表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アフター・テイルズ・クエスト  作者: 狛犬太郎
第一章 パーティ結成編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/8

第4話 寝ても治りません  

 夕暮れの大平原を中堅冒険者パーティから涙目で逃げ回ること数時間。

 クソザコ、ノーコン、一発屋という奇跡のポンコツトリオは、満身創痍の体を引きずりながらなんとか近くの拠点へと滑り込んでいた。


 町の名前は『ザッコスシティ』。

 いかにも初心者が集まりそうな、壁の薄い木造建築が並ぶ小ぢんまりとした町である。


「死ぬ……マジで死ぬ……。誰か俺の遺骨は実家のリビングのソファーに埋めてくれ……」


 町の入り口で地面に突っ伏しているのは、もちろんジーク。

 彼の身体はボロボロのまま。

 隣では泥だらけの軍服をパタパタとはたきながらノイが爽やかに告げた。


「安心しろジーク、鬼族中央軍の義務としてお前の遺品は私が責任を持って回収しよう。それよりまずは宿屋だ。流石にこの状態での野宿はシャレにならん」

「私の肉体も限界……。早くふかふかのベッドに転がりたい……」


 メアも杖を杖代わりにして、ヘロヘロになりながら文句を言う。

 ジークは震える手で鬼族の王様--オーガイール三世から貰った財布を引っくり返した。

 中からコロコロと寂しい音が響く。


「現在の所持金は俺が持っている50ゴールドのみ。ノイ、お前大佐なんだから軍資金とか持ってないの?」

「バカ言え、俺は急な呼び出しでそのまま押し付けられたんだぞ? 財布は置いてきた」

「ドヤ顔で無一文アピールすんなよ・・・メアは!?」

「全財産(魔導アーマー)が崖の下で鉄クズになったって言ったでしょ」


 つまり、パーティの総資産は50ゴールド。

 ザッコスシティの宿屋『格安・ワラのお宿』の宿泊費は、一部屋1泊で7ゴールド。


「計算したぞ。俺たちがこの宿に滞在できるのは、せいぜい7日間が限界だ」

 宿のロビーでジークは深刻な顔で2人に指を突きつけた。

「いいかお前ら。この7日間のうちに、俺たちの致命的な課題(ポンコツ要素)をクリアしなきゃ、桃太郎に会う前に路頭に迷って野垂れ死ぬ」


 すると、ノイがふっと不敵な笑みを浮かべて腕を組んだ。

「課題だと? 決まっているだろう。メアのガソリンタンク(MP)を増設し、俺の一撃をさらに強化すればいい!」

「いやお前は攻撃力じゃなくて命中率を上げろな! 1ミリも当たってねえんだよ!」

「私はジークがかすり傷で死なないようにそのモヤシみたいな肉体を鍛え直すのが先決だと思う」

「布の服が性能が呪いの装備級に悪いんだよ! そもそも鍛える前に一発殴られたら即死なんだよチクショー!」


 ギャーギャーとロビーで突っ込み合う3人だったが結局のところ、何をするにもまずは『金』が必要だという極めて現実的な結論に至った。


「まぁ細かいことは明日考えよう。幸い宿屋で1泊寝れば、傷も全快してMPも元通りになるだろう」


 ジークはそう言って、その日は泥のように藁のベッドへ潜り込んだ。


 ――そして、翌朝。


「……あれ?」


 ベッドから起き上がったジークは、自分の体に激痛が走るのを感じて顔をしかめた。

 痛い。

 筋肉痛とかそういうレベルではない。

 普通に昨日、農夫の鍬にドスッとやられた足がめちゃくちゃ痛い。


「ちょっと待てぇぇぇい! 1ミリも回復してないんだけど!」

 ジークの絶叫に隣のベッドで同じく全身バキバキの状態で悶絶していたノイと、頭痛を押さえているメアが冷ややかな視線を向けた。


「……ジーク、あんたバカなの?」

「な、なんだよメア!」

「普通に考えて、藁のベッドで一晩寝ただけで、裂傷や打撲が綺麗さっぱり治るわけないでしょう。ここは ゲームの世界じゃないんだから」

「そうだぞジーク。軍の病院でさえ骨折が治るには3ヶ月はかかる。一晩で治ったら医者は廃業だ」

「お前らにだけはメタ的な正論で殴られたくなかったわ……」


「詰んだ……。体ボロボロ、金もない。どうやって金を稼げって言うんだよ……」

「一応、町の神父に金を払えば、回復魔法で一瞬で治してくれるらしいが……」

「その金が無いから困ってんだろ大佐!」


 当面の目標は『金稼ぎ』、そして何より『まともな回復担当』のスカウト、これに尽きる。

 ジークは頭をフル回転させながら自分の古びたリュックサックをひっくり返した。

「なんか……なんか金になりそうな初期アイテムとかねえのかよ! 村長のジジイ、何か仕込んでねえか!?」


 ジャラジャラと出てきたのは、以下の通り。

 ・薬草 × 3

 ・すばやさの種 × 3(食べると少し足が速くなる不思議な種。村長が『バックレる時に使いなさい』と忍ばせておいたもの)


「薬草が3つに、すばやさの種が3つ、か……」


 ジークはベッドの上に並んだショボすぎる初期アイテムを見て、深いため息をついた。

 これをそのまま道具屋に売ったところで良くて10ゴールド。

 今夜の宿代にすらなりゃしない。


「……ねえ、ジーク」


 その時、ベッドの端で身を縮めていたメアが不気味に目をランランと輝かせながらショボいアイテム群を凝視していた。

 彼女の口元が、マッドサイエンティスト特有の怪しい笑みに吊り上がる。


「その『すばやさの種』、ちょっと私に貸しなさいよ。2、3日時間をくれれば、面白いものを見せてあげる」

「え? いや、別にいいけど……何する気だよ?」

「フフ……フフフフ。魔法都市マージ・ニアスの主席をナメないことね。私をただの『一発屋』だと思ったら大間違いよ……!」


 メアはジークのリュックから薬草と種をひったくると、宿の片隅にある古びた机に陣取った。

 そして懐から怪しげなフラスコやピンセットを取り出し、ボソボソと呪文を唱えながらマッドな実験を始めてしまった。


「おいジーク、あの魔女大丈夫か? 軍の機密兵器を開発している時のマッドサイエンティストと同じ目をしているぞ」

「触らぬ神に祟りなしだ、ノイ。俺たちは大人しく寝てよう……。動くとHP減りそうだし……」


 ――3日後。


「できた……! 完璧な成果よ!」


 宿のロビーに現れたメアは目の下に濃厚なクマを作りながらも、ドヤ顔で大きな麻袋をテーブルにドスンと置いた。

 ジークが恐る恐る中を覗き込むとそこには大量の薬草と、文字通り山のような『すばやさの種』が詰まっていた。


「おいメア、これ……!?」

「薬草の組織を魔導工学的に培養・高速増殖させ、すばやさの種の遺伝子を組み換えて量産に成功したわ! 効果はオリジナルと全く一緒!」

「マジかよお前!! 魔法タンクは軽自動車だけど、技術力はやっぱりバケモンじゃねえか!!」


 本来なら世界中の冒険者が命がけでダンジョンから持ち帰るはずの「ステータス上昇アイテム」。

 それを魔女は身の回りのゴミと徹夜のテンションだけでコピー機のようにパチモン量産してのけたのだ。


 知識の暴力がまさかの方向で炸裂した瞬間だった。


「よし、これを持っていざ市場へ出陣だ!!」


 3人はボロボロの体を引きずりながら、ザッコスシティの市場へと向かった。

 初心者が集まるザッコスシティにおいて、命を守る「すばやさ」の種は飛ぶように売れた。


「まいどありー! はい、すばやさの種ね! バックレる時に重宝するよー!」


 ジークが必死に売りさばいた結果、夕方には財布の中にギッシリとゴールドが詰まっていた。


【ジークたちは 3500ゴールド を手に入れた!】


「うおおおお! 大金だ! これで藁のベッドじゃなくて、普通のベッドに泊まれるぞ!!」

 宿のロビーで金貨の詰まった袋を掲げて涙を流すジーク。

 隣でノイも「これで装備が新調できるな」と爽やかに頷いている。


 しかし、ジークはふと真面目な顔になりお金の袋を抱え直した。


「……いや、待てよ。この金を宿代だけで使い潰すのは悪手だ」

「む? どういうことだジーク」

「いいか。俺たちの最終目的はあの天災・桃太郎をぶっ飛ばすことだ。だけど今の俺たちの状態じゃ、街の外に出た瞬間に野良のチンピラにカツアゲされて終わる」


 ジークは机の上にザッコスシティの地図を広げた。


「桃太郎の詳しい足取りも、メアの目的であるヘンゼルとグレーテルの居場所もまだ何も分かってない。……だったらしばらくはこの街に腰を据えて『店』を作ろう」

「店、だと?」

「そう。メアの技術で薬草や薬品を作って売りさばきながら、ここでしばらく生計を立てるんだ。店を開けば色んな冒険者が買い出しにやってくる。そうすりゃあいつらの情報も自然と集まるはず」


 ジークの引きこもり気質と商才が奇跡的に融合した提案だった。

 これなら危ない前線に出る必要もなく、家(店)の中でゴロゴロしながら情報収集ができる。

 一石二鳥、いや一石三鳥だ。


「なるほど! 拠点を構えて物資を確保しつつ、敵の動向を探る……。ジーク、お前意外と軍師の才能があるぞ!」

「私は工具と材料が買えるなら何でもいいや。店の裏口に私の研究所を作らせて頂戴」

「よし、話は決まりだ! 早速、物件探しと……何より、このポンコツパーティの生命線を握る『まともなヒーラー(回復役)』を探しに行くぞ!」


 こうして、桃太郎を倒すためのリベンジクエストは、なぜか「ザッコスシティでの起業・店舗経営」へと突入することになった。


【ジークのパーティーの目的が 『打倒桃太郎』から『店作り』に変更された!】


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ