バザーとリズヴァーンと
バザー当日、迎えに来てくれたリズヴァーンの馬車で神殿へ向かう。
その道中、話しかけられた。
「ビアトゥールと一緒に行く筈だったんだって?
アルに聞くまで知らなかったよ」
少し不機嫌に言われてしまった。
「お兄様の付き添いでお忙しそうでしたから…」
「こういう時は遠慮せずに俺に声をかけてくれ。
いくら神官の息子と言っても、男性と二人きりになる事は避ける様に。
また怖い目に遭いたくないだろ」
「はい、すみません」
ごもっともなので、素直に謝った。
「謝って欲しいわけじゃない、キャスティーヌに目を向けていなかった俺も悪いんだから」
「でもリズヴァーンは新しいことを始めたお兄様を見守っていて下さったんですから」
「いや、アルは大切だけど、婚約者としては大失態だ。
それにビアトゥールはキャスティーヌに求婚したんだろ?
申し出を断ったにも関わらず誘いをかけるなんて、要注意人物だ」
あー、そうね、婚約の申し出を断ったのに近づいて来たんだったね。
でも暇を持て余してる俺に気を使ってくれたんだから、あまり悪く言いたくないんだけどな。
思わず無言になって俯いてしまった俺に、ため息を吐くリズヴァーン。
「いや、何にせよ一番悪いのはやはり俺だな。
とにかくこれからは、何かやる時や出かける際には俺に声をかけてくれ」
「でもリズヴァーンにも都合があるでしょう?
邪魔はしたくありませんの」
馬に蹴られたくないし。
「そんな事は気にするな。
都合の悪い時は断る事もあるだろうけど、まずは話してくれ。
俺は察する事は苦手だから、思ったことなども口に出してくれるとありがたい」
凄く真摯に言ってくれてるのがわかって、ちょっとケツの座りが悪い。
「ありがとうございます」
何も返事をしないわけにはいかないので、礼を言うとリズヴァーンはフッと笑った。
「!!」
ヤバイ、初めてリズヴァーンが笑いかけてきた!
兄に笑いかけるのと同じ笑顔を向けてきたよ!
ヤバイよ、ヤバイ!
何がって、キャスティーヌの身体が反応してドキドキしてるよ!
いかん、これは深く考えちゃダメなヤツだ。
でも狭い馬車の中逃げるに逃げれなく、ちょっとパニックになりかけていたタイミングで神殿に到着してくれた。
馬車から降りた俺はバザー前から満身創痍デス。
深呼吸を繰り返し、気持ちを入れ替えた俺は、神官の案内でブースへ向かった。
右隣ではご婦人が小さな…寄せ植えって言うんだっけ?ブーケだっけ?
とりあえず花を、左隣では老人が陶磁器を売っている。
両人とも常連の様で、固定ファンが居て客足が途絶えない。
買い物をしたついでに俺のブースも見て行ってくれる。
で、ついでにだろうけど、俺の拙い手の花瓶敷や燭台敷を買ってくれる人もぼちぼちいる。
有難い配置だ。
勿論母の刺繍物はもっと売れてるけどね。
「お二人は初めての参加よね?
ご夫婦なのかしら?」
「いえ、婚約はしていますが、まだ学生ですので」
右隣のご婦人に声をかけられ、答えるリズヴァーン。
ご婦人は持ち込んだ商品が完売し、帰り支度を始めている。
「まぁそうなの、今が楽しい時よね。
結婚したらできない事もあるから、今のうちに沢山楽しむのがオススメよ」
それじゃあお先にと去って行くご婦人は、花瓶敷を一枚買ってくれた。
おお、あれは一番最初に出来上がったやつだ。
少ーしばかり歪んでるけど、丁寧に仕上げたんだよ。
売れてよかった。
左隣の老人のブースも、残りわずかになっている。
うちは母の手のものは完売し、ロウソクとのセットの燭台敷は残りわずか、花瓶敷はそれでも半分は捌けた。
バザーは朝から昼過ぎまでの開催予定だ。
何時まで居なきゃいけないって事はなく、好きな時間に終わらせていいとなっている。
そろそろお昼も近いし、店じまいしているブースも出てきたから、うちも終わらせようかとしていたら、ベルアルムがブースに現れた。
「こんにちは、今日は参加ありがとうございます」
「こんにちはビアトゥール様」
俺の横でリズヴァーンも軽く頭を下げる。
「初めてのバザーは如何でしたか?」
「そうですね、普段と違った雰囲気の場所で、見知らぬ方とお話しするのは楽しかったです」
笑って答えると、
「気晴らしになったのなら良かったです」
と笑い返してきた。
爽やかな笑顔で、とてもSには見えないよね。
「アスデモス先輩もお楽しみいただけましたか?」
おっと、笑顔が黒くなった。
「ああ、良い体験をさせていただいた」
返すリズヴァーンはいつもの無表情。
頭の上で繰り広げられる応酬が怖いです。
「今日はそろそろお終いですか?
寄付は入り口横の小部屋で受け付けております」
「帰りに全額寄付させていただきますね」
俺が言うと、ありがとうございますと礼を述べられた。
「それでは私は他も回ってきますので、失礼させていただきます。
できるなら次回はご一緒したいですね」
ニッコリ笑いながら爆弾を落とし去って行くベルアルムに、引きつった顔を向けるリズヴァーン。
「おやおや、お嬢ちゃんはモテるんだね、今のは大神官の息子さんだろ?
可愛い顔してやるねぇ」
ご老人ーーー!油を注ぐのはやめてくれー!
「そろそろ店じまいなら、記念にロウソクセットを一つもらおうかね」
なんの記念だよ!と思いはしたけど、買ってくれるなら客だから、言い返す事はできないな。
丁度の小銭を手渡してくれるけど、渡す瞬間に小声で「どっちが本命なんだね」とか言ってんじゃねえよ!
ほら、耳聡いリズヴァーンがスゲー顔して睨んでんじゃん!
「フォッフォッフォ」
なんて笑いながらキセルに火を付け、後は知らん顔とか、絶対人で遊んでるだろ!
「そろそろ終わらせましょう」
なるべく顔を見ない様、店じまいを始める。
怖えー、雰囲気がマジ怖え。
これ帰りの馬車の中まだもこのままか?
胃が痛くなるよ。
いそいそと荷物を片付けていると、ポンっと肩を叩かれた。
「キャスティーヌ、昼を食べに行こう」
え?そんな予定なかったよね?
もしかして昼食べながら説教?
でも断るなんてできないので、引きつりながら頷く。
ちょっ!隣のジジイ笑ってんじゃないよ!
昼は帰宅途中の店で食べたけど、至って普通だった。
バザーの感想や、買っていってくれた客の事、次は客としてきてもいいかもしれない、など、本当に普通に会話をした。
そう、珍しく会話が成立しているんだよね。
いつもなら必要以外の、こういった雑談なんてしないのに、普通の友達みたいに和やかに会話した。
デザートまでしっかり食べて家へ送ってもらう途中、思わず
「怒ってないのですか?」
と聞けるくらいに、普通の態度だった。
「怒るとは?」
聞き返されてしまった。
「先程少し雰囲気が怖かったですから」
正直に答えると、片手で顔を覆って言いにくそうに話す。
「いや、すまん。
ビアトゥールが人のものにちょっかいを出そうとしたのが気に入らなかっただけだ。
別にキャスティーヌに何かあったわけではない」
え?ちょっとまて、
「人のもの……ですか?」
「ああそうだろ?
キャスティーヌは俺の婚約者なのだから」
…………うぉーーー!マテマテマテマテ!
サラッと言ったなこのヤロー!
そんな意識がお前にもちゃんと有ったのか?
あくまでも兄のおまけで、同情だけじゃないのか?
てか俺もマテ!
顔が熱いぞ、まさか赤くなっているのか?
動揺してパニクって、体の前で手をパタパタしてしまう。
「お前は俺のものなのだから、他の男の誘いに乗るんじゃないぞ」
マテーーーーーー!
いや、俺、モノ、ちゃうし!
偽造って話じゃなかった?
なんでそこで笑う!
そんな目で俺を見るなーーーー!!
思わず顔を押さえて馬車の椅子に突っ伏してしまった俺は、その夜知恵熱を出してしまった。




