第23話 恨みの糸
俺はこの王国全ての破滅を望んでいる。
最終的には、国王と第一王女が目標になるが、教会もその一つだ。
その頂点にいる教皇バルタザール七世は、会ったことも見たこともない。もちろん、向こうも俺のことなど知る由もないだろう。
だが、教会は聖女の名の下にリナを殺した。
向こうが知っているとかそんなことは関係がない。
それと知って連れて行ったハーヴェイ神官長はもちろん、教会に関係した者は全てが復讐の対象だ。必ず壊滅させる。
司祭のトマスが最初の目標だ‥‥先に挙げた奴らに比べて遥かに小者ではあるが、そんな事は免罪符にはならず、地獄に叩き落とさなければならない。
俺達はまた炭焼き小屋に戻ってきた。
ここは町から離れた湖のほとりにあることから、人目に付きにくい。
ウィニフレッドは地面に碧い光を広げた。波打つその表面は、まるで水面のように見える。
【水鏡】のスキルを使って、トマスを目標とした死霊を探している。
「こんな所から分かるのか?」
=直接見えるわけではないがな。我が見ているのは糸だ=
「糸?」
=強い恨みを残した亡者と、恨まれている人物の間には、目に見えない「恨みの糸」がつながっている=
水面には俺の姿が映っている。彼女が腕を入れると波紋が広がった。
=これがお前の糸の一つだ=
ウィニフレッドが一本の黒い糸を摘まみ上げる。その糸を手繰り寄せると、一人の初老の男の姿が映った。
「トマス!」
紛れもない、それはトマス司祭だ。
俺は唇を噛みしめる。
可能ならば、このままあの男を絞め殺してやりたいが、これは【水鏡】の像にすぎない。
=ほう、トマスという男‥‥司祭などという、下町の小役人にも関わらず、かなりの数の死霊に恨まれているな=
ウィニフレッドの言う通り、トマスからは何本かの黒い糸が繋がっている。
=‥‥それはそうと、亡者も恨んではいるが、大したスキルを持っていない者がほとんどだ‥‥ん?‥‥お、これはいい!=
ニヤリと笑い、意味ありげな顔を向けてきた。
=その者は、相当な数の娘に恨まれているが、後に我らの役に立てそうな能力を持つ者は一人‥‥あとはまあ、あっても邪魔にはならんスキル持ちが二人という所か=
「使えそうなのは一人だけか?」
=いや、その一人は『看破の聖女』。処刑されたときには『虚言の魔女』と言われた者だ=
「‥‥虚言の魔女」
俺がまだ小さな子供だった時、そんな名前の魔女が国を騒がせたと聞いたことがある。
その魔女は人々に嘘を振り撒き、不安にさせ、堕落させる悪魔だということだった。
彼女は俺と同じようにトマス司祭に、強烈な恨みを抱いている。
「詳しい話を聞きたいものだな」
=では、直接会いに行くとしようか=
ウィニフレッドは彼女の糸を手繰っていく。
=‥‥場所は‥‥王都の中央広場=
「‥‥‥‥」
昼は人通りが多すぎる。夜になってから向かうとしよう。
黒衣の俺が亡者に会うのは、深夜が似合い過ぎる。
☆☆☆
普段は教会‥‥とだけ呼ばれているアステリア教の教義は『死者の魂は星となり、女神のもとへ還る』という女神アステリアの言葉が元になっている。
国境を越えて、多数の国で信仰されている宗教であり、教会の頂点たる教皇の力は、国王に匹敵する程であった。
本拠はヴェルセリオン聖王国にある。そもそも王国の成り立ちとして、女神が最初に立てた理想の国が聖王国ということになっている。どの国も膨大な数の信者を抱えており、聖王国の周辺国への影響は絶大なものであった。
なぜ、これほどまでに巨大な組織になっていったのか‥‥表向きは女神の慈悲と、その信徒たちが女神の教義に反する邪悪な者を押さえつけてきたからとなっていた。だがその実態は、時折、偶発的に生まれるスキル保持者を見つけだし、教会にとって有用かそうでないかを選別した結果に他ならなかった。
女神の教えを否定し、平和を乱す者を捕らえる教会内の組織‥‥それを『天秤機関』といった。




