兄の誕生日
さてさて、兄の誕生日である。
両親と親しく付き合いのある方々と、兄の学友を招いたちょっとしたパーティーだ。
俺は呼ばれれば挨拶をするって感じなんだけど、誰が誰だか。
一息ついて、壁際で果実水を飲みながら、会場内を見渡す。
兄の隣には、いつものようにリズヴァーンが、その周りに6人の男女が。
確かクラスメイトのモブABCこと、アンドリュー、バルバドル、チャーリーだったかな。
3人ともうちと同じ伯爵位で、親同士も多少付き合いがある。
女性はモブDEFこと、ディアナ、エリザベート、フランチェスカ。
こちらは子爵と男爵の娘で、側から見てわかるほど、兄狙いだよね。
「アルバート様、お誕生日おめでとうございます。
こちらは名工の手によるペーパーナイフですわ。
アルバート様のイメージで薔薇の彫刻が入っていますの」
「アルバート様、こちらは○○○国で流行のランプシェードです。
イメージに合わせて白百合の柄ですわ」
「おめでとうございます、○○○でオーダーメイドで作らせました…………」
女性3人で貢物合戦絶賛開催中ですね。
怖いっす、目がマジです。
男性陣も引き気味です。
え?俺のプレゼント?
こんな人の目のあるところで渡せません。
パーティー終了後に渡す予定。
「アルバートは卒業後はどうするんだ?
やはり伯爵の跡を継ぐのかい?」
チャーリーが尋ねると、女性陣が言い合いをやめて聞き耳を立てる。
「そう言う話も出ているけど、まだはっきりとは決めていないよ」
兄は卒業後、領地で祖父に領地経営の指導を受ける事になっているのだけれど、あと2年は王都から離れたくないので、一旦近衛騎士団に入隊するそうなのだ。
領地のためにも力を持っていたいから、騎士団に入隊して体が鈍らないようにするんだって。
授業で剣術を習っていても、やっぱり騎士団や軍とは、いろんな意味で違ってくるので、実戦経験のためにも……とか言っとけど、周りに教える気はないのかな?
リズヴァーンは知っているだろうけど。
父は祖父の跡を継がないで、そのまま国の仕事をするそうだ。
ぶっちゃけ内務省勤務って事しか知らないけど、何やってんだろう?
え?なんで2年兄が王都から離れたくないんだって?
そんなの……言うまでもないだろ。
俺は今三年生なんだから。
バルバドルが話を振ってくる。
「卒業と言えば、やはり代表は君なんだろうね」
一番優秀な卒業生が答辞を読むのは、前世と一緒だ。
「まだわからないよ。
まあ、僕としては代表になりたいけどね」
「アルバート様ならきっとなれますわ」
「アルバート様しかいらっしゃらないだしょう」
「そうですわよ」
すかず三人娘がクチバシを挟んでくるけれど、兄はニッコリ微笑むだけで返事はしない。
その微笑みの意味を読めないのか、「キャー」と嬉しそうな歓声が上がる。
「卒業式の謝恩会での、ダンスのパートナーは決まっているのかい?」
アンドリューの問いかけに、三人娘の目が血走った…ように感じた。
謝恩会のダンスパーティーなんて、まだ先のことだけど、女性の準備のために、申し込みはわりと早い時期にするのが一般的だ。
だってさ、相手に合わせてドレスを作ったり、そのドレスに合わせて宝飾品取り揃えたり、女性の準備には時間がかかるのですよ。
「………ふふふふ…」
うぉーー、身内でもクラッとする美少女スマイル!
間近でスマイル攻撃を食らった6人の顔は真っ赤だ。
三人娘なんて腰砕けになってよろめいてる。
男3人は、わざとらしく咳をしたり、頰をかいたり、視線を彷徨わせたり。
………リズヴァーンの眉間にしわが寄ってるのは気のせいじゃないと思う。
そして兄!そこで嬉しそうに笑いながらこっちを向くな!
ほら、気づいたDEFが俺を睨んでるじゃん!
「と……ところで一つお伺いしたいのですが…」
近くのテーブルに手をついて、よろめきを耐えたフランチェスカが、意を決したような顔で、兄に爆弾を投げかける。
「アルバート様は婚約者はいらっしゃるのですか?」
これには近くにいた他の令嬢や、親たちも視線を向けてくる。
んー、地位もそこそこ、頭もいいので将来有望、しかも美形(美少女フェイスだけど)なんだから入れ食い状態なのに、今まで一度も婚約者候補の話さえ出たことないもんね。
適齢期のお嬢様たちの目がマジだ。
「…………ナイショです、…ふふふ」
建てた人差し指を唇にそっと当てて小首を傾げる。
その兄の姿に、会場中の老若男女がマジに腰砕けになり、立っていられない人が続出。
普通に立っているのはリズヴァーンと、楽しそうに眺めながら寄り添う両親と俺だけだ。
あざとい!
その後も、誰一人婚約者の話を振る人はいませんでした。
勇気を持って問いかけようにも、うふふふ笑いをされると固まってしまい、何も言えなくなるようです。
もう一度言おう。
あざとい!!
絶対に計算づくの笑顔と仕草なのに、免疫のない人には大ダメージだったようです。
何度でも言おう。
あざとすぎる!!!
笑顔で周りを黙らせる兄…あざといけど嫌いではない。




