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私の会社のBL日記  作者: 森 永
2/4

2話 音楽

 連勤が10日目に差し掛かったころ、生気のない顔色で喫煙所に向かう。

 今週は繁忙期もあり決算処理も含めて、趣味に充てる時間もほぼなくストレスも溜まりに溜まり煙草の本数も確実に増えていた。

 本日の例の場所に近づいたが音が聞こえず、あの二人に会えないのかと絶望しながらも足を動かした。壁を曲がり喫煙所を見ると二人の姿があり、先程までの疲れが少し拭き飛び、スキップしたくなる気持ちを抑えながら喫煙所の引き戸を引き体を室内に入れる。


 「お疲れー。」

 「あっ、お疲れ様です。」

 海原は返事を返してきたが、新庄は少し手を振るだけで挨拶は返ってこない。煙草に火をつけ無言で二人の正面に移動すると、新庄は海原に凭れ掛かり一つの有線イヤホンを使って、1つのスマホを互いに見ていた。

 

 「ふぁっ。」

 その様子に耐えきれず変な声が出てしまう。海原がどうしたのか?と心配そうにこちらをちらりと見てきたが、取り繕い顔の前で何もないと手を振って見せる。ただ気付いてしまえばもう、何を見て何を聞いているのか気になり、妄想も順調に捗ってしまいニヤケそうになる顔を、煙草を持つ手で口元だけでもと覆い隠した。


 おそらくスマホもイヤホンも海原の物なのだろう。入室した時は海原の影で見えていなかったが、海原の肩に頭を乗せながら画面を凝視している新庄に、見やすいように画面を傾けている事からして、そうだと思いたい。

 火を付けた煙草半分を吸いきっても終わる気配は見られず、もっと観察しておきたいという欲求から、心の中でもう一本煙草を吸おうと決心した。


 一本目の煙草をギリギリまで吸いきり二本目煙草を箱から取り出す頃、ようやく終わったのか新庄は乗せていた頭を持ち上げ、耳に挿していたイヤホンを外し海原に返す。

 「ん。」

 「どうでしたか?」

 「んー。」

 耳だけを傾け話に聞き入り新庄の回答を待つ。新庄は煙草に火をつけ一吸いすると。


 「わからん。」

 (何が!?)

 「えー。逆に新庄さんは何聞くんですか?」

 (聞く?音楽?挙手質問していいですか?)

 「俺は何でも聞くし歌うし、だよな森永?」

 自称ポーカーフェイスで荒ぶる内心を見せないように押し黙っていたが、急に話の輪に入れられる。

 

 (私は空気だ!捨ておけ!!)

 「え、何が?捨ておけ?」

 急な事に若干の焦りから副音声と混じる回答を返してしまった。

 

 「ん?え? いや、俺何でも歌うよなって。」

 「え、あぁ。そだっけ。」

 再度された質問には邪念を取り払い、質問の内容を真剣に考える。懇親会や社内での飲み会に新庄と二人して異常に出席率が高い。二次会のカラオケも、もう何度も一緒にしているが故の質問と捉え、その時の様子を思い出す。

 「ミーハーだから流行りの曲ばっかだったような。」

 「流行りって大事じゃん。」

 ミーハーに関して過剰な反応を見せる新庄の隣でははっと、口元を拳で隠しながら笑う海原に話を戻す。


 「で、何聞いてたの?」

 「ちょっとマイナーなバンドなんですけど。よかったら森永さんも聞きますか?」

 そういって新庄が付けていたイヤホンを差し出してくるが、その手を制止し「聖域なんでむり。」と小声で漏れ出てしまい、急いで取り繕うような言い訳を伝える。


 「大丈夫!自分のあるから、教えて!」

 「あっはい。」

 海原が行き場のなくなった手を下げ、少し落ち込んだ表情を見せていたが、私はスマホに視線を落としていたせいでその様子を見逃してしまっていた。しかし、新庄はそれに気づき、空かさずフォローを入れる。

 「森永って潔癖だろ?」

 「んあ?」

 変な声を上げながら、顔を上げると目の前の落ちむ海原が目に入る。その様子はさながら大型犬が耳と尻尾を垂れ下げた状態だった。

 「あ、そうそう。海原君がとかじゃないから。全員そう!」

 何を言っても墓穴になる事叱りで、フォローに乗っかる。しかしその心は新庄に対して、よく見てますね!と発狂しそうになっていた。

 教えられたバンド名と曲名を聞き検索した後に、ポケットに入れていたワイヤレスイヤホンで音楽を聴き始め、一番が終わったところで曲を止めイヤホンを外す。


 「えっ普通にいい曲じゃん。」

 「ですよね!よかったぁ!」

 自分の好きを認められてうれしいのか、目を輝かせて喜んだリアクションを見せてくる。


 「新庄は分からんやつだね。」

 「でも新庄さんの声、いいから歌ってもらいたくて。」

 「んぐっっ。」

 急な供給に抑えが効かなかった。

 

 「森永さん!?」

 「大丈夫、気にするな。」

 「あっはい。」

 困惑気味の海原を置いて、後ろで飄々としている新庄に確認する。

 「えっ二人でカラオケ行ったん?」

 「ん?いつだっけ。飲み会した後に行ったよな。」

 「ですね!」

 「ほほう。いいね。」

 「えっ顔キモイ。」

 いいぞ!もっと提供しろ。と心の叫びが表情に出てしまっていて、ニヤケ顔を抑えることが出来ていなかった事に、新庄が指摘をしてくる。

 「うっせ。はよ、仕事に戻れ。」

 誤魔化す様に言い放ち、気が付けば吸っていた3本目の煙草を消し二人と共に喫煙所を出た。

 このやり取りで10連勤の疲れなど、完全に飛び去りその後の仕事が捗ったのは二人に秘密である。




次回 4/20 投稿予定 「3話 煙草」

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