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第二十壱章 晃と2人目の王女様 石版の館

 街の外壁の門のすぐ手前で荷馬車の2人と別れ、門の衛兵に古い金属を買い取ってくれる所が無いか聞いた。

 それ専門の業者はないので、鍛冶屋で買い取ってもらうしかないと聞き、その場所を聞いて街に入った。


 領主の街の一つ隣の街ということだろうか? けっこう賑やかだ。斧を売ったら、色々な情報収集をしたいと言ったら、バラバラに分かれて話を聞きにいきませんかとジェイに提案された。斧の金を4等分したいし、集合場所とかも決めてないからもう少し落ち着こうと宥めたけどね。


 鍛冶屋は街の端っこ、外壁沿いの一角にあった。きっと騒音対策なんだろうな。

 トンカントンカンと一定リズムの音が、時々途切れるけど、休むことなく続いている。その中に一人、トンカチは握らないで、道具の入った木の箱を運んだり、水の入った瓶を動かしたりと、アシスト作業をしている見習い風の少年がいた。

 作業している人に声をかけるのもなんなんで、その少年に声をかける。


 「すみません。古い手斧を買い取って貰いたいんですが。」


 「はーい。買取ですね。状態は? 古いとか、傷だらけとかだと、鉄の重さ分の価値しかないですからね。今、おかみさんを呼んできますよ。」


 金勘定はおかみさんの仕事? ここのオヤジさんは尻に敷かれているのかな。


 出てきたおかみさんは、ここの前の村の世話役と同じぐらいの年配の女性だった。太っているわけではないけど、痩せているわけでもなく、どちらかというと年相応なぽっちゃり体系だった。


 「手斧の買取だってね。物が悪ければ分解して重さで量るけどいいかい?」


 「はい、それでけっこうです。たぶん重さでの量り売りになると思いますから。ちなみに、普通の手斧でしたら、平均してどのくらいになるんでしょう?」


 「普通の手斧? だったら、銅貨8枚前後ってところだね。新品の手斧だったら銀貨8枚以上なんだから、けっこう文句が来たりするんだけどね。」

 物価としては似たような感じらしい。


 「それでかまいませんよ、では出しますので重さの確認をお願いします。」

 かなり意地悪かな。ジェイたちもちょっと責める様な目で見てる。相場の把握は必要でしょう?


 そしてカバンからサイクロプスの手斧を、ちょっと苦労して取り出す。これでカバンの負担が減ったかと思うと、肩の荷が下りた感じだ。カバンをファイエーに渡して、元に戻してもらうように頼んだ。


 普通ならショートソードも入らないはずのカバンから、人の背丈よりも大きい、傷だらけの手斧が出てきたせいで、その場に座り込んで驚いてるおかみさんに、手を貸して近くに積んであった木の箱の一つに座らせる。


 「驚かせてしまって申し訳ありません。このカバンは、ちょっと特殊な魔法のカバンなんです。」


 「ちょっと特殊ってだけの話じゃすまない感じだけどねぇ。それはそれとして、この斧はなんだい? こんな斧を扱ってる鍛冶屋なんて聞いたことが無いよ。」


 「これはサイクロプスが持っていた手斧です。たまたまですが、隣の村に生贄を要求していたサイクロプスと戦いになりまして、倒した戦利品として貰って来ました。」


 「一つ目巨人の話は聞いてるよ。アレをあんたたちが倒したってのかい?」


 「ええ。」

 とりあえず、その返事だけをして、にっこり笑顔を向ける。これぞ、詳しい事は聞かないでねという効果の微笑返しの術。


 「これがあるってことは、そうなのかねぇ。」


 「もう、生贄を出さなくてもいいと言って、喜んでましたよ。」

 俺たちの状況に気づいた、鍛冶仕事をしていた男たちも寄ってきて、サイクロプスの斧を見て驚いていた。


 「斧の持ち手と、斧本体の一部がかなり焼けているのはなんでだ? こいつは最近できた焼け跡だな?」

 まさに鍛冶屋の男という感じのがっしりして赤黒く焼けた肌のオヤジさんが聞いて来た。


 「火の魔法でサイクロプスの腕を焼きましたので。」


 「やはり魔法使いか。火の魔法なら、アレだな? サラマンダーだな?」

 なんか、怖いほど迫ってくる。火を扱う鍛冶屋なら、サラマンダーをあがめていそうだよね。


 「サラマンダーは火の精霊ですから、火の魔法はサラマンダーですねぇ。」

 ちょっとだけ言葉を濁してみる。サラマンダーはすぐ近くに居ますよ、なんて言っていいかどうか。


 「お前たち! サラマンダーを召喚したりはできないのか? サラマンダーの火だけでもいい。なにか知っていることがあったら教えてくれんか?」

 かなり興奮している。どうしようか?


 「えっと、サラマンダーをどうするつもりなんですか? 魔法使いとしては精霊を害する存在とは敵対する事になるのですが。」

 もちろん適当に言ってみた。魔法を忘れかけた人たちに精霊をどうにかする事なんてできないだろう。でも、俺たちがそれに加担させられたら困るから釘を刺しておく事にしたよ。


 「あ、ああ、もちろんだとも、サラマンダーに危害を加えようなんて思ってもいない。ワシらはワシらの炉にサラマンダーを住まわせたいんだ。サラマンダーの住む炉なら、最高の鉄を鍛えることができると言われておるんだ。」


 そういう話ってのも聞いたことがあるような気がする。普通に想像しても判る話しだけど、ジェイのサラマンダーをあげる、なんてのはできないからどうしようか。


 「ジェイ? どうしようか?」


 「ええ、どうしましょうか。」

 あまり困った感じはしてないのは何でかな。ジェイが俺たちの前に出てにっこりしてる。その胸には一匹の大きなトカゲが張り付いている。


 いきなり見せちゃう?


 あ、鍛冶屋のオヤジさんも気がついたようだ。そりゃあ、黄色とオレンジ色の混ざった炎をまとったトカゲが、ジェイの服を焦がさずに張り付いているんだもんねぇ。トカゲは楽しそうにジェイの頭に登ったり降りたりして遊んでいるようだ。


 「炉というのはアレですか?」

 仕事場の奥、一番大事なモノとして置かれた石造りの風呂桶みたいな箱に、石造りの太い煙突が伸びている。煙突というよりはかなり太いかな。そして横にはけっこう大きなふいごが4つ置かれている。


 そして、燃えている風呂桶の中にサラマンダーを誘導して入れた。


 燃えている火の中で、サラマンダーはクルクルと回りながら足場を整えるような動きをし、そのあとはしばらく動かなかった。その様子を一心に見つめるジェイもまた動かない。


 どうした? と声をかけようかと思った時、サラマンダーが再び動き出し、残った場所には小さなサラマンダーがもう一匹居た。


 小さなサラマンダーを残して元のサラマンダーはジェイの腕をよじ登り、サラマンダーの杖に手をかけて、その姿を消していった。


 「小さいですが、サラマンダーが炉に宿りましたよ。火は弱めてもいいですが完全に消したりしないようにすれば、少しずつですが成長していくようです。完全に消してしまうと、どんどん小さくなっていき、仕舞いには消えてしまうようです。」


 ジェイが説明しているけど、オヤジさんは炉の中のサラマンダーを見て涙していた。


 「ジェイ? どういう感じで何が起こったのかな?」

 俺も訳がわからないので説明してもらう事にした。


 「火を大切にしてくれそうな方でしたので、サラマンダーが炉の火を集めて、新しいサラマンダーを作ったんです。」


 「それって、サラマンダーの気持ちがわかったってこと?」


 「ええ、言葉じゃないんですが。確かにサラマンダーの気持ちでしたね。言葉が聞こえてきたんじゃなく、気持ちが聞こえてきたっていう言い方しかできないんですが。」


 そう言って、自分が感じた事の表現が上手くできない事に恐縮していた。感情の伝達なんて、テレパシーとか知らないと連想できないモノだよね。


 それよりも恐縮していたのは鍛冶屋のオヤジさんだった。感極まったという言葉通りに呆けたようになっていたが、しばらくして、


 「ふいごを吹かせぇ!」

 そう叫んで、また炉の中のサラマンダーを見つめ続けた。


 言われた他の男たちは、何を? という顔をしていたが、すぐに自分の仕事だとわかり、炉のふいごを足で踏んで空気を送り始めた。


 勢い良く風を送るためには全体重をかけなければならない大型のふいご。それを4つ、男たちが登ったり降りたりを繰り返した。その風で勢いを増す炎が、黄色から白になり光を増していった。


 炉の中のサラマンダーが居心地がいいと喜んでいる。そう俺も感じた。


 ふと横を見ると、おかみさんと俺の眼が合った。それで、


 「すまないねぇ。今、椅子を用意するから待っててくれよ。」

 と言って、見習いの少年を伴って奥に戻って行った。


 俺たちは椅子に座り、鍛冶屋のオヤジさんが一通り飽きるのを待っている間、おかみさんと世間話という情報収集を行っていた。


 この街も兵役のためにかなりの男たちが連れて行かれたけど、金で兵役免除してもらった商人たちや貴族と縁のある者たちが多いので、見た目には男たちが居なくなった様には見えないんだそうだ。

 この鍛冶屋も、本来ならほとんどの男たちが連れて行かれる所だったが、鋼の剣を千本物納する事で免除される事になった。で、今はそれを一生懸命作っている最中だったそうだ。この場合、手抜きでさっさと作ってしまえばいいと言う者もいたが、職人としてそれは許されないと、一本一本丁寧に鍛造しているそうだ。


 サラマンダーについては、鍛冶屋のオヤジさんの父親の父親の代から語り継がれてきた話で、心より求め続けてきたがかなわぬ夢になっていたそうだ。ここ最近は千本の剣を鍛えるので忙しく、疲れからか弱音としてサラマンダーを求める事も多くなっていたため、おかみさんからも丁寧に礼を言われた。


 そんな感じで魔法についても詳しい事は知らないと言っていたが、この街に古くからある商家が魔法について書かれた石盤を持っているが、いまだ誰も読めないでいる、という話を聞けた。この鍛冶屋の名で紹介してくれると約束をしてくれたのは一番の成果だった。


 「はっはー! 見てくれこれを! こんなにも見事に鋼を焼しめる事ができるなんて、さすがはサラマンダーというところだな。」

 オモチャを与えられた子供のようにはしゃぎながらオヤジが俺たちのところに来た。


 「ああ、この礼は、外のサイクロプスの手斧と合わせて、金貨200枚でどうだ?」


 「うちには今、金貨50枚ぐらいしかないよ。しかも、仕入れに金貨30枚は必要だしね。」

 おかみさんが涼しい顔で釘を刺した。しっかり敷かれてるねぇ。


 「じゃあ、ワシらが出せるのは金貨20枚?」


 「まだまだ剣千本の仕事は残ってるんだよ。その間うちで働く男たちも食わないわけにもいかなしねぇ。」


 「なんてこった、情けねぇ。でもなぁ、200枚の価値はあるんだ、その金を出せねぇなんて言ったら、ワシらは商売する資格も無いってもんだろ。」


 「まぁ、それはそうなんだよねぇ。」


 「なんでそんなに金が無いんだ。かなり余裕があったはずじゃねえのか?」


 「あのバカ領主にうちの上等な剣を根こそぎ持っていかれちまったからねぇ。」


 「あぁ、そうだった、ちきしょうめぃ。おう、なら、おめえたちの使う武器をうちで鍛えなおしてやろう。うちで最高の武器に仕立て直してやるぞ。」


 腕にも自身があり、サラマンダーも居る事からかなり有頂天になってるようだ。俺は自分のナイフをだして、渡してみた。


 「何だこれは、刀身が真っ黒に煤けてやがる。刃の部分以外はざらついてもいる。なんだってこんな状態にしてやがるんだ。」


 俺の軍用ナイフは、光を反射して敵に知られることが無いように黒く艶消しの加工を施してある。ざらついているのも、わざとそうしてあるモノだ。武器とは光り輝くもの、とかいう美意識が合ったとしたら、ちょっと相容れないかも知れない。


 「おい、小僧。なんでこんなに汚れたままにしてるんだ?」

 少し軽蔑の表情が出てきてるよ。まぁ、鍛冶仕事に誇りを持っているとかだったら、そうなるんだろうね。


 「それは、わざとそうしてあって、それで完成したいい状態なんですよ。」


 「バカを言え、こんな鋼が泣いている状態なぞ、良いわけがない。」


 「そうですか? そのナイフなら、オヤジさんの鋼の剣を輪切りにできて刃こぼれもしないんですけどね。」


 「なんだと!」

 けっこう怒っちゃった。沸点は低いみたいだ。


 「よし、ワシの最高傑作を持ってくる。それと勝負だ。」


 「ダメですよ。売り物でしょう? 鉄に戻す前の折れた剣とかで充分です。それで納得できなかったら、最高傑作と勝負してもかまいません。」

 周りにいた従業員も興味津々と言う感じで、木の箱に入った折れた剣とか、出来損ないを持ち出してきた。


 「さぁ、どう勝負をつける?」


 「誰か、やっとこで剣を固定してください。手で持ったら危ないですからね。

 で、オヤジさんが俺のナイフを持って、剣を切って下さい。」


 普通は剣と剣をぶつけてつば迫り合いをするもの。なのに、剣を切れと言われてかなり戸惑っている感じがする。

 でもかなり半信半疑なのか、ナイフを握って、ゆっくりと剣に押し当てた。


 ゆっくりと。普通なら切れる剣でも切れないはずの速度だったが、力を込めた瞬間、スパッと切れた。

 俺自身、剣と切り合った事が無かったから、それほどとは思わなかったよ。いや、剣の方が柔らかいのかな。


 「なんだと?」


 「ずいぶん柔らかい剣ですねぇ。」

 鍛冶屋のほぼ全員が驚いている。いや、うちの3人も驚いているけどね。俺も驚いたから、実はここに居る全員ってことになるけど、言った俺が驚いているのは内緒だ。


 「まさか。」

 そう言いながら、他の剣の破片を切り刻んでいく。やっぱ、剣の方が柔らかいんだ。あまり金属加工は詳しくはないけど、不純物が多いのと温度が低いせいかな。


 「どういうことだこれは。なんなんだこのナイフは?」

 もう、完全に怒ってる。隣ではおかみさんが、恩人なんだからとかなんとか言ってるけど、聞いていないようだ。ジェイたちはこの後、どう展開するんだろうって顔でワクワクしながら見てる。


 「このナイフは、たしかタングステンとかいう鉱石で作られていたと思います。鉱石をさらに加工して純度をあげてあり、鉄の2倍以上の熱じゃないと溶け始めないっていうかなり硬い金属です。」


 「鉄の2倍以上だと? どうやったらそんな熱を生み出せるんだ。魔法の力か?」


 「魔法なら可能かも知れませんが、試したことは一度もないですね。実は俺にも良くわからないんで、詳しい事は言えないんですが、タングステンの鉱石と他のモノを混ぜて合金にしてあるらしいです。」


 「合金だって?」


 「違う性質の金属を混ぜて、両方のいいとこ取りの金属を作る事なんですが、これには、先ず、それぞれの金属の性質をしっかり判ってないとできないんですよね。判ってはいても、組み合わせでは上手くいかないことが多いと言われていますし。」


 「そこが判らん。違う性質の金属って言われてもなぁ。」


 「失礼ですが、溶かす前の鉱石を見せてくれますか? できるだけたくさん見てみたいんですが。」


 「鉱石かいいだろ、おい!」

 アゴをしゃくって、見習いに取って来る様に指示した。もう怒りは収まってるみたいだ。これを煙に巻くという。


 鉱石が来るまでの時間、ちょっと静かな時間ができた。ちょっと座りが悪い感じだけど、ここはこのままにして、少し頭を冷やしてもらおう。


 そして麻袋に入ったものや、木の箱に入ったものなどの鉱石が目の前に広げられた。

 ジェイたちに動いてもらい、店の外の光が中に入るようにしてもらったが、まだちょっと暗かった。仕方無しに、光の呪文で部屋を明るくした。


 「これが魔法かい。すげえもんだな。」

 昼白光に照らされた鉱石は色々な色をしていた。


 やっぱりねぇ。


 確かに鉄として取引されてはいるんだろうけど、これを全部混ぜて剣を作ったら、軍用ナイフで簡単に切れちゃうものしかできないだろうねぇ。


 「すみません。この色違いの鉱石は、全部別の種類の金属です。これ全部を混ぜたら、どんな鉄になるか判らないってのが俺の感想ですね。

 上手い具合に硬い鉄になるかもしれないし、柔らかくなるかもしれない、折れやすくなるってのが多いかも。せっかく入れても鍛造しているうちに飛び散っちゃうのも在るかもしれません。」


 なんか目を見開いて俺を凝視してくる。当たり前のこと言っちゃっただけかな?


 「おめえ、鍛冶仕事した事はあるのか?」


 「いえ、槌一本握ったこともない素人です。俺にはこの鉱石がそれぞれどういった石なのかもわかりません。」


 正直に言ったら、オヤジさんがその場に座り込んじゃった。大丈夫かな?


 「ど素人に教えられるとはなぁ。

 ワシらが知っている金属ってな、金、銀、銅、鉄ってだけなんだ。だがな、親父たちは鉄の中にも種類があることに気づいていたんだ。だがワシらには教えてくれなんだ。まだまだ、教えられるほどの事はないと言ってたな。それでも、今のワシが打つ鉄よりもいい鉄を打っていたんだ。それが、前の戦争のときに徴兵されてな、それっきり帰ってこなんだ。」


 サラマンダーにこだわったのも、その親父さんに追いつくためってのがあったのかもね。


 「まったく、おまえさん方に剣を仕上げてやるなんざ、調子に乗って恥ずかしい事を言ったもんだ。すまねぇ、許してくれ。」


 「そうですね。俺の言うとおりのことをしてもらえれば許しますよ。」

 これぐらいの事に、許すのに条件をつける? という目でジェイたちが見てくる。


 「おう、何でも言ってくれ。気の済むようにしていい。」

 そう言ってくれたので、遠慮なく、魔法教室を始めた。


 おかみさんは水。見習い少年は風。男たちは皆火の魔法と相性が良かった。


 結局、サイクロプスの手斧を溶かして、これからの剣作りに利用することにして、鉱石の研究もしてもらう事にした。

 サイクロプスの手斧の代金は、鉱石の研究をしっかりしてもらい、その研究結果を公開してもらうことにした。


 「おめえさん方に渡すってのは判るんだが、なんで他の連中にまで教えちまうんだ?」


 「皆が知って、利用したら、この世界から粗悪な武器が減りますよね。それと、皆が知って、そのうちの何人かが研究をさらに発展させたら、もっといい物が出来上がりますよね。俺はそれを期待してるんです。」


 お金にはならなかったけど、この世界の人たちが技術を研究するというサンプルにはなったかも、ってことで納得して、紹介状の商家に向かうことにした。


 ちなみに後でエイプリルに聞いたところ、俺たちのナイフはタングステンじゃなく、ステンレス鋼だそうだ。一人になって思い出した時には恥ずかしさでのた打ち回ってしまった。

 もちろんタングステンのナイフも置いてあったけど、俺が選んだのはステンレス鋼で、装備品としては一番一般的なモノだったそうだ。聞いたことのない金属名のモノもけっこうあったけど、恥ずかしさが蘇るので気にしないことにした。これもトラウマの一種?


 そして、街の中を少しさまよったけど、なんとか石版が置いてあるという商家の家に辿り着いた。

 昔は店と住居が一緒だったけど、今は住居専用にした家で、店の痕跡がかすかに残る家になっている。店の入口が普通に玄関になっているようで、ドアにはドアノッカーが付いていた。


 ドアノッカーって、ちゃんと聞こえるのかな?


 ドアノッカーに手をかけて、叩きつけようとした時、ジェイが指を差し向けた。

 その先を見ると、呼び鈴のクサリがたれていた。


 赤っ恥。


 誰だ、呼び鈴があるのにドアノッカーなんかつけたやつは。

 とにかく、3回以上じゃないとお笑いの基本にはならないだろう。繰り返しは基本だよね。


 顔を赤くしつつ、今度は慎重に呼び鈴のクサリを引く。遠くでベルのなる音がかすかに聞こえた。ちゃんとした呼び鈴だったよ。ってファイエーを見ると、何のこと? という顔をしてきた。

 さすがはエルフ。・・・。エルフは関係ないかも。


 呼び鈴に出てきたのは使用人だった。とにかく、鍛冶屋の紹介状を渡して、石版を見たいとお願いし、家の主人が許可してくれるまで待つことになった。

 戻ってきた使用人は、主人は来客中で対応できないが、石版は見るだけならばと許可をくれたそうだ。昔、石版を壊そうとした者や中になにか隠し文字でもあるんじゃないかと疑った者がいたらしく、直接触るような見学の仕方は許可していないそうだ。


 石版自体は玄関ホールにおいてあり、入口を入ってすぐ見ることができた。


 そして、読むこともできた。


 光魔法の呪文で、術者が考えたものを映像として周囲に投影するための呪文。


 戦闘中は偽の姿を映して惑わせ、戦いを優位にすることができる幻覚魔法だ。

 心理的な効果は附随しないので、人を相手に犯罪的な事をするには不向きだけど、戦いの中での一瞬の判断が必要な場面では充分に役に立つ、という説明文まであった。


 石版の内容を3人に話し、これを公開するかどうか皆の意見を聞く。


 「戦いには便利ですねぇ。でも、普通の生活ではまったく役に立たないどころか、犯罪に使われやすい感じを受けますね。」

 ジェイが正確な分析をしてくる。まったく同じ事を考えてたよ。


 上手く使えば自分の姿を消して、別の場所に別の人物の姿を映して犯罪行為をすれば、冤罪までかぶせることもできそうだ。


 「これは、俺たちだけで使うようにして、犯罪に使われないように限定できるように研究してから一般公開するっていう方針でいこうか。」


 「それがいいですね。多少は犯罪にも使えるって状態になっても仕方ないですが、使いどころを選ぶぐらいの限定は欲しいですね。」


 「俺たちも、相手モンスターに別の風景を見せるようにする使い方中心でいこう。俺たちの戦いを誰かに見られても、それなら判らないだろうからね。」


 みんなの同意を受けて、この光の幻覚魔法の呪文を教えていく。玄関ホールの隅には俺たちを監視しているさっきの使用人がいるが、そこまでは聞こえないようにボソボソと話していた。


 これで俺たち4人が幻覚魔法を使えるようになった。光魔法って犯罪や大量殺戮に使えるのばっかり? 光と闇は表裏一体とか言ってたけど、闇と同質じゃないのかな?


 そろそろ、覚えておく呪文が多くなって、ちょっとした混乱が起きる可能性も出てきた。特に光魔法は今のところ丸暗記方式だから、驚いてパニックになった時に、すんなり出てくるか心配になる。腕のガードの腕当てに呪文を書いておいて、すぐに見えるようにするというアンチョコでも作ろうかな。どっちかというとカンニングみたいだけど、試験じゃなく実戦ならかまわないよね。


 とにかく実際に使ってみて、魔法の効果を見てみようという話になった。見張り役の使用人に声をかけて、さっさと退出しようと思って探したが、いつの間にかいなくなっていた。


 「あれ? いない? 何も言わずに帰るのもマズイよねぇ。」


 「紹介状付きで見せてもらったわけですし、挨拶無しはまずいですねぇ。

 こちらから探し回るのも無礼になりますし、先ほどの方が戻ってくるのを待つしかありませんね。」


 友達感覚ならメモでも置いて帰っちゃうってこともできるのにねぇ。こういうお屋敷みたいな風体を持つ家だと、そういう面倒な部分があるもんだね。


 で、待つこと数分、あっさり使用人が戻ってきた。トイレだったのかな? って思ったら、


 「旦那様がお話したいとおっしゃられています。ぜひ、こちらにおいでくださいませ。」


 さらに面倒な事になるのかな?


 さっさと帰りたかったので、渋々といく感じで旦那様とやらの部屋に向かう俺たち一行。面倒な事は俺に任せるよ。という目が俺の背中に突き刺さる。はいはい、判ってるよぉ。鍛冶屋でも現金化は俺のせいでできなかったしねぇ。


 旦那様の部屋の中にいたのは、初老に近い、口ひげを綺麗に切りそろえてある、実直そうな男だった。俺たちが部屋に入るときは椅子から立ち上がって出迎えてくれ、それをごく当たり前の動作としてこなしている。礼儀作法にはうるさそうだな。なおさらとっとと帰るってことができなくなったってのが俺の第一印象だった。


 ここは、俺たちも礼儀を欠いた行動はできないな。


 「本日は急な訪問にて失礼しました。旅の傭兵を生業にしているアキラと申します。浅学菲才の身にして礼儀知らずの若輩者ですが、貴重な石版を見せていただき感謝の言葉もありません。貴殿の寛大なお心に感謝の礼を申したいと思います。」


 胸に手を当てて、軽くお辞儀しながら、この言葉使いであってる? って不安を隠しながら言ってみた。


 「これは、これはご丁寧に。わたしはグルナルド商会の取締役を務めます、カイエル・グルナルドと申します。我が家に代々伝わる石版をご覧頂き、某かの発見をしたとか。石版を預かる身としては、これ以上の果報はありませんな。さぁ、こちらにお座りください。是非にともお話を伺いたい。」


 これは、使用人に話を聞かれたかな? それとも、雰囲気だけで何かを発見したと思われているのかな? 下手な判断だと、かなりヤバイ騒動にもなりかねないな。


 装飾の派手だけど硬い椅子に座らされ、なにやら甘いお茶をだしてもらった。この程度の礼で石版の秘密を聞き出せれば安いものだ、とか思ってる? ・・・いや、俺の考えが下衆になってるのかなぁ。


 「申し訳ありませんが、カイエル殿にとっては、あまり良い話ではないかも知れません。」


 「ほう、と言うと?」


 「一つは、あの石版には魔法の呪文が一つだけ書かれていたと言う事。もう一つは、その魔法の呪文は犯罪に使われた場合に大きな被害を生むモノであると言う事です。

 犯罪に使われた呪文が、グルナルド家から出たとあっては、風聞としても良くない影響となるでしょう。

 今回もまた、なにも発見されなかったと言う事にした方が賢明と考えます。」


 正直に言っておこう。それでも、それを公開すると言ったら、素直に呪文を渡してしまおう。この家の運命を握るのはこの家の家長であるこの人だろうからね。


 「あなた方は信用できる人のようだ。ありがとうございます。」

 そう言って頭を下げた。え? どういうこと?


 「すでに、あの石版に書かれている魔法は判っていたのですか?」


 「はい。かつて、旅の魔法使いという方が尋ねて来た時に、あれは人を惑わせるもので、騙すと言う事を生業にする者が使う魔法だと教えられました。以来、我が家ではあの魔法を知ることができる者を逃さずに監視するという役目を負うことになりました。

 本来であれば、そのような石版は破壊してしまうべきなのですが、代々続く家宝ゆえにそれも儘ならず、せめて使えるものが出ないようにと祈る毎日でした。」


 「なるほど、俺たちはそれと同じような事を、ごく最近経験しました。

 大きすぎる破壊力を持つ魔法を、かつて開発した魔法使いがいたようです。ですが、世に出すのもはばかれ、無くす事も忍びないと。

 結局、バラバラにしたけれど、集めれば再現できるようにして、その場を去ったらしいです。

 俺たちはそれを発見し、再現もできました。ですが、本当に危険であるとわかったので、その遺物を全て破壊してきました。」


 「やはり、破壊するべきなのだろうか。」

 本当に忍びない。というただそれだけなんだろうけど、ご先祖様たちの人生を無駄にするかもって考えてるのかな。


 「あの石版に書いてあった魔法を、お見せしましょう。」


 そう言って、呪文を唱え、目標地点を目の前のテーブルにした。


 テーブルに置いてあった飲み物のカップが、全て2重になり、さらにそこに、手の平サイズの一つ目巨人サイクロプスが現れた。


 サイクロプスは手斧を振りながらテーブルの上を暴れ廻り、一つのカップに手斧をぶつけ続ける。そしてカップの中の飲み物があふれ、それに押し流されたサイクロプスが液体の中に沈んでいって、後から植物の芽が出て、伸びて、手の平サイズのリッパな大木に成長して、全てが消えた。


 テーブルの上にはもともとの5つのカップだけの状態に戻った。


 初めてなのに、けっこう上手にできたな。イメージを頭に描いている間は、余計な思考も抑えられるようだ。強制的に集中させられているような感じだけど、戦闘中だとちょっと危ないかも。


 今のちょっとした寸劇を見て、呆然としているカイエルさんが落ち着くのを待ってから、


 「今のように、あるはずのないモノを、好きなように映し出すことができるようにする、というのがあの石版の呪文です。他人の姿を使って犯罪を行えば、冤罪、謀略など、思いのままでしょうね。」


 「こ、これほどであったとは。」

 かなりの汗が出てる。本気で驚いて恐怖しているようだ。


 「確かにこの魔法が広まったら、我が家は破滅だな。」


 「できましたら、あの石版を俺たちが壊すのを許可・・・、いえ、黙認というか、見てみぬ振りをしてもらいたいと考えます。」


 「そ、それは・・・。」

 本気でジレンマしてる。少し譲歩してみようかな。


 「すみませんが、俺の言う言葉を、そのまま繰り返してくれませんか?」


 「え? なんですか? え、言葉を繰り返す? かまいませんが。」


 納得してないようだったけど、かまわずに、光魔法の明かりの呪文を唱える。それを聞いたカイエルさんが、同じように言葉にした。


 すると、目の前に明かりが灯り、周りを照らした。


 「これが光魔法です。カイエル殿は光魔法と相性が良かったようですね。」


 「わたしが魔法を?」


 戸惑っているカイエルさんに、明かりの扱い方を教えていく。けっこうセンスいいみたいだ。


 「では、灯りは上で灯しておいて、ちょっとメモをとってください。」


 メモのための紙を用意したカイエルさんに、幻を生み出す光魔法の呪文を書き取らせる。そして、書き終わったメモをカイエルさん自身に読ませて唱えさせた。


 唱え終わって、一瞬どうしていいかわからなくなったっていう顔をしたので、テーブルの上を指差した。


 するとテーブルの上に、もう一枚のメモ用紙とペンが現れた。ペンはひとりでに持ち上がり、メモの上を滑って、今の呪文を書いていくという映像が映し出された。いきなりでこのセンスは凄いね。


 そして俺がうなずくと、メモは消えて、ついでに頭の上の明かりも消えた。


 「これで、代々の方々の思いは、カイエル殿が引き継げましたね。」


 驚いている、呆然としている。だけど、その後に、俺を見てしっかり頷いてくれた。


 「実はこの呪文は、モンスターと戦うにも便利なんですよね。俺たちとしても犯罪の容疑に関わるような事はしたくないのですが、使った方が確実に倒せるのであれば、使う事に躊躇はしないつもりです。カイエル殿もうかつな使用はしないでしょうし、使うという事を禁忌にはしないでいいとは思います。」


 「使えるようになって初めて判るが、本当に使っていると言うだけだな。」


 「はい。ちょっとした事ができる道具を、手に入れただけですね。」


 「道具か。」


 「はい。道具です。道具は犯罪を犯しません。」


 「うむ。そうだな。うん、そうだ。」


 「俺たちは使っていこうとは思っていますが、この魔法を研究し、できれば犯罪には使えないように改変できないかと考えています。使い勝手は悪くはなるでしょうが、モンスターに対抗するための力の一つにはなって欲しいので。」


 「それはいいな。もしも、そのような改変ができたのなら、ぜひわたしにも教えて欲しい。」


 「はい。その時は、石版に書かれていたのはその呪文だと発表してもいいですね。」


 「・・・、すまない。」


 「では、石版の所に一緒に来ていただけませんか?」


 皆で一緒に玄関ホールに戻り、俺は剣を抜いてブレードを最低レベルで超振動させる。


 石版の上の方を横なぎに切りつけると、刃を通した周辺が砂になって飛び散り、上半分が倒れて下に落ちた。かろうじて文字の部分はわかるが、完全には読めないようになった。


 「写しとかもあるでしょうが、しばらくはそのままに、そしてある程度経ったら、その写しも本物かどうかわからない、という立場にしていただければと考えます。」


 「うむ。古きものは自然に壊れることもある。これも、長き年月に耐えられなかったと言う事にしよう。」


 「ありがとうございます。それでは、俺たちはここで失礼させていただきます。」

 やることは、全部やったよね。証拠隠滅もできたし、あとは誰もいないところに行って、この呪文を使い慣れるように、訓練しよう。


 「あ、すまないが、あなた方には、もう少しお力を貸していただきたい。本当に申し訳ないが、あなた方ならば、信用してもよいと思い、とても重要な仕事を頼みたい。」


 「依頼というわけですか?」


 「その通りだ。わたしは私兵は持っていないのでな、いつもならば知り合いの私兵を借りるとか、酒場などにいる傭兵を募るなどの方法をとっている。だが、今回そのような相手では信用がおけなく、実に困っていた所なのだ。」


 「信用ですか。絶対的に秘密を守る仕事というわけですね。犯罪には?」


 「もちろん、我が家の名にかけて犯罪にはならないと断言しよう。」


 さて、どうしようかな。現金がないので仕事はしたいけど、さっさと領主の街にも行ってみたいところなんだよね。まぁ、行ったからって何かができるわけでもないんだけど。

 皆を見てみる。3人ともおまかせって顔してる。なにか意見ないの?


 「判りました。代表としてこのアキラが、カイエル殿の依頼を受け、依頼に関わる内容全てにおいての秘守義務を受け入れ、守る事を誓います。」


 「お、おお。ありがとう。ではこちらへ。会わせたい方が居られる。」


 カイエルさんを先頭に、今度はさっきよりもリッパな構えの扉の前に案内された。そしてカイエルさん自身がノック。まるでカイエルさんの方がお客のように、中の様子を窺う。

 しばらくして扉が開き、ゆっくりと中に通された。

 部屋はリッパな応接室と言う感じだった。さっきまでいたのはカイエルさんの執務室という所だったんだろう。はじめに来客中と言っていたのはこの部屋にいる人物との接客だったんだね。


 そして、見た目は立派そうなのに、やっぱり硬そうな長椅子に座った20歳弱? ぐらいのかなり上等な服を着た女性がいた。その周りには全身鎧を着た女騎士という感じの2人の兵士。そして、小間使い風の2人の女性がいた。


 かなりのお偉いさんの娘かな? どこかの領主とか、大商人の娘ってのもありそうだな。


 そして、カイエルさんが直接紹介してくるってことになって、


 「殿下、この者たちはわたしが信用できると判断した傭兵たちであります。」

 と言っていた。殿下? 殿下って王族関係の者にしか使えない敬称じゃなかったっけ? じゃあ、王女様とか? 若いけど婚期が早そうなこの世界なら王妃様ってのもありえるか? でも、なんで地方の一商人の家に王族がいるんだ?


 「この方は、シャシル王国のロイスト・シャシル陛下の第一王女、フォンシーレン殿下にあらせられる。

 この者たちは旅の傭兵で、魔法も使える猛者であります。聡明で信用もできる人物であるとわたしの名にかけて約束できます。代表は中の片刃の大剣を背負ったアキラという男です。」


 「アキラと申します。どうぞお見知りおきを。」

 そう言って胸に手を当てて頭を下げるけど、事情が判らないよぉ。もう少し様子見かな。


 「私はシャシルの名を冠するのは恥ずかしいほどの立場にさらされております。この身を守る盾となれとは申すほどの価値もないかも知れませぬが、どうか、私の目的が遂げられるように力をお貸し頂ければと願いもうしあげます。」


 簡単に言えば、王女様が守ってね、って言ってるわけだ。すると、王国の中枢でクーデターでも起こって、王女が逃げ延びたってことかな?


 本当に訳がわからないので、カイエルさんに顔を向けて、説明して、カッコはぁと、という目で見てみる。


 「うむ、詳しい話はしていなかったな。では、部屋を移そう。殿下、しばらく席を外します。」


 「いえ、この場でかまいません。私からのお願いですので、私もまたその言葉を保証しなければならない立場にあります。どうぞ、言葉を濁すことなく、真実をお伝え願います。

 それと、アキラと申しましたね。詳しい事を言わずにお願いしたことをお詫び申し上げます。」


 「殿下、俺たちは、依頼内容を聞かずに、依頼を受けることを約束しました。これは、秘密にしなければならない仕事ならば、当然のやり取りになります。ですので、依頼内容を知らせなかったと言う事はお気になさらないでください。」


 そう言ってカイエルさんに目配せして、話を続けてもらう。


 「詳しい事は、まずこの地図を見てもらいながら話そう。」

 小間使いによって丸テーブルが用意され、その上にかなり大雑把な地図が出された。


 「先ずは中央のシャシル王都。そして周辺に臣下の収める領地が囲っている形になり、全部でシャシル王国となる。

 そして、王都の東南にノウマ伯の収める領地があり、さらに東南に、ここミクマリス伯の収める領地がある。」


 ここのバカ領主はミクマリスとか言うのかぁ。なんか初めて聞いた。まぁファミリーネームだろうから、個人名もさらにあるんだろうけどね。


 「事の発端は、シャシル王国の重臣たちと、ミクマリス伯が結託し、国王陛下を幽閉してしまったのが始まりだ。全ての政から陛下を遠ざけ、その実権を我が物顔で振るい、私腹を肥やしているのだ。」


 よくある下克上? たんなるクーデターかな? 城の王様にとっては、よくある話じゃないのかなぁ?


 「陛下にしてみれば目の中に入れても痛くない殿下はミクマリス伯の元へ視察の名目でつれてこられ幽閉され、王妃殿下も別の地へ幽閉されたという。」


 いやぁ、けっこう美人だけど目に入れたら痛いだろう。この突っ込みはお約束だよね。


 「そして、シャシル王都とミクマリス伯領との間にあるノウマ伯は、王都の重臣とミクマリス伯に反旗を翻し、ミクマリス伯の暴挙を止めるために戦いの準備をしている。

 ミクマリス伯も大量に兵を集めているのも公然のため、いつ本格的な戦争になるのかは判らないのが現状だ。」


 この場合、反政府軍ってのはどっちなんだろう。スプリガンの村や、生贄してた村の男たちが戦わされるのって、それが原因って考えると切なくなってくるなぁ。


 「そんな中。殿下の護衛の騎士が、ミクマリス伯の屋敷から殿下を連れ出すことに成功し、この地で親交のあった私の元においでくださった、とわけだ。」


 これからが本題だね。俺たちは何をすればいい?


 「アキラ殿たちには、殿下の護衛騎士2名とともに、ノウマ伯の元に殿下を届けて欲しい。さらに、これは推論になるが、戦争が激しくなると思われる場合は、北のルブロンダルの王に殿下の保護を頼む場合もある。その場合の護衛も頼みたい。」


 なるほどねぇ。カイエルさんの立場だったら、それ以外にないという感じの依頼だね。でも、王女殿下は納得していないみたい。


 「グルナルド殿。私はやはり、王都を逃げ出すわけにはいかないと考えます。ノウマ伯の元に辿り着けましたら、兵を借り、そのまま王都へと向かうべきと考えます。アキラ殿たちには、その尖兵となって頂きたいとお願いします。」


 「殿下! どうぞお考え直しください。殿下の身に何かありましたら陛下もお悲しみになります。」


 「確かに、私は戦いには向かない弱き女です。ですが、私たちのために領地の民たちが戦い、死ぬ事になる中で、私だけが身の安全のために逃げ出すなど、王族としての矜持にもとる行いでしょう。もしも、王都へと続く道で命を落とすようなら、それが私の運命なのです。」


 さらにご自愛くだされと食い下がるカイエルさん。そこは引き下がれないという殿下。


 俺は肩から力を抜いて、大きく息を吐き出した。とりあえず、凝った肩を揉み解す。


 「危なそうだけど、皆はどうする?」


 「アキラは助ける気満々でしょう。今更何を言ってるんですか?」


 「今までのぉ成果をぉ披露するのもぉよさげですねぇぇ。」


 「失敗する気もしないし。」


 皆も力を抜いて気楽に言って来る。皆も堂々として来たというか、危険意識少なくなってきた?


 そんな俺たちに対してカイエルさんがいぶかしんできた。


 「どうしました? アキラ殿。」


 「えっと、堅苦しいは疲れたので、地でいかせてもらいます。所詮平民の出なんで。

 で、俺の意見としては、ノウマ伯の所に行くこと事態、間違っている可能性があると感じています。避難するのなら、一気にルブロンダルに行った方がいいですね。」


 「堅苦しいのが合わないというのはかまわないが、何故ノウマ伯の所が間違っているのだ?

 それと、ルブロンダルへというのも、シャシルの王自身か、有力な貴族の印のある書状がないと、いかに殿下であろうと、その身を証明する事ができないのだ。殿下が門前払いされることにもなりかねない。」


 「ああ、俺たちが一緒なら、ルブロンダルで門前払いされる事も無いと思いますよ。陛下にも騎士団にも、魔法師団にも顔を売ってきましたから。

 で、ノウマ伯のことですが、実はちょっと不思議に感じている事があるんです。」


 「ルブロンダルの王と面識があったとは、いや、確かに、それだけの人物と言えるが・・・。

 あ、ああ、それはいいとして、ノウマ伯の何が不思議なのだ?」


 「俺も詳しい事は知らないのですが、戦争のための徴兵というのはどのくらい前から行うものなのですか?」


 「そうだな。実際に開戦する半月は前には集めないと、訓練する暇もないはずだ。だが、早く集めても糧食が無駄になるだけなので、1ヶ月以上前から集めることはないな。」


 「ノウマ伯とミクマリス伯は、戦争準備としてどのくらい前から徴兵を行っていますか?」


 「徴兵するタイミングは一様ではないが、早いところではもう2ヶ月になるところもあったな。この街でも2週間ほど前になる、近くの村々では1週間ほど前だというのも聞いたが。」


 スプリガンの村では10日ぐらいだったはず。俺が治療した女性は10日ほど苦しんで、死の寸前までいったんだしね。


 「バラバラなのは仕方ありませんが、ミクマリス伯はどうして、村から根こそぎ男たちを徴兵しているのでしょう?」


 「うむ、だがまぁ、あのミクマリス伯だからなぁ。絶対に勝てる数を揃えているとしか思わなかったが。」


 「絶対に勝つつもりなら、シャシル王国の騎士団を使う方が手っ取り早いですよね。ノウマ伯がミクマリス伯の兵とぶつかった直後に、王都の騎士が後ろから迫れば、それだけでお仕舞いじゃないのですか?」


 テーブルの上の地図を指差しながら、簡単に説明した。ノウマ伯領は王都とミクマリス伯領に挟まれているんだから、位置的に非常にマズイはずだよね。


 「本来なら、ノウマ伯は王都へと兵を出し、国王を救出するという大儀を称えるべきだったんです。ですが、家臣が王を裏切り、王国の実権を握っているのですから、それをすると単なる反逆罪になるのでできない、というのもわかります。ですが、それなら、王都の重臣たちと結託しているミクマリス伯と戦いになるのも、まずいはずです。

 戦争などしなくても、反逆罪の罪状をもって、ノウマ伯を召喚できるはずですよね?

 なぜ、王都は2つの伯爵領の戦いに干渉しないのでしょうか?」


 一気に言って、胸の中のモヤモヤが取れた気がする。


 「そう言われると、あのミクマリス伯がわざわざ戦争を起こすと言うのもおかしな話だな。

 ノウマ伯も、確かに不自然な動きだ。これは、何故だ?」


 「判りませんよね。情報が不足しているとしか言えません。王都の騎士団や、領主の私兵だと、戦争前にたくさんの偵察部隊や情報収集部隊を出して、最新の情報を得ようと躍起になる状況ですね。」


 「そうなのだろうが、わたしにはそこまでの私兵がいないのでな。」


 「ええ、ですから、それは俺たちがやります。あと、傭兵を雇えるのなら、ノウマ伯領の詳しい状況を見聞きしてくる事を依頼するのもいいかも知れません。商売の機を探るためで、食料品や武器、傷薬などの需要を調べてくれと言えば、傭兵にも感づかないでしょうし、その行為も咎められずに済む可能性も高いです。」


 「なるほど、そういう方法もあるか。物の動きで、兵の規模や動向を探るわけだな。」


 「かなり急ぎの仕事だと言って急かせないとならないでしょう。急ぎの依頼だと誤魔化す傭兵も出てきそうですので、注意が必要ですけどね。あと、戦争がどうなるのか、噂話を拾ってくるってのも追加してもよさそうです。」 


 「うん、うん、そうだな、それがいい、早速行動した方が良いだろう。」


 「情報が出揃うまで、殿下にはここで静観なさってくださるようにお願いします。ノウマ伯の所に行っても、再び捕まるという愚行になる場合もありますから。もし、ここにミクマリス伯の兵が来ても、カイエル殿が居れば誤魔化すことができますし。」


 「え? あ、ああ。そうか、そうだった。」


 「殿下の姿に、行商人の姿でも重ねて、さらに別の行商人の姿で見えにくくするなどの使い方がありますね。」


 「とにかく、俺たちは独自にノウマ伯の動向を探ります。それと、ミクマリス伯の方も気になっているので、ついでに調べようと思います。カイエル殿は傭兵を雇って、ノウマ伯の物品の動向を調べてもらうのと、誰か、王城の中のことに詳しい人に情報を貰えないか、そのツテを探ってもらいたいと思います。

 だいたい4~5日。長くても1週間をめどに。本当に戦争が始まってしまったら、身動きが取れなくなる可能性もありますからね。」

 王女も、王女の護衛騎士も、カイエルさんも、カイエルさんの使用人たちも、皆真剣な表情で頷いた。

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