003 西宮悠の入社式(2)
東風谷湊「投稿遅くなってごめん!!」
宮地翔太「敬語…(怒)」
東風谷湊「本当に申し訳ありませんでしたぁ!!」
宮地翔太「なんでそこだけなんだよ」
※ちょっとした創作です。
(2)
会社側に着いた。会場は一階のメインホールだ。大体は。だって会社内でそこそこ広いくせに湊の筋トレ道具やら使わなくなった家具やらが溢れかえって物置と化しているからだ。
今日はそこを片付け、本格的に会場として使う。
会場の扉を開いた。
まず入ってきた声は「社長!おはようございます!」という声だった。まぁこれはいつも通り。ただ今日は一味違った。
「………!」
コツンと胸元に西宮の顔が当たったからだ。こちら側を向いていたから表情が丸見えだった。
「わっ!す、すみません…!」
そう言って西宮は恥ずかしそうに会場を出ていった。どこかへ向かっている途中だったのだろう。
(何だったんだ?)
と思った矢先、宮地が足の音を大にして湊の元へやってきた。
「ばっ!湊、お前なんか一言言ってやれよ!」
何のことかさっぱりだった。俺はなにか悪いことをしたのだろうか。
「お前を待ってたんだよ。西宮さん。一番に挨拶しかったんだとか」
「え?」
その言葉を聞いた湊は大きく目を見開いた。まだ初めて会って数分程度のはずだ。いや、実際は少し前に会ってはいるが。
(少し好意的すぎやしないか?)
だが今まで何人も新入社員を目にしてきたが、こんなにも熱心で活発的な人は見たことがない。
「元気な新卒だな」
そういうことにしておこう。
「はっ。だな」
宮地は思いの外悪い笑みをこぼして返事をした。まさか俺が西宮に好意を寄せているとか思っていないだろうな?
それから湊は席についた。しばらくすると西宮もここに戻ってきた。他にも新入の綾瀬さん、朝倉さん、中村さんも入ってきた。
四人は入口真正面に設置した壇上に立った。今から四人は一人ずつ軽い挨拶をしてから、上司になる人と話したり、湊社長の挨拶があったり、いろんな書類を渡したり色々だ。
そしてその後はただゆっくり飲んだりしながら和気あいあいと親睦を深める。
このやり方は会社開設時から変わらない。ある意味歓迎会と合併したかのような感じだ。
たまに面白おかしい挨拶をする新入の人もいれば初日で殆どの人と仲良くなるコミュニケーションお化けもいたりする。
今回はどんなことが起こるだろう。そんな思いを馳せつつも湊は西宮を注視していた。
「では、入社式を始めたいと思います」
司会役に抜擢した桐谷が四人のすぐ横で喋り始めた。
それから桐谷は一人ずつ一分ほどの軽い自己紹介をさせた。西宮は桐谷の反対側にいるしおそらく一番最後だろう。
「はっ、初めまして!私、中村と申します!趣味は読書で日課は…」
「初めまして。綾瀬透と言います。本日はこのような安心感のある空間を用意してくださり真に…」
「朝倉連夜です!さっき早瀬さんからふざけていいよと言われたので一発ギャグやりまーす」
などなど。三人ともいろいろな個性があっていい。もちろんしっかり聞いたし、拍手も大きくした。そして朝倉さんのギャグは暖かく笑った。冷めた空気感が面白くて。
そして西宮。彼女はあたふたとしながらポッケからカンペのような物を取り出し、小刻みに体を揺らしながら口を開いた。
「むぅ…………」
(あ……)
西宮が下唇を噛み締めた時、湊は気づいた。
(カッチンコッチンだ)
こういうのは高校大学でマトモに仕事をしてこなかった人が、突然新卒で社会に飛び出した人の固まり具合だ。緊張でその場所だけ時が止まってるんじゃないかと思うくらいだ。
十五秒くらい経ったがまだ喋れていない。仕方なく湊は席を立って西宮に向かって歩きだした。
(えっ)
湊が一つため息をついて立ったので西宮はビクリと体を震わせた。
(ひっ、怒られ……)
周りの人も全員静かに黙り込んだままだ。自己紹介もできない奴だと怒られるに違いない。そう思ったが、そうはならなかった。
「落ち着いて。ゆっくりでいいから」
湊は西宮の肩にポンと手を置き、柔らかい口調で言ったからだ。
西宮は予想外の展開に戸惑ったが、湊の手には社会に出たあとの悲しいほどの孤独感を消し去る温かさがあった。
男の人に触られたという感情と、緊張が入り混じり、自然と声が出るようになっていた。
「西宮悠…です。……新卒ですので…色々と教えていただけると…嬉しいです……よろしくお願いします」
会場はしっかりと拍手の音で包まれた。ここは大勢の人の前で喋れないだけで怒るような会社ではない。
(言えた…!!)
西宮は安心したのか、ホッとため息をついた。
「はい!ありがとうございます。では続いて、会社一うるさい社長の挨拶です」
司会の桐谷がそう言って四人を下の席に誘導したあと、湊は壇上の真ん中に移動した。さっき壇上に上がったので移動は大股一歩で済んだ。
「はい。いらない紹介が入りましたが、社長の東風谷湊です。まぁほとんどの人が知ってるでしょうけどね」
それから湊は校長先生を思い出すほど、長く話した。時には笑わせ、たまに真面目な話をする。気がつけばそれは社長の挨拶ではなく全員が楽しく話す空間になっていた。
ご飯も食べたし、これから社長が出る項目はない。なんなら半数の人はもう仕事に戻っている。
(はぁ〜っ。俺も戻るか)
体を伸ばして湊は部屋を出ていった。
――――
湊は自宅のリビングで作業をしていた。音一つなく、仕事にはピッタリの場所だ。新たに仕事を依頼してきた会社とのやり取り、必要な書類と契約内容の確認。猫の手も借りたいほど今年は仕事でいっぱいだった。
チラッと横のソファで眠っているみーとを見た。流石に無理か。
「はぁ〜っ、上手くいかねー!」
一区切り着いた湊は髪をワシャワシャとしながら天井を見ていた。
するとガチャッと音がしたような気がしたが、特に気には止めなかった。
「何あの担当者!ずっと下に見られてた!若いから?御年二十五歳だから!?」
「――あの、社長ー…」
「うわっ!何?」
後方から突然声が聞こえたので、湊はピクリと体を震わせる。そこにいたのは西宮だった。
「稲瀬さんが『資料まだかー』って言ってました」
自分の仕事が忙しすぎてすっかり忘れていた。他にも何件か仲いい社員から仕事の代行受けてたような…。てゆうか自分の仕事は自分でやってほしい。
「あーあれね。ちょっと待って、すぐ出す」
そう言うと湊は二階へ駆け上がっていった。
西宮は、上で物音を聞きながら、じーっとつけっぱなしの湊のPCを見ていた。画面には高校でちょっとやったかな?程度のよく分からないソースコードがズラッと打ち込まれていた。
「すごい…これが社長…」
心の中は天然みたいだったが、眉をしかめていたので、あまりコードを分かっていないようだ。
「猫……観葉植物……IH……お金持ちだ」
さらにあたりを見渡す。愛猫のみーとに、そこら中にある緑、そしてどこに目をつけたのか、キッチンの家電にまで口に出した。
「ほい、資料」
すると湊がファイルでまとめられた資料を頭にポンと当てた。
西宮もまた、先程の湊と同じように驚きつつも資料を手に取る。
「え?あ、ありがとうございます」
「じゃ」
湊はすぐさま作業に戻った。キーボードの音がよく聞こえる。
西宮は戻るどころかPCをじっと覗いていた。
じーーーーーーっ
「帰んないの?」
「あっ、いや、その、コードとか、すごいなーと思って」
「そう?楽しいよ」
西宮はとても不思議な気持ちだった。手といい声といい湊には心が安らぐ謎の『温かさ』があった。まるで一言一言に気遣いとかの優しさがあるかのような。
――なんだろう、この気持ち、どこかで――
「実はね、今やってるの仕事じゃないんだよね。ただの趣味」
「えっ?」
「これ誰にも言ってないんだけど、僕ってさ、昔は人と関わることも、何かを作り上げることもできないと思ってたんだ。大学には行かず、勉強もろくにしないでゲーム三昧」
湊は数年前のことを思い出す。一人の女性、別れ、努力。
「だけどね。たった一つ、ヲタク級に好きだったITスキルだけで起業して、人と関わることに慣れて、慕われて、ここまで来た」
「すごいよね。誰にも止められない趣味の力」
湊は何かを思い出したせいか、ぎこちなく笑った。
西宮は尊敬と共に感動という感情が湧き溢れた。西宮がいるこの会社を築き上げるまでに膨大な努力と心労があっただろうに。
だけど一つ、西宮は気がかりだった。
「あ、あの、でも、なんで私には話してくれたんですか?」
湊は一拍間を置いて言う。
「君には、こういった言葉一つで何百倍も成長できるポテンシャルがあると思った。それだけ」
西宮はこの言葉で心を打たれてしまった。東風谷社長には、過去も全て笑いに変える純粋なかっこよさがあった。
「私に、ポテンシャル…?」
その言葉を聞いて湊はフッと柔らかな笑みを浮かべると、西宮の頭に手を置き、撫で始めた。
「そのうち分かる。じゃ、資料頼んだよ」
西宮の頭を少し撫でたあと、背中を軽く押した。
突然の出来事に放心状態だった西宮は流れるがまま家を出た。
「撫でられた……」
一瞬で西宮の顔が赤く染まった。
第三話へ続く……!!
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