第6話 渡せなかった花籠
「実はですね‥‥」
神官長はゆっくりと話しだす。
「此度、神託によって聖女がこの地にいることが判明したのです。そしてそれが彼女‥‥セヴェリーナ‥‥あなたの妹君だったのです。お喜びください」
「え⁉」
またリナの顔を見る。
リナは笑ったけど‥‥どう思っているんだろうか。
「つきましては、正式に王宮に招く為に、こうして馳せ参じたわけでございます」
「‥‥ま‥‥待ってください! 王宮に?」
「ライル君」
トマス司祭が間に入ってきた。
「王宮に行ったとしても、それで会えなくなるわけじゃない。リナちゃんも用事があれば自由に戻ることができるし、ライル君も会いに行けばいい」
「‥‥‥それは‥‥‥」
「私はかねがね、リナちゃんの存在は人々を癒し、幸せにする存在ではないかと思っていました。そんな素晴らしい人を、この狭い地域だけに留めておくことは、神も望まないでしょう」
「‥‥‥‥」
「どうでしょうか、ライル殿」
神官長が後を続けた。
「‥‥妹が‥‥どうしたいのか‥‥聞きませんと‥‥」
僕が勝手に決めていいことじゃない。
リナの人生は、リナが自分で決めなくてはならないのだから。
「私は‥‥」
僕の顔をじっと見つめる。
その表情を見たとき、リナがどうしたいのかすぐに分かった。
「私は‥‥もし、私が本当に聖女なのだとしたら‥‥やってみたいと‥‥思う」
「‥‥そうか」
それ以上、僕は何も言わなかった。
僕だって、勇者のパーティーに誘われたら断る理由なんてない。
「おお! そうですか、では‥‥」
リナは修道女二人に付き添われて、馬車の方に歩いていった。
「では‥‥」
神官長、トマス司祭、そして終始黙ったままの聖騎士たち‥‥次々と出て行った。
見送ろうと外に出たけど、すぐに馬車は駆け出していく。
「‥‥‥‥」
僕は黙ってドアを開けた。
ただいま‥‥の声はリナに向けてだった。
月明かりが部屋の中を照らす。
持ってきた包み紙の中は花籠だ。
けれど、もうリナには必要がないかもしれない。
「‥‥いや」
落ち込む必要なんてない、リナはこれから聖女として、国中の全ての人に愛される存在になるのだから。
頭では分かってるけど、そう簡単には心の整理はつかない。
狭い家が、こんなに広く感じる。
それは多分、気のせいなんかじゃない。
「‥‥‥‥」
僕は椅子に腰掛けて、昇ってきた月を見上げた。




