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第二十三章 晃と王様 その弐 国王救出

 到着した時は、日が落ちる寸前だった。

 薄暗くなり、人の輪郭も怪しくなる時刻のため、王妃を街に入れても気づかないだろうと、堂々と街を歩くことにした。


 そしてカイエルさんの屋敷に到着。呼び鈴を鳴らして中に入れてもらう。夕食前という事で、慌ただしい感じもしたが、こちらの方が優先だよね。


 そして応接室で親子の対面。泣きながら抱きしめあっている。


 カイエルさんにぜひ夕食を一緒にと誘われたが、正直、疲れ過ぎていて堅苦しい席で食事とかは遠慮してしまった。

 そのうち、俺の方から美味しい食事を用意しますよ、と言って勘弁してもらい、また明日という事で帰ることにした。


 王妃様からは、

 「あの飲み物もお願いしますね。」

 と言われたけど、あれって、オーバーカルチャーだったかなぁ? オレンジジュースだよ?


 レイミーとファイエーは、王妃の気持ちもわかると言っていた。女性特有の好みかな?


 ジェイは、

 「確かに美味しいですが、ねぇ。」

 と、口を濁していた。


 そのジェイのために、今回はエイプリルがりんごジュースを用意してくれた。血を多く失ったから水分補給しなければならないけど、点滴を打つというわけにもいかず、代用の代用的処置らしい。

 あとはビーフシチュー、ロールパン、バター、そしてハムを厚切りにしてコーンと一緒に塩・胡椒で炒めたもの。


 「もしかして、カイエル殿のところよりも上手い食事かも知れない。」

 とレイミーが言ったけど、皆で、秘密にしておこう。という事になった。


 皆で交代でシャワーを使い、ジェイには真新しい防刃仕様の野戦服、俺にはステンレス鋼の軍用ナイフ、そして皆に、下着や靴下の支給品も配って渡した。


 そのあとは、あまり会話も少なく、早めに就寝となった。皆、今日の戦いには思うところがあったようだ。

 俺も、意外に残酷で、他人の死を簡単に受け流しすぎるんじゃないのか? という自己批判をしてみたが、この世界でそれを気にしすぎたら、何もできずに、ただ引き篭もるしかなくなるんだろうな、という結論を信じてこのままで行こうと決めた。

 今はまだ、以前の俺に戻れると信じて。

 戻る意味があるのか? という疑問を無視して。まだ、俺は俺のままだと言い聞かせる。


 うん、このへタレっぷりは、まだ俺のままだね。


 翌朝は、あいにくの雨。今日はカイエルさんのところで打ち合わせの一日にしようと決めた。皆も大賛成してくれた、と思う。

 小型輸送艇の中に置かれた箱の中からクリームシチューのレトルトパックを20人前。柔らかく焼いたパン、バター、焼けばハンバーグになると言う冷凍のペーストブロック、オレンジジュース数本、りんごジュース数本、クッキーにドライフルーツをカバンに入れた。

 そして市街地戦用の迷彩模様の入った、軍用雨合羽を皆に渡してカイエルさんの屋敷に向かった。


 応接室に通され、今日はじっくり話を聞きたいというカイエルさんにうながされ、昨日のレノド伯の所での顛末を話すことになった。


 服を取られて娘が王妃の振りをして危機に陥った所では、なぜが王妃自身がハラハラして楽しんでいたような感じを受けた。冒険小説とか好きそうだな。


 そしてレノド伯との対話は、記録保存してあるものを実際に投影して音声付で見せた。映画どころか、写真も無い世界ではオーバーテクノロジーだけど、魔法って言って強引に納得させた。


 で、王都の元老院のゲイスンが黒幕でだと言う事をしっかり確認してもらった。


 カイエルさんにはあまり馴染みのない、何をやってるのかわからない人だという感想だったが、王妃と王女にとってはその意味は大きく、国を支える柱そのものに裏切られたような気持ちだったらしい。


 「ゲイスン卿がなぜこのような事をなさったのか、不思議でなりません。」


 元老院は、通常は国王の政治的な補佐を担当するけど、もし国王が政治ができない状態になった時には完全な代行をする事が主な仕事らしい。しかも、通常でも国王の政治に文句を言える組織で、政治的な意味では国王と同等とも言えるそうだ。

 国王が政治に興味をなくし、個人で贅沢三昧している時には、政治を完全に取り仕切るとかもあるとかで、元老院の健全化が国の健全化になるとかも言われている。


 その元老院のほぼ中枢であるゲイスンが国の乗っ取りを計画したら、まず逆らう事はできないだろうというのが殿下たちの結論だった。


 王女に王権を使ってもらって、ミクマリスとノウマを粛清しても、王都に赴いた時に拘束され、ミクマリスとノウマは開放されるだろう、と言う事だった。しかも、ゲイスンは国が税金として集めた金を自由に使え、兵も使える、という絶対的な力量の差もあるわけだ。


 いきなり手詰まり?


 「ゲイスンというのが中心で、ミクマリス伯とノウマ伯が協力しているような状況なら、ゲイスンというのが居なくなるといい、ってだけなのかな?」

 とりあえず、一番簡単な解決法を言ってみる。


 「基本はそうでしょうな。両伯爵にしても、ゲイスン卿の代わりは務まりはしませんでしょう。気がかりなのは、ゲイスン卿が国政や国庫に対して、他の者では動かせない仕組みを作っている可能性でしょうな。」


 「あぁ、ゲイスンを倒したら、それ以降国が立ち行かなくなるという状況じゃ、倒した意味もないってことかぁ。」


 「それに、ゲイスン卿によりすでに国として破綻しており、それが見えない状況であるという場合も問題ですな。

 もしゲイスン卿に反抗する勢力が現れたとき、ゲイスン卿の身内の商人に国の重要施設が譲渡される契約書が執行される、なども考えると怖気が立ちますな。」


 カイエルさんが商人の目線? で可能性を言ってくる。ゲイスンの作る契約書は、国の正式な契約書になるから、どこまでそれを覆す事ができるか判らない。契約書自体、契約者たち用の2枚に、立会人用の1枚で、3枚ある場合もあるらしく、契約書をどうにかするというのもハードルが高いようだ。


 煮詰まった。


 こういう時は時間と体力の無駄にしかならない、と言って、お茶にしようと提案した。

 オレンジジュース、りんごジュース、クッキーにドライフルーツを出して、小間使いの女性に渡した。王妃はオレンジジュースは飲んだことがあるので、警戒も無く率先して小間使いを手伝うほどで、小間使いのほうが恐縮してしまっている。王女によると落ち着きが無いということになるらしいが、元々そういったことが好きなのに王妃になってから出来なくなったのが悲しいとか言っていた。


 煮詰まった頭に染みこむオレンジジュース。外の雨音を聞きながら、思わずホッコリしてしまう。特に会話も無く、対策を考える者、何も考えていない者、クッキーをかじってはジュースで流し込む者とに分かれた。


 外は雨。地面はぬかるみ、溜まった水溜りがちょっとした川の様に流れていく。人通りもほとんど無く、多くの人は家の中で雨がやむのを待っているのだろう。

 ふと、鉱山で働かされている人たちは? と疑問に思った。普段から体力ギリギリまで働かされている彼らが、雨だからといって休ませてもらえるだろうか? 穴の中ならば濡れはしないだろうが、外と中を行き来する者、外でだけで働かされる者も多いだろう。雨で湿った空気の中で穴掘りや鉱石運びなんかも、普段よりも疲れる感じがするはずだ。疲労と絶望でも命は削られる。


 急がなければ。のんびり、ホッコリしている場合ではなかった。


 殿下たちには国全体のことだけど、俺にとっては村に男たちを帰すために、国を救うという気持ちの方が大きい。結果は同じだけど、はじめの心構えが違う。だから、まだ、大きな動きは無いと言っても、その間、男たちの命が削られているようなら、グズグズはしてられない。


 「まず、国王陛下を王都から連れ出します。」

 のんびりジュースを楽しんでいた皆に、俺が声をかけた。

 「国王陛下を連れ出しても、ゲイスンにはなんの痛手も無いでしょう。ですが、責任を被せる国王がいないと、後々困ると考え、何らかの対策を立ててくるはずです。

 そして、国王陛下を救出した後に、ミクマリス伯を叩きます。

 この2つを俺たちだけで行います。」


 「あなた方の魔法の力は実感してはいるが、4人だけで大丈夫なのですか?」


 「4人だけの方が動き易いですし、他の兵を望む事も難しいですからね。ですが、王国の兵士を殺さずに無力化するということはできそうもありません。ですので、王妃殿下、王女殿下には、そのお立場を持って、それを許可して頂くことを願います。」


 俺にとって足りなかったのは、人を簡単に殺すことを続ける人間を殺す覚悟。その覚悟が無ければ、助けたいと思う人たちを助ける事ができないという現実を受け入れる事だ。どうにかなる、という気持ちではどうにもならない。覚悟を持ってどうにかしないとならないんだ。


 そして、その覚悟を王族であるこの2人にも持ってもらう。


 クッキーを手に持って固まったまま聞いていた王女だが、クッキーを皿に置いてから背筋を伸ばし、真っ直ぐ俺を見つめてきた。


 「シャシル王国国王ロイスト・シャシルが一子、フォンシーレン・シャシルの名において、アキラの行いの全ての責任をフォンシーレンが持つ事をここに宣言します。我が国のいとしき民なれど、アキラたちの意で殺害しようとも、その意はフォンシーレンの意、その責はフォンシーレンの責。その意と責が問われることがあるのならば、フォンシーレンが全てを負いましょう。」


 なにもそこまでは、とか思ったけど。せっかくの覚悟だから受け取っておく。


 「ありがたきお言葉感謝いたします。これよりこのアキラが殿下の剣となり、その目的のために戦いましょう。されど、戦いの渦中においては、殿下の御身についてもこのアキラの指示に従っていただけるようにお願い申し上げます。」


 「剣一つ、満足に振れぬ我が身。アキラの采配を信じましょう。」


 「では、イクンシロン王へと書状を用意しますので、もしもの場合はルブロンダル国へと身を寄せて頂く事もお約束ください。」


 「そ、それは・・・。わたくしも一緒に死なせてはもらえないという事でしょうか。」


 「あくまでも、もしもの場合です。さらに、ルブロンダルへと身を寄せた後も、戦いが終わったわけではありません。ゲイスンから国の民を救う、というのが本来の目的である事を御覚悟ください。」


 「そ、それはそうですね。国とは民。民なくして国とは呼ばず、王とは民の上に乗る存在。民をないがしろにすることは自らの足元をないがしろにする事。立つ場所のない王とはすなわち愚王なり、民を大事に力強くとすれば、王の立つ位置も高く盤石になりうる。これを賢王と呼ぶ。

 この言葉に従うと、民を救わずしてなんの勝利となるのでしょう。」


 王女の言葉を聞いて、王妃が含み笑いをした。それを咎める王女。


 「母上様?」


 「ふふふ。アキラ殿? この言葉はフォンシーレンが父王に読んで貰った本に書かれていた言葉です。それを気に入ったフォンシーレンは、父王に、賢王になってください。父王は賢王ですよね。と、よくねだっていたものです。」


 「母上様!」


 「フォンシーレンの身、頼みます。」


 「王と王妃様、王女様ともども、しっかりお帰えししますよ。」


 な、なんか今、変なフラグ立たなかった? 立ちそうなフラグをへし折ったつもりだけど、ちゃんと折れたかな?

 カイエルさんが、ちょっとにらみ気味? 俺の横の方でもモヤモヤしたのが渦巻いてるような感覚。誰か殲滅魔法でも唱えてる?


 「えっと、国王陛下を脱出させた後、ミクマリス伯の所を急襲し、そこを拠点にするつもりです。そして、働かされている男たちを開放し、できれば開放した中で、今回のための義勇兵を募る考えです。

 義勇兵になってもらえるという男たちには、俺たちから魔法を教えて、一応の即戦力にというつもりです。」


 「おお、なるほど。アキラ殿! アキラ殿はどのような魔法をお教えできるのですかな?」

 光魔法を教わったカイエルさんが、殿下たちへの説明のためだろう、質問をしてきた。丁度いいから、護衛騎士を中心に魔法を習得してもらおう。


 「俺たちが教えられる魔法は6つの属性の魔法です。」

 そして魔法教室が始まった。

 殿下たちは揃って4属性への適性は無かった。お姫様的な生活で、火水風土というモノに接する機会が少なかったんだろう。光の属性は2人とも持っていて、王女は治療魔法を起動することもできた。ただ、2人ともあまり強い力は無かったようだが。

 護衛騎士2人は火と風、水と土という属性に適性があり、それなりの強さも見せてくれた。カイエルさんの使用人は風。小間使いの2人は水。カイエルさん自身も光と共に水の適性を持っていた。


 ここにいる全員に何らかの適性が見られたのは、もしかして村で教えた時は単なる落ちこぼれを作ってただけなのか? ちょっと不安になった。


 小間使いはちょっとだけ怪しいけど、ほぼ全員文字を読み書きできると言う事で、自分用の呪文メモを作ってもらう。メモを見なくとも唱える事ができるのならいいが、忘れたために危機に陥るというのだけは避けたい。そして敵方にメモを見られる可能性があったら、さりげなく丸めて捨ててくれとも。


 あとは、国王陛下の身体的特徴を丹念に聞いて、王城の中の様子と判るだけの地図、城の周りの状況、あれば隠し通路なんかを聞き出すために、殿下2人に質問攻めをした。カイエルさん自身はお客さん的に数回尋ねただけなので、詳しくは無いという事だった。でも、殿下2人も大して知らなかったけどね。


 そして、室内という事で派手なことはできないけど、ジェイ、レイミー、ファーエーの班に分かれて魔法の練習をしていった。


 俺は一人、小間使いの1人に手伝ってもらって夕食の準備。シチューは大きな鍋で煮るように温めるだけでいいけど、それだけじゃという事で、買い置きの腸詰めを出してもらい、じっくり茹でた後に斜めに輪切りにして、塩・胡椒を振りかけてから軽く炒めた。

 アスパラっぽい野菜もあったので、一緒に炒めたよ。


 味見に小間使いの女性に試食してもらったら、ちょっと辛いけどとても美味しいと評判で、胡椒を2袋も奪い取られてしまった。そういえばこの周辺ではあまり見なかった気がする。植生の調査で胡椒は忘れてたなぁ。


 夕食は、うちの3人以外はけっこう気合が入っているようだった。うちの3人にとってはいつもの食事になりつつあるけど、他にとって見れば、ジュースやクッキーでレベルが違うってことを見せ付けちゃったからかもね。


 しまった! ワインを忘れた! 俺自身があまり食事用には飲まないから忘れてたよ。仕方ないからジュースで我慢してもらおう。


 俺にとっては手落ちを我慢してもらう夕食になったけど、皆には好評だった。と、思う。殿下2人は一生懸命下品にならないように苦労していたっぽいし、カイエルさんも抑えられず、けっこうガツガツ食べてた。


 王妃殿下からは、全てが上手く納まったら、ぜひ専属の料理人になってくれとも言われたけど、出来上がった料理を魔法で保存しておいて、それを美味しく食べられるように暖めただけですよと言ったら、その料理人を紹介してくれと食い下がられた。かなり気に入ったようで、この国で採れる野菜などで再現できるか研究して、そのレシピを渡すと言う事で何とか収めてもらった。


 そういえば牛乳ってどうなっているんだろう。


 ミルクならばヤギ乳のみで、採れる量も限られているらしい。何しろ山の草原とかにはモンスターがいるから、簡単に放牧はできないんだそうだ。

 バターもあるが、作り方は完全人力で、一生懸命振るんだそうだ。そういう地方出身の小間使いが教えてくれた。


 ホルスタインとか、似た様な牛っているのかなぁ。居たら俺がUFOを使ってクレーンで持ち上げてゲットするんだけどねぇ。1回100円かな? 大物だと500円とかかもね。

 バターについては、水車とクランクを使った放置型製作装置の概念でも、現場で教えてみようかな。


 食事後の歓談の時にも、食生活についていろいろ質問してみた。


 ニワトリは居るけれど、庭に放し飼いが多く、たまに卵をとったり、つぶして肉にしているそうだ。獣に取られたりするので、ブロイラーのような効率は望めないようだ。


 豚を飼うということもなく、森で猪を狩って、ほとんどは腸詰めになるんだそうだ。そういう肉は王族でも同じで、一応上等なものを工夫した料理で出てくるけど、基本は一般市民と同じらしい。


 会話の中で、俺がもっと効率がいい物があるのに、って顔をしていたのを見られたらしく、密かな期待の眼で見られていたのは、ちょっとこそばゆかった。食生活の改善は人の地力の底上げになるから、そのうちやるつもりだよ。


 いつやる? そのうちでしょう。


 夜も更けたんで、そろそろお暇の時間。明日からさっそく王の救出に向かうので、次に来る時は王と一緒だと言って、屋敷を後にした。王妃のように簡単には行きそうも無いから、時間は掛かりそうだとは言っておいたけどね。


 小型輸送艇に戻って、俺たちも身づくろい。また大怪我をする可能性を言って、できれば降りて欲しいと言ったら、アキラ一人でできるのなら降りますよと言われ、頭を下げて謝った。


 ジェイには魔法使いギルドのまとめ役。レイミーには冒険者ギルドのまとめ役、ファイエーには両ギルドを支える道具の製作に頑張ってもらいたい、という予定を考えている。一人でも欠けたら俺の計画にとって大損害だ。

 俺を含めて、皆でパワーアシスト付きの重装甲宇宙服でも装備しようかな? エイプリルは喜びそうなんだけど、そんな装備で勝ち進んだ俺たちの言葉を、そういう装備を持たない冒険者が聞いてくれるとも思えないんだよね。凄い剣や、魔法の小道具って程度なら、これからファイエーが作り出してくれるかも知れないってのも期待してる。それが俺の線引きの基準だ。けっこう揺れ動いているけどね。


 とにかく、皆の防御力の底上げが課題だ。皆が寝静まった頃を見計らって、一人、小型輸送艇のコクピットブロックに入った。普段は閉め切っていて意味のある扉には感じさせないでしるし、暗証番号式のロック機構もあるから一人になるには丁度いい。


 明かりをつけて、半球形のモニターを持つパイロットシートに座る。出るわけじゃないからモニターは真っ暗なままだ。


 「エイプリル。補給物資の中にある個人用の装備品を見せてくれ。使えそうもない物でもかまわないから、全部見たい。」


 『了解しました。コクピットモニターに投影します。』


 そして長い検証が始まった。大雑把に俺が選び、3人の動き方、戦い方に合う装備品を、エイプリルがシュミレーションしていく。


 そのまま使える装備はほとんど無かったけど、アメフトの装備を薄くしたような物はブレストアーマー風に使えそうだった。もちろん全部だと重いし、見た目も異様になるので、胸の部分と腕当て、足当て部分と、腰周りだけにした。腰周りには金的防止用にふんどし状になっていたけど、軽量化のために外した。本来は地雷の被害を股間だけは厳重に防御するためだったらしい。


 そして、無線通信機付きのヘッドギア。これは悩んだけど、皆の安全のために目をつむった。とりあえず、回線は1本、一人の通信は全員に聞こえるという形にする。もしもの時のためにタバコの箱みたいな手持ちの通信機を1個ずつ渡すことにする。王様を救出した時に渡せれば、後が楽かな? というつもりで。

 もちろん俺のだけにはエイプリル専用と、個人選択用のスイッチをつけてある。


 あとは耐熱、防弾仕様の迷彩柄のマント。袋状になっていて、袋を裏返しても使えるリバーシブル。4種類の迷彩柄を選べるようになっている。黒、森林迷彩、都市迷彩、混合タイプの迷彩が一つのマントで使える。普段は黒ばっかりになりそうだけどね。

 本来ならコンピューター装備のステルスマントがあるんだけど、補給や整備、修理が完備された環境で使うものなので、今ならそれも可能だけど、使うのは諦めた。


 俺の武器は、サイレンサー標準装備の拳銃を交換、弾倉に弾が12発入る物に換え、サイレンサーを後付けした。手持ちのカートリッジも残らず交換しておかないとね。スタンガンはそのまま、剣は少し長く、細く改造して片手での振り回しを楽にした。


 ジェイは基本的にサラマンダーの杖なので、盾にソードブレイカー風に無数の突起をつけた。超硬鋼材なので、剣を受け止めた後にひねれば、剣の刃がボロボロ、上手くすれば剣そのものが折れるというオマケもつく。


 レイミーには俺と同じ超振動ブレード付きの剣にした。これで、剣での戦いで負けることもなくなるだろう。超振動に頼ることなく、剣の腕も磨いて欲しいけどね。あと、剣を両手で扱うのに楽なように盾を小さく短くした。ほとんど腕当てと変わらなくなったが、仕込みの剣と、予備用の軍用ナイフはちゃんと入れてある。


 ファイエーには、俺と同じスタンガンを50センチほどのロッドの先端に取り付けた物にした。ロッドの中は空洞のハニカム構造で、固い上にかなり軽いという物になった。ファイエーの魔法で充電できないか、という実験も兼ねている。そして、まるでオモチャみたいな小型の弓。特殊繊維の複合素材で作られていて、軽い上に強弓並みに強い。慣れるまでは引き難いかもしれないけど、弓に関する腕力はけっこうあるので、便利に使ってくると思っている。


 全部の製作に約2日かかると言う事なので、先に王都に入り、現地を見て回ることにした。王都の周りには適当な場所が無かったので、かなり歩くことになる位置で降りることになった。


 「こうして歩いた方が、長い距離を移動してきたという雰囲気がありますね。」

 というジェイの言葉に、ニヤついた目を向ける。


 「あ、もちろん、長い距離は一気に飛んだ方が便利ですよね。」

 ちっ、気づいたか。


 俺たちはまだお尋ね者にはなっていないはずなので、堂々と旅の傭兵みたいな顔をして王都の外壁の門をくぐった。


 で、気づいた。金が無い。


 シャシル王国の王都でルブロンダル王国の金貨を使う事ができるのか? いや、たとえできても、街に潜む監視役に見つかるかも知れない。そんな者はいないっていう可能性は大きいけど、余計な心配事はしないにかぎる。


 なにか仕事が見つからないかな? という事で中央付近にある広場に来てみた。都合のいいことに、ここでは掲示板があって、貴族から1件、商家から1件、騎士団から1件の依頼があった。


 騎士団からのは、新しい団員募集で、見習いから始めて、実力があれば2年で正騎士になれるという謳い文句が書かれていた。長いよ。

 騎士団の見習いはけっこう厳しく、大半はすぐに辞めて行くそうだ、そこは我慢できても、お尻の危機もあり、騎士にまでなるのはほぼ無理らしい。王都で騎士になれるのは縁故関係のみで、その小間使い用に見習い募集としていると言う事だった。レイミーもジェイも、けっこう詳しかった。騎士団に憧れて、詳しく調べて、絶望した経験があるのかな。


 商家のモノは、荷物運びと途中の護衛。普段ならこれを仕事とするところなんだけど、往復で50日ってのは今の状況じゃ受けられないね。


 そして貴族の依頼。これも荷物の運搬だった。貴族の家からとある所までとしか書いてなく、面接をもって依頼相手を選ぶと書いてあった。面倒そうだけど、金もないし上手くいけば城の情報や元老院の噂話でも聞けるかも、と言う事で、行くだけ行ってみようとなった。


 貴族の多く住むということで、高級住宅街を想像したけど、実際は逆だった。一軒一軒がでかくて、やたら道幅もとっているので、妙に閑散としている雰囲気がある。ルブロンダルの王都も実はこんな感じらしい。あの時は馬車で一気に駆け抜けたから気づかなかった。


 適当な家の門番に依頼人の家を聞くと、3軒ほど隣だと言われた。ここで、3軒ってどのくらい?なんか、やたらと疲れる感じでトコトコと歩いて鉄柵で囲われた、他の屋敷よりは一回り小さい感じの屋敷にやってきた。


 なぜか門番は居ない。鉄柵の門は開きっぱなしだった。門から屋敷の入口までの庭は、整ってはいるけれど、落ち葉が多い気がした。

 最近、使用人たちが居なくなったのかな?


 屋敷の入口に到着。ドアノッカーも呼び鈴も無かった。ボ、ボケさせろよ~。


 握りこぶしを硬く結んで、できるだけ大きい音がするように3度叩いた。


 しばし待つ。そして、再び3度叩く。


 「今、開ける。」

 ぶっきらぼうな声が中から聞こえてきた。鍵が開く音がして扉が開かれ、中から還暦を過ぎたぐらいの老人が出てきた。腰は若干曲がり気味だけど、目の光ははっきりとした意思を見せている。


 「なんだお前たちは。」

 最近までは使用人が居た風だが、今はいないようだ。するとこの老人が依頼人の貴族? 着ている物もくたびれた印象は無いし、たぶん間違いないだろうね。


 「失礼しました。俺たちは旅の傭兵です。クレイラル卿の依頼に応えられるかと思い、お尋ねしました。クレイラル卿ですね? どうか面接をお願いします。」


 クレイラル卿は、フンッ、と鼻を鳴らしたが、下がって中に入るように言った。そして、入口の前で止まっている俺たちに向かって、


 「来い。」


 とだけ言って奥に歩いていく。置いていかれないように急ぎ足で追いかけたよ。


 そして応接室に入れられる。で、立ったまま待ち続ける。俺がそうしていたら、ジェイたちも同じように行動してくれた。何か意味があるんだろうって思ってくれているみたいだ。


 クレイラル卿は1人で1人用の椅子に座って、俺たちを睨みつけていた。


 「座りたまえ。」


 「失礼します。」

 手でジェイたちを制して、俺だけがお辞儀をして卿の前に座った。


 「俺の名はアキラと言います。本日王都に到着しまして、広場にて依頼を見て、そのままこちらにお邪魔しました。田舎者であり無礼な言動はお許しくださるよう願います。」


 「ふむ。今まで来た中では一番礼儀をわきまえておるな。貴族の中でもそこまでできるものはなかなかいないぞ。」


 「ありがとうございます。平民出ではありますが、旅の折々にて身につけた我流でして、正式な作法は持ち合わせてはおりません。なので何時無礼をするか、気が気ではありません。もしもの時は寛大なお心をもって、お許しください。」


 「お前たちは旅の傭兵と言ったな、どこから来た?」


 「元は、遠く、ルブロンダルのさらに北にある街の出身でした。ですが、旅を重ねるうちに、居場所となる所を失って久しくあります。」


 「今までどのような戦いをしてきたのだ?」


 「最近ですと、一つ目巨人のサイクロプス。その前はワイバーンとの戦いを経験しております。」


 「それは凄いな。お前たちは王都の騎士団よりも強いかもしれんな。」


 「1匹のモンスターと騎士団とは比べるわけにもいきません。1匹のモンスターならば、弱点をつけば倒す事は可能です。ですが集団は個人がつける弱点もありませんので、戦いようがありません。」


 「ふむ、ふむ、そうだな。どうやらお前たちはどこかの貴族の私兵では無さそうだな。」


 「私兵を警戒ですか、どこかと対立する関係がおありですか?」


 「おまけに小賢しいときた。よし、お前たちを雇おう。もう無理に言葉を飾る必要はないぞ。堅苦しい言葉で肩も凝っただろう。」


 「それは助かります。で、どのような依頼なのでしょうか? 面接が必要だと言う事で、特殊な仕事だとは覚悟してきましたが。」


 「お前たちはお尋ね者になる覚悟はあるか?」


 「依頼の内容と金額によります。俺たちは傭兵ですから。」


 「そうだな。ワシにとっては一番いい答えだ。依頼の内容は受けると約束してもらわないと言えんが、今、この屋敷を売りに出しておる。それだけで、金1500にはなるはずだ。手持ちの分だけでも金500はある。どうだ?」


 「依頼の内容を、具体的にではなくてもかまいませんが、お聞かせください。俺たちも、金で仕事を請け負いますが、大量殺戮に加担などはしたくありませんので。」


 「なるほど、そうか。確かにな。お前たちは予想以上にしっかりしているようだな。なら、たとえ依頼を受けなくとも、ワシとの話を秘密にすると約束できるか?」


 「それはもちろんです。依頼人との秘密を守る事ができなければ、仕事を請け続けることができなくなると考えています。」


 「そうだろうな。だが、今まで来た傭兵や街の連中はそういった覚悟も無かった。お前たちは特別な感じがするな。」


 「俺たちはこういった考え方が広まる事を望んでいるんですけどね。」


 「妙なヤツだな、お前は。よし、では内緒にしてもらうぞ。ワシは国王陛下の救出を計画しているんだ。」


 わお、大当たり! いきなり協力者と合流できるなんて。でも、本物かどうか、もしくは、できるほどの力やコネや情報を持っているかも確認しないとね。


 「救出ですか? 国の感じとしては平静で、事件が起こったようには感じませんが、国王がどこかに誘拐されましたか?」


 「そうではない。本来なら裏切るはずも無いゲイスンのやつが、乱心したんだ。

 まったく、信じられんことだが、まるで人が変わったようにやりたい放題するようになった。

 本当に別人かもと思って会いに行ったが、本人に間違いなかった。」


 「では、そのゲイスンという男によって、この国の国王が軟禁されているということでしょうか?」


 「軟禁、だろうな。ゲイスンによるとご病気という事らしいがな。」


 「どこに、どのような状態で軟禁されているかという情報は?」


 「そういった細かい事は、依頼を受けてもらってからだな。」


 「そうですね。では最後に、国王を救出して、クレイラル卿はどうするつもりです?」


 「反旗を掲げようとも、それに同調してくれる兵もいない。もしご無事に落ち合えたらなら、恥を忍んでルブロンダルあたりに身を寄せるつもりだ。だが、気がかりなのは・・・。」


 そこで言葉を濁した。


 さてどうしよう。ジェイたちを見てもおまかせってポーズだしねぇ。


 「判りました。クレイラル卿の依頼を受け、俺たちで国王を城から連れ出しましょう。」


 あえて、国王陛下とは言わず、国王と呼び捨て感覚で言うのは、外野の関係の無い人間であると言う雰囲気作りのため。もしもの時は、クレイラル卿を裏切り、国王陛下を連れてミクマリスまで行かなくちゃならないからね。王妃、王女の頼みを聞いているとは知られないようにするよ。


 そして、クレイラル卿から、詳しい救出計画を聞く。

 クレイラル卿の関係者なら、王の居る部屋の下の階にある資材置き場までは入れるそうだ。そこからは無断進入になるけど、すぐにわかるわけじゃないから、堂々としていれば判りにくいらしい。

 ただ、できている計画はそこまで。王の部屋に入った後の行動は、どうなるかは行き当たりばったりだと言う事だった。


 「国王の世話をしている人につながりは無いんですか?」


 「以前はあったんだが、10日ほど前にごっそりと入れ替えられてな。また、その者たちも、近々入れ替えられる予定らしい。国王陛下の様子さえ知ることが叶わぬ。」


 「騎士団の中で協力してくれる方はいますか?」


 「居るのかもせんが。ゲイスンに頭を押さえられてる上に、手綱までしっかり握られ居る。浮いた行動でもしようものなら家族ともども牢獄行きだ。」


 「そこまでですか、投獄された方は協力してくれるのでは?」


 「捕らえられて3日後には公開処刑されたがな。亡き骸は犯罪者扱いで一つの穴に放り込まれた。おかげで騎士団はもとより、城の中で協力者を探す事は無理になったんだ。」


 「では、そのゲイスンを殺せば?」


 「それがな、今まで、ゲイスンに刺客が送り込まれたと言う噂もないんだ。ゲイスンのやっている事は街中では語られてはおらんが、城の中では公然とした事実として言われておるのにの。」


 「刺客を撃退したとか、捕らえたとか、逃がしたとかもですか?」


 「まったく無い。」

 冷や汗をかきながら頷くクレイラル卿。金次第で暗殺ぐらいやる傭兵も多いと思われるのに、それが無い? ちょっと不気味だ。


 「訳がわからない存在と言うのは、関わらない方がいいですね。王の救出のみを優先するという方針で行きましょう。」


 「うむ。ワシも同じ気持ちだ。」


 そして、俺からの提案。


 長距離用の荷物を積んだ馬車を俺たちが都の外に用意する。

 クレイラル卿には、城からその馬車までの、足の速い短距離方の箱馬車を用意してもらい、城から脱出する王を待っていてもらう。

 潜入するのは真夜中が理想だが、いろいろな扉が施錠されている可能性と、クレイラル卿の持つ入場許可を使うために、夕食時にする。

 実行するのは3日後。俺たちの新装備が出来上がるのが明日の夜ぐらいになり、それに慣れるための1日を貰うことにした。


 新しい装備になれるために1日を使うという事には感心もしてたけど、それをやるのは自分の屋敷の中でやれと言ってきた。俺たちは一度山奥にまで行って、大音響に気にせずに試したかったので断ろうとしたけど、実力が見たいというクレイラル卿に押し通されてしまった。

 体術的な訓練のみにするしかないようだ。


 そのあとは、クレイラル卿と共に城の周りを歩いて、どの地点で落ち合うか、その場所がダメだった場合はどこに変えるかということを、現場を見ながら考えて行った。

 堂々とクレイラル卿と歩いていたので、外見的には散歩か物見遊山にしか見えないだろう。


 そして明日は装備の準備をするからと、明後日に訓練のために訪れるまで余計な騒ぎを起こすなと、お互いに言いあってから別れた。


 あの爺さん、今夜は一人で食事をするのかな?


 ちょっと気になったので、エイプリルに王の様子と共にクレイラル卿の様子も監視してくれと頼んでおいた。明日の夕飯は一緒に喰ってもいいかもね。


 翌日。小型輸送艇の中で、インセクターの画像を見ながら、城の地図を作ったり、兵の定期的なな動きを調べる。国王の部屋は完全に閉め切っていて、世話係が出入りする時も侵入のタイミングが無かったそうだ。大雑把な遠隔操作と、あとは簡単な自己判断システムだから仕方がないと言っていた。


 今回はバラバラになる行動は取らないようにした。別に信用していないわけではないけど、一撃離脱の電撃作戦みたいなものだから、バラバラになる意味も無いしね。かと言って戦闘になった場合は王をかばう為の人数も必要だから、4人で行くことも決定事項。こうしてみると、4~5人でのパーティってけっこう理にかなってるのかなぁ。


 脱出ルートも3種類ほど考え出し、それぞれのルートをしっかり覚える。たとえバラバラに分断されても、それぞれがしっかり脱出できるように打ち合わせた。今回は無線通信を使う予定だから、そこら辺はアバウトにできた。文明の利器万歳。チート万々歳。


 そして夕方、夕食の準備でもと考えていた頃、エイプリルから連絡があり、外に出てみるとそこにはコンテナが4つ置かれていた。

 俺とジェイでコンテナを持ち上げ、ちょっと苦労したが全部を中に運び込んだ。実は小型輸送艇の後部ハッチのすぐ横にクレーンがあったんだけど、その説明が面倒だったので、その分を体力でカバーした。


 装備品は全部が2セットずつあり、1セットはカバンに入れておくように言った。そしてそれぞれが装着。先ず俺自身が見えるように着けて行って、それをマネしてもらう。そしてそれぞれの武器と盾。見た目は皮鎧とマントを着けた戦士風に見えるかな。耳当てが口の横にまで伸びているヘッドギアは、ちょっと特殊に見えそうだ。しかも防弾仕様のアイシールドが内蔵されていて、下ろすと個性の消えた特殊部隊風に見えちゃう。やりすぎ? でも返り血や、暴風、投擲武器の用心のためにはけっこう重宝なんだよね。


 装着を終えた皆が一様に見た目よりも軽いと言っていた。まるであつらえたかのようにぴったりだとも。もちろんあつらえたんだけどね。明日の1日はその装備に慣れてもらうと言って、それをつけたままで夕食となった。グローブは外したけどね。

 これで皆が怪我をする確率が下がったと思うと、ちょっと肩の荷が下りた思いだ。世界から浮いてる? それがなにか? きっと、そのうち、たぶん、ファイエーが似たような物を作ってくれるさ。


 次の日は、俺たちの見た目の異様さと、武器のとんでもなさに驚くクレイラル卿を余所に、それぞれの慣熟訓練をこなして行った。ジェイの魔法に目を丸め、ファイエーの小さいおもちゃにしか見えない弓の威力に感嘆の声をあげ、俺とレイミーの剣が木でできた椅子を粉にするのを腰を抜かして見ていた。


 「お前たちなら騎士団と戦っても勝てそうだな。」


 「数で来られたら、圧倒されちゃいますよ。」


 「それだけのモノを持っているのに、それにしっかり気づいているとはなぁ。どこでそこまでの経験をしたのか、教えて欲しいもんだ。」


 オンラインゲームでレア武器とって調子に乗った俺が、モンスターハウスでほとんどのアイテムを失った経験だとは、とても言えない。一匹一匹は一撃で瞬殺できるレベルだったんだよぉ。


 そして夕食会。もちろん驚いていたけど、国王や殿下にもと言って涙ぐんでいた。殿下たちは先に食べてたけどね。


 その夜は空き部屋を使って別々に寝た。ここも安全とは言えないから装備は着けたまま、特にヘッドギアは外さないようにって言っといたから、あんまり熟睡はできなかったようだ。

 旅の傭兵がいつも柔らかいベッドで熟睡する方がおかしいんだ、というのはレイミーの談。ダンジョン攻めしてないんだからいいよねぇ。


 朝起きて、朝食。軽く身体を動かした後に、最終確認で通しで予定を話してからお昼寝。起きてからクッキーとオレンジジュースでお茶して、クレイラル卿は馬車の用意に出て行った。俺たちも目的を悟らせないようにと、マントで鎧を隠したまま街中をブラブラする。


 周りが日の陰に隠れ始めた頃を見計らって、馬車の合流地点の近くを通る。クレイラル卿がいつもの作業と言う感じで馬車の中を片付けていた。

 その馬車を完全無視という感じで真っ直ぐ進み、王城の入口に行く。お城への初めてのお使いという感じで、門番に書類を見せながら目的地を聞き、礼を言って中に入った。

 もちろん、場所も入り方も判っているけど、門番には初顔だからね。


 そして資材置き場で管理をしていた男に、クレイラル卿から預かった箱を渡す。城に入るためのダミーで特に意味は無いけど、いつも納品しているオイルだそうだ。

 受け取りにサインを貰ったら、そのまま声をかけて部屋を出た。本来ならそのまま帰るわけだけど、ごく当たり前のように王の居室へ向かう。


 おそろいの黒マントにヘッドギアの異様な集団だけど、堂々と胸を張ってゆっくり目に歩いたら、けっこう何とかなった。騎士風の集団ともすれ違ったのにね。


 すぐに王の居室の前に到着した。控えの騎士が2人、小間使い風の女性が2人。侍女っていうんだっけ? メイドさん?


 とにかく堂々と。ってことで、


 「国王陛下はここに居られるか?」

 胸を張って、上から目線を心がけ控えの騎士に聞く。


 「そうだが、お前たちは?」


 そこで人差し指を一本立てて、唇に押し当てる。内緒って言う意味で。

 そして少しだけ小声にして、


 「我らが入ったら、何人たりとも中に入れるな。そう長くは掛からん。これはあの方の命だ。」

 と、嘘八百を堂々と言った。


 素直に従うか? 確認に行くとかなったら、スタンガンだよ。

 ドキドキしてるのを悟られないように、背筋を伸ばして扉が開かれるのを待った。


 「・・・・・・、判った。」

 悩んだようだけど、あの方の命令ってのと、俺たちの風貌と、内緒だっていうジェスチャーが効いた様だ。あまり王の現状とは関わらないようにしたかったからかも知れないけどね。


 騙せてる時間は短いはず。さっさと行動しよう。


 中に入るとかなりの生臭さ。なにこれ、一国の国王が居る部屋?


 天蓋は無いけど大きなベッドがあった。居るならベッドの上かな? うん、盛り上がってるね。

 そこに寝ている人物を発見、王妃殿下と王女殿下の言っていた人相を思い浮かべながら覗き込むと、どす黒く変色したやつれた顔。ヤバイ! 手遅れか?


 急いで布団をめくり上げ身体の状態を確認する。


 薄い肌着のみの初老と言う感じの男性。肌着の上からもわかる衰弱。

 息は?

 してる!

 間に合うか?


 「ファイエー、ポーションを!」


 「あふあぁ、わたしのポーションはぁ・・・。」


 「私のを使え!」

 レイミーが出してきた。ポーションの補給を忘れていた。大失態だ。


 とりあえず反省は後回し。


 「ジェイ、俺の魔法に合わせてゆっくり飲ませていってくれ。」

 頷くジェイを見てから、目を閉じて回復魔法の呪文を唱えていく。呪文が身体の魔法力を支配した感覚がして、王の身体の様子が感じられるようになる。

 すると、王の胸の上に、冷たく、暗く、不快になるような染みがあるのが、感覚の力で感じた。


 一度魔法をかけ終わり、ジェイもポーションを飲ませ終わったのを確認した後、思い切って王の肌着を左右に破いた。


 その胸の上には黒い宝石? がアメーバのようにうごめいていた。蜘蛛のような形を取ったり、山になったり丸くなったりと不定形に脈動しまくっていた。


 「何だこれは。誰か知っているか?」

 皆首を振る。その顔は嫌悪感に歪んでいた。


 「とにかく、これが衰弱の原因か。」

 ナイフでこそぎ落とすか、と考えたが、俺たちのナイフじゃ鋭すぎる。仕方なくグローブをしっかりはめなおして、手づかみで取り出すことにする。


 なかなか取れない。張り付いていると言うより、入り込んでいるというイメージが手の感覚から伝わる。


 ギィィ


 アメーバのような物がうめいた?


 無意識に握っている手に魔法力を注ぎこんでいた。そして呪文を唱える。


 何を思ったのか、唱えた魔法は単なる光の魔法だった。確かに部屋は薄暗いけど、明かりの魔法は必要ないんじゃない?


 ギィィィギャァァァァァ!


 握った手の中の光の中で、アメーバが叫んだ! なんか、うっすらと煙も見える。


 光が弱点? だから部屋を閉め切ってた?


 それならと、さらに魔法力を注ぎ込んで、明るさを強くする。


 手の中で動物が息絶えたような感触が残る手の平を開いたら、真っ赤な宝石が一つ残っていた。これってルビー? いや。半透明で中の方が濃い血の色をしているって感じに見える。


 そうだ。国王は?


 国王の胸にはアザが残っていたけど、顔色は良く、呼吸も安定している。どうやら助かったみたいだ。


 握った宝石は後で調べてみようと、グローブを裏返すように外して、その中に丸めて入れた。一瞬でも直接触れたくはないよ。カバンからタオルを取り出し、さらにそれを包んでカバンに仕舞い込んだ。ついでにグローブの予備も取り出して装着しなおす。


 「ジェイ、国王陛下の容態は?」


 「衰弱しています。以前のラングール殿下よりも危険な状態に思えます。」


 「う、・・・。お前たちは、なんだ?」

 丁度国王陛下が目を覚ましたようだ。


 「陛下、お気を静めてください。俺たちは陛下を、ここより救い出すためにやって来ました。」


 「ふっ、わたしに、まだ、味方がいたとはな。」


 「はい、クレイラル卿の命でここに参りました。」


 「おお、爺かぁ、そうか、爺にはいつも心配かけて、しまって、いるなぁ。」

 体力が無いようだ。息もまた乱れ始める。


 カバンに何か入ってなかったかな。チョコバーは栄養的にはいいんだけど、今は刺激が強すぎるだろうな。シチューのレトルトはあるけど、ここでゆっくる暖めてから飲ませるなんて、やってられないし、って一本だけりんごジュースがあった。


 「陛下、木の実をすりおろしてから搾った飲み物です。ゆっくり、少しずつお飲みください。」

 1リットルのボトル缶だけど仕方ない。そのまま、抱えさせて自力で飲んでもらう。


 「ジェイ、陛下の服を。ファイエー、背負うのに適当な紐とか捜して。」


 レイミーは外の警戒、ジェイとファイエーが家捜ししている間、俺はもう一枚のタオルを取り出し、ベッドの脇にあった水差しの水で濡らして絞って、陛下の顔や身体をぬぐっていった。


 一枚のタオルじゃすぐにダメになった。どんだけ? 2枚目のタオルでぬぐっている間にジェイが下着も含めて国王の服一式を持ってきた。ファイエーはカーテンを切り裂いている。


 「陛下、お着替えを。立てますか?」


 「立ちたいんだが、身体が言う事をきかないな。これほどとは、情けない。」


 もう一度回復魔法をかける。今度は身体に黒い部分は無かったが、全身が一様に疲労しているのが良くわかった。その疲労を薄めるように魔力を注いでいく。


 「おお、これは凄いな。これは、あれか? 魔法というモノか? 身体に力が戻ってくるぞ。」

 はしゃぐように言いながら自力で服を着ていく国王。実はそこまでは回復してないってのは俺にはわかってた。やせ我慢の人? 俺らを逆に元気付けてた?


 「陛下。力がお戻りでしたら、その力でこのジュースを飲んでください。もしくは脱出のために力を溜めて置いてください。」

 ちょっと意地悪かもしれないけど、今は余裕はないしね。


 あ、子供みたいに素直にジュース飲んでる。少し拗ねちゃったかな。


 木でできた簡単な作りの椅子があったので、その足を4分の3ほど切り落とす。そしてファイエーが作ってくれた紐で、背もたれの方を背負う形での、いわゆる背負子を作ってみた。

 紐を何重にも巻いて、とにかくがっしり固定。俺のマントは陛下に巻いてもらって、陛下が座ったら腰を紐で固定する。


 「レイミー先頭で。ジェイ、ファイエーは後ろを。もう、かまわないから、一気につき抜けよう。」

 これも一応打ち合わせどおり。とにかく、追っ手に準備の時間を与えないっていう事を優先。


 レイミーがちょっと待ってて、というジェスチャーをして一人で扉を出てった。


 「?」

 と思ってたら、外からレイミーが手招き。扉を出ると控えの騎士と小間使いが気絶してた。


 いい仕事してます。


 「陛下、走ります。暫しご勘弁を。」


 「かまわない。やってくれ。」

 身体はフラフラなのに、声だけはしっかりしてる。これもやせ我慢なのかな。


 レイミーがかなり先行し、俺たちがあわててそれを追いかける形で走った。背負子はがっしり固定したつもりなのに、揺れてずれて行く。それを手で押さえつけるために両手が使えない。全ては3人におまかせ状態。


 一つ下の階に下りたら、警備の兵に見つかった。引き止められるのをレイミーが峰打ちで気絶させる。

 俺に余裕があったら、命令だ、このまま外に出る、先導しろ、とか言ってたんだけどね。最後には気絶させられる事になるから、同じだったか。


 気絶させているので、まだ大きな騒ぎにはなっていない、伝令は今頃到着した頃かな。それから剣を取って、こちらに向かうのなら、ギリギリ逃げ切れそうだ。


 レイミーがまた見張りの騎士と切り合いになった。超振動ブレードで剣そのものを叩き切り、返しは峰にして思い切り打ち込んでいる。 そしてそのまま次の騎士へ。


 「エレクトリック・スパイン!」


 「ファイアー・ウォール起動!」


 後ろでファイエーとジェイの呪文を唱える声が聞こえた。後方より追手? 振り返るとバランスを崩しそうだから、後ろを気にせずそのまま前進を続ける。そろそろ俺の体力も尽きてきたよぉ。距離にして約半分ってとこかな。まだまだ、頑張らねば。


 「アイスランス!」


 レイミーまでも魔法を唱え始めた。威力を高めたものじゃなく、速度優先の短い呪文だ。余裕がなくなってきた?


 階段を下りるときは、ちょっと慎重にしたため、後ろからも追いつかれつつあるようだ。あと、1階分降りなくちゃならないのに。


 「ファイアースネーク起動!」


 ジェイがファイアースネークを? あれって、誰かに絡み付いて燃え続けるんじゃなかったっけ。


 「階段にファイアースネークを灯しました。しばらく降りて来れないはずです。」


 なるほど、そういう使い方。なら、


 「ちょっとまぶしいのを出すよ。」

 そう言って、ファイアースネークの真上に、直視できないレベルの光魔法を出した。効果時間は短いけど、迂闊に飛び込むこともできなくなったはずだ。


 前方では俺が追いつくのを待っているレイミーが一回りデカイ騎士の剣を叩き切っていた。でも峰打ちじゃ気絶させられなくて困ってる。


 「どいて! スタンガン行くよ!」


 俺の声で横に動くレイミー、俺に標的を移したデカ騎士だけど、もう遅い。腕のスタンガンを向けて1発打ち込んだ。立ち止まってさえ居れば銃も魔法も使えるからねぇ。でも、精神力の消耗は避けたくなってきた。


 デカ騎士のあとは、並騎士ばかりになったようで、大振りにした剣でなぎ払うように道を確保していく。

 もうすぐ城の出口。あとは門まで、ちょっと開けた場所があるから、そこが注意箇所。


 「ジェイ、ファイエー、まぶしいのを人の目の高さで並べていって。俺たちはアイシールドを下ろすんだ。」

 ヘッドギアに取り付けられているアイシールドには、調光機能もある。本来はヘッドアップディスプレイなんだけど、特に映すものもないから、まぶしい時のサングラスの機能だけにしてある。


 目がくらんで近寄れない騎士の間を進む。中には目をつむって剣を振り回しながら突進してくるのもいたけど、こっちからは良く見えるからあっさり撃退した。


 門番の1人を蹴飛ばし、1人の首筋に剣の峰打ちを入れる。首に直接? 他人事だけど、あれって脊髄損傷してたら死んじゃわない? まぁ、いいか。死なないようにしてあげるほど余裕も無いし、こっちは捕まったら死あるのみだからねぇ。


 俺が予定していた場所まで来た。あと少しで馬車との合流予定地点で、その手前のこの場所は、デカイ穴を掘れば、時間稼ぎができるという狭い場所になっている。


 残りの魔力を込めて、地面の大部分を[消滅]させる。


 その地面の上に居たやつは、そのまま真下に落っこちた。約2メートルの高さで、下は地下水で泥になっている。そう簡単に登れないだろう。ジェイが穴の端のこっち側に、ファイアースネークをかけた。これてよじ登る事もできなくなったね。


 俺も国王並にフラフラになったけど、なんとか馬車まで辿り着けた。馬車の前でへたり込む俺。そんな俺を無視して、クレイラル卿が陛下に突進して抱き起こす。


 「陛下。ご無事で、ご無事でなりよりでした。」

 半泣きになりながら、2回繰り返したよ。きっと大事な事なんだね。


 「爺、すまなかった。この通り助けられた。爺たちには感謝の言葉もない。」


 「もったいないお言葉です。ですが、爺にできるのはここまで。どうか、爺とともに、ルブロンダルへと身を寄せてくださいませんか。」


 「だが、后と娘が囚われているはずだ。2人を置いていくのは我には我慢のしようもない。どうか、2人を救い出せないのだろうか?」


 「陛下。まずは陛下の御身を大切にしてくださいませ。」


 2人が長々と時代劇を繰り広げてるけど、終わるのを待っている時間もないね。45分に印籠が出る予定もなさそうだし。


 「陛下! 卿! まずは馬車で都を出ましょう。」

 そう言って、御者にレイミーとファイエー。馬車の両脇に俺とジェイが扉に掴まったままの状態で乗り込んだ。

 ファイエーの馬車の操作はけっこう上手かった。


 外壁の門を出るまで、追手は追いついては来れなかった。精神力が回復するたびに、道に穴を開けて行ったのが功を奏したのかな? 


 そして小型輸送艇の前まで来た。


 「何だアレは。」

 クレイラル卿が素っ頓狂な声を上げる。卿と狂をかけたつもりだったけど、全然面白くなかった。心の封印部屋にしまっておこう。


 「あれが俺たちの用意した長距離用の馬車です。まずは中に入りましょう。」

 陛下はクレイラル卿とジェイが肩を貸して歩いている。レイミーとファイエーは先行して座る場所を確保。その間、俺は馬車から馬を外し、馬具も取り払って、尻を叩いて好きな方に走らせた。


 馬車の中に積み込まれていた荷物も全部移動させ、俺も乗り込むと何も言わなくてもハッチが閉じた。皆がそれぞれの作業をしている中で、俺が口の中でミクマリスへ、と言うと、壁の表示の1部が、STANDBAYからMOVEMENTに変わったが、誰も気づかなかったようだ。


 「まずはここでゆっくり落ち着きましょう。あまり広くはないですが、お湯を浴びる場所もあります。もちろんトイレも。陛下はかなり衰弱されていたようですので、暖かいシチューを用意しますので、どうぞゆっくりお召し上がりください。」


 なにより体力と言う事で、俺の魔法力が回復するたびに回復魔法をかけ、一時的にでも身体が元気になった所で、しっかり食べてもらおう、というケルス先生方式になった。


 そしてシャワーとトイレ。シャワーはかなり気に入ったようだが、こんなにお湯を使い捨てるとはなんという贅沢なのだ、と、国王陛下に言われたのは複雑な気持ちだった。ボディソープを使って身体を洗ったら、身体の脂がまるでなくなったと驚いてた。石鹸ってなかったっけ? あっても服の洗濯用?

 着替えは俺の下着と野戦服。これだけは、面白いなという感想だった。絹の肌触りじゃないしねぇ。


 しっかり食べて安心したら眠くなったと言って来たので、衰弱にはゆっくり寝るのが一番としっかり、たっぷり寝てもらうことになった。ベッドを占領されたけど、俺たちは交代で見張りに立ちますと言って、外に出た。


 「ここはどこら辺ですか?」

 そう言うジェイの質問に、


 「ミクマリス伯領の、カイエルさんちの近くの森。」

 と、そう言ったら。やっぱり。と呆れた声を出していた。


 「なら、カイエル殿のところにさっさと行く方がいいのでは?」

 レイミーも親子の再会は早いほうがいいのでは? って感じだった。


 「陛下は、王都から北に向かって長い旅が始まったばかりと思っているからね。1日ぐらいは体調を整えてもらおうと思ってる。それに、もう夕飯終わって寝る準備の時間だしね。ここでドタバタするよりは明日の方がいいかな、ってね。」


 実はクレイラル卿の態度を見る最後の機会としている。陛下の全面的な味方か、それとも利用しようという腹積もりがないか。まぁ、ほとんどそれっぽい素振りは無かったんだけどね。


 女性陣2人には、コクピットブロックで寝てもらう。ここにも簡易ベッドと毛布が装備されているけど、あいにく2人分のみ。俺とジェイはコクピットブロックから屋根の上に登り、毛布をかぶって本当に見張りをしていた。現実ってのが、こんなに冷たく寒いとは思わなかった。焚き火でもしたかったなぁ。


 翌朝、シチューとパンの朝食を摂ってもらい、近くに街があるので、そこへ行きましょうと誘う。俺の服でとても国王陛下には見えませんよ。ということで、堂々と歩いてもらい。クレイラル卿には、協力してくれる屋敷で、しっかり体力が戻るまで休養した方がいいと言っておいた。


 「こんな都の近くで、協力してくれる者など居るのか?」

 というのがクレイラル卿の懸念だったみたいだ。


 そんなセリフにかまわず、目的のカイエルさんちに到着。国王はお疲れだから、早く休ませてあげたいな。


 呼び鈴を鳴らし、使用人に屋敷に入れてもらう。


 「約束を果たしましたよ。と、お伝えください。」

 そう言うと、使用人はあわてて奥にかけていった。


 「アキラ殿! どういうことですかな?」

 クレイラル卿が怒ってる。血管切れちゃうよ?


 「実はクレイラル卿の前に依頼を受けておりまして、国王陛下をお連れすると約束していたんです。」


 「なに? はじめから裏切っておったのか? 陛下を安全な場所までお連れすると言うつもりも無かったのだな?」

 後ろではジェイがヤレヤレって顔で呆れてる。レイミーとファイエーはニヤニヤ顔だけどね。


 「ここは、とりあえず安全ですよ。落ち着いてください。」


 「何をたわけた事を! かくなる上は、ワシ一人でも陛下をお連れして、なんとしてでも逃げ延びて見せるわ。陛下、申し訳ありません。このようなことになりまして。安全な場所まで落ち延びた暁には、この命をもって償い申し上げます。」


 凄い覚悟だね。ここで演技はお仕舞い。丁度奥から主役が登場してきた。


 「アキラ!」


 その声はフォンシーレン王女。その後ろには王妃も続いている。


 「殿下。お約束どおり、国王陛下をお連れいたしました。」

 胸に手を当てて、お辞儀で報告した。


 呆けているクレイラル卿。ごめんね、まだ正体隠してるのかもとか思ってたんだ。人を見る目がないから、いろいろ試さないとわからないってのは、面倒くさいね。


 そして感動の家族の再会と言う場面が始まった。カイエルさんも涙しながら、俺たちに礼を言ってくる。クレイラル卿だけは、俺に対してだけ怒り続けてたけどね。


 あとで、信用できるかどうかわからないから、疑ってたって言ったら、それぐらい慎重じゃないとダメだと言いながら、それでもかなり拗ねていた。きっと、会うたびに文句を言ってくるんだろうな。親戚のオバチャンに子供の頃の失敗談を延々と言われ続けるように。


 エイプリルが再補給しておいてくれた、レトルトやジュース、お菓子類も、必要だろうと全部持ってきた。それを小間使いの女性の案内で食糧倉庫に入れてもらい、そこに全部放出したと殿下たちに報告したら、かなり喜んでたよ。国王陛下は衰弱していると言う事で、スープ類などの軽いものがいいとアドバイス。でも、すぐに腸詰めの塩・胡椒炒めとかをむさぼっちゃいそうだ。


 とりあえず、離れ離れにされた家族を一組だけ。救出する事に成功した。

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