第8話 ただ一人の希望
“ライル君、いる?”
「!」
声はフィオナさんだった。
“リナちゃんがいなくなったって聞いて、心配で来たの”
「‥‥‥‥」
いつもの優しい声だ。僕は一瞬、扉を開けかける。
だけど‥‥パーティーの人達にそんな話はしていない。
どうしてそのことを知った?
“捕まえていきゃあ、金貨百枚だぜ。申請料なんか一発で、釣りまでくる”
ジェイドさんの声が聞こえた。
“静かにしろ”
ボルドさんもいるようだ。
“ライルの方は、邪魔なら始末していい”
「‥‥‥‥」
報酬を削られても恩人だと思ってた人達が、リナを捕まえに来ている。
僕は息を飲んだ。
「裏口から逃げよう!」
リナの手を引いて、裏口から飛び出す。
裏手は林に通じていて、この暗さでは発見されにくいはず。
ガサガサと速足で草を踏んでいく。
青白い星明りの中、虫の声だけが辺りに響いていく。
「‥‥‥‥」
ボルドさん達は冒険者ギルドの指示で動いている。という事はギルドに助けを求めることは出来ない。トマスさんもこうなったら同じだろう。
上の‥‥ハーヴェイ神官長が教会の実務を仕切っている以上、リナの言う通り、教会関係者に接触しては駄目だ。
「お兄ちゃん‥‥ごめん‥‥」
「リナが悪いんじゃない」
このまま二人で街の外に逃げても、いつかは捕まる。
どうしたらいい?
本当に頼れる人はいないのか?
「いや‥‥一人いる‥‥」
王国で最も尊敬されている人が‥‥。
勇者アルヴィン。
もちろん会ったことはないけど、人々の幸せの為、死闘の末に魔王を倒した高潔な人物だと聞いている。
理由を話せばきっと力になってくれる。
幸いにも屋敷のある場所は知っている。
ここからそう遠くはない。
「歩ける?」
「‥‥大丈夫」
リナは笑ったけど、足は傷だらけだ。家から出るときには気遣う余裕がなかった。
「ごめん、もう少しだけ我慢して」
「うん」
リナの手を引きながら、まだ寝静まった通りを駆けていく。
こうしている間にもボルドさん達が追いかけてきそうで、少しでも速く辿り着きたい。だけど、リナに負担をかけたくはない。
時間にして半時くらい‥‥それが半日にも感じた。
街の郊外にある大きな屋敷についた。
屋敷の周りは、鉄柵で囲われていて、門から屋敷までは遠い。
屋敷に灯りはついていない。
出かけていて留守なのか、就寝中なのか‥‥。
もしいなかったら‥‥。
「すみませーん!」
考えてる時間はない。
僕は門を揺らしながら大声で叫んだ。
屋敷からは、何も反応がない。
「すみませーん!!」
更に大きな声を出す。
「自分は、冒険者のライルと言います! 聖女の件で、アルヴィンさんに聞いて欲しいことがあります!」
何も返ってはこない。
それでも続けるしかない。
「アルヴィンさん!‥‥‥‥王が妹にしたことを聞いてほしいんです!」
声の反響が終わると、辺りはまた静まり返る。
「駄目か‥‥」
諦めかけていた‥‥その時、
「お兄ちゃん!」
リナの声に後ろを振り向いた。
「‥‥聖女の件は聞いている。何者かが王を襲い、聖女を王宮から連れ去ったと‥‥」
「‥‥‥‥」
いつの間にいたのか分からない。長身の男性が、僕に剣を突き付けていた。
男性は明るい栗色の髪、青い瞳、頬に傷がある。
白銀と金の鎧に青い外套‥‥聖騎士のものに似ているけど、目の前の人物は威圧感よりも包容力のようなものを感じる。
「お前が聖女をさらった犯人か?」
「違います!」
「では何者だ?」
「自分は聖女‥‥セヴェリーナの兄です!」
「兄?」
「彼女の兄の‥‥ライルといいます」
リナは大きく頷く。男性は眉間にしわを寄せた。
「‥‥どういうことだ?」
「妹は‥‥王に‥‥ゴドフリート王に襲われたのです! 僕達は王の追手から逃げてきました」
「‥‥‥‥」
男性がリナに顔を向けると、リナは下を向いて背中を震わせた。
「私はSランク冒険者のアルヴィン。話を聞こう」
「‥‥‥‥」
アルヴィンさんは僕に向けていた剣を下ろした。




