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第1話 夢と夢みたいなこと

続きを見に来てくれてありがとうございます!


───意識が急浮上する。その勢いに任せて跳ね起きる。


「ハッ…ハッ………ハァッ…!…フゥーッ。」


呼吸が浅い。目がチカチカする。頭が痛い。急な坂を全力で駆け上ったかのように跳ねる鼓動と、おびただしい冷や汗が張り付けたシャツの気持ち悪さに、ここが現実だと教えられる。


頭を動かして、手を見る。握って、開く。

手を動かして、体に触れる。実体を確かめる。


「ある…よな。そりゃ…。」


さっきのは何だ?

もちろん不覚醒状態に脳に映る、意識や無意識、心象が結ぶ像、つまり夢である。

何が起きた?

脳が休眠状態から戻り、活動できる状態に入る現象、つまり覚醒である。


(夢、か…。)


当然のように動かせる体を動かして周りを見回す。知ってる天井、見飽きた壁、お世辞にも綺麗とは言えない部屋。今一人で暮らしている自室だ。

時計を見れば時刻は深夜の3時を回ったところで、先刻の悪夢と合わせて気が滅入る時間帯である。


それにしても嫌な夢だった。

夢だと分かった今でも焦りが、恐怖が、脳裏にこびりついて落ちない。

深呼吸をして、ベッドから這い出る。一歩、また一歩と床を踏む感覚が今は頼もしい。


洗面台にたどり着き、鏡を見る。映っているのは──俺だ。

悪意を前に体を無くした何かでも、光を弄ぶ黒でもない。

俺────葛城(かつらぎ) 渡(わたる)以外の何者でもなかった。

どこにでも居そうな22歳の就活大学生。趣味はゲーム、特技は人並みの機転。お人好しなことと一握りの適応力が武器だが未だ実りなし。先日も一社落ちたばかりである。


顔を洗いながらそんな事を考えていると、余計気が悪くなってきた気がする。


「コンビニでも行くかな…。」


徐々に冷静さを取り戻した俺は、自棄と空腹に追われて夜食を買いに行くことにした。

張り付いたシャツを洗濯機に放り込み、乾いたシャツを身に纏う。スマホとあまり重くない財布をポケットに突っ込んで、部屋を出た。


───

──

─


飛び出した夜の町は閑散としていた。どんな都市も郊外に来ればこんなものである。

人はおらず、たまに車が走り去る。月は見えないが、等間隔の街灯が行くべき道を照らしている。

心地よい夜風に吹かれながら歩く。道の先に見える目的地は、夜の町には眩しい程に光を放っている。


家から徒歩数分のコンビニに入り、お菓子と缶コーヒーを買った。カサカサと袋を揺らしながら退店する。

自動ドアを抜けてすぐ、歩道の端でコーヒーを流し入れる。

なんとはなしに夜空を見上げ、夢という非現実からの帰還を噛み締める。明日からもこんな日々が続くだろう。そんな風に考えながら帰路につく。

今日のところは帰って休むとしよう。

また明日も代わり映えのない朝日を────


──カッ!


刹那、あたりが光に包まれる。0時を回ったのだから明日じゃなくて今日、なんていう思考は突然の出来事にどこかへ吹き飛んでしまった。

それまで踏みしめていたアスファルトや道を照らしていた街灯が謎の光へ呑まれていく。


「な…なんだ?!は…?何が起きて…!」


記号だの輪っかだのが目の端を通り過ぎ、視界が歪む。立っていられないほどの耳鳴りが思考を苛む。

そのうち、体が浮遊感に包まれた。浮き上がっているのか落ちているのか判然としないが、光に呑まれて自分の意識さえも曖昧になっていく事だけは分かった。

夢とは違い動く手足をバタつかせても、何も掴まない。何にも引っかからない。

薄れゆく意識の中で、最後に見たのは──



───こちらに向かって飛び込んでくる黒い『俺』の笑い顔だ。


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