第16話 闇からの声
“‥‥‥‥なかなかどうして‥‥興味深い”
‥‥?
自分の内にはない、別の言葉がどこからか響いてきた。
心を直接撫でてくるかのような、奇妙な感じだ。
“強烈な思念‥‥素晴らしい‥‥”
誰だ?
その問いに答えることもなく、謎の声は語り続ける。
“お前は今、何がしたい?”
この国の‥‥あいつらの破滅だ。
“お前一人では、何も成せぬ。だがこの国には、お前と同じように奪われ、今も恨みを抱いたまま眠れずにいる娘たちがいる”
‥‥娘たち?
“剣を振るい、魔を操り、知恵で国を支えた者たちだ。その力ゆえに恐れられ、裏切られ、葬られた。力は、恨みとともに今もこの世に縛られている”
‥‥‥‥。
“その恨みを晴らしてやれば、彼女たちは解き放たれる。そのとき、行き場を失った力を、お前に託すだろう。その力はお前自身の恨みを晴らす力になる。お前は、彼女たちの恨みを晴らせるか”
晴らす。一人残らず。
“だが、心せよ。託された力を受け取るたびに、お前の中に彼女たちが混じる。お前は、お前ではなくなっていく。それでもいいか”
構わない。僕の体でいいなら‥‥全部、くれてやる。
“‥‥その覚悟、受け取った”
黒一色だった世界は、反転して白い輝きで満たされる。
その瞬間、体というものの存在を理解した。
「‥‥‥‥」
息ができない。目を開いたが、あきらかに水の中だ。
水面にあがって顔を出した。
息を吸う。
喉を通っていく空気がひどく冷たく感じた。
気が付けば、俺は岸辺の草の上に仰向けに横たわっていた。
「‥‥‥‥」
さっきまで明け方だったはず。
それが今では空いっぱいに星がある。
数えきれないほどの星が、黒い空の端から端まで、静かに瞬いている。
こんなに星が多い夜を、俺は知らない。
「‥‥‥‥」
ゆっくりと体を起こす。
脇腹に手を当てた。ボルドの大剣に裂かれたはずの傷がない。
胸にも触れる。勇者の聖剣に貫かれた場所には、引きつれた痕だけが残っていた。
痛みはない。
だけど、温かさもなかった。
吐いた息が白くならない。
触れた自分の肌が、湖の水と同じくらい冷たい。
「俺は‥‥‥生きて‥‥いるのか?」
声に出してみて、気づく。
俺は今、自分のことを何と呼んだ?
僕‥‥ではなかった。
そうだ、リナ!
「‥‥リナ」
辺りを見回す。
草の上にも、岸辺の石の間にも、誰もいない。
「リナ!」
叫んだ声が、湖の上を渡って、向こう岸の森に吸い込まれていく。
返事はない。鏡のように静まり返った水面に、無数の星が映っている。
あの星のどこかに紛れてしまったみたいに、リナは、どこにもいなかった。




