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狐/KITSUNE 0 雨の匂い  作者: あておす
第一章 助手席
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2/5

第二部 ネオン街

 十一月中旬。

 東京も、やっと冬の訪れを感じる日が多くなってきた。

 昼間は日に当たればコートを脱ぐくらいだが、夜になればしっかりと冷え込む。

 

 仕事終わり。

 レイはコンビニの駐車場で缶コーヒーを開けた。

 車のボンネットへ少し寄りかかりながら、スマホを見る。

 通知が一件。

 

 『今日ひま?』

 『です』

 『じゃ、この前の場所で』


 リツと初めて会った日から二か月が経とうとしている。

 あの日から、兄を迎えに行く時はだいたいリツはいた。店の前だったり、コンビニの外だったり、助手席だったり。会う度にどうでもいい話をした。

 それがいつの間にか、兄抜きの連絡になった。

 

 二人で会うときは繫華街ではなく、リツの家から歩いて行ける距離のネオン街で遊ぶことが多い。このコンビニからでも、ネオンの光が見える。

 繁華街よりは少し暗く、ディープな雰囲気が強い街だった。

 ここにいる人達は、見た目こそ派手だがしっとりと夜に溶け込んでいる。

 むこうよりは、このネオン街の方が息がしやすい気がした。

 リツがいうには、ここは自分の縄張りらしい。

 それを思い出して少し口元が緩んだ。


 車をリツのマンションの駐車場に停め、そこから歩く。

 コンビニの裏を通り、二つ目のカーブミラーを曲がる。曲がってすぐの長い階段を降り、突き当たりの細い路地を抜けるとネオン街の端っこに入れた。

 そこで通知が鳴る。


 『右』


 顔をあげると、右手の郵便受けに寄りかかっているリツがいた。白のボアジャケットがネオンの青とピンクに染まっている。

「おつかれ」

「お疲れ様です。映画じゃないんですから」

 リツは楽しそうに笑う。

「もう迷わないみたいだね」

「もう覚えましたよ」

 ここまでは。と小声で付け加える。

「最初は人んちの敷地とかに入ってたのに、立派になって」

イジワルな顔のまま、リツは歩き出した。

「あのときはリツさんが走って置いてくからでしょ……」

 その横に並んで歩く。

「でっかい犬が居たんだっけ?」

「しかも二匹ですよ。マジで食われるかと思ったんですから」

 楽しそうにリツは声を挙げる。

「はー。てか、寒いね今日」

「寒いですね。温かいのでも食べます?」

「いいね。鍋食べたい」

「この辺にあるんですか?」

「あるよ。内装がビカビカの和食屋さんがね」

「中までネオン……?」

「ははっ。でも味は間違いないから」

 

 だべりながらネオン街を歩く。

 前より、少しだけ景色が見える。

 前は、光と音の圧しか感じなかった。

 でも今は。

 深夜営業の服屋。

 路地裏のバー。

 眠そうな店員。

 酔っ払い。

 夜の終わりへ向かう人たち。

 街にも、生活があるんだと少し思う。

 

 鍋の店は、雑居ビルの一階にあった。

 暖簾。

 ガラス戸。

 湯気。

 中から笑い声が漏れている。


「ここよく来るんですか」

「たまに」

 リツが戸を開ける。

 大将が、慣れた感じで軽く手を上げた。

「おー、リツちゃん珍しい」

「お腹空いた」

「それはいつも。奥、空いてるから座っていいよ」

「ありがと」

 

 レイは店内を見る。

 入って右側のカウンターは、一枚板の木のカウンターテーブル。席は大将をL字型に囲っており、ほとんど埋まっている。

 その上には壁に掛けられた、年季の入った木のメニュー。

 入口横には水槽もあり、泡を出してる貝の上をフグがのんびりと泳いでいる。

 左手には仕切られた座敷。

 そして一番目を引くのが、入って正面の天井から下がっているビカビカのネオンだった。


「こっち」

 奥の座敷へ入る。

 コートを脱ぐ。店の暖房が少し暑い。

「レイ何鍋好き?」

「鍋ならなんでも好きです。おすすめは?」

「うーん。ここ、なんでもあるからなぁ」

 そういうとメニュー表をこっちに向けてくれた。

「へー。鍋専門店って感じですね」

「そうなんだよ。安定して美味い寄せか、海鮮か。」

 リツはお酒の小さいメニュー表を見ながら続ける。

「あのかわいいフグに免じて、海鮮じゃなくてジビエとかどう?」

「へー!ジビエまであるんですか」

「好き?」

「実家でよくじいちゃんが獲ってきてくれてたんです」

「あー!そっか。レイ、旭川だもんね」

 じゃ、それでいいね。と、呼び出しのボタンを押す。

 

 「はーい!ちょっと待ってねー」


 さっきの愛想の良い大将の、明るい声が響く。

「結構長いんですか?ここ通うの」

「長い……かも?大学一年の頃からだから、三年前くらいだね」

「え?リツさん今大学生?」

「違うよ。一年で中退したから、今はちゃんと社会人」

「ふーん、あ!出汁巻きありますよ」

「興味ゼロか!」

 

「はい、お待たせー」

 と、大将が注文を取りに来た。

「久しぶりだねーリツちゃん。寒い時にしか来ないんだもん」

「暑いときに熱いもの食べないでしょー」

「暑いときに食べるからいいんだよ! で、こっちのお嬢さんは後輩ちゃん?」

「あ、レイって言います」

「レイちゃんね!覚えた」

「後輩じゃなくて友達」

 レイはリツの方を見る。リツはメニューで顔が隠れていた。

「おじさんには眩しすぎるなぁ!」

「注文!!」 

「はーいはい、どれ?」

「これとこれと……」

 なんだか自分も顔を隠したい気分だった。


 注文を終え、大将が去る。

 少しだけ静かになった。


「明るい人ですね」

「でしょ?大将、いい人なんだよ」

 リツは水の入ったコップを口元に当てながら話す。

「あと、おだてるとたまにビールくれるよ」

「ふ、そうなんですか。今度やってみます」

 二人で小さく笑いながら鍋を待った。


 鍋が来る。

 鍋には春菊。白菜。エノキ。椎茸。豆腐。他。そして半分を、きれいな鹿肉が占めていた。

 蓋を閉じ、火を付ける。

 小さく鍋が鳴り始める。

 店内の暖かさ。

 深夜。

 外から少しだけ聞こえる笑い声。


 レイはふと、不思議な感覚になる。

 ネオン街の真ん中にいるはずなのに。

 ここだけ、少し外れている。


 十分後、日本で最強の動物議論が白熱したころに鍋が煮えあがった。

 レイが蓋を開ける。

「うわ」

 二人同時に声が出た。

 

 湯気が立ち上る。

 まずは醤油の香りが広がり、食欲をそそる。

 透き通っていた醤油のスープは旨味が溶け込んで白濁としており、金色の脂が浮かぶ。

 その中でクタクタになった野菜たちと、しっとりと艶のある鹿肉がぐつぐつと踊っていた。


「うまそー!」

「やばいっしょ!」

 方言出ちゃってるよ。と笑いながら、湯気の向こうのリツが取り分けてくれる。

 

「じゃ、いただきまーす!」

 

 チラッと仕切りの隙間から、カウンターの大将のグッドサインが見えた。


 店に入ってから二時間ほど。

 鍋も締めに入っていた。

「レイってさ」

 リツは九杯目のハイボールに口をつける。

「はい?」

「なんか、一人でも平気そう」

 レイは少し黙る。

「……まあ、楽ではあります」

「だよね」

 リツは否定しなかった。

「私、昔ずっと人いる方が楽だった」

 鍋を見ながら言う。

「でも最近、静かな方が落ち着く」


 レイはリツを見る。

 ネオンが似合う人。

 でも、今この人が見てるのは、湯気だった。


「年ですかね」

「ぶっ飛ばす」


 レイが笑う。

 リツも笑う。

 最近は二人でも、楽だった。


 リツは手を振り、レイは会釈してから店を出る。

 夜風が冷たかった。でも、鍋の後だからちょうどいい。

「いやー美味しかったー!」

「ホントに美味しいですここ。また来たいです」

「ね!あと今度はさ、痛風鍋食べようよ。ここの食べたら他の食べれないよ」

「痛風鍋!?次来るときは車やめます」

「ははっ!そうしなー」

 てか、レイお酒強いの?

 それなりには。という会話をしながらリツは自販機で小さい水を二本買う。

「はい」

「ありがとうございます」

 

 ネオン街を歩く。

 時間はもう零時を回っていた。

 酔って騒ぐ集団。

 タクシー待ち。

 腕を組んだ男女。

 どこからか聞こえるジャズ。

 みんなネオン色だ。

 

「こっち」

 リツが細い道へ曲がる。

「どこ行くんですか」

「いや、なんとなく」

「適当だ」

「今さら?」

 また笑う。


 少し路地へ入るだけで、急に静かになる。

 路地裏。

 シャッター。

 落書き。

 室外機の音。

 ネオンは濡れた地面に伸びているだけだ。


 レイは少しだけ周りを見る。

 前だったら、こういう道は避けていた気がする。

 でも今は、そこまで落ち着かなさはなかった。


「レイってさ」

「はい」

「昔から真面目?」

「なんですかその質問」

「いやなんか、学生時代とか」

 少し考える。

「……まあ、多分」

「部活ちゃんと行くタイプ」

「行ってましたね」

「うわ〜」

「何その反応」

「青春してる」

「普通では」

 リツが笑う。

「リツさんは?」

「私?」

 少し間。

「帰宅部」

「意外」

「でもちゃんと学校行ってたよ」

「ちゃんと、が怪しい」

「あはは」

 

 通りへ戻る。

 また光と音が増える。

 ネオン。

 呼び込み。

 深夜営業の店。

 でも、最初ほど圧を感じない。

 レイはふと、少し先のショーウィンドウを見る。

 服屋。

 マネキン。

 暗い店内。

 まだ営業していた。


「うわ、まだやってる」

 リツが足を止める。

「行く?」

「こんな時間に?」

「夜の街だからね」

 当然みたいに言う。


 店へ入る。

「らっしゃーい」

 レジの中で、スマホをいじってるアフロの店員の覇気の無い声が鳴る。

「愛想悪いとお客さん来なくなっちゃうよ」

 店員は顔をあげる。

「おっ!リツじゃん」

 そう言って立ち上がると、二メートルはありそうな細身の男性だった。アフロのせいでもっと大きく見える。

 かなりの圧だが表情は優しい。

 アイツら、最近リツ釣れねぇって言ってたぞ?特にピンクの子とか。

 まぁね。と話してるのを横目に店内を見渡す。

 

 店内はセレクトショップのようだった。

 入口からまっすぐの正面にレジ。その両脇は本棚になっており、難しそうな本。洋画のフィギュア。観葉植物。ステッカー。ネオン表記のデジタル時計が飾ってある。

 入口からレジまでの通りを境に、右側はストリート系の服が並び、左側にはキレイめなモード系の服が多い印象だ。どちらも雰囲気は統一されており、リツが着てそうな服がたくさんあった。


「で、この娘は?新しい後輩?」

 リツと話してた店員は思い出したようにこっちに振る。

「レイっていいます」

「リツの後輩なら歓迎だよ!キミもウチの服似合いそうだしね」

 リツは明後日の方向を向きながら、割り込み気味に。

「後輩じゃなくて友達」

 耳が赤い。

「知ってます」

 ふ、と笑みがこぼれる。

「よく分かんないけど色々見てってよ!」

 なんかあったら言ってね。と言いながらレジに戻って行った。


「じゃ、ぐるっと見て回ろっか」

「はい」

 

 最初に見始めたのはストリート系のエリアだ。

 「どれいいかな~」

 「この辺の結構ヤンチャすぎません?」

 「そう?レイ似合うと思うけど」

 「え、私の選んでるんですか」

 「当たり前じゃん。私、ここの服けっこう持ってるもん」

 そういいながら手にとったのは金色が入った白ベースのスタジャンだ。

 「おー!これかっこいい」

 「絶対いやです。極道の一人娘じゃないですか」

 リツが笑う。

 「ドラマ化しそう」

 平成すぎる。と話しながら隣に移る。


 次に取ったのは、

 オーバーサイズのナイロンブルゾンだ。黒ベースにくすんだ青の切り替えが入っている。

 「やば。……当たり、引いたんじゃない?」

 「これ…は、いいですね」

 レイがタグだけ裏返す。

 「高!」

 「そう?アウターならこれくらいじゃない?」

 「一旦、保留で……」

 「買う気じゃん?」


 あーだこーだ言いながら、次へ、次へとラックを移っていく。


 ストリート系は一通り見終え、今度はモード系のエリアに移る。

 「リツさん仕事終わりだとこういう系ですよね」

 「デキる女ですから」

 エア眼鏡をクイっと上げる。

 手に取ったのは、黒のチェスターコート。

 「レイ絶対似合うでしょ」

 「こういうの着たことないです」

 「まじ?レイ髪ロングだから、かなりかっこいいよ」

 「まぁ、着てみたさはありますけど」

 「パンテーンのCM出てそう」

 「それ言いたかっただけですね?」


 次はシンプルな白シャツと黒スラックス。

 「これだけで完結できる」

 「いや、これまんまリツさんじゃないですか」

 「これはレイの方が似合う。絶対」

 「私服ではハードル高いような」

 「これで腕まくりしてるレイ先輩見た過ぎる……」

 「ダメだ。へんなスイッチ入ってる」

 

 最後に店の隅に小さいゴシックエリアが隠れていた。

 「ねぇ!レイ!!」

 「ぜっっったい着ませんよ」

 「見るだけだよー」

 「今リツさん悪い顔してるから、近寄らないです」

 「ちぇ」


 そしてレジの前に戻る。

 「あー。楽しかった」

 「ですね」

 「買いたいのあった?」

 「思ってたよりありましたね。どうしようかな」

 そこで、のそっとアフロ店員が顔をあげる。

 「試着していいよ。全身コーデしてみたら?」

 「え」

 「しよ!!!」

 リツの方がテンション高かった。

 「まじすか」

 

 すごく嫌な予感がする。

 

 「俺も提案だしていい?」

 「よっしゃ!最強のレイを作ろう!」


 ものすごく、する。


 五分後。

 更衣室の向こうから聞こえる。

「どうー?着替えた?」

「着替えましたけど」

「開けてよ」

「えー。笑いますよね」

「笑わないって」

「レイちゃん元々ストリート系だから大丈夫だよ」

「まぁ……」

 鏡の自分を見る。まぁ……。

 もう見せないと帰れないと腹を括った。

 カーテンが開く。

「おっ!」

「おー!」

「……なんですか」

 

 一セット目。

 青と黒のナイロンブルゾンを主役に、シンプルなスポーティインナー、黒いカーゴパンツを合わせている。

 キャップを被り、腰にチェーンまで足されていて、普段なら絶対着ない服だった。

 

「レイ!かなり決まってるよ!?」

「青似合うねレイちゃん!」

 女の子らしさを出すならレザーのショーパンもありだな。

 なるほど、その手があったか。などすごい盛り上がっている。

 実際、悪い気はしない。が、かなり恥ずかしい。


「次!」

 

 ニセット目。

「……リツさん」

「ん、なに、」

 その声がもう震えていた。

 黒だ。レース。ベルト。スカート。やるとは思っていた。

「いやです!これ戻してください!」

 カーテンから服を出す。それをリツは押し込んでくる。

「大丈夫!!似合うから!」

「こんなの着れないっすよ!」

「レイなら絶対似合うって知ってるから!」

「知ってるわけないっしょ!!」

「ね、お願ーい」

「……」

「一回だけ。ね?」

「…本気すか……」

 押し合う力が抜けると、楽しそうなリツの手が服を置いてった。

 ……まじ?と、声というか音が口から出た。


 カーテンを開く。

「え……」

「うお」

「なんだ!その反応!!」

 

 二セット目。

 黒を基調とした、袖の広がったレースブラウス。その上に、くびれまでしかない短いジャケット。

 プリーツスカートから見えるニーハイに厚底ブーツを合わせている。

 両手にシルバーリングをつけ、十字架風イヤリングを通し、首にリボンのチョーカーを巻いている。


「可愛すぎんだろ」

「な。こんなに似合うとは」

「……」

「待って、まじ可愛くない?」

「普通に完成してるな」

「……せめて笑ってください……」

 シャッとカーテンを閉めるとリツが騒ぎ出す。

「レイ!写真撮らせて!!」

「ぜっっったい無理!!!!」

「保存用!!」

「なにする気ですか!!!」


 ラスト、三セット目。

「これ、本命だから」

「レイちゃん幼顔だから、たぶんギャップエグいぞ」

 カーテンの向こうが妙に静かだ。


 カーテンを開く。

「……」

「……」

「……なに」


 三セット目。

 黒のチェスターコート。白いシャツ。細身の黒スラックス。

 そしてアクセントに時計だけ加えた、かなりシンプルなコーデだ。

 

「……」

「……」

「何か言ってくださいよ」

「やばくね?」

「やばい」

 二人の視線が下まで行き、上に戻ってくる。

「……やばくね!?」

「やばい!!」

「うるさ」

「ねぇ!!レイめっちゃかっこいいよ!」

「マジで似合ってるよレイちゃん!これは買った方がいい!!」

「えー?そうですか?」

 実は、まんざらでもなかった。

「買おう!これ着て遊び行こう!!」

「まぁ……いいですけど?」

「よし!これ全部でいくら!!?」


「二十万」

 

「は?」

「え?」


「正確には合計で二十二万、八千九百円」

 テンションが、足元まで一気に冷めていく。

 リツに至っては、ニジュ。ニジュ?と変な音を出している。

 

「買ってくれるんだよね?」

 

 元々デカかったアフロの店員が、その倍になったように感じた。

 

「脱げー!!!」

「か、返しますっ!!」

 勢いよく引っ張ったカーテンのレールが外れる。

「なにやってんの!レイ!早く!」

「あっ、あっ!」

「ちなみに破れたら買取ね」


「そんなもん試着させんな!!!」


 二人の声が綺麗に重なった。


「また来てねー」

 アフロ店員は手を振りながら見送ってくれた。

 リツと一緒に手を振り返す。

「似合ってんじゃん、それ」

「ありがとうございます」

 レイはコートを手に掛け、青いブルゾンを羽織っていた。

「でも寒くないの」

「もう限界です」

 二人で吹き出す。


 時刻は二時前。人が行き交っていた通りも歩きやすくなっていた。


 くあ。とリツがあくびをしながらポツリポツリと会話を続ける。大将の店も、もう暗くなっていた。

 ネオン街の端っこに近づくにつれ、白色の防犯灯だけがブルゾンを照らしている。

 

 郵便ポストを左手に見ながら、細い路地に入る。路地を抜けると、見上げるほど続く長い階段を登った。

 私がエラい人だったら、まずここをエスカレーターにする。と、リツがヒーヒー言いながら肩を揺らしている。

 登りきってすぐのカーブミラーを曲がり、しばらく歩くとコンビニが見えてきた。


「あ、タバコ買ってっていい?」

「いいですよ。私も温かいの飲みたいですし」

「コート着れば?」

「今日はいいんです」

 横目でリツを見るとニヤリとしてから、そ。とだけ言った。

 なんとなく目線を逸らすと、少し下に広がるネオン街の光がここまで届いていた。


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