第7話 窓を叩く妹
リナが聖女として‥‥正確には聖女候補として王宮に行ってから、一週間が過ぎた。
連絡は出来るようなことを言っていたので、仕事の帰りに城に寄ってはみたけど、
『すみませんが、面会はできません』
そう言われて門番に追い返されるだけで、それは僕がリナの兄であることを伝えても変わらなかった。
ボルドさんに言ってしばらく仕事は休むことにした。
本当は何かに没頭していた方がいいんだろうけど、それだと他の人に迷惑をかけてしまうかもしれない。それは絶対に駄目だ。
新月の夜‥‥家のベッドに横になって、これからどうしたらいいかを考えた。
結局、便りがないのは、取り立てて何もないからで、良いことなんじゃないか‥‥そう思うことにした。
「‥‥よし!」
リナが聖女になるなら、僕はAランク冒険者になる。
聖女の兄がいつまでもFランクでは駄目だろう。
明日、すぐに冒険者ギルドに行ってボルドさんに仕事を頼もう。
気分が少し軽くなって、そのまま眠りに落ちていった。
“‥‥ちゃん”
「‥‥‥‥」
“お‥‥”
「‥‥?」
声が聞こえたような気がして、目を開く。
薄暗い天井が見える。まだ夜は明けていない。
気のせいだと思ってまた目を閉じようとしたとき、窓がカタカタと鳴った。
「‥‥‥‥」
誰かが外で窓を揺らしている。
泥棒かと一瞬思ったけど、盗むようなものなんて何もないはずだ。外から見てそれは分かるだろう。
静かにベッドから降りて、机に置いてある剣を掴む。
「‥‥‥‥」
慎重に窓に近づく。
外からは死角になる位置まで窓の近くに移動して、それから一気に窓を開いた。
「お兄ちゃん!」
「‥‥リ‥‥」
窓の下で屈んでいたのはリナだった。
リナは見たことのない白い聖女候補の衣を着ていた。上質な布のようだけど、あちこち破れて、泥と夜露で汚れている。裸足の足は星明りでも傷だらけなのが分かる。
「ど‥‥どうしたんだ?」
「お兄ちゃん‥‥私‥‥」
「待ってろ!」
僕はすぐにドアを開けて、リナを中に入れた。
ベッドに座らせて、手桶に汲んであった水で足を拭く。
「うう‥‥ああ‥‥」
リナは泣き出して僕にしがみ付いた。
「私‥‥王宮に行って‥‥それで‥‥だけど‥‥」
「落ち着いて」
コップに水を入れて渡すと、リナはゴクゴクと一息に飲んだ。
「王宮に行って、それで、ハーヴェイさんに連れられて、その日は挨拶をしたの。次の日から勉強とか、作法とか‥‥色々とあって‥‥お兄ちゃんに連絡しようとしたけど、後でって言われて‥‥それでさっき‥‥」
リナは拳を握りしめて震わせた。
「初めて姫様に会ったの。私を見た姫様はなぜだかずっと笑ってて‥‥それから私を王様のところまで案内して‥‥それで‥‥寝室で‥‥王様は‥‥私に襲い掛かってきて‥‥」
「‥‥まさか‥‥そんな」
この聖王国の王、ゴドフリート三世は、賢王と呼ばれる程の名君だ。
そんなことをするとは思えないけど‥‥。
「‥‥‥‥」
リナは泣き出した。
だけどリナの服は破れている。それに、リナは絶対に嘘なんてつかない。
「私‥‥突き飛ばして‥‥何とか王宮から逃げてきたの‥‥」
リナが僕の腕にしがみつく。
「大丈夫だ」
僕はリナを抱きしめて頭を撫でた。
逃げて来る途中で捕まらなかったのは幸運だったと思う。だけど、王国はきっとリナを捕まえに来る。幸運は二度起きない。今度こそ捕まる。
ここにいてはいけない。
最初に捜しに来るのはこの家だ。
だったら何処に行けば‥‥。
「そうだ、トマス司祭の所に行こう! きっと力になってくれる!」
「‥‥‥‥」
リナは僕の腕を掴んだまま、首を横に振った。
「教会は‥‥駄目‥‥」
「え?」
「多分、教会は‥‥ゴドフリート王と繋がってる。私を見つけて連れて行ったのは‥‥教会だった。だからトマスさんも‥‥」
「それはないよ。トマスさんは、僕達が小さい頃から知ってる」
言いかけたその時、ドアを叩く音が響いた。




