第2話 仲間になりたそうに こちらを見ている!
「はぁ、はぁ、はぁ……! 死ぬッ! マジで死ぬってコレ!!」
「ジーク、走るんだ! 奴らがすぐ後ろまで迫っている!」
青空が広がるのどかな平原を二人の鬼が全速力で爆走していた。
一人はきっちりとした軍服を泥だらけにした鬼族の大佐、ノイ。
そしてもう一人は今にも心臓を口から吐き出しそうな顔で走る青年、ジークである。
――場面はほんの数分前へと遡る。
最初の戦闘をなんとか切り抜けた二人は草原の道端で今後の作戦会議を開いていた。
「いいかノイ。お前の攻撃が打率1割なのは分かった。だったら作戦は一つだ。お前がその無駄に高い威圧感で敵の目を引きつけ、その隙に俺が背後からチクッと刺す。これで行こう」
「なるほど、俺が盾となり、お前がアタッカーとなる訳だな。よし、任せておけ!」
話がまとまった直後、都合よく次の敵がポップした。
【野生の人間(※レベル2の農夫・鍬を装備)が現れた!】
「よしジーク、作戦開始だ! おい人間、我が一撃の恐怖に――」
「おらぁぁぁ! 背後がお留守だぜぇぇぇ!」
ノイがポーズを決めている隙にジークは棍棒を振りかざして農夫の背後に回り込み、渾身の一撃を叩き込もうとした。
が、緊張のあまり足がもつれて派手に転倒。
「あ、痛っ」
ゴロゴロと転がったジークの足に、驚いた農夫の鍬が、ほんのちょっとだけ、本当にかすり傷程度にコツンと当たった。
――ピキィィィン(不穏な警告音)
「ぐはぁぁぁぁーーーッ!? 体が……体が動かねえ……! ああ、視界が真っ赤に……三途の川で婆ちゃんが手を振って……」
「えぇぇ!?ジークッ!?」
白目を剥いて泡を吹くジークに、ノイが駆け寄って絶叫した。
「バカな……! 今のはただ鍬がかすっただけだぞ!? なぜ瀕死になっている!? お前、いくら何でも弱すぎないか!?」
「うる……せえ……! こちとら生まれてこの方、まともに戦ったことないんだよ……!」
お荷物大佐と、クソザコ駄鬼。
奇跡のポンコツコンビが結成された瞬間だった。
「とにかく、次の隣町に着くまでは絶対に戦闘は避けるぞ!」という固い決意を二人が交わした、まさにその矢先だった。
ガガガガガガガガガガガッ!!!
重苦しい駆動音と共に草むらをなぎ倒して現れたのは、全身が鋼鉄でできた異様な人型兵器――【機械族】の偵察機だった。
人間の魔導技術が生み出した容赦なき殺戮マシンである。
「ひぃぃぃ! 避けるって言った側からエンカウントすんなや!!」
「走れジーク! 戦ったら確実に一瞬で塵になる!」
――そして、現在の爆走場面へと繋がる。
「ノイ! 右だ、右に曲がれ! 確かこっちの先に深い崖があったはずだ!」
「まさか飛び降りる気か!?」
「バカ言え、誘い込むんだよ!」
ジークは必死の泥縄マインドで頭をフル回転させ、崖の際へと滑り込んだ。
追ってくる機械族は猪突猛進モードでブレーキが効かない。
「今だノイ! 避けるな、全力でそこに突っ立ってろ!」
「ぬおっ!?」
ノイが崖の手前で急ブレーキをかけて棒立ちになった瞬間、突っ込んできた機械族のレーダーがノイを捕捉。
しかし、ノイの背後は何もない虚空である。
「そこだぁぁぁッ!!」
ジークが奇跡的にノイの背中を思いっきり突き飛ばした。
ノイは「どわぁぁ!?」と声を上げて横に転がり、標失した機械族はそのままの勢いで崖下へとダイブしていった。
ズウゥゥゥゥンッ!!!
遥か下から鉄がひしゃげて大爆発する小気味いい音が響いてくる。
「はぁ……はぁ……、やった、か……?」
ジークが崖下を覗き込む。
機械族は完全に大破し、バラバラの鉄クズになっていた。
胸を撫で下ろそうとしたその時。
カパッ、と機械族のひしゃげた胸部のハッチが内側から激しく吹き飛んだ。
「……え?」
ジークの目が点になる。
てっきり「機械のバケモノ」だと思っていたその鉄クズのコックピットからモゾモゾと何かが這い出てきたのだ。
それはボロボロの黒い三角帽子をかぶり、煤まみれになった一人の少女だった。
『……痛っつぅ……。なんなのよ一体……!』
「お、おいノイ見ろよ! ロボットの中から人間?の女の子が出てきたぞ!? え、何あの機械、ただのガワ!? パワードスーツ的な乗り物だったの!?」
「まさか……、人間の魔導アーマーを鹵獲して操っていたのか。大した技術だが……」
ジークが驚愕する中、崖下の少女は禍々しい魔力を放つ杖を握りしめ、禍々しいオーラを放ちながらブツブツと呪詛を吐き散らし始めた。
『あのクソガキども……。私の家に不法侵入して食い荒らした挙句、私を竈に突き落として焼き殺そうとするなんて……。絶対に許さない……!』
どう見てもおとぎ話に出てくる【魔女】そのものだった。
しかも、受けた被害のせいで怨念が限界突破している。
ジークとノイは崖の上からその光景を見て完全にフリーズした。
「……おいノイ。なんか中から、めちゃくちゃ関わっちゃいけないタイプの、ガチ怨嗟系のヤバい人外が出てきたぞ」
「同感だジーク。俺の第六感があれと目を合わせたら一瞬で消し炭にされると告げている」
「よし、逃げよう」
「異議な~し」
二匹の鬼は、音を立てないようにそーーーっと後退りし始めた。
が、神はどこまでもジークに厳しかった。
カサッ。
ジークの足が、小さな小石を跳ね上げてしまう。
小石はコロコロと崖を転がり落ち――不運にも、魔女の頭にコツンと当たった。
ピキッ、と魔女の動きが止まる。
ゆっくりと、本当にゆっくりと、彼女の首が真上を向いた。
煤まみれの顔の中で、血走った瞳がランランと輝いている。
『……誰?』
「ひっ」
ジークの短い悲鳴が響いた瞬間、魔女の杖からどす黒い魔力が膨れ上がった。
「やべえええええ!! 目が合ったァァァァ!!」
「全力退避ーーーッ!!」
魔女の怒りに触れた二人は、先程の機械族から逃げた時以上の速度で一目散にその場から逃げ出した。
しかし、慌てて飛び出した先はさらなる地獄の入り口だった。
ガサガサガサッ!!
「ヒャッハーーーッ! 待ち伏せ大成功だぜぇぇぇ!!」
「おい見ろよ、鬼の残党じゃねえか! ぶっ殺して身ぐるみ剥ぎ取っちまえ!」
飛び出した街道の先で待ち構えていたのはモヒカン頭にトゲトゲの肩当てをつけた人間のチンピラ集団。
数にしておよそ十数人。
【最悪のタイミングで チンピラ集団(※レベル15)が 現れた!】
「嘘だろ!? なんでこんな『世紀末のヒャッハー』みたいな奴らがこんなのどかな平原にいるんだよ!」
「ジーク、まずいぞ! 前方はチンピラ、後方はブチギレた魔女だ! 完全に包囲されている!」
ジークはかすり傷一つで消滅する風前の灯火。
ノイの攻撃は打率1割、完全に絶体絶命のピンチ。
チンピラの一頭格が、下卑た笑みを浮かべて鉄パイプを振りかざした。
「死ねや、クソ鬼どもがァーーーッ!!」
「あ、終わった。俺の人生、これにて閉幕――」
ジークが諦めて目を閉じた、その瞬間だった。
「――『獄炎業火』」
冷ややかな声が響いた。
直後、ジークたちの目の前を天を衝くほどの巨大な紅蓮の炎が襲いかかる。
ゴォォォォォォォォォッ!!!
「「えぇぇぇぇーーーッ!?」」
ジークとノイの絶叫さえかき消す轟音。
圧倒的な熱量。
凄まじい業火に包まれたチンピラ集団は、「ヒャッ、ヒャババババッ!?」と奇妙な悲鳴を上げながら、一瞬で消し炭になって畑の肥やしへと変わった。
あまりの超火力にジークは腰を抜かしてへたり込み、ノイも金棒を握ったまま硬直している。
「はぁ、はぁ、はぁ……! やっと、追いついた……!」
炎の向こうから肩で息をしながら一人の少女が歩いてきた。
さっき崖下にいた、あの煤まみれの魔女。
彼女は手にした杖を地面につくと、ジークたちの前に立ち真剣な目でこう言い放った。
「あなたたち、さっき私の魔導アーマーをハメて落としたわね? ……いい動きだったわ。私、ヘンゼルとグレーテルの奴らに復讐するために仲間を探してるの。お願い、私を仲間にしなさい!」
「「……はぁっ!?」」
あまりにも急展開なナンパ(?)に、鬼二匹のハゲしいツッコミが平原に響き渡る。
【魔女が 仲間になりたそうに こちらを見ている!】
【断ると 燃やされそうだ!】




