第17話 災厄の魔女
=お前の妹は、あの勇者が湖にお前と一緒に投げてしまった。恐らく何処かに流されてしまったのだろう=
「!」
俺は声のした方に顔を向けた。
そこには、深い青と白を重ねた、古い時代の礼装を着た、十五、六歳ぐらいの少女が立っていた。
波打つような長い黒髪がゆるやかに揺れている。
=我はウィニフレッド‥‥およそ三百年前の‥‥本物の聖女だ=
「‥‥‥ウィニフレッド‥‥災厄の‥‥魔女」
聞いたことがある。遥か昔、強大な力を持っていた魔女の名前が、ウィニフレッドだ。
だが、それは聖女ではなく王国を恐怖に陥れた魔女と聞いている。
=‥‥そのあだ名も懐かしいな。だが真実は違う=
ウィニフレッドは笑って俺の近くに寄った。
=我はそもそもただの村娘だった。だが、力が目覚めたとき‥‥今の教会がその力を利用しようとして聖女として王城に連れて行った=
「‥‥‥‥」
=戦争の武器として使おうとしたが、我は拒否した。そして魔女として処刑された。なので我はこの国を恨んでいる。お前と同じぐらいにはな=
ウィニフレッドはニヤリと笑った。
=我が力は三つ、【死の癒し】【死者との会話】【水鏡】だ。お前は死の癒しの力によって動いている。だが生き返ったのとは意味が少し違うぞ。我の癒しは、どのような者でも動くことが出来るようにする。お前は傷が塞がり、痛みは消え去った。それだけだ=
「‥‥‥死んでいない状態」
俺は湖に顔を向けた。
「だったらリナも!」
=それは無理だ=
「なぜだ?」
=強い恨みが、執着心を燃え上がらせる程の状態でなければ、この技は効かない。ただの人間は、死んだ瞬間に魂は天に昇っていく=
「‥‥‥‥」
=まあ、そんな顔をするな。これはいわば呪いのようなものだ。素直に逝けた事は幸せだと思い知る日がくるだろう=
「‥‥分かった」
俺自身がどうであれ、復讐する機会は与えられたのだ。
それで十分だ。
「‥‥‥‥」
俺は王都の方角に顔を向け、そして睨みをきかせる。
=アハハハ、いいぞ、その顔!=
ウィニフレッドは顔を歪ませて笑った。
=‥‥蘇る前も言った通り、聖王国の歴史の影には我らのように不当な扱いを受けて、命を落とした者が数多くいる。お前がやることは、その者らの無念を解消し、力‥‥スキルを引き受けることだ=
「‥‥力を‥‥引き受ける?」
=王国はその者らの力を利用しようと、強引なことをしたのだからの。彼女たちの力は絶大だ。集めて‥‥=
「‥‥‥‥」
ウィニフレッドが顔を近づけた。
=この国を‥‥破滅させる!=
「‥‥本当に災厄の魔女じゃないか」
=そうさせるのは、あ奴らだ=
「‥‥‥‥ふふ」
自然に笑いが込み上げてくる。
「つまり俺達は同じ目的を持つ同志ということだな」
=そうだ=
俺はウィニフレッドに手を差し出した。
「これからよろしく頼む」
=王国が破滅するその日まで=
ウィニフレッドの手は俺に触れることもなく素通りした。




