第二十二章 晃とリザードマン 王妃救出
俺たちは街を出ると人気のない森を目指し、ちょうどいい広場を探して歩き回った。その間、エイプリルにインセクターを使って、両伯爵の所をいろいろ調べるように頼んだ。実際は俺の会話を聞いていたので、すでにインセクターを積んだ作業用ロボットを送り込んでいて、その確認だけですんだ。グッジョブだよねぇ。さすがはサポートコンピュータ。
森の中の広場に小型輸送艇を降ろしてもらい、4人全員で中に乗り込む。まずは移動する前にインセクターの映像チェックだ。
「右の壁に映っているのがミクマリス伯の領地、左がノウマ伯の領地の映像だ。
この空飛ぶ箱を持っている知り合いは、小さな虫を使役していて、その虫の目がここにつながっている。」
「さすがに今更とは思うんですが、もう、何から聞いたらいいか。」
「うん、諦めてくれ。自分の都合のいいように解釈して、便利に使ってくれ。」
4人で左右に分かれて、壁に映し出された映像をそれぞれチェックする。その壁に話しかけると、そのように動いてくれると言ってあるので、チェックしたい場所はどんどん切り替わっていく。
「ふぁぁぁいぃ。あのぉぉ、これはぁどういうことでぇしょうかぁぁ。」
ファイエーが鉱山の様子を映す画像を食い入るように見ていた。
「ファイエー? どこかおかしい? 俺には普通に鉱山と作業員たちに見えるけど。」
「えぇぇぇとぉ、働いてるぅ人たちってぇぇ、スプリガンの方たちではぁないでしょうかぁぁ?」
「え? スプリガン? あ、あの体形は確かに。」
背が低く、細身なのに、足がやたら大きい。ちょっと離れた所に居る人間体形の人物と比べても違いは明白にわかる。
「スプリガンってドワーフの一種だと言う話しも聞いた事があるし、鉱山にいてもおかしくは無いと思うけどね。」
「あ、待ってください。このスプリガンたちの服って、僕たちが訪ねた村の服に似ていますよね。しかもグローブ以外は、どう見ても鉱山で働くような格好には見えないんですが。」
「しかも、皆、あからさまに汚れてるのは、鉱山で働くのに慣れていないって事かな?」
「その可能性は大きいですね。」
「可能性、その一。
実は普通の鉱山で、スプリガンが出稼ぎに来ている。
可能性、その二。
徴兵されたはずのスプリガンが、鉱山で働かされている。
可能性、その三。
それ以外。
どれだと思う?」
「僕は徴兵されたスプリガンの可能性が大きいと思います。」
「徴兵されても、戦闘に向かない種族は、サポートとしてこういった作業をさせられるってことはあるかな?」
「普通ならありえないんですが、あの領主ならどうでしょうね。」
「鉱山で働く作業員を徴兵して、スプリガンを鉱山で働かせるとかって、やりそうだよねぇ。」
「あの領主なら・・・・・・。」
「とりあえず、これが徴兵した後の正式な作業なら、まずは置いておこう。できれば開放してやりたいけど、そのせいでスプリガンの村全部が刑罰の対象にされたらマズイからねぇ。」
「そうですね、悔しいけど、今はこのままですね。」
「うん。今は、徴兵された民間兵の訓練場所とかを探して、規模や人数を調べる方を優先しよう。」
そして念入りに調べたにも関わらず、訓練場所は見つからなかった。ミクマリス伯領だけじゃなく、ノウマ伯領にも。
「徴兵はしているのに、訓練もしていないでどこに人を置いているのでしょう?」
ジェイがやや焦りを込めて言ってきた。
「王国全部という訳ではなく、伯爵の領地ひとつなのに、どういうことなんだ。」
俺も焦った。これじゃ、徴兵された男たちが消えていなくなったってことだ。待ってる女たちが多くいるんだよ?
「この領地にある、鉱山や炭鉱、石切り場、とにかく、重労働な作業をする場所を重点的に表示してくれ。」
俺が空中に向かって叫ぶ。すると、全ての映像が変わった。しかも、人が多く作業している映像ばかりだった。
「どうやら、戦争を理由に人を集め、重労働させているだけだったようですね。」
ジェイが怒りのこもった声をにじませた。
「2人の領主は完全に結託していると見てよさそうだね。」
「ええ、でも、この2人の領主をどうしましょう。僕たちが倒すとか、捕まえるとかしても、僕たちが犯罪者扱いされて、領主は解放されて元通りという事になりそうです。」
「まず、そうなるね。たとえ今の領主を殺しても、後がまが同じ事するのも目に見えているしね。」
「どうします? アキラ?」
ジェイ? どうにかしてよアキラ、って言ってるでしょ? 確かに便利道具は持ってるけどね。どら焼きよりは今川焼きの方が好みだよ。
「ここは一つ、王女様に王権を使ってもらうしかないかも。」
エイプリルが用意してくれた、骨伝道スピーカー搭載の通信機を内緒で装備し、油性マジックで腕当てにカンニングの呪文を書いて、装備を整えた。腕当てのカンニング装備は、なぜか全員がする事になった。
そして小型輸送艇を出て、カイエルさんの屋敷に向かって歩き出した。
再びカイエルさんの屋敷に到着、呼び鈴を鳴らし、開けてもらうのを待つ。ちょっとだけ人通りがあるな。これぐらいはいつもの事だろうけど、ここは慎重に行こう。
「はい。どちら様でしょう。あ、これはアキラ殿。ようこそいらっしゃいました。」
「昨日の今日で申し訳ありませんが、再び石版を拝見したくお邪魔しました。よろしいでしょうか?」
ちょっとだけ大きい声で滑舌良く話す。俺の言葉に、はじめは何言ってんだコイツという目で見ていた使用人だけど、すぐに意図に気づいて返してきた。
「わかりました。旦那様の許可はありますので、どうぞお好きなだけご覧ください。」
そう言って、中に入れてくれた。
「すみません。ちょっと、人通りがあったもので、念のために警戒しました。」
「いえいえ、ご賢明な判断で感心いたしました。では、旦那様に伝えてきますので、暫しお待ちください。」
そして玄関ホールで待つこと数分、カップ麺もできない時間で戻ってきた使用人に王女のいる応接室に通された。
「いかがなされた? アキラ殿? これよりノウマ伯の領地に行かれる前のご挨拶ですかな?」
まだ、24時間も経ってないのだから、カイエルさんの言葉も当たり前だけどね、ちょっとのんびりはしてられないかな。
「実は、普段は隠していることなのですが、俺の知り合いに大魔法使いが居るんです。その魔法使いに頼んで、ノウマ伯領内とミクマリス伯領内をくまなく調べてもらいました。」
あぁ、どんどん、嘘に嘘を重ねる嘘スパイラルに沈んでいきそうなズブズブ感を感じるよ。
「アキラ殿が大魔法使いと称するとは、かなりのお方なのですね。」
王女様まで、感心してるよぉ。まぁ魔道師ではないだろうけど、魔法使いって言ってもいいかもね。
「ええ、ただ、調べるといっても、外から目で見る程度の観察しかできませんが。」
「それだけでもたいしたものだ。で、両伯爵領はどのような様子でしたかな?」
大魔法使いってことで納得してもらって、俺たちが昨日から今日の映像チェックで確認した状況を話していった。
戦争準備のための徴兵の訓練が行われていない事。
徴兵された男たちは、鉱山、炭鉱などで働かされていた事。
ノウマ伯とミクマリス伯のどちらも、まったく同じ状況だった事。
「信じられん。両伯爵がそんな事をしているなんて。
いや、アキラ殿たちの調べを否定するわけではありません。実は、この街を含め、周辺の街、村々で、そういった鉱物や燃料などの品薄が起こっておるのです。
確かに、そういった物は戦争用の資材としては大切ではありますが、剣や矢じり、金具や釘などにならなければ意味はありませんので。ですが、しかし、そういった物は鍛冶屋などに石や燃料が出回ったほうが、よりよく供給する物なのです。鉱山で石の採掘が多く行われているにもかかわらず、出回っていないというのは明らかな矛盾になります。」
「鉱山の近くに炉が作られているという所もありませんでした。この国では、鉱石をどこかと取引して商売していますか?」
「え? いや、シャシル王国においては金、銀、銅、鉄の国外への大量持ち出しは原則禁止になっています。個人の持ち物までは関与しないのですが、商取引で大量にとなると、それだけで刑罰の対象になる場合もあります。
そもそも、鉱山などのほとんどは国の管轄で、領主はそれを借りているという扱いになっているはずですので。ですが、その領主が国と結託しえいるとなると、他国へ、というのもありそうな話しですな。」
「つまり、どこかの国の工作員とかに、国の重臣や領主までもが踊らされている、という可能性もあるかも知れないというわけですね。まぁ、踊った時点で反逆罪確定なんですが。」
「可能性はありますな。だが、もう、その工作員をどうにかしても元には戻らないでしょう。」
「ええ、領主や国の重臣たちをどうにかしないとならないでしょうね。それと、王妃様はどこに幽閉されているのですか?」
「王妃は、ここミクマリス伯領とは、王都を挟んで反対側にあたる、レノド伯の領地に居られるという話だが、その話し以外には確認は取れていない状況です。」
口の中だけで、鼻から息が抜けるようにして、エイプリルを呼んでみる。
『了解しました。インセクターを向かわせます。』
頭蓋骨の中だけで聞こえる感じで、はっきりとエイプリルが返してきた。
「殿下、カイエル殿、俺たちはこれからすぐに王妃様の救出に向かおうと思います。王妃様を無事ここにお連れしましたら、王女殿下にはミクマリス伯への討伐の兵を挙げて頂きたいと願います。」
「兵と言っても、どれだけ集まるか、それより、殿下にそのような、」
「いえ、その申し出を受けましょう。母上様さえご無事でしたら、私も王族の娘としての義務を果たせます。
今までは、母上様が心配で、大きな名乗りを上げることが母上様の身の上にどのように関わるかと思い、決心が鈍っていたのものです。どうか、母上様をよろしくお願いします。」
「殿下・・・。どちらにせよ、王妃殿下の身の上の心配もあります。できるだけ良い早馬を用意しましょう。どんなに早く到達しても10日はかかりますが、戦争が始まる心配がないので、余計な時間はあまり掛からないと思われます。」
「馬はけっこうです。こちらで用意します。では、すぐにでも向かいます。」
「どうか、母上様をお願いします。」
王女殿下が、さらにお願いしてきた。お姫様のお願いってのは、なかなかいいね。
部屋を出て扉を閉める時に、
「早ければ明日の夕方にはお連れできるかも知れません。」
そう言って扉を閉めた。お姫様のお願いで調子に乗ってしまったってのは、皆にばれてたけどね。
急ぎ足で元の森の中に戻る。その移動中に、皆に足りていないものとか、必要になりそうなモノを聞いてみる。
「できればぁ、光の幻の魔法をぉ道具にしてみたいんですがぁ、呪文の形式がぁよぉく判っていないのでぇあきらめますぅ。でもぉ、痺れる結界はぁ作っておきたいのでぇ、何とかなりませんかねぇぇ?」
たしか、銀のプレートに磁石化した鉄鉱石をはめてたっけかな。磁鉄鉱なのかどうかは判らなかったけど、永久磁石とかで代用できるかなぁ。
『艦長。銀のプレートは純度92パーセントのモノを用意してあります。磁性のある物に関しては、ネオジム磁石を用意できます。』
密かにエイプリルが言ってきた。ネオジム磁石ってなんだったっけ? 聞いた事あるんだけど。
「OK,何セットある?」
『すぐにお渡しできるのは12セットになります。』
「それと、銀のプレートに紋様を刻み込むのに仕えそうな工具とかあったら、一緒にお願い。」
『了解しました。』
そして、森の中の広場に到着し、上から降りてくる小型輸送艇を待って、艇内に乗り込んだ。
艇内には新たな荷物。かなり堅い段ボール箱の中に、銀のプレートが一枚一枚薄いフェルトのような紙に包まれ、その銀色の反射光をちらちらと見せていた。ほとんど鏡だ。傷一つないってのはやりすぎたんじゃない?
そしてもう一つ。銀のプレートを包んでいる紙よりもさらに分厚いフェルトのような紙に包まれて、500円玉を10枚ぐらい重ねた感じの、円筒形の金属があった。
「銀のプレートと、鉄にくっつくという磁石の石だね。」
ファイエーを呼んで、箱の中を見せる。
ファイエーに見せた時に、箱の横に小さめの工具箱があったのを見つけた。中を開けてみると、大工道具を金属にして小さくしたような物が入っていた。
「ファイエー、これ使える?」
「ふわぁぁぁ、これもまたぁ、綺麗な道具ですねぇぇぇ。わたしがぁ使ってもぉいいんでしょうかぁぁ?」
「気に入ったのならあげるから、好きなように使って。それから、磁石の方はあれで使えるかな?」
一つを取り出してみる。金属の棒を3センチぐらい切り取ったという感じの塊で、けっこう重く感じる。実際に持ってみると、魔法力はほとんど感じられない。
「ファイエー、これに風、特に雷になるぐらいの精霊の力を注ぎこめる? 持ってみた感じだと精霊の力はほとんど感じないけど。」
「ふぁぁい、やってみますねぇぇ。」
ちょっと気軽に受けて、そのまま指輪をはめた手でネオジム磁石というものを握って集中し始めた。
自分の純粋な魔法力ではなく、風魔法に変えた力を集中する。風魔法を使うよりも難しく、本来ならばかなりの熟練にでもならないとできないはずなんだけど、指輪に宿った精霊にそれを肩代わりしてもらう事でできるようにしてもらっている。しかも、自分が使った魔法力よりも強い力でできるので、かなりの魔法力を宿した石になってくれる。
「はぁぁい、できましたぁぁ。はじめはぁ、あまり受け入れてはくれなかったんですがぁ、すぐに打ち解けてくれてぇ、とてもいい子になりましたよぉぉ。」
上出来ってことかな? いい感じにできたってことだよね。
できばえを見たくって、貸して貰おうと手を伸ばした。それとファイエーがこちらに渡そうと手を伸ばしてきたのとかち合う。
で、落っことしちゃった。テヘ。
床をコロコロと転がり、ソファーの下へ。ジェイたちも様子を見ていたので、すぐに拾ってくれようとソファーを覗き込んでいた。
あ、俺のナイフってステンレス鋼だから磁石に引っ付くんだったよね。これにくっつけて引きずり出すか。
覗き込んでいたジェイにどいてもらって、ナイフを抜き、ソファーの下に突き出す。
カチッ
確実にくっついた音がした。ナイフの刃は危ないな。ちょっと考えなしだったかな? とにかく、刃を気をつけて磁石を剥がそう。
で、取れなかった。orz
「と、取れない・・・。」
工具箱に入っていた大型のペンチで磁石を挟んで、ナイフを力任せにひねっても取れない。
机の角に磁石を引っ掛けて、ナイフに全体重をかけても取れない。
「これって、人間の力じゃ取れないんじゃ・・・。」
ってところで思い出した。ネオジム磁石ってレアメタルで作る最強の磁石とか言われてなかったっけ?
口の中で密かにエイプリルに尋ねてみた。
「エイプリルの方で、剥がす事ってできる?」
『可能と思われますが、場合によってはナイフを傷つけてしまう可能性があります。』
「それは仕方ないね。ここにおいて置くから、あとはよろしくね。」
『了解しました。』
そして、今度はファイエーに謝らないと・・・。
「ごめん。磁石として強力すぎて、俺たちの力じゃ剥がせなくなった。これはこのままじゃ使えなくなっちゃったから、もう一つ作る方向でお願いします。」
「わたしもぉ迂闊でしたのでぇしょうがないと思いますぅ。でもぉ凄いぃ磁石ですねぇぇ。」
ホント凄いね、後で海岸で砂鉄を集めるのに使ってみようかな。確か日本刀の材料だったはず、鍛冶屋の研究に役立ちそうだよねぇ。
そしてファイエーはテーブルの上でトンカントンカンやり始めた。俺たちはあまり集中を邪魔しないように離れて座り、時おり飲み物やつまむものを差し入れしながら、王妃の幽閉されている場所をインセクターの映像で探していた。
レノド伯の領地は山脈の麓にあるという感じになっていて、西側は天然の城壁になっている。まぁ切り立った岩でできているわけではないので、そちらの方に小型輸送艇を着陸させて進入しようと考えている。この考えはレイミーもジェイも賛成してくれた。当然警戒はされているだろうけど、そこ以外はもっと警戒されているだろうし、見つかりやすいはずだ。
屋敷はどちらかというと城を想像させるような石造りで、見張り台としての尖塔もいくつかあった。レイミーによると、西の山脈の向こうは亜人が住む地方になっていて、あまり人間とは仲が良くないらしい。それで、亜人を警戒する意味で、要塞のような屋敷になっているのだろう、とのことだった。
亜人に関しては詳しくは知らないようで、人間とのコミュニケーションは可能ではあるけれど姿はかなり違う。言葉やその考え方、生活習慣の違いから戦いになる状況が多いらしい。
あのサイクロプスも、分類的には亜人だとする見方もあるらしいが、人によっては意見がちがうそうだ。でも、山脈を越え、北の山伝いに移動したサイクロプスが、あの村に生贄を求めていたのかも知れないとレイミーは考えているそうだ。
そういう状況なので、レノド伯の屋敷は守りが堅く、簡単に忍び込むということは不可能なようだ。幻覚魔法で自分自身を透明に、というのも考えられ、ちょっとやってみようと試したところ、かなり使い勝手が悪く、自分の仲間を透明にしている間は自分自身が動けないという弱点が出てきた。最悪、交代で使うしかないか、という話にはなったが、実際はあまり使わないだろうな、って感じだった。
インセクターの情報を元に、王妃の幽閉されている部屋を中心とした地図が出来上がった。作戦としては、まず王妃に脱出のための準備をしてもらうように書いたメモをインセクターに持って行ってもらい、王妃の準備が出来次第、俺が屋敷の正面にモンスターの映像を投影。さらに、炎や風、土の魔法を無遠慮に使いまくり、屋敷の兵を誘い出す。その混乱の隙にジェイたちが侵入、できれば殺さない方向で、でもやばそうなら遠慮のない魔法攻撃で突き進み、王妃を確保。そのまま脱出するという、大雑把なものになった。
「情報が大事とか、偉そうな事言ったけど、これは、情報無しの行き当たりばったりの作戦になっちゃったねぇ。もう、作戦とも言えないか。」
「でも、これ以上は計画していても足並みが揃わないと思います。計画をもっと緻密にしたら、そのせいで失敗という事もありそうです。」
無線通信機も時刻合わせの時計もなかったんだ。皆には渡してもいいような気もするけど、それに慣れちゃうのも考え物だしね。ちなみに時計は、一日の長さが20分弱ほど長くなっているために作り直さなければ使い物にならないそうだ。エイプリルは自分の持つ時計とこの世界の時刻をきっちり計算して使い分けてるみたいだけどね。
「じゃあ、表で騒ぎを起こすから、そのうちに裏から救出しちゃおう大作戦は、そんな感じで行こう。」
「それって、作戦名ですか?」
「判りやすい方がいいよね?」
「まんまですもんねぇ。」
そんなおバカな話し合いをしている内に、ファイエーの作業が終わったようだ。
「炉がぁ無かったのでぇ簡単なぁ組み合わせ型にしましたぁ。石のはまっているプレートを、もう一つのプレートの上に置けばぁ起動しますぅ。そしてぇ別の4枚でぇ範囲とぉ道筋をぉ決めますぅ。」
起動するメインを出発点に、4枚のプレートを円形に配置すると囲む結界状に、一直線に置くと一枚の壁のように使えるそうだ。ただ、できれば円形配置が望ましいらしい。
ファイエーは2セット作って、そのうちの1セットを俺が持つことになった。もう1セットは扱いなれたファイエーが持つことにして、その運用は3人で相談しながら、となった。
「やっぱり、いつの間にか、現地に到着しているんですね。」
小型輸送艇から降りたジェイの一言は、当然聞こえない振りをした。しっかり耳を塞いで、聞こえなーい。って言ったから本当に聞こえなかったよ。
「あのぉ、このぉ空飛ぶ箱にぃ、結界を張っておくとかしなくていいんでしょうか?」
「いや、それはもったいないね。コイツはやばそうならさっさと飛んで逃げるから心配ないよ。俺たちがドジって、王妃を連れて街の方に移動したとかなっても、ちゃんと俺たちを迎えに来てくれるから安心していい。基本は自分を大事にって事で行こう。」
そして俺は3人と別れ、大回りで屋敷の正面に出るために走った。周りは白樺のような背の高い木がまっすぐに伸びていて、枝葉も上の方にあり、派手に動くと見つかる危険があった。時間は3時ごろ? って感じで、まだ暗くなるのは時間が掛かりそうだ。暗くなればこちらも動きを制限される。明かりの魔法はあるけど、こちらを目立たせてしまうという弱点付きだ。
そして、レノド伯の屋敷と街とをつなぐ道に出て、ここから陽動の攻撃をかけることにした。胸ポケットからエイプリルに手伝ってもらって書いた、この地方の文字での王妃宛のメモを軽く持って腕を横に伸ばした。
パシッ
大きさは3センチほど、薄緑色の昆虫らしきものが、かすかな羽音を立てながらメモを咥えて飛び去っていった。
あれが潜入工作用のインセクターかぁ。初めて見た。その映像はお世話になってるのにねぇ。
そして暫し瞑想。どんな幻ならバレないでおびき寄せることができるだろうかと考える。幻は嘘だとバレたらお仕舞いだよね。魔法は結果を想像しないとならないため、使えるのは一度に一つ。攻撃魔法をぶち込むには、幻を一度消さなくちゃならない。その状況が不自然だとマズイんだよね。
そしてエイプリルが、王妃がメモを読んで、準備を始めたと伝えてきた。俺が始めて兵が動けば、ジェイたちが突入することになる。ここで始めてしまってもかまわないか? ジェイたちを戦いで死なせてしまうことにならないか? そんな不安が胸を圧迫する。
信じよう。ジェイは何も言わなくても気を回して色々やってくれる。レイミーは実は良く見ていて、いつも俺の不足を補ってくる。ファイエーは言葉使いだけは間延びしているけど、行動はすばやい。あの3人なら大丈夫。それぞれ、ポーションも持っているはず。精霊の宿ったアイテムを持っていて、力も強くなっている。
信じよう。大丈夫。
もう一度心の中で唱えて、心の奥に喝を入れる。
そして身を低くして走り出した。
土魔法。地面の下の空間を、地面の表面を残したままごっそりと消滅させる。
残った地面の表面が、地響きを立てて崩れ落ちる。
ドドドドドっとかなりの規模になった。
陥没した穴に飛び込んで身を隠す。そしてまた地面を残して中を消滅させ、地響き付きの大陥没を起こさせる。
さらにもう一回。
そして幻覚魔法に切り替え。間違わないように腕のアンチョコを見ながら唱えて、陥没した穴から伸び上がる巨大ミミズの化け物を映し出した。
ミミズというよりはヤツメウナギに近い感じで、口は丸く円形に牙が生えている。口というのは上下に噛み合わされるという常識に逆らう嫌悪感を生み出す形でもあるね。
そして周囲を見回してから領主の屋敷を見つめるように動かし、その口を開かせて屋敷の兵に見せ付ける。
あのミミズがどこで見ているんだ? ってのは考えない事にする。屋敷の兵をできるだけおびき出さないとならないんだからね。
ある程度威嚇は成功かな、という所でミミズが自分の意思で地面に潜るような動きをさせる。完全に潜ったという感じになったら幻覚魔法を解除。そしてまた、地面の表面を残してその下を消去。ミミズが地面の下を、穴を掘りながら進んでいるように感じるようにと祈りながら、地響きを作っていく。4~5回やったところで、また巨大ミミズの幻覚を出して、周囲を見回し屋敷に威嚇、というのを繰り返していく。
精神的にかなり疲れるし、面倒くさいってのもあるけど、時間稼ぎのためには我慢しかないね。そろそろ火弾でも投げつけてみようかな。ミミズが出したって思わせるようには、どうしたらいいかなぁ。
ピーピー
明らかな電子音がして、エイプリルが話しかけてきた。
『大変申し訳ありません。作戦において不都合が生じると思われる事案が発生しました。』
エイプリルのこんなセリフ、聞く事になるとは思わなかったな。
ミミズを地面に潜らせて魔法を解除。
「めずらしいね。どうしたのかな?」
『王妃であると推定していた人物が、レノド伯と協力関係にあると推察される行動をとっています。
王妃の幽閉部屋の周囲にレノド伯の兵が25名待機、部屋に続く廊下にも2階に12名、1階に8名配置され待ち構えているようです。』
「もしかして、王妃と思っていたのは別の人だったとか?」
『可能性は大きいと推察されます。別の可能性としては脅迫によって行動を束縛されているという状況も推察されます。』
「ああ、別の所にいる王女が酷い目に合うよ、とか言われてるかもね。一応、別人の場合を考えて、本物がどこにいるか探してもらえないかな。それと、ジェイたちの様子は?」
『現在裏口より進入のタイミングを計っています。・・・、ただいま進入を開始しました。周囲警戒の兵が正面に移動したのが原因と思われます。』
「それって、おびき出されたって言うよね。」
『艦長の陽動にかかったという見方もありますが、・・・・・・・・・、地下の牢獄に囚われている女性を発見しました。後ろ手に縛られ猿ぐつわによって拘禁されています。』
ここでちょっと考える。ジェイたちには戻って欲しいけど、絶対的に人手が足りない。メモ用紙を取り出し、ジェイに読める方の文字でってエイプリルに頼んで「撤退! アキラ」という文字を空中に映してもらって、それをメモに書き写した。
「エイプリル。これを俺が地下の女性を救出して脱出するタイミングでジェイたちに渡してくれ。」
『了解しました。表の陽動作戦はこちらで代行させてもらいます。』
「ああ、くれぐれも殺さず、派手に頼むよ。」
そう言って、屋敷とは反対の街の方向に向かって穴から飛び出し、再び大回りで屋敷の側面に回りこむ。ジェイたちとは反対側だ。
エイプリルが代わってくれた陽動は、高熱プラズマ弾を最低温度で地表をえぐるというものだった。水の中で爆弾が爆発した時のような水柱的な土柱? ができて、地面を沸騰させていく。
巨大ミミズの襲撃が一転、地獄が目の前に現れたような状況だね。
屋敷の外壁に辿り着き、目立たない潅木の裏に土魔法で穴を掘る。まずは垂直に、そして斜め下方向に、牢獄を目指して穴をあけていく。掘った穴の壁は堅く変質させて、崩れるのを防止する方法をとったため、工程が2倍になって進むのが遅れたのは焦燥感との戦いだった。こうしている間にもジェイたちが、っていうのもあるし、なにより、エイプリルの攻撃が響いて、穴が崩れそうだった。手加減してとも言えず、ただ黙々と穴をあけるモグラになった。
そして穴の先に組まれた石を発見。この先が地下牢?エイプリルの方向指示もあってる。穴の中を照らしていた魔法の光を後ろの方へ移動させ、慎重に石を引き抜いていく。
頭だけ出して周りを確認。エイプリルの攻撃で地響きが響き渡っているせいか、地下牢には監視の兵隊もいなかった。ラッキー。まぁ俺も、この地響きの中、建築基準法も無い地下牢になんて居たくは無いけどね。
地下牢は狭く、牢が2部屋あるだけだった。片方は空、そして片方に拘禁された女性。牢屋なんだから、鉄格子を想像してたんだけど、実際は日本の座敷牢を思わせるような木でできた仕切りだった。分厚い金具で補強されて、破るにはデカイ斧を何度も振るわなければならないだろう、という感じ。鉄格子の方が簡単に破れそうだ。
鍵の部分も分厚い金具と大雑把な作りの錠前。でかく、歪にしたような南京錠を想像させるものだ。俺のナイフでスパッと切れそうだ。背中に手を回して、ナイフを・・・・・・・・・、無い!
あ、磁石くっつけちゃって、置いてきたんだ。なにやってんだ俺は。
仕方なく、背中の剣を抜いて、超振動モードで鍵の周囲そのものをぶっ壊した。
そして中に入り、女性の猿ぐつわを外す。
「腕を縛っているものを外します。こちらに背中を向けてください。」
目が見え、俺を見て警戒したが、屋敷の兵では無いと見て取ったのか、落ち着いて背中を向ける。
今度は超振動モードは使えないので、単なる剣として手首を縛っていた縄を切り裂いた。
「あなた様はどなたでしょう?」
なかなかに上品な言葉使いで聞いてきた。
「その質問の前に、お聞きしたい。あなたは?」
あなたは? と聞かれ、あなたは? と聞き返す。かなり間抜けな話だけどね。
「私は、ロイスト・シャシルが伴侶アーシア・シャシルです。」
「あなたの娘さんの名前は?」
「私の娘の名はフォンシーレン。フォンシーレン・シャシルと申します。」
「最後に、フォンシーレン殿下は、あなたをお呼びする時に、なんという呼び方をなさいますか?」
「あの子は、人前では母上様と呼びますが、私たちだけの時はママンと言いますのよ。もうすぐ20になろうかと言うのに、まだまだ子供で。」
これは本物と見ていいかな? じゃあ2階にいたのは誰だろう?
「失礼しました、王妃殿下。人違いを避けるために無粋な質問をさせて頂きました。それで、王妃殿下の味方となるような方はこの屋敷にいますか?」
「かつては居りましたが、皆、私の前で処刑されてしまいました。」
顔を伏せて堪えている。
「その者たちの儀に応える為にも、殿下は生き延びねばなりませんね。脱出しましょう。王女殿下もお待ちしております。」
「あの子は無事なのですか?」
「2人の護衛騎士によってミクマリス伯の屋敷から脱出し、今はある所に身を隠しております。」
「ミクマリスの所を、ならば今はグルナルド殿のところですね。よかった。」
いきなりドンピシャ。もしかしてカイエルさんとのつながりって有名なのかな? だとしたらあの場所ってヤバイかもね。
「急ぎましょう。歩けますか? 恐縮ですが、王妃殿下にも走っていただく事になると思います。」
「はい、囚われの身ではあの人にも娘にも迷惑をかける所でした。再びあの子に会えるのなら喜んで茨の道をも進みましょう。ですが、また囚われる事になった時は、私の命を絶って頂けますか?」
「それはお断りします。俺は王女殿下に、かならずお連れすると約束してきましたので。」
その言葉に、何も言わずににっこりとして、手を差し出してきた。その手をとり、殿下を立ち上がらせる。
殿下の足元、身なりを確認。特に問題無さそうなので、先に牢を出て、見張りを気にしながら急ごしらえの地下通路を確認。
「エイプリル。ジェイたちにメモを。向こうはどうなってる?」
『苦戦しています。敵方に強力な亜人が複数存在し、前進も後退も難しい状況です。王妃救出のために火の魔法が使えないという条件が攻撃力の低下を招いているようです。』
「あぁ、それがあったかぁ。急いで援護に向かわなければいけないな。エイプリル、小型輸送艇をこっち側に回して殿下を先に乗せておいてくれないか。どこかいい場所ある?」
『艦長が掘ったトンネルの入口より、直進していただき、150メートルほどの所に広場が存在します。そこでの合流を進言します。』
「じゃあそこで。すぐに行くから。ジェイたちの方の監視を頼む。陽動に使ってた攻撃をそっちの援護に使えるのなら使って。」
『了解しました。』
エイプリルとの交信を終えて、殿下に向き直る。
「殿下、狭いですがご勘弁を。ここを抜けて屋敷の外に出ます。」
力強く頷いた王妃殿下が俺に続く。
穴を出て、殿下を引っ張り上げ、改めて王妃殿下を眺めてみる。なんか不釣合いな見窄らしい服装? それが土でかなり汚れてしまった。
「殿下、土でかなり汚れてしまった事をお詫びします。」
「かまいません。この服は、もともと私の着ていた服を欲しがったレノド伯の息女の物だったそうです。荷物も全て取られてしまったので、着替えが無いのが残念です。」
「着替えに関しては、カイエル殿に用意して頂きましょう。この先に安全な場所を確保してあります。急ぎます。」
そして、150メートルを走った。辺りを警戒しながらだけど、王妃殿下の足に合わせた小走り程度の速度だった。まぁ、殿下にとっては今までありえない事態だったようだけど。
そして小型輸送艇が見えてきた。王妃殿下はその異様な姿に警戒してたけど、俺が当たり前の態度だったので、目に見える抵抗感は示さなかった。
中に入って、殿下をソファーに座らせ、紙コップを出してオレンジジュースを注ぎ、お代わり用の缶ボトルと一緒にテーブルの上に置いた。
そして、腹ごなし用のクッキー。
ジュースをおいしそうに飲んで、息も落ち着いたのを見計らい、洗面台の使い方を説明したり、トイレの使い方を見せながら説明する。
「わたくし、自分の始末ぐらいは自分でできますわよ?」
と言っていたが、トイレの使い方はまったく未知の物を見る目だった。たぶん、実際に使ったら、ジェイたちみたいに驚くだろうな。
あと、迷ったが、シャワーの使い方も教えておいた。あんな地下牢に閉じ込められていたんだから使いたがるだろうな、と思って。
「このタオルで水気をぬぐってもらえますが、あいにく着替えがありませんので、そこの所はご勘弁ください。」
まさか、野戦服とズボンを貸すわけにも行かないだろうな。いや、それでも綺麗な服を渡した方がいい? 悩んだけど、上手くいけば数時間でカイエルさんの所だしな。我慢してもらった方が説明が短くて済みそうだ。
「では俺は、仲間の援護に向かいます。殿下はその間ここでくつろいでいてください。この中なら、外を気にする必要も無いほど安全ですので。」
そう言って外に出て、全速力で走る。目的地は先ほど掘った地下牢へと続くトンネル。中に飛び込んで地下牢まで走る。
幸い地下の監視役はまだ来ていないようだ。外は騒ぎが続いているので当然かな。地下牢から地上階に上る階段で剣を右手に構え、左手には銃とスタンガン。
人間を切るという事はしたくないヘタレだから、メインはスタンガン。これも、強力にし過ぎたから、個人差でショック死ということもあるんだけど、なぜかそこら辺は割り切れる気がする。俺ってけっこう残酷な外道だったのかなぁ。やだなぁ。
ジェイたちの反対側に設置されている階段で2階にあがり、ジェイたちを襲っている勢力の後ろを取るつもり。案の定、ガヤガヤと無秩序に群がるレノド伯の私兵がいた。ほとんどが全身鎧。スタンガンの力が削がれて、威力が弱まるかな? とか期待しつつ、遠慮なく範囲攻撃。
あれ? 想像以上に威力が削がれていたようだ。ほとんどはまだ立ってる。
どうする? なんて考えないで、第2撃のスタンガンを打ち込む。そして第3、第4と打ち込んでほとんどが床でピクピクしているだけになった。やりすぎたかなぁ? でも、ジェイたちをイジメたんだから仕方ないよね。
床の全身鎧たちを踏み越えて進もうとした時、手強そうなのが3人出てきた。いや、この場合3匹って言うのかな?
リザードマン。
トカゲと言うよりは竜人と言った方がしっくりくる。頭は鋭角的な恐竜と言う感じ。体つきは手足が長いような気がするが人間体形に近い。蛇よりもうろこ状になった皮膚。そして、何よりも、胸の部分だけの鎧、ブレストアーマーを着込み、盾と剣を持っている。
そしてワニを思い出させる牙を見せつけ、俺に対して威嚇の唸りを投げつけてきた。
ヤバイ、殺らなければ殺られる。
頭の中でスイッチが切り替わるように、人としての矜持や、優しさ、思いやりとかが一瞬で消える。どうやったら勝てる? ただそれだけを考え、実践するという考え方だけしか無くなった。
先手必勝。銃で遠距離攻撃。腹の真ん中を狙って2発ずつ打ち込む。2匹は腹を撃たれて吹っ飛び、腹と口から赤い血を撒き散らしている。残りの1匹はかすり傷。俺がやったとんだろうとあたりをつけて、剣を振りかぶって突っ込んでくる。
スタンガンでもあの勢いは殺せない、ならば剣で弾く!
超振動モードは入れ忘れたけど、間に合わないからそのまま、向こうの剣にぶちあてる。力は向こうの方が上。危うく弾かれそうになったが踏みとどまり、そしてわざと後ろに倒れこみながらリザードマンの腹を蹴り上げる。巴投げの要領で。
身体能力が高いんだろうな。途中から自分で飛んで、後ろに無難に着地した。その間、立ち上がる動作も後回しにして超振動ブレードを起動。それからゆっくり立ち上がった。
剣の種類が変わったとは気づいていないようだ。このまま切り結べば勝てる!
『接近警報。後ろです。』
身をかがめながら横に飛ぶ。
今までいた位置に、腹から血を流したリザードマンが剣を振り下ろしつつ突っ込んできた。
目標を失ってそのまま転がっていくが、その動作は意図的なもので、しっかり壁際で止まって立ち上がった。
もう一匹は?
一瞬だけ後ろを振り返る。ぱっと見だけど、生きてはいるけど戦えないようだ。演技かもしれないけどね。とりあえず、前の2匹に集中。
銃の弾はあと2~3発。しまった、残弾を正確に数えてなかった。
銃は牽制目的に変更。とりあえず頭を狙って、弾が尽きるまで撃つ。残弾は3発だった。カートリッジが自然と落ちていくが、銃そのものを捨てて、剣を両手で構えなおす。そしてリザードマンに向かって超振動ブレードを振り下ろす。
1匹は牽制の銃弾が目に当たってうずくまっていた。そして、もう1匹は俺のブレードを盾で弾き飛ばそうとしてきた。
盾そのものを分解するように切り裂く。握っていたリザードマンの腕も一緒に切り、切られた手首から血が噴出す。一瞬ひるんだ隙を突いて、ブレードをそのままリザードマンの身体に押し付ける。
振りかぶったわけでもない剣を押し付けられても、簡単に弾き返せると思っていたらしいが、腹に剣が触れると、その周辺が溶ける様に切り裂かれていったのを、信じられないといった雰囲気で見つめていた。
腹を半分切り裂いた所で、勢い良く後退。剣を振るのも忘れて自分の腹を見ていたリザードマンは、そのまま上半身だけが落ちていき、それに引きずられて下半身が倒れていった。
片目を失い、うずくまっていたもう1匹がそれを見て、何ごとか叫び、俺に飛びかかろうと構えるのを、スタンガンを打ち込んで止める。そして頭に向かって超振動ブレードを突き刺した。
振り返り、腹の痛みで悶えている最後の1匹に、同じようにブレードでとどめを刺して、ようやく息を吐いた。もしかして、今まで息止めてた? そんなはずは無いけど、近い状態だったのかもね。
赤い血を流すトカゲの戦士を見て、心の底からいろいろと湧き出しそうになるのを強引に止めて、ジェイたちの心配に切り替える。
銃を拾い上げ、カートリッジを交換して廊下を進んだ。
またレノド伯の私兵がいたので、スタンガンの4連射で転がし、さらに進むと、剣を打ち合わせる音と喧騒が聞こえてきた。
レイミーが戦っていた。複数の全身鎧と。
そしてレイミーの顔にはざっくりと傷が入り、血が流れていた。
ブチッ!
なんだろう。何かが切れたよ。
とりあえずレイミーに襲い掛かってる兵を何とかしよう。
銃を右手に持ち直し、後ろ向きの兵の背中に、次々と撃ち込んでいく。けっこうあっさり倒れるね。まぁ、背中から肺の中に銃弾を打ち込まれたら、苦しくて立ってられないかもね。
銃をホルスターにしまい、今度は倒れている兵に向かって、一人一人丁寧にスタンガンを撃ち込んで行く。
驚いているレイミーに向かい、顔に手を添えて回復呪文を唱える。流れ出た血はそのままだけど、傷は完全に無くなった。
「レイミー? 他に怪我した所は無い?」
真剣に覗き込んだら、真っ赤な顔して引かれてしまった。
「だ、大丈夫。油断してたから顔に一つだけ受けたけど、あとは大丈夫。」
「アキラぁぁぁ、こっちですぅぅぅ。」
ファイエーの呼ぶ声にレイミーと一緒に駆け出す。
そこにはファイエーに付き添われたジェイ。片腕が今にも落ちそうになっている。血もかなり出ていて失血死の危険もありそうだ。
「ど、どうしたらいいでしょう~。」
半泣きになりながら訴えかけてくるファイエー。間延びしてないから、真剣にこまってるんだねぇ。
「ポーションは?」
「このまま使ったらぁ、腕がくっつかないと思いましてぇ。」
「でも、このままって訳にもいかないね。俺のポーションを傷口にかけるから、同時にジェイにも飲ませてあげて。
ジェイ、辛いだろうけど、我慢だよ。」
そう言って、取れそうになっている腕を掴んで傷口に押し当てる。そして、ポケットからポーションを取り出し、親指でフタをあける。
「いくよ! せーの!」
俺の号令で、ファイエーがジェイに飲ませる。同時に俺も傷口にポーションをふりかけ、ポーションが無くなったら回復呪文を、切り落とされている方の腕に直接かける。
つながれ!
それだけを願って、呪文の力を傷口に集める。
そして、傷は無くなった。
「ジェイ! 指は動くか? 感覚は?」
ちょっとぼんやり気味に、ゆっくり手の平を動かすジェイ。そして握ったまま肘を曲げ伸ばす。
「凄い。まるでなんともない。」
その声で、俺とファイエーは力尽きて、へたり込んだ。
「うっ、うっ、よかったですぅぅ。」
今度は本当に泣き出した。俺も半泣きになりそうだった。ほとんど俺のせいでもあるしねぇ。後でたっぷり謝る事にしよう。
ちょっと気がついたことがある。
「あれ? ジェイ? 俺の渡した服が切られた?」
俺の渡した防刃仕様の野戦服の肩口がすっぱり切られてる。この世界の剣じゃ、傷つけることもできないはずだった。俺たちの持っているナイフなら、可能性はあるけど。
「申し訳ありません。アキラから貰ったナイフを奪われて切られてしまいました。」
「ナイフはまだたくさんあるから気にしなくていい。でも、あのナイフかぁ。腕だけですんで幸運だったかも知れないってことなんだねぇ。」
「首ぐらい簡単に落とされていたかも知れませんね。」
にっこり笑ってそんな事を言う。でもまだ立てないようだ。血を失いすぎたかな。こういう時に真水を与えると、血が薄まりすぎるショック死の危険があるとか聞いた事がある。
「ジェイ。喉が渇いても、真水をがぶ飲みとかはしないようにして。飲むとしても、一口ずつ、口の中に染み込ませるような感じでゆっくり少しずつ飲んでくれ。」
そう言ってようやく立ち上がった。見張りはレイミーがしてくれたようで、そのことに今まで気づかない俺は相当焦っていたようだ。
さて、どうしよう。このまま脱出と言うのが一番なんだけど、このまま帰るのも気が収まらない。
「あれ? 王妃の部屋ってどこだったっけ?」
俺の記憶だとすぐ近くなんだけど。
「はい。この部屋です。王妃はなぜか中にある扉で逃げていってしまいました。」
「向こうの兵と親しげに?」
「レノド伯ともかなり親しげでした。」
「やっぱり。実はここにいたのはレノド伯の娘だったらしい。そこにメモが来たから、急きょ王妃の振りをしたんだと思う。」
「え? まさか? あの服にはシャシル王国の紋章が刺繍されてたぞ。それを伯爵の娘が着るなんて・・・。」
レイミーが信じられないと言ってきた。
本物の王妃の服を気に入った娘が王妃の服を取って、王妃の荷物も奪っていた事。
王妃は地下の牢に拘禁されていたこと。
すでに助け出して、空飛ぶ箱に保護している事を説明した。
「そうだったんですかぁ。こちらが囮に切り替わってたんですね。アキラの判断は的確だったと思います。僕としては、ちょっと骨折り損になっちゃったかな、って感じですけど。」
「骨折り損にしないために、できることもあるね。なぜ、レノド伯のところにリザードマンがいるのか? って事を聞きだしてみよう。」
「あ、そうだ。それなんです。とっても手ごわいリザードマンが1人いたんです、って、もう戦いました?」
「1人?」
「え? はい。レノド伯の護衛みたいな感じで、筋骨隆々ってのが1人。僕のナイフを持って行きました。」
「俺はこの廊下の端で、3人組のリザードマンと戦った。俺より若干背の高いのがいたけど、筋骨隆々というのはいなかったな。」
「まだまだいそうですね。」
「ジェイたちは先に脱出してくれ。領主の所には俺独りで行く。」
「アキラ、お願いがあります。」
「なに?」
「ぜひ僕も連れて行ってください。」
「ジェイ!」
「先ほどは王妃がいると思って火の魔法が使えませんでした。ですが、もう遠慮するつもりはありません。僕はあのナイフを自分自身で取り返したいんです。じゃないと、僕はもう戦えなくなりそうなんです。」
「あのぉぉ、わたしからもぉお願いしますぅ。」
聞けば、ファイエーをかばったためにナイフを落とし、腕を断ち切られることになったそうだ。ファイエー自身、サポートをしっかりできなかったという責任も感じているそうだ。
無理矢理にでも帰す方が正しいんだろうけど、そうするとわだかまりができて、この後が上手くいかなくなることも考えられるね。俺も連絡無しで囮にしてしまったっていう責任もあるしなぁ。
「判った。みんなでジェイをサポートしつつ、領主に後悔させてやろう。」
ジェイの腕、レイミーの顔に傷をつけたんだから、領主の両手両足だけじゃ足りないよ。
俺が先頭でゆっくり進み、その後ろでファイエーがジェイに肩を貸し、さらにその後ろをレイミーが後方警戒しながら続く。
ジェイの予想の執務室にはいなかった。俺が3匹のリザードマンを倒した時に、リザードマンたちは部屋から出て俺の居る階段の方を見た。俺を見たのか、階段を見たのかで変わるけど、もし、階段の方を見たとしたら、下に向かうつもりだったのかも?
警戒は弛めないけど、1階も調べる対象にするつもりで進む。まだ、先ほどのスタンガンで倒れている全身鎧が無数にあった。もしかしたら死んじゃった? 死なれると後味悪くなるから困るんだけどね。
気絶している振りだと困るから幻覚魔法を唱えて、集中する。寝ている兵士の目の前に、ヤツメウナギのような口を持った、人差し指サイズのミミズを無数に映し出した。ミミズがウネウネ動きながら捕食対象を探して口をガチガチ開け閉めする。
「う、うわ!」
案の定、気絶している振りだったか。飛び上がって逃げようとする兵士に銃を向ける。右手の手首を狙って1発。外れたからもう1発。当たり。手首を押さえて悶えている。これで攻撃力はなくなったね。
「アキラ・・・。」
なんかジェイが冷や汗をかきながらって雰囲気で言ってくる。
「アキラって実はこういう性格だったんですか?」
「ジェイも、レイミーもこいつらにイジメられたんだもんね。これぐらいいいでしょ?
それに性格は昔から誉められてるけどね。」
「イジメって・・・。でも誉められてるんですか・・・。」
「何? その諦めたような声は? 昔から、いい性格してるねって誉められてるよ。」
「なるほど。もう、諦めました。」
階段を下りると、階段から続く廊下の先に、全身鎧の兵士がバリケードを作っていた。上の兵士の救出をしないで、こんなのを作ってたのかぁ。
リザードマンは? と探すけど見つからない。
「ジェイ、ファイエー、ああいう金属でできた全身鎧は、熱に弱くて、雷にもとても弱いよね?
あの鎧の中に小さな火種が飛び込んで、いつまでも燃え続けたらどうなるかな?
金属は雷を伝わらせるから、一箇所の雷でも、かなり広い範囲に伝わるだろうね。」
「なるほど、本当にいい性格ですね。僕も誉めちゃいましょう。」
「わたしもぉ、ですぅ。」
遠慮しなくなった2人は、かなり怖かったと、日記には付けておこう。可哀そうだからスタンガンで気絶させてあげる。
そして、全身鎧たちが守っていた扉の前に来た。足元には死屍累々の兵士たち。いや、死んでないけどね、たぶん。でも、邪魔で扉が開けそうもない。足で蹴飛ばして開けるってのもいいけど、それで開かなかったら赤っ恥と言う事で、レイミーにおまかせする事にした。
軍用ナイフを片手で正眼に構え、扉と壁の間を、まるで剣道のように振りかぶり縦一文字に切り裂いた。そして、反対側の扉と壁の間も。
あとはちょっと蹴飛ばすだけで、扉は閉まったままの状態で前に倒れていった。
そこは応接室のような部屋で、領主と娘、そして、リザードマンの偉そうな感じの服を着たのと、筋骨隆々でエイプリルの軍用ナイフを持ったのが居た。
「エイプリル、動画で撮影記録を残しておいてくれ。」
密かに口の中でささやく。
『了解しました。』
エイプリルの落ち着いた声で、俺も少し落ち着きを取り戻した気分になった。
「シャシル王国、レノド伯とお見受けする。この度の王国に対する反逆行為に対する弁明はあるか?」
実に偉そうに、上から目線で言い放つ。さぁ、どう反応する?
「ふん、国王の犬か。新しき主に対する敬意は無いようだな。」
「ほう、お前が新しき王か。それはミクマリスやノウマは承知しているのか?」
「そこまで知っているか。だが所詮、あの2匹を我と同列にしか考えない程度の調べだったようだな。」
「なるほど。その言葉はしっかりノウマ様にお伝えしよう。」
ここで演技は終了しましたよ、という感じで肩の力を抜いて見せる。
「な、貴様、アヤツの手駒か。ならば生かしたまま、どのような調べをしてきたのか聞きだしてくれよう。」
「残念だな、もうすでに第一報はここを立った。20日もせずに、ノウマ様の私兵が、ここに到着するだろう。その時には、お前たちは必要のない物になっているだろうな。」
クックックックックっといやらしく笑う。後ろでジェイが、本当にいい性格、ってつぶやいてる。
「ふん、何を判ったようなことを。我の兵がこれだけだとでも思っているのか?ノウマの兵など、リザードマンの力の前には無力でしかないわ。ノウマも我の持つリザードマンの力が欲しいからこそ、ここを欲しがるのだろう? あいにくだが、リザードマンの力は我とのみの契約を結んである。だれも、我には逆らえはせぬよ。」
もう一つ、はったりのカマをかけさせてもらおう。
「王都のあの方にも、そう言っていいんだな?」
レノド伯がビクついた。なに? あたり?
「待て、ゲイスン殿にたいしては、その様な事はない。あ、ありえるはずも無い。お前の言っている事は間違いだ。我がそのような事をするわけもない。」
「王となり、ノウマ様を犬扱いするつもりなのだろう?」
「そ、それは当然だが、ゲイスン殿にそのような事をするわけもない。そもそも、次の王との話も、ゲイスン殿から言われたわけだしな。」
焦ってる、焦ってる。じゃあもう一押し。
「これは異なこと。ノウマ様があの方より言われた言葉とは違いますな。」
「な・・・。」
固まってる。思い当たるような事でもあったかな?
「も、もうよい、もうよい。こうなれば我が直接ゲイスン殿に聞き出してくれよう。貴様たちは生きたまま捕らえ、ゲイスン殿への土産にしてくれる。」
「残念ですが、すでにあの方からの指示は出ております。速やかにリザードマンとの契約をあの方へと引き渡すようにという命令です。これからはあの方が力をお使いになられます。
ノウマ様がとおっしゃられたそうですが、あの方により諌められてしまいました。
契約の儀、あの方へご謙譲頂きたい。」
さあどうする? 俺もこれ以上の嘘はでないよ。
「嘘だ、嘘だ、嘘だ。我が王なのだ。たとえ、あの方であっても、・・・そんな・・・。」
切れる? 壊れる? 俺もこういう人間が何を考えているのかわからないから、どうなるか本当にわからん。
横で娘が青い顔をしながら父親にしっかりするように言っている。
リザードマンたちはことの様子を見ているようだ。
「我はこの国の王だ。ゲイスン殿、いや、元老院などは潰してしまえばいい。手始めに、お前たちからアレの情報を聞かせてもらうぞ。
リザードマンの族長よ。契約の儀により命令する。あいつらを生きたまま捕らえよ。生きてさえいれば手足などいらん。1人や2人殺してもかまわん。」
レノド伯の言葉に頷くリザードマン、それを見たので俺はしゃがみ込んで手を上げ、前方に振り下ろした。
しゃがみ込んだ俺の頭の上を、火、風、水の魔法が飛んでいく。
筋骨隆々の方は、頭を中心に粘りつく炎に焼かれ続け、足元を風の魔法で切り払われた。
偉そうな方は氷の矢がものの見事に胸を貫き、そのまま体全体を凍らせていく。
あっさり?
なんて油断したら、筋骨隆々の方が頭を燃やしたまま、ひざから下が無い足で走って近づいてきた。手にはジェイの軍用ナイフ。なんかホラー。命はいらない、せめて一撃だけでも返すってやつ? そんなのいらないから、銃を抜いてその腹を撃ち抜いた。
完全に止まるのに5発。けっこう根性あった。まだ生きてるし。
ジェイが近づき、ナイフをもぎ取る。
「これは僕のナイフです。」
そう言ってナイフをリザードマンの頭に突き立てた。
ナイフを抜いて、立ったまま空中を見つめている。気持ちの整理をしているんだろうな。
「さて、レノド伯。いろいろとお出しください。面倒な事は嫌いなんです。」
そこでチラっと娘の方を見る。
何故俺は、こんな下衆の演技が上手いんだorz
「な、なんだ、うちの娘が気になるのか? どうだ? 良い思いしたいんだろう?」
あ、コイツの方がもっと下衆だった。娘の方も胸のボタンを外していってるよ。親子ともども?
諦めよう。
スタンガンを向けて一撃。仲良く痺れて気絶した。
立ち直ったジェイにも手伝ってもらって、部屋の中をあさる。いろんな書類が出てきたけど、リザードマンとの契約っぽいのは無かった。実は壁に飾ってあるとかいう盲点かも? とかも思ってみたけど、それでも見つからず。皆も疲れたと言い始めた。
見張りの兵はまだ居そうだから、地下牢へ降りて、地中トンネルを通って屋敷を脱出。そのまま真っ直ぐ歩いて小型輸送艇に到着した。
中に入ると、同じ服装だけどこざっぱりした感じになった王妃殿下が出迎えてくれた。挨拶もそこそこ、カイエルさんちの近くに飛んでと簡単に頼んで、俺たちはレノド伯領を後にした。




