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第12話 風の流れを追え

“生死は問わぬ。神の裁きは、すでに下されている!”

「‥‥‥‥」

 魔導士長のザイラスという人の言葉に、僕は息を飲む。

 もう潔白を証明する機会がない。

 捕まれば‥‥いや、その前に僕とリナはその場で処断されてしまう。

 アルヴィンさんが後で来ても、間に合わない。

 遠目に兵士が持つ槍の先を見つめる。

 あのどれかの槍に貫かれる‥‥僕も‥‥リナも‥‥。

 今にも突入してきそうだけど、その前に逃げなければ‥‥。

 だけどどうやって?

 屋敷は囲まれている。何処からも逃げ出せる場所はない。

 もちろん無理矢理突破なんて絶対駄目だ。

 僕はただの荷運びにすぎない。

 あの兵士一人にだって勝てやしないだろう。

「お兄ちゃん‥‥」

 リナは僕の手を握った。

「私が出ていけば‥‥それで‥‥私があの人達に説明するから」

「駄目だ! あの言葉を聞いただろう? 出ていった途端に殺されて、後で僕も‥‥」

「‥‥‥‥」

 諦めるものか。

 僕達は何も間違ったことなんてしてないんだから。

「逃げよう」

 二階から飛び降りるのはやめたほうがいい。降りたところで、待ち構えた兵士や聖騎士に取り囲まれる。

 だから一階に降りた。

 そこでどうするか‥‥。

「‥‥‥‥」

 灯りが灯っていない暗い廊下が、何処までも続いている。

「逃げ場所‥‥」

『出口を見失ったら、風の流れを追え』

 不意にボルドさんの言葉を思い出した。

 多分、あの人は‥‥あのパーティーは、僕らを追っている。そんな人の言葉を思い出すなんて釈然としない。

 だけど‥‥今はそんなことを考えている場合じゃない。

「‥‥風」

 目を瞑る‥‥頬に僅かな流れを感じた。

「‥‥下?」

 風は床下から吹き上がっている。

 手をかけて力を込めて床板を剥がそうとしたが、拍子抜けするほど簡単に板は外れた。

 板は上にかぶせてあっただけだった。

「‥‥‥‥階段がある」

 もしかしたら屋敷からの脱出口として、最初から作られていたのかもしれない。

「リナ‥‥暗いから気を付けて‥‥」

 上の板を閉じる。これで時間稼ぎが出来る。

 降りるとそこは地下水路だった。

 あちこちに光苔が生えていて、足場がなんとか分かる。

 何年も荷運びをしていたおかげで、足場の悪いところを進むのは慣れている。

 リナの手を引いて、ひたすら水路を進む。

 もちろん出口を知っているわけじゃない。

『水の流れる方へ行け。水は必ず外に出る』

 これもボルドさんの言葉だ。

 僕はボルドさんを尊敬していた。

 あの時までは。

「お兄ちゃん、あそこ!」

 遠くにぼうっと光が見える。


挿絵(By みてみん)


 慎重にゆっくりと歩いていた足は、少しだけ速足になる。

 そこにあったのは鉄柵だったが、柵は簡単に外れた。

「‥‥‥‥」

 光が眩しい。

 出口を潜ると、そこは街の外を流れる川だった。

 林の隙間から朝の光が矢のように真っ直ぐに刺さってくる。

「‥‥やった」

 とにかくあの場は、どうにかやり過ごせた。

 そしてこれからどうするべきか‥‥。

 何れにしても街からは離れた方がいい。

 王国の兵士が探索の範囲を広げれば、ここにいても見つかる。

 確か少し行った湖の近くに炭焼き小屋がある。

 そこに行ってから、どうするかを考えよう。

「先を進もう」

 僕達は獣道を伝って歩いていく。

「あ!」

 途中でリナがよろけて、僕は慌てて支える。

 見るとリナの足首は赤くなって腫れている。よくここまで我慢して歩いてきたものだ。

「大丈夫か?」

「うん、ごめん‥‥」

「謝るなよ、別にリナが悪いわけじゃないんだから」

「でも‥‥私が聖女になるなんて言わなければ‥‥」

「それがリナの決めたことなんだろ? だから僕は応援した。それだけのことだって」

「‥‥ありがとう‥‥」

 リナは泣き始める。

「お兄ちゃんが‥‥私のお兄ちゃんで良かった」

「そうだろう、僕はいつかこの国で一番の冒険者になるんだからな」

 照れ隠しにおどけたように言うと、リナは少しだけ笑った。

 それからは少しゆっくりと進む。

 林の木の間隔が広くなってきた。

 もうすぐ小屋につく。

 良かった。

 夕べと同じ感想を心の中で呟いた。


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