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第二十章 晃とサイクロプス 生贄

 俺たちは小型輸送艇に戻ってきていた。まず、今日はここで寝て、出発自体は明日にしたってのと、エイプリルが小型輸送艇に乗せておいてくれた装備品を交換したり追加したりするため。

 移動はどうするか、って話もあって、領主の街までの行程の半分ほどを飛んで行って、あとは歩こうと言う事にした。小型輸送艇を見つかりたくは無いという話しには、皆是非も無く賛成してくれた。自分たちまで妖怪扱いされたくないってのが本音だったみたいだけどね。


 そして、朝食を摂り、内容は変わってはいないけど新品の装備を着込んでいるうちに目的地に到着。小型輸送艇の快適な部屋を出て出発した。


 領主の街までは途中に街が一つ。寄り道すれば村が一つあるけど、そこに寄るかは微妙な所だった。

 村から街への馬車があるかもしれないが、俺たちはここら辺の金を持ってない。金貨を出せばある程度は融通してくれそうだけど、今は騒ぎの元になる様な事はしたくない。そこで、獲物を狩って村で現金化しようというのが、皆で出した無難な解決方法だった。

 ただ、そのためには村から離れねばならず、そのまま街に向かうか? という問いにジレンマを抱えたのはここだけの話し。


 しかし、のどかな草原地帯で特にモンスターの気配も無く、このまま街まで行ってしまおうとか、本気で考え始めた。


 「何も無いですねぇ。これは村で情報を集めてから探索した方が良かったですかねぇ。」

 ジェイが少し呆れ気味に言ってきた。まったく、その通りで、同じ後悔に苛まれてるよ。


 少し離れて歩き、密かにエイプリルに聞いてみた。


 『まもなく、粗暴な雰囲気の巨人と遭遇する可能性があります。こちらで迎撃しますか?』


 「巨人だって?」

 思わず大きな声を出してしまった。本気で出すつもりも無く、かすかな声で言おうとしたのに、息が荒くなってしっかりとした声になってしまった。


 「巨人? なんですか?」

 聞きつけたジェイが質問してくる。どう誤魔化そうかな。いや、その必要は無かった。


 ズン、ズン、ズン、ズン、

 という足音の地響きがしてきた。これは音で聞いているのか、足元から響く振動を聞いているのか、どっちだろう、って余計な事も考えたりしたが、巨人の体が見えてきた時には、もう、どうでも良くなった。


 さて、フレンドリィモンスター? それともアクティブモンスター? 友好的な怪物なのか、それとも見かけたら攻撃してくる怪物なのか? どっちだろう?


 顔が良く見えるようになった。デカイ目が真ん中に1つだけ。えっと、なんだっけ?


 「サイクロプス。」

 ジェイが声をひねり出すように言った。

 そう、そう、サイクロプスだ。一つ目巨人のサイクロプス。ってなんでこんな所にいるのぉ?


 しかも、俺たちを見つけて手に持ったデカイ手斧を振り上げて迫ってきた。


 「魔法で攻撃! 散開! 散らばれぇ!!」


 俺は右手で剣を抜き、左手は銃を抜いて巨人の足に向かって撃ち込んだ。とにかく、巨人の狙いを俺に集中させたい。敵の攻撃を一身に受けて、魔法使いの攻撃の余裕を作り出すという壁役は俺たちのパーティには居ない。だから、攻撃を避けつつ、魔法使いの余裕を作るという形で俺の飛び道具を使う事にした。


 そして、ほとんど命中した弾丸が、見事、サイクロプスを転ばせた。弁慶の泣き所に針を刺されたようなものだろうけど、近い場所に3~4個の鉛玉はきついと思うよ。地響きを立てて2階建ての家の屋根よりも高い巨人がすっ転んだ。


 もがきながらも立とうとする巨人の足に、今度はスタンガンを撃ち込む。痛みと痙攣とでさらに転がりまわる。

 もう一発スタンガンを打ち込み、少しだけ余裕ができたのを確認し、銃のカートリッジを交換、丸見えの足の裏に向かって全弾撃ち込んだ。


 俺が転ばせて、余裕ができたのを感じたジェイたちは、繰り返しで強化した魔法を練っていた。その魔法も頃合いと感じた俺が、急いでその場から下がる。


 同時に3人の魔法が起動。


 手斧を持った腕は焼かれ、もう片方の腕は切り裂かれ、両足は何本もの氷の槍で貫かれた。


 弱い者イジメ?


 両手、両足が使い物にならなくなったが、何とか振り回して接近を防いでいる。もう、それしかできないんだろうね。長引かせるのも可哀そうだから、頭の方に回りこみ、地面を握って少しばかりの砂利を手にした。それをデカイ一つ目に投げつけ、目が閉じているうちに首に接近、超振動ブレードで切り落とした。


 身体の方はすぐに動かなくなったが、首の方はしばらく口をパクパクさせてたのは、ちょとだけ不気味だった。大きいからすぐには死なないのかな? でも巨人とはいえ人型の脳みそをグチャグチャにするのは勘弁して欲しい。


 「相手の足を壊すってのは、いい方法でしたね。」

 ジェイがけっこう簡単に倒せた事を分析して言ってきた。


 「相手が大きいから当たったようなもの、ってのが一番大きな理由かな。あと、クロスボウのボルトだと、しっかり突き刺さったかどうか、判らないんだよね。」


 「あ、そうか。この巨体で森を歩き回っていたとしたら、木の枝なんか弓矢並みの鋭さで刺さるでしょうね。でも、刺さらずに弾き返すぐらいの硬さを持っているはずですから、クロスボウでさえ刺さったか判りませんでしたね。」

 そう言って、カバンの中からクロスボウを出すと、弦を引いてボルトをセットし、戦っていた位置に戻って、氷の槍が突き刺さっている足に向かってボルトを撃ち込んだ。


 ボルトは5センチぐらい突き刺さっただけだった。この巨体に5センチ程度は何の意味も無さそうだ。でも、そんな足を貫くほどってのは、どんな勢いだったんだろう。水魔法の[貫く][動作]ってのをかなり繰り返したんだろうね。今回の戦いはいろんな意味で驚かされたよ。


 「クロスボウだと、なんの成果も無かったみたいですね。アキラの銃があってよかった。」


 「風の魔法で足を薙いでやるってのでもいけたと思うよ。生き物であれば風の魔法は硬さは関係なく切り裂くからね。」


 今回の戦いの反省会は、ちょっとだけ長かった。それと言うのも、倒したサイクロプスをどうしようか? という課題を皆が避けていたからだ。


 ホント、この巨体をどうしよう。肉を焼いて食べるっていう気にもならないんだよねぇ。と、言って、切り落とした頭を村に持っていくというのも、かなり迷惑な嫌がらせになりそうだし。


 「僕たちのカバンにも入らなそうですし、もし大きい方のカバンが在ったとしても無理だったかも知れませんね。」


 「あの手斧はどうだろう? 倒した証拠にはならないかな?」


 「入れてみます?」


 まず俺のカバンを地面に置いて、ファイエーが俺のカバンの水晶についているプレートを外した。これで、中が一番広い状態になったはずだ。普段は中のモノを取り出しやすいように広さを押さえていたんだけどね。

 ファイエーにはそのままカバンを支えてもらって、俺、レイミー、ジェイで斧をカバンに入れようと持ち上げた。なんか、軽自動車でも持ち上げているような感覚だ。ほんのかすかにしか持ち上がらない斧を、カバンを動かして強引に収めた。


 入った。ドラゴンって凄いや。


 でも、カバン自体もかなり重く感じる。壊れないかな? 早めに出そう。


 そしてかなり戻るような道のりで村に向かった。村でサイクロプスの討伐依頼があればいいんだけどね。


 ひたすら歩いて一時間ほどで村に着いた。村では祭り? って言う感じに、華やかに飾りつけされた台があり、台の上に一人の女性が座り、その周りに人が集まっていた。

 とにかく村人と有効的な接触をしよう。


 「賑やかですねぇ。お祭りですか?」

 俺がそう声をかけた瞬間に、場が凍りついた。え? やっちゃった?


 村人たちが俺たちを見る目が痛い。あ、ここも男が少ない。ちらほらとは見かけるけど、戦闘には不向きかな、と思えるような弱々しいのや、怪我をしているのだけだ。


 「あ。あれ? どうしたんですか?」


 「お若いの。あんたたちは旅の者かね?」

 オバサンとバアサンの中間って感じの年配女性が言ってきた。あからさまに迷惑顔だ。


 「ええ、東の方から来て、西に向かって旅してます。」

 うん、これも嘘じゃない。領主の街に向かってますなんて言ったら、余計な騒動を起こしそうだもんね。


 「そうかい。これからも旅をするんだね。なら、この娘に感謝の言葉の一つもかけていきな。」

 村人の目がますます痛くなってきたよ。どうしたの?


 「えっと、どういうわけです?」


 「この娘はねぇ、今日、生贄として捧げられるのさ。山のモンスターが里で暴れないようにね。」

 村人たちが下を向いて悔しそうに泣いている。


 山のモンスターか、退治すれば金になるかな?


 「どんなモンスターなんです? 俺たちは旅の傭兵もしてますから、可能なら討伐依頼も受けますよ。」


 「本当かい?!」

 村人たちがいっせいに俺たちを見つめる。ちょっと怖いよ。でも、


 「いや、あんたたち4人じゃどうしようもないよ。

 本当なら都の騎士団にでも頼んで退治してもらわなくちゃならないほどのモンスターなんだ。

 領主があんなのじゃなかったらねぇ。」

 悔しそうに唇を咬んで怒りをぶつけたいのを我慢している。


 「でも、俺たちもけっこう強いですよ。ここに来る時も、一つ目巨人のサイクロプスを1体倒してきましたから。」

 とにかく強さをアピールして仕事を貰おう。あれ? 場が凍っている。どうしたの?


 「今なんて言ったんだい?」


 「え? 俺たちは強いですよって。」


 「そのあと!」


 「サイクロプスを1体倒して来たって。・・・・・・?」


 わあ!


 いきなり村人が泣き出した。あれ? なんかやっちゃいけない事しちゃった? 実は村の守り神だったとか?


 「ありがとう、ありがとう。」

 俺の服を握るように掴んできた年配の女性が泣きながら礼を言ってきた。


 良かった。最悪の事態じゃなくて良かった。


 どうやら、生贄はサイクロプスに捧げる予定だったようだ。あの場所でサイクロプスに会ったのも、この村に来る途中だったようだ。


 村が、今度は本当にお祭り騒ぎになった中で、サイクロプスの手斧を出したら、また大きな騒ぎになった。歩いて1時間ほどの草原に首を刎ねたサイクロプスの遺骸があると言ったら、若いけど身軽そうな女性が馬に跨って走っていった。


 生贄になるはずだった女性に何度も礼を言われ、生贄の台にするはずだったテーブルに食い物や酒が並べられ、どんどん飲んでくれと勧められた。


 弱々しい男や怪我をした風な男たちが、器用にも酒を飲みながら音楽を奏で、その周りで女たちが踊りまわる。広場の中央に焚き火が焚かれ、その周りで料理が作られて、振る舞われていった。


 そこに、馬に乗った女性が帰ってきて、


 「本当だった!!」

 と叫んで、さらに盛り上がった。


 結局、午後3時前ぐらいに始まった宴は夕飯がしっかり終わるほどの時間まで続いた。村人たちも個別に夕飯を摂るつもりはまったく無かったようだし、ほぼ予定通りという感じで終わった。


 俺たち4人は、男女別々にはなったが、空いている部屋のある家に泊めてもらい、3日ぶりのこの世界の寝床の硬さを味わった。


 次の日、俺たちは朝から村の世話役という年配の女性と話をして、サイクロプスとのいきさつ、領主の事、魔法の事、村の周りの植物の利用状況を聞きだした。


 サイクロプスは5年ほど前から村にやってきて、はじめは暴れまわってから村の若い娘をさらって帰っていった。次の年も同じ時期に現れ、戦った男たちを薙ぎ倒して、また若い娘をさらって帰っていった。3年目は大きな罠を作って、娘たちは避難させて戦ったが、その時村の建て物はほとんど倒され、避難していた娘たちの居場所も知られ、一人の娘が連れさらわれた。もう、この村は捨てて、別の場所に移住しようかという話も出たが、避難していた娘が見つかった事で、逃げても追って来るんだろうという結論になった。そして4年目に生贄役を用意したら、暴れもせずに娘を連れ去っていったという。

 そして5年目の今年は、男たちが領主に兵隊としてとられ、男たちを待つための村を捨てるわけにもいかず、ただ生贄を用意して待っていたそうだ。絶望に泣きながら。


 「本当になんと言って礼を言えばいいか。これで、あたしたちはやっと、人として生きていけるようになった。生贄の娘を毎年1人差し出すなんて、家畜と同じようなものだったからねぇ。」


 そして礼金の話になったが、村の蓄えを全部差し出すといってきた。毎年、毎年、かなりの被害が出ていたため、本当に少ししか蓄えが無いのを申し訳無さそうに言っていた。

 男たちもいないこの状況じゃ、その蓄えを貰うのも考えちゃうよぉ。


 「依頼を受ける前に倒してしまいましたからね。礼を受け取るのもどうかと思います。それに男たちがいない状況ですからね、蓄えは大切に使ってください。」


 「でも、それじゃ、あたしたちの気がすまないよ。男たちはあの一つ目巨人と戦って5人も死んで、怪我人も多く出たんだ。それを倒したあんたたちは報酬を受け取る権利があるんだろう?」

 村に残っていた男たちは、サイクロプスとの戦いで怪我をして、普通に動く事も苦労するようになったため兵役を免れていたそうだ。それが幸か不幸かは判らないけどね。


 「なら、あの大きな斧を報酬としてもらい、次の街でそれを売ることにします。あとは、馬車で次の街まで送ってもらうってぐらいでけっこうですよ。」

 ジェイたちを見ると、皆も納得の表情でうなずいている。


 そのあとも渋る世話役をなだめるようにして、話を次に持っていった。


 領主の話はスプリガンの村の話とほとんどかぶっていて、スプリガンが聞いた噂は、この村を通って伝わったのか? とも思った。


 魔法もまったく縁がなく、あとで村人を集めてもらう事にした。


 そして草木の方は、ファイエーが知っていた薬草とは別の薬草があるのがわかった。魔法が無いのでポーションになるのかは判らないけど、この村では効き目の弱い風邪薬みたいな扱いだという事だ。

 その株をたっぷり貰う事を約束してもらい、外に出て広場に村人を集めてもらった。


 集まった村人に世話役が俺たちの報酬について話し、村人たちのウルウルした目で見られながら、いつものように魔法の授業を開始した。


 治療魔法は5人、4属性は全部で40人。比率としてはスプリガンの村と似たような感じになった。いつものように、扱いを慎重にすることを何度も繰り返してから、サイクロプスを倒した時の手順を話していった。同じ事があっても、今度は跳ね除けて欲しいからね。


 斧を回収、薬草の株を分けてもらい、村の共有の荷馬車に乗せてもらって街に向かった。一人、治療魔法の使い手の女性が一緒に荷馬車に乗り込み、熱心に治療方法やコツを聞いて来たので、なかなか賑やかな旅路になった。

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