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第四十八章 晃と火山 呼応

 その後のパニック振りはなかなかのものだった。反グイイト派は、この機に主導権を握ろうとするけど、頼りになる人物がリザードマンに取って代わってないか、と疑心暗鬼に陥り、なんの手だても打てないで固まってた。


 レイミー、じゃなく、ケイナは、家族と一緒に一室で落ち着いた話しをしているようだ。何故か、国王陛下も一緒にいるので、さらに一悶着ありそうな気配はしている。


 理由を知ってそうな王子は、城のとりまとめに忙しく、この機を逃さぬとニヤニヤしながら配置をいじっているようだ。

 大臣や隊長が居なくなった部署は、王子が目をつけていた人間を配置し、それ以外でも足りなくなった所にベテランを置くという理由で、余計な事を考えているのを別部署に異動させている。


 俺たちは4人バラバラになり、リザードマンに入れ替わった4人の部下たちを中心に、城中で光魔法を唱えまくっている。今のところ、リザードマンに入れ替わった者は発見されていないのだけが朗報か。


 城の通常業務も一時中断。城の出入り業者もリザードマンに入れ替わってないか、光魔法を強引に照らして確認している。これはガジェットが担当。大亀のシンを横に従え、2メートルを超える巨体で魔法を唱えているので、微かな文句の声さえしないそうだ。


 脅えさせてるんだねぇ。


 まぁ、混乱もなく進んでいるのはいい傾向か。


 今回出番の全くなかった、ワズムルの魔法師団は、普段から冷遇されているようだ。魔法に関してはなんの成果も発表出来ず、ただ、昔の文献を集め、翻訳することだけが仕事になっている。


 その翻訳も遅々として進まず、無駄飯食いの呼び名も高い。


 下手に魔法を使われるより、この方が良かったというのが俺の感想だけどね。集めた文献も、俺にとっては宝の宝庫のようだ。後で、制限無く見せて貰う約束は取り付けている。


 とりあえず、魔法師団には銀細工を出来る職人を呼んで貰って、魔法師団内で精神魔法に対抗できるアクセサリを作ってもらう事にした。


 光魔法を教える事も検討されたけど、今の状況で俺たち以外が魔法を使うと混乱すると予想された。教えるのなら、安全確認した後に一斉にってことに。


 そして、俺たちの光魔法による絨毯爆撃と、一通りの大臣が揃うのに3日かかった。


 俺たちから一応の安全宣言を出し、各部署から出た書類と報告の行き先が決まった時点で、事態は修復されたと王子が宣言し、城は平常運転という形を取り戻した。


 それからは、国にとっての一大事、俺たちとの関係を考えるという事になった。


 王子曰く、国を救った英雄として貴族位を与えたい、というお決まりのパターンから始まって、俺たちからの献上品、そして3つまでのゲートの設置協力と、これもまたお決まりのパターンで話しが進んでいった。


 俺たちは、言いたい事を言ったら、後は結果待ちとして、王子たちの会議の邪魔になるからと逃げだし、ようやく落ち着いて休む事が出来るようになった。


 向かうはレイミー、じゃなく、ケイナの所。


 ちょっと広めの一室に親子3人で仮住まいしているそうで、部屋の警護はあの捨てニャンコが担当していた。捨てニャンコは俺を見るといつも嫌そうな顔をする。嫌われたかな? 餌上げれば懐くかな?


 捨てニャンコに中との連絡をとってもらい、それから扉を開けて貰って中に入った。


 ケイナは国王陛下から貰ったというドレスを着ていて、親子3人プラス国王陛下と一緒にお茶をしていた。


 仕事しろよ国王!


 俺たち3人が加わったという事で、急遽、大きめのテーブルに移ってのお茶会に。


 城付きの小間使いの女性が淹れていったお茶を一口飲んで、ケイナの様子を伺う。なにか、落ち着きがない感じだ。


 「えっと、まずは、これをお渡ししておきます」


 俺はカバンからアルバン=シーエン名義の土地の権利書を取り出した。


 「エイプリルの調べで、名義変更手続きや、権利失効が発生していない事は確認しています。さらに、譲渡の書類も今のところ発見されては居ません。

 現在、グイイトが所有者であるという証拠はありません。

 これはアルバン=シーエンの物です」


 テーブルの中央に置いて、そう言い切った。法律が曖昧なこの世界、言い切った者の勝ちなんだよね。しかも、国王陛下の前。自動的に承認されているようなもんだしね。


 でも、なんか、微妙な雰囲気。喜ばないの?


 レイミー、じゃなく、ケイナが、テーブルの上に手を伸ばし、権利書を胸に当てる。


 「これは、わたしが引き継ぎます」


 国王と、母親の顔色がさえない。その反面、お姉さんは何ともない顔をしてる。


 「わたしは母さんの行動には、いいとも、悪いとも思っていない。でも、わたしは父さんと母さんの娘という事を貫きます」


 なるほど。ようやく判った。2人を保護した陛下が、お母さんを口説いちゃったわけだね。で、OKしちゃったって事かぁ。

 王子が言いたがらないはずだねぇ。あとで、王子をからかいに行こう。


 で、レイミー、じゃなく、ケイナは、それを良しとせず、自分の父親は死んだアルバンのみと、意地をはっているわけだ。


 「まぁ、レイミー、じゃなく、ケイナは、立派に独り立ちして、1人の一人前の大人として自立しているわけだし、親からは独立した考え方と行動をしても、別におかしく無いわけだしねぇ」


 おっと、つい声に出ちゃった。まぁ、続けちゃおう。


 「俺としては親子だから従わないとならない、って事は無いと思うし、従わなければ、親子の縁が切れるとかは無いと思うけどね」


 俺の言葉がきっかけなんだろう、レイミー、じゃなく、ケイナは勢いよく椅子を押して立ち上がった。


 「母さん。母さんは母さんの好きにしていいと思う。でも、わたしはケイナ=シーエンとして生きていきます」


 なんとなく、皆がこの結論になるだろうと思っていたようだ。最後の、親子の縁は無くならない、という部分が欲しかったんだろうな。


 後必要なのは、皆が納得する時間?


 「レイミー、じゃなく、ケイナ? 俺たちはこの後、兵士たちに魔法を教えに行こうと思うんだけど、時間があるのなら手伝ってくれないかな?」


 「ケイナじゃなく、レイミーでいい。わたしは、ケイナ・レイミー=シーエン。と名乗る事にします」


 「名前にしないで、ニックネームぐらいでいいんじゃないの?」


 レイミーは首を振った。


 「これは、わたしのケジメのクサビ。レイミーという名を失いたくないという願い。その願いをかけた、わたしの決意」


 シーエンを名乗る事に、そこまで決心してますよ、ってことかぁ。これ以上は余計な事を言うって感じになるね。


 「じゃあ、レイミー。下の、正門前の広場に、人を集めて貰うように頼んでくるから、準備が出来たら来て」


 「うん、判った」


 そして、俺たちは席を外す事にした。


 「これで、レイミーさんの問題も解決ですね。僕としては、レイミーさんをレイミーさんと呼べる事の方がホッとして居るんですけどね」


 「うん、それもあるけど、俺は、一番楽しみにしている事があるんだ」


 「楽しみですか?」


 「レイミーの本当のしゃべり口調がわかるかと思うと、ワクワクしちゃう」


 あ、ジェイがお腹抱えてうずくまってしまった。腹筋大丈夫?


 「そ、そ、それは、確かに、た、楽しみ、ですね」


 「ふぁうぅ。ひどいですよぉぉ」


 「ファイエー? 顔が笑ってるよ」


 慌てて顔を隠すファイエー。


 「ルブロンダルやシャシルにいた頃は、口数を少なくする程度で良かったけど、ワズムルだと、どこに自分を知る人がいるか、判らなかったからねぇ。

 わざわざ、本来の自分とは別のしゃべり方をして、ケイナ=シーエンというのを気付かせないようにしていた、ってのは判るんだけどね」


 「は、はい、そうですね。でも、けっこう露骨で唐突で、僕たちも面食らってましたからね」


 「まぁ、その誤魔化しも、全て必要無くなった訳だし、普通にしゃべってくれるだろうね。

 問題が1つだけあるけど」


 「? 問題ですか?」


 「極々、普通のしゃべり方だったら、つまんないと思わない?」


 「………、アキラぁ? ………、同意します」


 「ふぁぁぁぁ? ひどいですよぉぉぉ」


 俺とジェイは、ファイエーにポカポカ叩かれながら、小走りに騎士団長の所に走っていった。


 城の1階、兵士たちの詰め所になっている場所の奥に、騎士団の部屋があり、そのさらに奥に騎士団長の部屋がある。

 今回、親衛隊の隊長がリザードマンに潰されたので、今まで騎士団の団長の下でとりまとめをしていた騎士が、その親衛隊隊長の任に付く事になった。そのため、騎士団自体のとりまとめが混乱する事になっている。

 暇を見て、親衛隊隊長が助言に来てくれるそうだが、新しいとりまとめ役には、いささか荷が重すぎるらしい。とりまとめ役を4名にする案が、なし崩し的に実行されていて、それでようやく落ち着いてきたと言っていた。


 元のとりまとめ役って、すごく優秀だったんだねぇ。


 とにかく、その親衛隊隊長にも話しをして、兵士たちに魔法をしっかり教えなくてはならない。


 俺は、騎士団団長と話しをして、まず、第一陣としての兵士を集めて貰って、魔法教室を開く事に協力して貰う事にした。


 実は騎士団長も大臣格なので、あの場に居たらしい。レイミーの水の龍や、ファイエーの虎を見て、あれが魔法だと思っている所があるみたいだけど、まぁ、間違いじゃないし、とりあえず、その勘違いは置いておく事にした。


 そして、レイミーとガジェットと合流して、いつもの魔法教室を行った。


 俺たちの教え方で、習得率が変わる事も経験済みなので、ゆっくり、丁寧に実践して教える事にした。水の魔法の時は、レイミーのリュウを大きくして貰い、兵士たちの真上を優雅に漂わせ、火の魔法の時は、ジェイのスザクに舞って貰った。風の魔法の時は、ファイエーのライを、兵士たちの隙間を駆け抜けさせ、土魔法の時は、ガジェットのシンに四股を踏んで貰った。


 そのせいか、かなりの習得率で、魔法を使えるようになったようだ。


 そして、光魔法は、出来るだけ多くの灯りを兵士たちの真上に輝かせて、呪文を唱えて貰った。


 最後に治療魔法だけど、これだけは、1人1人に治療魔法をかけるわけにもいかず、とにかく呪文を唱えて貰った。それでも、かなりの数が習得できた。兵士職でも、治療魔法が起動できるのなら、上級職への取り上げも考えた方がいいと、騎士団長にも言っておいた。


 そして、魔法ガイドブックを渡して、第一陣の魔法教室は終わり。第二陣は明日、それ以後は、互いに教えあって、広めてくれと言って締めくくった。


 部屋へ戻る途中、王子の使いというのが来て、王子にも魔法を教えて欲しいという依頼が来た。


 特に断る理由もなく、王子をからかえるかな、という理由でさっそく向かう。


 場所は国王が要人とお茶したりする日当たりのいい部屋。そこに、王子と、親衛隊の騎士、そして、城の仕事をしているらしい男が3名ほどいた。


 「王子にはご機嫌麗しゅう。新しいお姉ちゃんには甘えましたか?」


 「お主、それを言う機会を、ずっと狙って居っただろう?」


 「はい。ここに滞在中に、一度は言わなければと、心に誓っておりました」


 「嫌な誓いを立てるな。さて、まずは座ろう。兵士たちに魔法を教えて貰った事、誠に感謝する」


 細かい彫り込みのある白いテーブルで、甘いお茶が淹れられた。


 「兵士たちから民間の戦士や傭兵に広まってもらって、人が強くなる事が出来ればいいと思ってやった事ですからね」


 そんな事を言って、いつもの語りに入ろうとしたら、足下を1匹のネズミが走り寄ってきた。


 「ネズミ?」


 王子がちょっと腰を浮かせた。


 「大丈夫ですよ。俺の知り合いです」


 「知り合い?」


 まさか、このネズミがエルダードラゴンとは思わないだろうな。


 ネズミは俺の足を上り、テーブルの上にちょこんと座った。そして俺に出されたお菓子を取って、器用につまんで食べ始めた。


 「お主の肩のフクロウのように、このネズミもしゃべるのか?」


 「ええ、今回は、殿下と陛下の護衛をして貰うために、城へ潜入して貰っていました」


 「なんと、このなりで護衛が出来るのか?」


 「まぁ、このネズミの姿は、変身した仮の姿ですから。本当の姿はご想像にお任せします。知らない方がいい事もありますよ」


 「う、む、そうか」


 ちょっと不満そうだけど、本当に知らない方がいいからねぇ。


 「それで、王子も魔法を習いたいと聞きましたが」


 「そうなのだ。我自身が魔法により強くなれば、それを民に示す事も出来るしな。それに、」


 「それに?」


 「うむ。実は、偶に夢を見るのだ。

 その夢では、小さな光が暗闇の中を漂い、行き場もなく、たった1人で寂しがっている、というような感情が感じられるのだ。

 そして、その夢を見た後は、決まってからだが怠く、心も疲れ切っているという状態になる。

 ここにいるのは、魔法は使えなくとも、魔力を感じる力はあるという者だ。この者に言わせると、夢を見た後は、我の魔力がすり減っているということでな。

 魔法をしっかり習えば、それにも対処出来るのでは無いかと考えたのだ」


 「その夢が、原因でしょうね。それを先に解決する必要がありそうですが」


 「うむ。だが、まこと夢の中の事でな。どうする事も出来ん」


 「どうやら、この坊主にも迷惑をかけたようじゃのう」


 いきなりテーブルの上に座るノームが現れた。ユーンなんか、ネズミの姿のまま、腰抜かしているようだ。


 「い、いきなりだね。ノーム」


 「の、ノーム? せ、精霊?」


 王子も、周りの取り巻きも目を丸くしている。小人で、ひげの生えた爺さんだから、危険は感じないのだろう。誰も剣には手をかけていない。


 「ずいぶん久しぶりな感じじゃな。で、あれはあるか?」


 現れたら要求してくるのは判ってるからねぇ。俺たちがチビチビやってるのと同じ種類のブランデーを2本ばかり取り出した。


 「判ってるのぉ」


 爺さんの顔で、思いっきり喜んでるよ。


 「で、王子の夢の原因って? やっぱり?」


 「そうじゃ。この坊主の中にも光の精霊の欠片が入っておる。それが、負担になっておるようじゃの。じゃが、この程度で済んで居るとは、なかなか器が大きいようじゃな」


 「それって、俺の立場がどうなるんだろう」


 「それじゃ、抜き出すぞ」


 あ、無視された。


 ノームが王子の胸に手を当てると、胸の奥から小さくても強い光が出てきた。それを俺の中に入れる。


 「坊主。今までご苦労じゃったな。これをやろう。今までの駄賃代わりだ。どんなモノかはこいつらに聞け。じゃあな」


 早く酒を飲みたい、ってのが判りやすい焦り方で、さっさと消えていってしまった。もう、慣れたけどね。


 「どういう事なんだ?」


 「説明しましょう」


 混乱している王子に、俺の知っている限りの事を話した。


 光の精霊は、その身をバラバラにして、世界に散っている事。欠片は人の身の中に入り込む事があるが、それは人にはかなり負担になる事。人の身に入ったまま、その人が呪いで殺される事があったら、その光の精霊の欠片も呪われてしまう事。ノームは、精霊を代表して、光の精霊を守っている事。そして、俺なら、光の精霊の欠片を入れておいても、負担にならないようなので、ノームが俺を金庫代わりにしている事を話した。


 「今まで、その光の欠片があったせいで、あの夢を見ていたのだな。お主の中に入って、寂しさも薄らいだというのであれば僥倖だ。ちと、寂しい気持ちもあるがな」


 「寂しいとまで言えるとは、確かに器が大きいですね。

 とりあえず、この指輪は、常に身に着けていてください。

 ノームが作った指輪で、特に強い力があるわけでは無いのですが、火、水、風、土の力を持っています。一瞬ではありますが、火傷をするような火に襲われても守られます。溺れる事もほとんど無いでしょう。大風の中でも、そよ風にしか感じないとなりますし、大地もまた、傷つけないようにとしてくるはずです」


 「ほほう、精霊の守りという物だな」


 「あまり強い力は持っていないようなので、自衛手段は必要みたいですけどね」


 それから、王子を含めての魔法教室。


 ノームの指輪のおかげか、王子は火、水、風、土にそこそこの適性を見せた。そして、一番の適性は光魔法。これほどの適性があるのならレーザー魔法もと思ったが、一応自重する事にした。


 さらに、治療魔法も起動させる事に成功し、熟練すれば立派な医者にもなれそうだった。


 その後は、さらにお決まりのパターン。この国の貴族たちからお茶会や食事会、遊技の誘いや、魔法についての相談事という名目で、お誘いの伝言や手紙があふれる事になった。

 どうせ取り込もうという下心満載だから、重要そうなのだけをピックアップしてくれとガジェットに頼んだら、一瞬で検索終了、該当件数ゼロ件、という見事な結果になった。


 そろそろ、国の方針ぐらいは出そうなんで、ルブロンダルとシャシルと連絡をとって、3カ国の通信機での交流を実現させようと、予定の調整に入った。

 まぁ、メイに頼んで向こうの通信係と話して貰っただけなんだけどね。


 その日の午後、いよいよ国王陛下からのお呼び出し。謁見の間にて、ありがたいお言葉と下賜があるらしい。

 なんか偉そうな言い方だな、と、伝言してきた騎士に言ったら、いきなり土下座されて謝られた。


 普段はこういう言葉を使わないとならない決まりだそうだ。


 まじで泣きながら謝られたんで、それ以上言えなかったけどね。


 そして、自分たちで勝手に行くから、迎えとかは要らないよ、と言ったら、さらに泣きながら戻っていった。

 仰々しいのは面倒だしねぇ。ここの国は、やたらとそういう形式を好むようだ。

 用があるなら、国王の方からこっちに来いと言いたいと言ったら、ジェイたちに思い切り止められた。


 でも、なんか納得いかない。


 なんだろう、モヤモヤする。このまま行きたくはないなぁ。


 「よし。散歩に出かけよう」


 「「「えー!」」」


 「ちょっと待ってください。謁見はどうするんです?」


 「気分が乗らないから、またの機会にしてくれ。って伝言する」


 自分でも、何を言ってるんだと言う気はするんだけど、このまま行ったら、話も出来ないほど気分が悪くなりそうだ。それはきっと、お互いのためにならないだろうから、ここは、一旦仕切り直すためにキャンセルしよう。


 俺の右肩にはグラウが乗っている。そして、左肩にはネズミ状態のユーンが乗ったままだ。


 ここは城の2階にある客間。このまま降りていったら、全力で止められるだろうねぇ。


 「ユーン。頼みがあるんだけど」


 「なんなりと聞こう」


 「? なんか変わった? まぁいいや、ここから出るのに力を貸して欲しいんだけど」


 「判った」


 なんか、大まじめな口調に変わったユーンが、ネズミの姿のまま窓から飛び出し、そして、全長40メートルという、元の姿の、エルダードラゴンに変わった。


 「俺は行くけど、皆はどうする?」


 ジェイたちは互いを見た後、ヤレヤレ、という顔でついてきた。


 窓に頭を横付けしたユーンの顔をよじ登り、首を伝って背中に到着。翼の動きに注意が必要だけど、ここが一番安定するだろうね。ガジェットも含めて、5人での逃避行だ。


 皆が背中に落ち着いた後、ユーンが首を巡らせて俺に聞いてきた。


 「どこに行く?」


 「とりあえず人のいない所に」


 その言葉で、ユーンは翼を強く羽ばたかせ、大きく空に舞い上がった。


 空の旅は快適と思える物だった。けど、俺の胸のモヤモヤはムカムカに代わり、気分は最悪、我慢してるんだけど、嫌な汗が出るし、身体も冷えてきている。


 「アキラ! どうしたんですか? 顔色が悪いですよ」


 「ああ、悪い、ほんと、気分が」


 「ユーンさん! アキラが、なにかおかしいようです。どこかに下ろしてください」


 急いで下ろしてくれた場所は、見覚えのある砂漠地帯。とりあえず人のいない南を目指していたようだ。


 身体を小さくして、馬の2倍程度の大きさになったユーンから、皆で滑り降りた。


 「エイプリル。バイタルチェック!」


 『急性疲労の兆候有り。直ぐに収容して、ポッドでのバイタル調整の必要があります』


 「いや。調整はいい。たぶん、ポッドじゃ、治せない種類のモノだと思う。

 急性疲労。そして、王子が話していた内容。光の精霊の欠片の受け取り。なら、やる事は1つだろう」


 俺は、自分の身体の事を無視するように、意識を魔法の力に向ける。


 やる事は1つ。エルダードラゴンの言う呼応。


 胸のムカムカでなかなか統一されない。無視する。身体なんか無視する。大事なのは外に広がる力!


 あの力の中に飛び込むんだ!


 そして、俺は、俺の居る世界を見下ろしていた。


 目の前に俺が居る。

 相変わらず、俺自身のイメージは明るい漆黒の宇宙。

 そして、その俺の宇宙の中には、4つの欠片が1つになった、小さいけれども強い光を放つ、多くの心をまとめた1つの意志。精霊の魂があった。


 俺の中の精霊に、外の力を注ぎ込んでやる。俺はそのパイプ役。


 ドラゴンたちに送り込んだ力よりも膨大な力を注ぎ込んでいくが、なかなか満腹にはならないようだ。だけど、脈動するような動きをするたびに、光はその強さを増していく。


 そして、俺自身という明るい漆黒の宇宙の中に、光の精霊という名の太陽が出来上がったように感じた。


 光が広がり、俺は俺の中に自然と戻っていく。


 「あ」


 ジェイたちの心配している顔が飛び込んできた。まるで赤ん坊のように膝を抱えて、横に寝ていたようだ。上半身を起こし、自分の胸を改めて感じてみる。


 異常なし。ムカムカも、モヤモヤもない。1つ、大きくため息をついた。


 「大丈夫。俺の中の光の精霊も落ち着いたようだ」


 全員の緊張が解けたようだ。


 「ビックリしました。結局、何がどうなったんです?」


 「王子の中にあった欠片は、外から力を吸収する事が担当だったみたいだね。それで王子を苦しめていたんだけど、それが俺の中でも発揮されちゃったらしい。

 なまじっか、王子よりも魔法力が大きかったせいで、どんどん吸収していったみたいだね」


 「それは、魔法力の枯渇ってだけでは済まない感じになったってことですか?」


 「たぶんね。で、俺は、魔法力を回復させる呼応ってのをやって、外の魔法力を直接、光の精霊の欠片に注ぎ込んだんだ」


 「すると、これからは定期的にそれを行わなければならないんですか?」


 「うーん。たぶん、もう充分なんじゃないのかな。今までは俺の中で、欠片というイメージだったんだけど、たっぷり注ぎ込んでからは、しっかりとした太陽というイメージになったしね」


 「太陽ですか。常に世界を照らし続ける光の塊ってことですか?」


 「そんな感じ。俺の中なら、地平線に沈むってこともなく、常に有り続けるしね」


 ジェイたちの後ろにはガジェットが控えている。もしもの時の護衛として、その位置に居るんだけど、もし俺に何かあったら、直ぐにでも割って入るという体勢も持っているようだ。そのガジェットに向けて、俺は叫んだ。


 「ノーム。どうなったか調べてくれ」


 「判った、判った。大声出すな」


 ガジェットに向かって言ったのに、いつの間にか真後ろに居た。


 「で、安定したのか?」


 「ふむ。お前さんの言うとおりじゃな。もう、吸われる事もないじゃろう。しかも、お前さんが力を無くした時に、かなり補ってくれそうじゃな」


 「そっか、まぁ補ってくれるってよりも、吸収されなくなっただけでありがたいね」


 「これからは、光の精霊の欠片が近くにあれば、勝手に寄ってくるじゃろう。

 もう、お前さんの中で、光の精霊はほぼ完成しているようなものじゃが、まだある欠片が可哀相じゃでな、できるだけ集めて貰いたいもんじゃ」


 そこで、ノームの言葉にジェイが気付いた。


 「完成ですか? すると、アキラは、僕たちみたいな精霊との関係ってことになるんですか?」


 「それは違うな。サラマンダーやシルフ、ウンディーネ、そしてわしは、お前らとは二人三脚のように肩を組んで歩いているようなものじゃ。

 行き先や歩き方を決めるのは、全て任せておるがの。

 じゃが、光の精霊は、こやつに背負われて行く事になる。しかも、こやつの背中にはまだ余裕があるんじゃ。こやつと肩を組める精霊などおらんのかものぉ」


 「アキラって」


 「あー、それについては、思い当たる節があるんだけどね。もともと、俺にはそんな器は無かったよ」


 「そうじゃろうな。まあよい。わしとしても、光の精霊の欠片を守る仕事が、かなり楽になるからのぉ。

 じゃあ、お前たちにはもう一仕事あるじゃろうて、わしは消える事にしよう」


 「もう一仕事?」


 俺たちが顔を見合わせた時、遠くの方から地響きが聞こえてきた。それが何か聞こうと思ったら、ノームはすでに消えていた。


 「何だと思う?」


 誰でもいいから、なにかヒント無いかなぁ? と思ったら、馬の2倍ほどの大きさになったまま、様子をじっと見ていたユーンが名乗りを上げた。


 「我が見てこよう」


 そう言い、翼を広げて飛び上がった。


 「なんか、かなり協力的に変わった様な気がするんだけど?」


 「ええ、そうですねぇ。王子の方もほったらかしっぽいですし」


 「そう言えば、グラウに飛んで行ってもらって確認して貰うっていう手もあったねぇ」


 「お主……」


 「神獣を使いっ走りにするか、エルダードラゴンを使いっ走りにするかで迷うなんて、なんて贅沢な悩みですか」


 そんな短いやり取りのうちにユーンが戻ってきた。


 「南から、モンスターの軍団と、2本足で走る大トカゲに騎乗した蟻のような者共が大挙して押し寄せてきている」


 「それで、この地響きかぁ。

 グラウ? あの昆虫人たちが北上して攻めてくる理由ってわかる?」


 「理由は無いと思うぞ。あれらは、数が増えれば周りに進行して土地を確保すると言う事を繰り返してきただけの虫じゃからな」


 「このままだと、また親方の所と、エンデ伯の所に被害が出ちゃいそうだねぇ」


 「我が、ブレスでもって、殲滅してこようか?」


 「殲滅するだけなら簡単なんだよね。でも、それだと、いつかまた攻めてくるってことになりそうなんだよねぇ。

 場当たり的すぎて、根本的な解決にはならないよね」


 「根本的な解決ですかぁ。でも、昆虫人に進撃をやめさせる事は出来そうもありませんしねぇ」


 「ガジェット。ここの地下には溶岩溜まりがあって、火山の卵みたいな状態らしいけど、それに火をつける事は出来るかな?」


 「推定ですが、力量的には絶対的に不足していると思われます」


 「俺が呼応でお前に力を注ぎ続ける。時間はある。駄目で元々、やってみよう」


 俺は、ガジェットの背中に手をついて、意識を飛ばし、力の世界に飛び込んだ。ここからだと、ガジェットの中のノームの力が良くわかる。


 「大雑把な仕事というのは、好きではないんじゃがのう」


 ノームのぼやきを直接聞きながら、そのノームに力を注ぎ込む。


 そして一瞬後、ガジェットから拒絶的な意志を感じ、俺は弾き飛ばされて、元の身体に戻った。


 「え?」


 力の世界だと、現実の世界は良く認識出来ないようだ。落ち着いてみてみると、目の前の地面が盛り上がって山になっている。かなりの地震も発生している。


 「これより、この周辺は爆発的な噴火が起こると思われます。緊急避難を提言します」


 なんか、いきなりの急展開。こっちと向こうの世界だと、時間感覚がおかしくなるようだ。


 「ユーン! またお願い」


 言い終わらないうちに俺たちの目で跪き、登りやすいようにしてくれた。


 ガジェットが最後に登り、ユーンが翼を広げた。大きく後退、その場から急いで離れる。


 そして、ようやく身体を元の大きさに戻したエルダードラゴンの背中で、帯状に火山が噴火するのを目の当たりにした。

 エルダードラゴンの速度でも、逃げ切れないのかと思うほどの速度で、火山の噴煙が大きく迫る。


 千度を超える煮えたぎる溶岩が飛び散り、噴煙の中で雷光が走り回る。細かい石が降り注ぎ、一部では黒い雨が降り始めた。


 俺たちは、かなり、とんでもない事をしてしまったのではないかという気持ちでいっぱいだった。


 人の出来る事の範疇を大きく超えている。


 天にも届くほど巻き上がる噴煙を見上げながら、俺は、俺の中の力の使い方を考えなければならないと、改めて思い知った。


 「また、やってはいけない事をしてしまったねぇ」


 「とんでもないですよね」


 皆も青い顔をしている。これが自然現象なら、平然と見てられるんだけど、自分のしでかした事だと思うとかなり落ち着かない。


 「ノーム。度々で悪いけど、相談に乗って欲しい」


 「なんじゃ、情けない声を出して」


 また、いきなり目の前に現れた。


 「俺は、人としては超えてはいけない事をしでかしてしまったんじゃないかと思うんだ」


 「よう判らんのぉ。なんの相談なんだか。

 だいたい、あの火山とて、あと2百年ぐらいしたら、自然と噴火しておったぞ。それを、ほんのちょっと早める事が出来たぐらいで、なにを偉そうに語っているんじゃか。

 お前さんの扱える力なぞ、まだまだ矮小の極みじゃ。

 人を超える力? もっと、とんでもない力を使ってから言ってこい」


 そう言うと、直ぐに消えていってしまった。


 「あー、何を悩んでたんだっけ?」


 「さぁ?」


 「大いなる自然の力ってのを、魔法として使っているけど、実は自然の力ってのを小さく見ていたのかもね」


 「2百年を、ほんのちょっとと言うぐらいですからねぇ。

 ちょっと不謹慎かも知れないと思っていたんですが、噴火した火を見て、僕の中のサラマンダーが喜んでいたんです」


 「わたしのぉ、シルフもぉ。はしゃいでいましたぁ」


 「自然にとっては、これほどの事でも、ちょっとしたお祭りって程度だったのかも知れませんね」


 「ああ、俺の悩みって、小さかったんだねぇ」


 それはそれで凹むよねぇ。皆も苦笑いしてる。


 「俺の事で振り回しちゃったけど、心配事も無くなったしワズムルへ帰ろうか。南からの進行も、魔法が行き渡るぐらいの時間は稼げたはずだしね」


 「精霊の事ですから、アキラだけの問題じゃありませんよ。

 それよりも、陛下にはどういう言い訳をします?」


 「ちょっとモンスター軍団が迫ってましたので、山作って来ました、ってのじゃ駄目?」


 「本当の事を言うと、頭がおかしくなったと思われる、ってのは悲しいですよねぇ」


 「ああ、今回は、何もかも思った通りに進まなかった。結果的には何とかまとまったけど、行き当たりばったりってだけで済ませた感じだ。これじゃ、まずいよねぇ」


 「アキラは、それでも、何とかしちゃうから凄いと思う。わたしだったら、きっと、前に進めないで居た」


 レイミーが俺を慰めてくれている?


 「何とかしたように見せかけているだけだと思うよ。そのしわ寄せは、きっと皆に向かう事になるんじゃないかな」


 「それを受けるために僕たちが居るんですよ。それがなければ、僕たちがついている意味も無くなっちゃいますからねぇ」


 なんか、ジェイが格好いい事言った。そこを突っ込もうかと思ったけど、目の前にはワズムルの城が見えていた。


 出た時と同じように、窓から侵入。


 エルダードラゴンの40メートルの身体は目立つよねぇ。入って落ち着く暇もなく、扉が叩かれた。


 来たのは親方。


 「おう! おめえら、どこに行ってたんだ?」


 「えーと、私事?」


 「なんだそりゃ。

 とにかく、おめえらのすっぽかしで、大臣たちはお冠と来た。どうする?

 それと、おめえらが乗っていた、あれは何だ?」


 「そうですね。大臣がいくら怒ろうとかまわないんですが、怒っているってんなら、俺たちは帰ると伝えてください。

 それと、俺たちが乗ってたのはエルダードラゴンです。ここに来る前に知り合いになりまして、いろいろと協力して貰っています」


 「…………」


 「親方?」


 「うっ」


 「大丈夫ですか?」


 「だ、大丈夫じゃねぇ」


 「あ、それと、たまたまなんですが、砂漠地帯に行った時、昆虫人の軍団が迫ってきたのを見つけました。そこで、砂漠の地下にあった火山の元を刺激して、あの周囲に火山噴火を起こしました。火山で壁が出来ている様な状態ですから、砂漠からの進行は、しばらく無くなると思います。

 ですが、いきなり火山が出来たんで、南の街には何らかの影響があるかも知れません。距離はあるんですが、それでも、気をつけてやってください」


 「………」


 「親方?」


 「そ、そうか」


 なんか、魂が抜け落ちたような顔をして、とぼとぼと帰っていった。大丈夫かな?


 それからしばらくして、いきなり王子がやってきた。かなり上機嫌で、いつもの大人びた言動も、子供らしいモノに戻っている。


 「いや、なかなか楽しかったぞ。実はわたしにも押さえられなかった大臣が居たのだが、お前たちの力を聞いて、その詫びをどうするのかという事で、詰まって居った」


 「そういう、有りもしないプライドで、上から目線でしかモノを見る事が出来ないのを、排除できたのかな? それとも、釘を刺しただけ?」


 「いやぁ、排除は出来なかったし、今はすべきでもないな。あれはまだ、役に立つ」


 「なら結構。使える物は使い切っちゃわないとね。」


 「まったくだ。それよりも、エルダードラゴンがいるそうだな。わたしも見たいぞ」


 子供だねぇ。でも、これぐらいの方が、自然で落ち着けるよねぇ。と、言う事で、俺は肩に乗っているネズミを王子の目の前につき出した。


 「このネズミは?」


 「エルダードラゴンが変身した姿です」


 「こ、これがか? 凄い、見上げるほど大きいと聞いたのに、こんなに小さくなるのか?」


 「ドラゴンの使う魔法は、俺たちの使うモノとは違うようです。人の使う魔法は、ドラゴンには使えないそうですけどね」


 そして、ユーンは王子の姿に変身した。


 「あ、わたしか?」


 「そうだよ、カロイ」


 「お、お前はユーンか?」


 「そう。我は、エルダードラゴン、ヴァロアスとルジルの子ヴェクァス、人より呼ばわれる時にはユーンと名乗る。我はエルダードラゴンのユーン」


 そう名乗ると、今度は全長3メートルサイズのエルダードラゴンに変身した。


 「大きさこそ、比べられぬほど小さいが、これが我の姿に一番近い」


 正体をばらすのって、別れの合図?


 「そうか、ドラゴンだったのかぁ。わたしは父上の落胤かと思っていた。」


 「そう思っていたのを利用させて貰った。すまなかった」


 「なんで謝る?」


 あ、気付いた?


 「我らエルダードラゴンは、精霊を敬い、精霊の加護の元に生きている。今まではカロイの中の精霊を見守る事しか出来なかったが、それも無事、終える事が出来た。これを機に、再び空に戻ろうと思う」


 「わたしの中に精霊がいたから、わたしの所にきたのか?」


 「しかり」


 「わたしの中に精霊が居なくなったので、行ってしまうのか?」


 「それもまた、しかり」


 「わたしの中に居た精霊が、この者の中に入ったから、この者についていくのか?」


 「この者たちには、別の件で、我が一族の者が命を救われた。それ故に、我が一族の長老への謁見が予定されている。その案内の役目はあるが、精霊のためではない。

 カロイ、あまり邪推はするな。お前はそのような人間ではないだろう」


 王子の目からは、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちていく。


 「わたしは、わたしは……」


 「泣くなカロイ。これが今生の別れというわけでもない。また、この地に立ち寄る事があれば、そなたを訪ねる事もある」


 「ほ。ほん、とうか? 本当に、本当に……」


 「別に嫌って出ていくのではない。だが人には人の生きる世界、ドラゴンにはドラゴンの生きる世界がある。2つは全く別のものであり、交わる事は難しいものである。それは仕方なき事」


 「うん、うん」


 「我も、この地に留まる事に、多少の無理を強いられていた。しばらくは羽を伸ばし、思い切りブレスを吐く事も必要としている」


 をいをい。


 「しばらくの別れぞ。人間は成長が早いという。お前の変わった姿を楽しみにして居るぞ」


 「うん………うん」


 王子は、ユーンの首の根本に抱きつき泣いている。その肩をユーンの翼が包み込んでいた。


 その晩は、ユーンがネズミの姿でカロイ王子の寝床に忍び込み、3メートルのドラゴンになって、カロイ王子が寝付くまで、いろいろな話しをしたそうだ。


 次の日は、朝から家具やら、服やら、装飾品やらが送り届けられて、それをどうするかで苦労する事になった。


 例の怒っていたという大臣の付け届けらしいけど、正直、鬱陶しいの一言だけってことで、届けてくれた使いっ走りに、「鬱陶しい」と伝えてくれ、としっかり言っておいた。次はどんな反応するんだろうねぇ。ちょっとだけ、楽しみ。


 家具なんかはどうしようもないから、廊下に置いておいて、欲しければ持っていって、と張り紙しておいた。

 服のほとんどは、舞踏会に着ていくようなドレスばかりだったけど、ほんの少しだけ一般的な服もあったため、一応貰っておいた。

 アクセサリー関係は、「何かにぃ使えるかもぉ知れませんねぇぇ」というファイエーの言葉で、全部貰った。

 女性を引き立たせる美しい装飾品、という運命は全う出来ないかもしれないねぇ。


 それから、陛下との謁見の準備が出来ています。という伝言が来たけど、「鬱陶しかったからパス!」と言って、魔法師団の所の本を読ませて貰う事にした。


 城の業務をかなり引っかき回している我儘、って意識はあるんだけど、今のままルブロンダルやシャシルと交流させるわけにはいかないような気がした。


 そして、魔法師団の図書館に向かった。規模としては小学校や中学校の図書室ってレベルだけど、それでも、他と比べたらかなりの量だった。

 城の文書保管庫としての役割も持つ図書室の方はもっと大きいけど、内容が雑多すぎて役に立つモノがほとんどない。まぁ、読めない本を公式の文書と同じ扱いすることは無いってことなんだろうけどね。


 そして、魔法師団の秘蔵図書を、手当たり次第にめくっていく。


 ガジェットも含めて、皆には読めない本と、起動出来そうな呪文の書いてある本を探して貰う。今までの傾向から、粗末な羊皮紙を束ねただけの物とかを優先して貰う事にした。


 そして出てきた読めない本が12冊。装丁がしっかり出来ている物が5冊、紙の束が5束、紙1枚だけってのが2枚出てきた。

 これでも、全体の5分の1とかで、ジェイたちはまだ本をめくっている。


 早速内容のチェック。装丁されていた本は望み薄かと思っていたけど、なんと、物理魔法の解説があった。

 そして、おそらくバラバラになって、1枚になったであろう羊皮紙には、紋章術式が1つ書いてあり、簡単だけどその解説も書いてあった。


 何という収穫。これは凄いよ。


 物理魔法の方は、単純に物を動かす魔法から、盾、浮揚の3つの魔法が詳しく解説されていた。

 書いてある内容としては、大昔には、この魔法で城を造り、荷馬車を浮かせて走らせ、街1つを覆う盾で、大嵐をしのいだと、言われている、と書いてあった。


 これが書かれた時点で、伝説だった?


 試しに、物を動かす呪文を唱えてみた。


 目の前にある本を、魔法の力で押す。


 すると、神経の通った腕が腕の先にあるように感じて、本を触った感覚まであった。

 掴む、というより、包み込むように本を持ち上げ、上下にも簡単に動かせた。文字通りのマジックハンドだねぇ。

 弱点としては、見えている範囲内限定という感じ。ある程度余裕は感じるけれど、物陰の物を触って確かめる事は出来なかった。


 これで剣を握って戦えば、リーチの差なんて無くなりそうだ。けど、目の前を塞がれたら剣を落としちゃう事にもなりそうだ。


 コタツから抜け出せない生活だと便利そうだけど、一瞬の隙をうかがう戦いの中では、使い勝手は悪そうだ。


 盾は文字通りの魔法のシールドを生み出すモノだ。


 盾を使う戦い方をするのなら、初めから盾を持ってれば良いんじゃない? とか考えるのは、ファンタジー成分が足りないのかなぁ。


 試しに唱えて盾を出現させてみた。と、言っても、盾は透明で、触った感じだと直径1メートル半ほどの円形シールドだった。

 透明な利点ってのは、敵に盾の位置を知られないってことぐらいなのかな。


 透明な盾を俺の横に配置して、ガジェットに殴って貰うことにした。強さは、直径30センチ程度の木をへし折るぐらい。まずは、それぐらいから始めよう。


 で、


 一撃で粉砕してしまった。


 確かに、雨を防ぐには良いかもね。


 最後に浮揚。英語で言うと、レビテーション。冒険の途中、落とし穴の罠にかからないとかの利点があるのかな?


 これもまた、試しに唱えてみた。術の最後に対象を指定するタイプだ。目の前にある本を入れる木箱を指定して起動した。


 そして、見事木箱はほんの少しだけ浮き上がり、押すと、すーっと滑っていった。


 おお! これは! って思ったけど、なんかおかしい。


 木箱は滑っていき、向こう側にあった箱に当たって、反動でこちらに戻ってきた。


 この動きは知っている。ゲームセンターに置いてある、実際に身体を使って遊ぶテーブル型のホッケーゲーム。エアホッケー。あの動きだ。


 つまり、浮き上がって、地面との摩擦が無くなっている状態。これって、人間にかけたら、ひっくり返り続けるんじゃない? 座っていれば問題無さそうだけど、自力で移動するとか、戦うとかは出来そうもない。


 人が入れるほどの鉄の箱にレビテーションをかけて、前方にシールド、それをマジックハンドで動かす、ってしたら、戦車代わりにはなりそうだけどね。


 この魔法、火や水の精霊系の魔法とは違い、重複起動が可能になっている。基本、起動させるまでで終わり、起動させた魔法を維持し続ける必要がない。

 その分、能力は固定で、レビテーションも決まった時間だけしか続かないし、途中で消すのも面倒になっている。重ねがけは出来るみたいだけどね。


 いろいろな意味で、使いどころが難しい呪文って感じだ。


 そして、羊皮紙2枚に書かれていたのは、魔法陣を使った魔法の強化だった。


 2枚には、それぞれ、自然系の魔法の強化と、神聖系魔法の強化の魔法陣が書かれていて、火、水、風、土、光、闇、物理、振動は自然系、治療魔法などは神聖系と区別され、魔法陣をしっかり記憶すれば、呪文によって陣を構築する事が出来ると書かれていた。

 精神魔法は、さらに別系統みたいだ。


 とにかく、試してみるために魔法陣を記憶する。意味のわからない文字の羅列とか、記号や図形が入り交じっていて、なかなかしっかり覚えられなかった。


 単純な暗記なら、何度も書き写すしかないよね。


 初めは何度も見直しながら描いていき、それが、見なくても描ける用になってからも続け、ようやく、目を閉じれば魔法陣の形をしっかり思い浮かべる事が出来るほどになった。その間、約一時間。ジェイたちの調査も終わって、追加の本を前に、俺の作業を見ていた。


 そして、いよいよ試験開始。しっかり記憶した魔法陣を思い浮かべながら、その魔法陣用の呪文を唱える。

 すると、俺の目の前に光で描いた魔法陣が描かれた。まるでアニメのようだ。

 その魔法陣の真ん中に手を当て、増幅する魔法を唱える。


 普通の魔法は、こんな部屋の中では危なくて使えないから、ここで起動させるのは、光魔法の幻を生み出す呪文。


 内容は、昨日見た火山噴火の様子を空から見たモノ。


 足の下の、さらに下方に火口が見え、頭の上の空の上には噴煙が高く伸び上がっている。


 「うわ。す、凄い。昨日見た光景ですね」


 「そうなんだけど、失敗したなぁ。これだと、強化したのかどうか、わかりにくいよねぇ」


 座っている椅子の感覚や、肘を置いたテーブルの間隔はあるのに、見た目では全く判らない。そこにあるのは、壮大な自然の景色だけだった。


 「いえ、なんか、細かい所まで鮮明に表現されているってのが判りますよ。強化してないのは、どことなく幻だなぁってのが判りましたからね」


 ジェイの意見に同意して、一度幻を消す。そして、また魔法陣を描き出し、同じ幻の呪文を唱える。

 内容は、俺自身を見えなくする幻。


 「俺の姿はどうなった?」


 「はい、綺麗に消えています。空いている椅子と、しっかりと向こう側の景色も見えます」


 ジェイがそう言っている間に、俺は立ち上がり、ジェイの真後ろにまで移動した。そこで幻を解く。


 「ジェイ!」


 ジェイの真後ろで肩に手をかけて呼びかける。


 本当に飛び上がるほど驚くって表現を目の当たりにしたよ。


 腰を抜かし描けているジェイを座らせ、元の椅子の位置に戻った。


 「強化すると、自分自身で動けるんだねぇ」


 「お、お、お、驚かせないでください。ほ、本当に、ビックリしましたぁ」


 「ごめん、ごめん、本当に見えなくなっているか、自分では判らなかったからね。

 で、使ってみて判った事がある。この魔法陣って、俺が使った呼応の廉価版って感じだ。たぶん、俺が魔法力を持ってくるあの世界から、これも力を引き出しているようだね」


 「ガジェットさんがアキラの呼応の力で、火山を噴火させた事と同じような感じって事ですか?」


 「まさしくそれだね。あの時は、俺が魔法陣の代わりをしたような感じかな。正確に言うと、かなり違っちゃうけど、大雑把にはそんな認識で良いと思う」


 「僕の火も、それで試してみたいですね」


 「うん。本当に、周りに誰もいない所でね」


 只でさえ人外認定の力を持っている皆がやったら、どんだけ増幅されるんだろう。怖いけど見てみたいってのはあるんだけどねぇ。


 魔法師団の図書室にあったのは、これ以外にも2つ、魔法の呪文の解説があったけど、火と土の魔法で、特に真新しいモノじゃなかった。


 魔法陣のシステム解析はエイプリルに頼み、皆には魔法陣を書き写したメモを渡した。しっかり覚えて貰わないとね。


 ガジェットに頼んで、今回読めた内容の翻訳文を作り、それを魔法師団の団員に渡す事にした。内容はともかく、この師団の財産だもんね。それをどうするのかはお任せするだけ。

 一度しっかりした翻訳文があれば、別のものも翻訳出来る可能性もあるし、「研究」も出来るようになるだろう。


 そして、魔法教室の第二陣を始めるために広場に行き、昨日と同じように神獣に舞って貰った。


 今回は魔法師団や、一般事務仕事の役人も多く参加して、一気に魔法人工が増えた。


 なかなか気分が良くなった所で、アポイントメント無しに陛下への謁見を申し出た。


 それも、謁見の間の入り口でいきなりの申し出。待たされるようなら帰るから、って言ったら、扉番の騎士が涙目になりながら取り次ぎに走っていたよ。


 俺って意地悪だったんだねぇ。思いっきり自覚はあったけどね。


 そして、程なく扉が開いて、俺たちは謁見の間に入っていった。目の前には国王陛下、隣には王子。両脇に並ぶ大臣たちは、心なしか息が荒い。きっと、走って来たんだねぇ。


 そして、俺から国王陛下への挨拶。


 「あ、こんちは~」


 いつもの調子で行かせてもらいました。

 がっくりと肩を落とす親方。


 「アキラ殿。今日もまた魔法を教えて頂いた事、感謝します」


 王子の方はしっかり受け答えしてくれた。よし、よし。


 「あ、ちょっとそこのテーブルを2つ、こっちに持ってきてください」


 俺は壁際で控えていた小間使いに、サイドテーブルらしき机を2つ、持って来てくれるように頼んだ。


 一瞬どうしていいか困って、陛下の方を見た小間使いが、王子の頷きを見てから行動をかいしした。


 陛下と王子の前に、テーブルを2つ並べ、俺はそこに通信機を2機出して、陛下の方に向けて並べた。


 「これは、ルブロンダルとシャシルに渡してある、対になる通信機です。

 通信機は、2つで1つになっていて、こちらの通信機の対はルブロンダル。こちらの通信機の対はシャシルに置いてあります。

 通信機には通常は通信係が着いていて、通信係同士で連絡を取り合っていますが、今回、今日この時間、ワズムルの王から通信を送ると言ってありますので、両国の国王陛下が直接会話に参加する事になっています」


 俺の言葉が、浸透するのを待つ。どういう事か、判るかなぁ? まぁ、判らなくても続けちゃうけどね。


 「では、通信機を起動させて、ルブロンダルとシャシルとつなげてみます」


 2つの通信機に魔力を通して、起動させる。


 直ぐに、目の前の水晶板に、馴染みの2人の顔が映った。


 「おう、アキラ殿、今日はワズムルらしいな。いつもながら素早いものだ」「まったくだ。たまにはこちらに来て落ち着いて貰いたいものだがな」「うむ、まったくだ」


 「またいろいろ見つけたんで、近いうちにお邪魔しますよ。

 では、ご紹介します。ワズムルの国王陛下と、王子殿下です」


 俺は身を引いて、通信機と陛下たちの間から横にずれた。


 「お、その姿は、まさしくルブロンダル王。10年ぶりであろうか?

 そして、こちらがシャシル王か、初めてお目にかかる。ワズムル国国王バイエスト=ワズムルと申します」


 そして、国王同士の話しが始まった。とは言っても、ルブロンダルとシャシルは幾度も話し合いをしており、ワズムルはその話の内容をひたすら聞くだけになっていた。


 「あー、陛下? そう言った事は、国のサイン入りの文書でやって貰った方が良いんじゃないかと思いますが?」


 あまりにも長引きそうだったんで、話の腰を折らせて貰った。


 「ああ、そうだな。まぁ、これからは親密な関係をゆっくり築いていけるわけだしな。遠くの見知らぬ国という訳でも無くなったのだから、焦る事もないだろう。」

 「アキラ殿は、例の計画を実行出来るようになったわけだな。こちらとしては、それが楽しみでな」


 「例の計画?」


 「なんだ、ワズムルには話してないのか?」


 「俺の計画と、この3カ国が緊密になるのは別の話ですからね。俺の計画に許可、不許可が出る前に、ゲートと通信機は揃えておこうと思いまして」


 「アキラ殿は相変わらずなのだな。安心した」「まったく、そこまで筋を通すのだから、こちらとしても頼もしいの一言に尽きる」


 「まぁ、ワズムルでも、良い印象を貰ってますんで、話しが変わる事も無いと思います」


 「そうか、それは楽しみだ。こちらではすでに調停書の準備は終わっておる」「こちらでも終わっているぞ。いつでもいい」


 「ありがとうございます」


 「ワズムルよ、アキラ殿を大事にした方が良いぞ、とんでもない事をするヤツらだからな」「アキラ殿とは、まだ話し合いが足りないようだな。しっかりと真意を聞き出し、しっかりと吟味するべきだな」


 そして、また後で話そう、と言う言葉で、初めての、周辺3カ国通信会談は終わった。


 いきなり始まって、いきなり終わったと言う感じで、大臣を始め国王陛下も呆けていたというのは、ここだけの話しにしておいた方がいいんだろうな。

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