第13話 折れた剣
“へえ、やっぱりここに来たのか、言われた通りだ”
「!」
突然声が響いた。
聞き覚えのある声だった。
「よお、花屋の兄ちゃん!‥‥と、花屋の嬢ちゃん‥‥じゃなかったな、高貴な聖女さまってか」
ジェイドさんが脇の藪から笑って顔を出した。
続いてフィオナさんが現れる。
「家の前まで行ったのに、何も言わずに行ってしまうなんて、ライル君は冷たいのね」
そして‥‥ボルドさんが静かな足取りで歩いてきた。
「ライル、お前は今まで本当によくやってくれた。感謝している」
そう言いながら、剣を抜いた。
「待ってください! リナは何もしていません! リナは王に襲われたんです!」
「そうらしいな」
ボルドさんは静かに答えた。
「俺たちは正式にAランクのパーティーになった。今までとは違い、国からの依頼も来る。今回の依頼は王の勅命だ。失敗するわけにはいかない」
「そんな‥‥僕もリナも何も‥‥」
「それはどうでもいいことなんだよねえ」
ジェイドさんが背中から弓を抜いた。
「要は、金になるかならないか、ただそれだけ。‥‥あ、恨まないでくれよ。恨むなら、兄ちゃんが何の才能もないことと‥‥あと、そこの嬢ちゃんが、美人過ぎたのがいけないんだからさ」
「全く、ムカつくったらありゃしない!」
フィオナさんが杖をリナに向けた。
「何の苦労もしてない小娘が、若いってだけでこんなに綺麗に見えるんだから!」
ボルドさんが剣の先を僕の鼻先に向けた。
「ライル‥‥最後に我々の役に立て」
「‥‥‥‥ぐ」
反射的に体がのけ反る。
「ふん!」
ボルドさんは剣を掲げて振り下ろした。
僕は体をそらしてかわした。
ズン‥‥という重い振動の後、土埃が舞った。
「く!」
僕は剣を抜いて構えた。
「おいおいおい、俺らと戦って勝てるつもりでいる?」
「やってみなきゃ分からないだろ?」
「ライル君も言うようになったわね。じゃあ、望み通り、戦ってあげる」
三人は僕に向けて武器を構えた。
確かに戦って勝つことは難しいかもしれない。だけど、勝つ必要はない。
逃げる隙を一瞬だけ作れば‥‥。
それに僕は、荷運びとして毎日、すぐ近くで三人の戦いを見てきた。
その癖はよく知っている。
「我願う、願うは炎、願うは‥‥」
「!」
フィオナさんが詠唱を終える前に、地面の泥を掴んで投げた。
「ぐ!」
目に土が入ったようで、フィオナさんの詠唱は途切れた。不発に終わった炎の弾は、足元の濡れた草を焦がし、白い煙が立ち上った。
「おおおお!」
煙の中からボルドさんが剣を振りかぶって突っ込んできた。
最初は縦の大振り‥‥次に横なぎがくる。
僕は横から迫ってきた大剣を、剣で受ける。
「ぐはっ!」
僕の剣は真ん中で折れ、その切っ先が脇腹を深く切り裂いた。
「お兄ちゃん!」
「‥‥い、今だ!‥‥全力で‥‥あの藪に向かって‥‥走れ!」
ボルドさんの次の攻撃までは、時間がある。
傷口を押さえながら、僕とリナは藪の中に飛びこむ。
「あの野郎!」
ジェイドさんが弓を放ってくる。障害物の多い藪の中では、弓矢を当てるのは難しくなるに違いない。
「あ!」
リナが叫んだ。
「リナ⁈」
「‥‥大丈夫、行こう」
「‥‥‥‥」




