第19話 酒場の英雄
彼女が命を落とした最後のダンジョン‥‥そこに潜ったときも、ドゥーガンは彼女のすぐ側にいた。
ネルはダンジョン地下三階にいるダンジョンボス‥‥ギガンドゴーレムにやられた‥‥ある程度のダメージを負っていたゴーレムは、ドゥーガンの攻撃で崩れ去った‥‥と、言うのが、ギルドに対しての報告だった。
「俺は‥‥ネルを助けようとしたんだ‥‥だが‥‥間に合わなかった。せめてゴーレムを倒すことで、無念を晴らそうと思っただけさ」
「わ、悪かったよ」
からかっていた元の仲間は、ばつが悪そうに離れていった。
「‥‥ふん」
ドゥーガンは残っていた酒を一息で飲み干す。
ギガンドゴーレムは確かに倒した。
それなのに、誰も彼もが、ネルのことを持ち上げる。
ドゥーガンにはそれが気に入らなかった。
今ではネルよりランクは上になっているというのに‥‥。
「おい、酒だ! さっさと持ってきやがれ!」
空になったコップを掲げて声をあげる。
死んだ後も、こうして苦しめる。
全く忌々しい存在だ‥‥ドゥーガンはテーブルの上に新たに置かれた酒の揺れる水面を見つめる。
「‥‥そうだ」
名案が浮かび、ドゥーガンはほくそ笑む。
今や、ダンジョンを踏破したCランク冒険者になった。不慮の事故でメンバーを失ったことは誰もが知っている。メンバーは募集すれば、いくらでもくる。
あとは同じ様に、モンスターにやられた事にしてダンジョンで始末してしまえば‥‥いくらでも稼げる。その金でランクアップの申請をすればいいのだ。
「はっはっは!」
高らかに笑い、ドゥーガンはまた酒をオーダーする。
この程度の金など、これからいくらでも稼ぐことができる。
今はただ素晴らしい前途を祝うべきだと。
ドゥーガンの目には、既にBランクが見えていた。
☆☆☆
「本当にこんな所にいるのか?」
俺たちがいるのは、王都近くにある中規模のダンジョンで、ボルドのパーティーならわざわざ立ち寄ったりはしないぐらいの地下迷宮だった。
=この場所で‥‥強い憤りの中で命を落とした者がいる=
ウィニフレッドは両手を上げた。半透明の体の輪郭がぼんやりと赤い色を放つ。
彼女の持つ三つのスキルのうちの一つ、【死者との会話】を使用しているようだ。
“‥‥ぜ‥‥”
「‥‥‥‥」
壁の中からス‥‥と、白いものが浮かび上がってきた。
その霧のようなものは、次第に人の形に変わっていく。
“‥‥おのれ‥‥許さんぞ‥‥”
それは大柄な女性の戦士だった。
筋肉質な体には、使い込んだ革の軽鎧、動きやすさを重視していたのか袖は短い。
腕は拳に巻いた布と、鋲を打った革の小手。【身体強化】で殴って戦う拳闘士なのが見てとれる。首には首飾り。腰には予備の短剣が何本か‥‥。
彼女は生前は熟練の戦士だったに違いない。
“お前たちは‥‥何者だ?”
=我らは生者に奪われた者の無念を引き受け、向こう岸へ渡す者=
ウィニフレッドが先に答える。
「‥‥そういうことだ。俺の名はカロン。死者の渡し守だ」
俺はその言葉の後に続いた。




