ぐってしまう。一度、人気のない所で、それぞれの使役獣を全力運用とかした方がいいかもね。


 そして、目的地で3方向に分かれる。


 俺は5階のグイイトの執務室。窓の外から赤外線モードで中の様子を確認。とりあえず、部屋に誰もいないのを見てから、窓を開けたら、あっさり全部開いてしまった。ここからの侵入なんて考えてないから、せっかくあるかんぬきも使って無かったようだ。


 窓の中に降り立ち、ワイヤーを外に出してファイターには少し離れていて貰う。


 ヘルメット内の映像で明るく見えるので、迷うことなく目的の隠し戸棚に近寄る。ここでもまた赤外線映像で安全確認。ネズミさえ居ない隠し戸棚の中を確かめて、映像を明るい通常画面にもどした。目の前には1枚のタペストリー。国のマークが入った簡単な物だ。念のため魔法の感覚で調べてみるが、なにかの魔法がかかっているようには感じなかった。


 慎重にタペストリーごと扉を開けて、罠が作動するかとか警戒してみたが、何のリアクションもなかった。


 中には書類入れとしては大きめの箱が4つ。どれかが金で、後は書類って事だろうけど、全部を頂く事にしている。


 しまった! 猫目石と書いたカードを作ってくるのを忘れていた。


 画竜点睛を欠く、とはまさにこの事。カードを残さない泥棒は、ただの泥棒ですよ。猫目石だとあからさまなんで、虎目石とかにしようかな。鷹目石ってのもあったな。どんな石か知らないけど。


 とにかく、悩みながらも箱を全部ドラゴンのカバンに入れる。基本的には国の書類だけなんだろうけど、掘り出し物があるかも知れないからね。


 そして、一旦窓を閉めて、バイザーを上げてから真っ暗な部屋を見回す。魔法的にも何も感じない。

 光の呪文を唱えて、最小限度に押さえた灯りを作り出す。


 グイイトが使っているだろう、執務机の上、下、右、左、そして引き出しの中を探す。


 あった。ドラゴンドロップ、紋様入り。


 おそらく、ここからクロアロンとして指令を出していたんだな。もしかしたら、自宅にも同じセットがあるのかもね。


 とりあえず、これはこのままにしておく。持って行って逆探知されても困るし、同じセットがあったら、これを持って行っても意味がない。もし、このセットしか無かった場合、受信側を壊しているから、これが無事でも意味がない。よって、これはこのままにしておく。


 光魔法の灯りを消して、窓を開けてワイヤーを掴む。窓枠に座ってからワイヤーの足場に足をかけ、命綱のフックをかける。飛び降りる要領で窓から飛び出してぶら下がり、窓を閉めて終了。


 「ジェイとレイミーの状況は?」


 『問題なく遂行中。2人共予定の8割を消化済み。残り5分程度で出てくると推察されます。』


 「なら予定通りの位置で待機しよう。」


 『了解しました。』


 もしどちらかに問題が発生した場合、牽制行動を取れる位置で待機するのが俺の役目。牽制でどんな行動をとるのかは決まっていない。臨機応変って事で行き当たりばったり。

 まぁ、幻でも作って、別の場所に騒ぎを作るとか考えていたけどね。他にはどんな牽制がいいかな、とか考えている内に2人が吊り下げられて出てきた。


 「お待たせしました。」


 「お疲れ。問題無かった?」


 「はい。予定通りです。」「こっちも。」


 「よし。さっさと帰ろう。」


 来た時と同じように、街の屋根の上を飛んで小型輸送艇の場所まで戻ってきた。


 命綱のフックを外すと、ファイターは音もなく上昇して闇の中に消えていった。


 ヘルメットを取って、宇宙服の胸元をゆるめる。これで、しばらくは宇宙服を着る事もなくなるかな。そう思うと気が軽くなる。やっぱ、いろいろ圧迫感があるよねぇ。


 3人と使役獣とで小型輸送艇のスロープを上って中に入る。


 ビービービー! 『侵入警報!』


 いきなり警報が鳴り響いた。何かが入り込んだ? 何者か? 何物か?


 「エイプリル!」


 『入艇許可の無い者が小型輸送艇に侵入しました。排除行動を行います。』


 排除行動? 何をどうするんだ? って思ってたら。メイが拳銃と火炎放射器みたいな物を持って迫ってきた。


 メイ? 無茶しすぎじゃない?


 しかも、それをジェイに向けた!


 「え? 僕ですか?」


 「ジェイ? 本物のジェイか? レイミー! こっちへ!」


 「ほ、ほ、本物ですよぉぉ。」


 「本物なら安心していい。メイが持っているのは火炎放射器だ。本物のジェイなら、何ともないはずだ。」


 「ああ、それなら安心です。でも、銃の方は当たると痛そうですよね。」


 「それも、その服ならちょっと痛いだけで済む。ヘルメットがないと頭は無防備だけどね。」


 「ああ、メイさん。頭は狙わないでくださいね。」


 「あのジェイは本物みたいだね。じゃあ、侵入ってのはなんだろう。

 メイ。とりあえず、燃やしてみようか。」


 「ま、ま、待たんか! どうして、そう、忙しないんだ。」


 ジェイの方から第3者の声が聞こえてきた。声には聞き覚えが。


 「その声はユーン?」


 「そうだ。」


 そう言って、ジェイの足下から1匹のネズミが歩いて出てきた。それが1人の子供の姿に変わる。


 「いきなり燃やされるとは思わなかったぞ。」


 「隠れて入ろうとするから。まったく驚いたよ。ようこそ、ユーン。」


 俺のようこその言葉で、メイが銃を下ろしてお辞儀して戻っていった。軍の基準に準じているんだね。


 「怖い女中だな。未だに、どうして魔法力を持つのか判らんが。」


 「ああ、メイには先代の海の精霊が残した龍の宝珠というものが入ってるんだ。」


 「なんと言った? 先代の話を知っているのか? いや、そもそもなんで、龍の宝珠が女中などに、いや、いや、いや、先代が選んだ事なのか?」


 「まぁ、落ち着いて。」


 そして、俺たちは宇宙服を脱ぎ、ユーンにソファーを勧め、皆でお茶をしながら先日の海での出来事を簡単に説明していった。


 サハギンが今代の海の精霊を捕らえ、人魚を殺してその血で海の精霊を穢す計画を立てた事。その救出を大亀に依頼され、サハギンの洞窟で全壊寸前のメイを見つけた事を話していった。


 「そのような事があったのか。海の精霊が穢されずに、本当に良かった。この件、我らも礼を言わせてもらおう。」


 「人魚たちにもいっぱい礼を言われたから、もう充分だけどね。

 で、今度はこっちの質問。どうしてこっちに? なにか問題が発生した?」


 「いや。逆だな。すでに預かった薬は全て売り渡した。あの薬を受け取った後、昼前に渡したら、夕方前には必死の表情で追加を頼まれたぞ。あれほど食い付いてくるとは思わなかったな。

 で、薬の依存先であるカロイの安全は問題無さそうだったので、こちらの様子を見に来たのだ。金を盗みに入る事は聞いていたからな。

 だが、あのような不気味な出で立ちで来るとは思わなかったので、本当にお主たちなのか確かめるために隠れておったのだ。」


 「な、なるほど。エルダードラゴンにも不気味に見えるんだねぇ。」


 「夜中に真っ黒なあんなのが音もなく動いていたんだ。呪いでおかしくなったゴーストかもと思った。」


 「砂漠の昆虫人とかよりも不気味仕様だってのは判った。まぁ、見つかった場合の対策でわざとやってたんだけどね。」


 「砂漠の昆虫人? あれを見たのか?」


 「昆虫人が、モンスターを操ってこの国の南の領地にモンスターをけしかけたんだ。」


 「なに? そんな事があったのか。知らなかったぞ。」


 「ヘルハウンドやレギオンコング、ファングキャットとかを、多頭巨人が追い立てて、北上してきたんだ。全部で千ぐらい。」


 「そんなのが千もいたら、国の半分は無くなっていたのじゃないのか?」


 「対応したのがルーノス伯領とエンデ伯領で、ルーノス伯領の方は俺たちが魔法を教えておいたから、けっこう余裕で対応出来たらしい。エンデ伯領の方は俺たちが直接支援したしね。」


 「失伝していた魔法を教えたのか。」


 「うん。この国の全てに教えておきたいんだけどね。そのためにはグイイトみたいなのは排除しておきたいんだ。」


 「なるほど。その気持ちは良くわかるな。」


 「ルブロンダルやシャシルにも魔法を教えたり、便利な魔法の道具を渡したりしている。このワズムルは3カ国の内では一番最後になったけど、なんとかまとまって欲しいと思ってるよ。」


 「お主はいったい何を目指しているのだ?」


 「俺の目的は1つ。人がこの世界で強く生きられるようになって欲しいって事だけ。

 人と言っても、人間だけじゃなく、エルフも亜人も含めて、言葉を交わし、一緒に協力して何かを成し遂げる事が出来る相手全てを人として定義するけどね。」


 「ふむ。その人の定義に我らも入るのか?」


 「どうだろうね。人の定義を、入る、入らないってきっちり線引きするつもりはないよ。

 上位種のドラゴンなんて、基本は誰かと協力して何かを成し遂げるなんて、やらなくても充分に生きられる種族だもんね。でも、協力しなければ達成出来ない事があったら、そこから人になるんじゃないかな。そんな曖昧な区切りでいいと思う。」


 俺の頭の中には、人という字はぁ、っていう言葉が渦巻いてた。人という字は、人を横から見て、前屈みになって腕を斜め下に突き出した格好なんだよね。


 「ふっふっふ。はっははははは。面白いな。お主はこの世界を救おうと考えるか?」


 「いや。俺は、真反対の事だと思う。」


 「真反対? この世を滅ぼすのか?」


 「その可能性は有ると思う。人が強くなり、モンスターを駆逐するようになったら、人は増え、食料を多く必要とするようになり、家のために多くの木が切り倒されていくだろうね。それが際限なく行われたら、人が生きているだけで、この世は滅んじゃう。」


 「うむ。確かに、その懸念は大きいな。それがお主の目指している事か?」


 「強さとは、力だけじゃなく、知恵も含まれると思う。自分の首を自分で締め上げるような愚かさをしっかりと知って、それを回避する事を考える学問の場を作ろうと考えているんだ。

 森の木は、魔法力の根元を生み出しているのではないかと俺は考えている。これは検証が必要だけどね。で、家を建てるのは木が必要になるけど、それで森の木が減ったら、魔法が使えなくなって、怪我の治療も、火を焚く事も出来なくなる。だから、木を使わないで、家を建てる工夫を考えられるように、その研究の場を作りたいんだ。」


 「はっはは。やっぱり面白いな。それに、この世に生きるモノが、進んでいく方向という感じも受ける。お主が何をやり遂げるか、見てみたいと思うぞ。」


 「見物料は取らないから、じっくり見ていって。」


 そして、エルダードラゴンの風習や、普段の生活などを、お茶請け話として聞きながら、夜が更けていった。

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