第20話 死霊の証言
『‥‥どうして‥‥私を‥‥ドゥーガン‥‥う‥‥』
ネルの背中には、ナイフが突き刺さっている。
それはドゥーガンのナイフだった。
『悪いな‥‥ここまでゴーレムを追い込めば、あとは一息で倒せる』
『私たち‥‥今までちゃんとやってこれた‥‥じゃない』
『そうだな‥‥俺はずっと‥‥お前が‥‥』
『ぐ』
刺さっているナイフを抜く。
『お前が目障りだったんだよ!』
ドゥーガンはそのナイフで、ネルを切り裂いた。
「‥‥‥‥なるほど」
ネルが話した内容は、事前に調べたものとは全く別だ。
=ダンジョンをクリアした英雄が聞いて呆れる=
ウィニフレッドも嘲るように笑う。
語った内容は真実なのだろう。
死霊は真実しか口にしない。なぜなら、魂が昇華できないほどの恨みは、嘘では抱くことが出来ないからだ。
俺は話を聞きながら目を細める。
仮に嘘であったとしても構わない。
ドゥーガンを恨んでいる。それで十分だ。
“ダンジョン攻略の証の魔石など、譲ってくれと言われたら、渡しても構わなかった”
ネルは唇を噛む。
“何も言わず、ナイフを突き刺して私から奪い取った。奴は私のことなど、最初から信用などしていなかった。私は大切な仲間だと思っていた‥‥ずっと騙していたんだ。私は‥‥亡者となってから、何度もドゥーガンの脇に寄って殴りつけた‥‥だが、この拳は奴の体をすり抜けるだけだ”
=亡者は現世には関与出来ない。指先は空を掴み、言葉は宙に消える。それが世界の理だ=
ウィニフレッドは静かに語る。
=だからこそこの男がいる。カロンは亡者と生者の橋渡しを可能にする=
“‥‥分かった”
ネルは頷いた。
「‥‥では、我々は同志という事になる」
前にウィニフレッドに言われた言葉をネルに返した。
「ドゥーガンを殺るまでの限定ではあるが」
“構わない‥‥”
ネルは途中で言葉を区切った。
“ありがとう”
「‥‥‥‥」
不器用に投げかけられた言葉に、俺は無言で頷いた。
それから話を続ける。
やがて夜が明けると、閉ざされた薄暗い洞窟内にも関わらず、ダンジョン内も朝‥‥という時間に移行していく。
ネルの姿がぼやけていく。消えたわけではないが、声は小さく、やりとりも時間がかかった。
=彼女は高位の亡者ではないから仕方がない=
ウィニフレッドは全く変わりがない。いつものように嘲笑にも見える笑みを浮かべている。
俺たちはダンジョンの出口に向かった。
既にここは踏破されており、敵対してくる魔物はいない。
「どうやってドゥーガンを倒す?」
=ふふ‥‥そうだな。今のスキル無しのお前では、大盾と厚い鎧で身をかためたあの男に勝つことはできまい=
俺の顔を見ながら、ウィニフレッドは楽しそうに笑った。
=だが、盾を抜くのは剣のみにあらず=
「どういうことだ?」
=情報だ。既にネルからはドゥーガンに関する情報をこと細かく手に入れている。言っただろう。簡単な相手から始めると。あの程度の男を抜くのはそれで十分ということだ=
ダンジョンから外に出ると、朝日は辺りの山々を茜色に染め上げていた。
勇者に刺殺されたあの日と同じ朝の光‥‥だが、今の俺は絶望に暮れてはいない。
=ドゥーガンの弱点はその心の弱さだ。それを突く=
ウィニフレッドはこれからの作戦を話した。
「‥‥‥‥驚いたな。魔女というよりは、どこかの国の軍師のようだ」
聞いた俺は素直に感心した。
=‥‥まあ、いたくもない場所に無理矢理座らされて、間近に見させられてきたからな。おかげで世の中の仕組みを知り尽くしてしまった=
「‥‥‥‥」
=まあ、そんなことはどうでもいい。まずはネルの言葉を元に罠を張る=
自分が殺したはずのネルの影を、ドゥーガンに見せる。それだけで奴は自滅していく。
実際にドゥーガンはネルを殺してから、夜道と暗がりを怖がるようになったらしい。毎晩、酒場で深酒をしてから、人通りのない道を一人で帰っている。
酒場で自慢している姿とは逆で、彼は相当気が弱い。
それでよく相方を殺せたものだと思う。
「‥‥ふふ」
話を聞いているだけで心が躍ってくる。
既に俺は普通の人間ではない。
精神も普通でなくなっているのだとしても、全く構いやしない。
最後に全てを滅ぼすことができるなら、それでいい。




