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Ep.5 葛藤


私は、遊園地に行ったその翌日から、容態が悪化してしまった。外出許可は撤回され、二人とも面会できなくなった。


体は苦しいのに、頭だけは冴えている。思考の狭間で昨日の会話だけが延々と流れる。

『私の正体は、クローンなんだ』

あんな、あり得ないことが、寝ても覚めても頭に浮かぶ。

「・・・・・・ゴホッゴホッ。はぁはぁ」


  コンコン

「失礼するよ」

担当の先生が病室へ入ってきて、私に告げた。

「単刀直入に言う。数週間のうちに、君は寝たきりになると思う。何をしても、もう・・・・・・」

「そうですか」

別に、驚きはしない。舞衣がクローンであることの方が驚いたし、何より自分でのその自覚があったから。

「そこで、だ。彼女から聞いたんだよね」

舞衣がクローンであることだろうか。あるいは彼女に心臓を私に移植することか。

「はぁ、まぁ。ついこの昨日、彼女の口から」

「急な話になるが、であれば早いな。クローンといえど、リスクもある手術には手続きが必要なんだ」

意外だった。ここまでのことをしている政府と病院。であれば手術も勝手に行うと思っていたが。

「手続き、必要なんですね」

「?、もちろんだぞ。サインを貰わないといけない」

言葉と同時に、一枚の紙を私に差し出す医者。ここにサインすれば、彼女の心臓は私のものになる。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・考えておきます」

私の言葉を聞くなり、医者は病室を出ていった。




   ◇  ◇  ◇




私は、舞衣の心臓を移植してまで生き永らえたいとは思わない。それよりも彼女には、彼女自身の人生を謳歌してほしい。

「・・・・・・情が入る」

舞衣と関わりすぎてしまった。ゆえに犠牲にできない。

反面、私が断るということは、彼女の生まれた意味を根本から否定することになる。彼女の存在意義、アイデンティティを無視できない。・・・・・・情が入る。


  コンコン

「私、入るよ」

名前を聞かずとも容易にわかる、百恵の声。

「どんな感じ?」

「あと数週間が余命(タイムリミット)。私がサインすれば、翌日にでも手術ってか感じじゃないかな」

「ふぅん、さっさとサインしちゃえばいいのに。何か思うところでもあるの?」

そこで私は、すべての胸の内を明かした。

「要するに、情が入っちゃうのね」

私の親友は、見事私の考えを当ててみせた。

「ま、最後は麻依が決めれば、、、」

「私は弱い。きっと本当に死期が近づいたら、彼女の心臓を頼ってしまうと思う」

私は百恵の言葉を遮った。彼女は無言のまま私の言葉に耳を貸す。

「その時は百恵、貴女に止めてほしい。麻依にも人生があるんだって。甘えるなって」

そのお願いに、百恵は首を振らなかった。縦にも、横にも。

「それは、麻依が決めることだって言ったでしょ。私は口出ししない。でも私は、麻依には生きててほしいと思うけどね」

「・・・・・・。」

どこか寂しそうな、けど何かを信じているようで、またその何かを懇願しているような、少しだけ力強い目をしていた。

「甘えてでも、生きた者勝ちだよ」

百恵は出ていった。それから二週間、私の病室には誰も来なかった。

私の容態が再び急変したのは、その日の夜だった。




   ◆  ◆  ◆




  ピコーンピコーン


クローンである私は、ちょうど病室の外から彼女の様子を眺めていた。

機械音と、医師や看護師の騒ぐ声。彼らに囲まれた当の本人は目を閉じ、微動だにしない。

「あーあ、あの()がどこまで粘れるか」

私は彼女の顔を覗き込みながら呟く。もし仮に、、、仮にここで彼女が死んだら・・・・・・。いったい私はどうなるのだろうか。

クローンの私は、当然戸籍など持っていない。政府によって秘密裏に作られた存在、心臓を渡してそのまま死ぬはずだった私だ。


「私って、どうなるんだろ」



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