第1話 はじまりはじまり
初めまして。
狛犬太郎と申します。
カクヨムの方にも掲載しているのですが、ブラッシュアップしたものをこっちに掲載しようと思います。
ご拝読お願いします。
ある日、とあるのどかな町に一人の男がやってきた。
頭にハチマキ、腰に刀。腰に団子が入った袋をぶら下げたその男は爽やかな笑顔でこう言った。
助けを求める住民の声など最初から聞こえていないかのように、男はただ無垢で爽やかな笑みを浮かべ続けていた。
『成敗いたす』
直後、町は消し飛び、男が引き連れた「犬・猿・雉」によって家々は粉砕され、財宝は強奪された。
絵本はいつも「めでたし、めでたし」で終わる。
だが、桃色の旗を掲げた『忌々しい天災』にすべてを荒らされた側にとってはそこからが地獄の始まりだった。
「――というわけじゃ。隣町がな、その『桃太郎』とかいうヤバい人間に跡形もなく消し飛ばされての。ついてはジーク、お前あの桃色野郎にヤキ入れてこい」
「えぇっ!? なんで俺が!?」
鬼族の青年ジークはあまりに雑な特攻命令に素っ頓狂な声を上げた。
ここは被害に遭った隣町からさらに山をいくつか越えたところにある、のどかな鬼の村。
村長の家でジークは目の前の頑固そうなジジイに詰め寄っていた。
「なんでってお前、さっきワシとたまたま目が合ったじゃろ」
「理由が意味不明すぎる! 視界に入ったら桃太郎に突撃しなきゃいけない法律でもあるの!? 桃太郎の前にまずお前をここでぶっ飛ばしてやろうかジジイ!」
「まぁ待て、若いなジークよ。これは正式な任務じゃ。まずはここから鬼族の王都へ向かい、陛下から軍資金やら何やらの旅の道具をたんまり貰ってくるのじゃ。話はそれからじゃ!」
「えぇ……、軍資金ねぇ……」
ジークは不満げに角をポリポリと掻いた。
ぶっちゃけ隣町がどうなろうが、桃太郎がどれだけ強かろうが、ジークにとっては心底どうでもいい話。
だが、村長がうるさいのでとりあえずその場は「へいへい、わかりましたよ」と適当に返事をして村長の家を後にした。
数日後。
ジークの家のリビング。
「ふぃ〜……。やっぱ昼間に食うポテチと炭酸ジュースは最高だな……」
ジークはソファーに寝転がり、雑誌を読みながらゴロゴロしていた。
ぶっちゃけ、桃太郎のことなんざ心底どうでもいい。
わざわざそんな危ない奴に会いに行くより、家で自堕落に過ごす時間の方が一万倍価値がある。
「王都の陛下には『道中、ものすごいお腹壊しちゃって行けませんでした。面目次第もございません!』って適当に嘘のレポートでも送ってバックレりゃいいしな。俺って天才」
完全に実家のような安心感。
旅に出る気配など微塵もない。
「――って、なんでお前まだ家でゴロゴロしとるんじゃーーーっ!?」
勢いよく泥塗りのドアが蹴破られ、村長の絶叫が響き渡った。
ジークはうるさそうに耳をほじる。
「あ? なんだよジジイ。ノックくらいしろよ」
「しろよ、じゃないわい! お前、王都へ旅立ってからもう五日は経っとる計算じゃぞ! なんで出発したはずの男が、初日とまったく同じ姿勢でリビングに溶け込んどるんじゃ!」
「いや、行く気はあったんだよ、行く気は。でもホラ、初日はちょっと雨が降りそうだったし、二日目は靴紐が切れたし、三日目はなんか占いの結果が悪かったし……」
「四日目と五日目は!?」
「シンプルにめんどくさかった」
「この駄鬼がァーーーッ!!」
村長の杖がジークの脳天にクリーンヒットする。「痛っ!?」と頭を押さえるジークを、村長は文字通り鬼の形相で怒鳴りつけた。
「ええい、今すぐ行け! 行って鬼の王・オーガイール三世陛下に拝謁し、桃太郎討伐の許可と軍資金を毟り取ってくるのじゃ! さもなくば、お前の家を次の『桃太郎被害妄想対策訓練』の爆破対象にするからな!」
「チッ、わかったよ! 行けばいいんだろ、行けば!」
ジークはしぶしぶ腰を上げた。
もちろん、真面目に桃太郎を倒す気なんてサラサラない。
(王都に行って、適当に『桃太郎強すぎて無理でしたわー』って嘘ついて、バックレて帰ってこよう……)
そんな不純な動機を胸に、ジークはとぼとぼと村を後にしたのだった。
道中、野生の人間(※レベル1の冒険者)に絡まれたり、スライムを踏んづけたりしながら、ボロボロになりつつもジークは鬼族の王都『オーガイール』へと辿り着いた。
王都は人間の城下町を少し無骨にしたようなつくりとなっており、活気に溢れていた。
武器屋には巨大な金棒が並び、宿屋の看板には「1泊・30ゴールド(毒消し草付き)」と書かれている。
ジークは場違いなほどボロボロの格好のまま、渋々王城へと足を運んだ。
――謁見の間。
玉座に鎮座するのは全身から圧倒的な威厳を放つ鬼族の王、オーガイール三世。
ジークは適当な嘘をついて、すぐに帰る算段を立てていた。
「あー、陛下。俺、しがない村のジークって言います。桃太郎の件なんですけど、あいつマジでバケモンなんで、俺みたいな一般鬼にはちょっと――」
「おおお! よくぞ来た、勇敢なる者ジークよ!!」
「……は?」
ジークの言葉を遮り、王は感動に震えた声で立ち上がった。
周囲の近衛兵たちも、一斉にバッと槍を立てて敬礼する。
「まさかあの忌々しい『桃太郎』に単身で立ち向かおうという骨のある若者が我が国にいようとは! その不屈の闘志、その心意気、実に見事である!」
「え? いや、あの、陛下? 俺、そんなこと一言も――」
「謙遜するな! お前の村の村長から、すでに伝言は聞いておるぞ! 『ジークという若者が隣町の仇を討つため、寝食を忘れて桃太郎の対策を練り、ついに王都へ旅立ちました』とな!」
(あのクソジジイ余計なことしやがってエエェェェェーーーッ!!!)
ジークは心の中で村長を八つ裂きにした。
バックレルートが秒速で完全封鎖された。
王は満足げに頷くとパチンと指を鳴らす。
「良いかジーク。今や人間どもは『経験値稼ぎ』と称して、我ら魔族の居住区を荒らし回っておる。奴らの身勝手な理由でこれ以上同胞が涙を流すのは見ていられん。……さあ、受け取るが良い!」
ファンファーレのごとき重々しい音楽が、なぜか部屋に鳴り響く。
【ジークは、王の恵みを受け取った!】
・どうの棍棒
・ぬののふく
・50ゴールド
「……あの、陛下。これだけですか? 相手、犬と猿とキジ連れて街を消し飛ばす天災なんですけど」
王は急にがっくりと肩を落とし、玉座でため息をついた。
「人間軍との抗争による被害が思いのほか甚大でな。今、前線の兵を割く余力がまったく無いのだ」
「じゃあやっぱり中止で――」
「それでも!」
王はガタッと立ち上がり、ジークを指差した。
「我が軍の最高火力、鬼族きっての攻撃力を誇るエリートをお前のために一人、特別に同行させよう! おい、入れ!」
謁見の間の重厚な扉が開き、一人の男が入ってきた。
身の丈ほどもある巨大なトゲ付き金棒を軽々と肩に担いだ若い鬼。
きっちりとした軍服を着こなしており、端正な顔立ちにはエリートの自信が満ち溢れている。
「――鬼族中央軍所属、ノイ大佐であります! 陛下直々のご指名、身に余る光栄!」
ビシッと完璧な敬礼を決めるノイ。
ジークとは大体同じ年代か、少しノイの方が年上に見える。
(お、おお……? なんかマジで強そうなのが来たな。大佐ってことは相当な手練れだろ。これなら俺、後ろで立っているだけで桃太郎が沈むんじゃねえか?)
ジークの脳内に「他力本願」の四文字が輝く。
「ノイ大佐よ、このジークと共に桃太郎を討伐し、我が国に勝利をもたらすのだ!」
「はっ! このノイ、一撃の火力にかけては軍で右に出る者はおりません! 我が必殺の金棒をもって、桃色の不届き者を粉砕してご覧に入れます!」
頼もしすぎる。
これなら旅も悪くない。
ジークはノイの隣に並び、ニカッと笑いかけた。
「よろしくな、ノイ大佐。これから苦楽を共にする仲間なんだし、タメ口でフランクにいこうぜ?」
「ああ、よろしく頼むジーク。お前のような勇敢な志願兵と共に戦えることを誇りに思う」
ノイは爽やかに微笑み、がっちりと握手を交わした。
こうして軍資金50ゴールドと布の服、そして「軍最強の男」を味方につけたジークは意気揚々と王都を出発したのだった。
王都の外はのどかな平原が広がっている。
だが既にここは王国の外。
一歩街を出れば当然「奴ら」が現れる。
草むらがガサガサと揺れ、飛び出してきたのは――
【野生の人間(※レベル5の旅芸人)が現れた!】
「おいおい、見ろよ。鬼の生き残りだぜ?」
「ラッキー! ぶっ倒して経験値とゴールドにしちゃおうぜ!」
派手な服を着た人間の男たちが、ヘラヘラ笑いながら短剣を抜いた。
どうやら王都の周りでレベル上げをしている不届き者たちのようだ。
「さっそく人間のお出まし。……ノイ、お前のその『軍最強の火力』ってやつ、見せてくれよ!」
「任せておけ。……我が一撃の恐怖、その身に刻むが良い!」
ノイはフッっと不敵な笑みを浮かべると地面を踏み締め、巨大な金棒を大きく振りかぶった。
その身から放たれるプレッシャーは凄まじく、周囲の空気がビリビリと震える。
人間の旅芸人たちも「ひっ……!」と顔を引き攣らせた。
(おおお、すげえ! マジで大物だわこいつ!)
ジークが期待の眼差しで見守る中、ノイが突撃した。
「はあああぁぁぁ――我が一撃を受けよッ! 」
ドゴォォォォォォンッ!!!
凄まじい爆音が響き渡り、大地がクレーター状に陥没した。
凄まじい衝撃波で風が吹き荒れる。
さすがは軍最強の火力。
当たれば確実に即死。
人間など一瞬で塵になる威力だ。
だが。
「……あれ?」
砂煙が晴れた。
ノイの金棒が激突した場所から右に3メートルほど離れた場所で、人間の旅芸人がポカンと立っていた。
かすってもいない。
「おいおい緊張しているのか?しっかりしてくれよ、俺のレベルじゃまだこいつらとまともに戦えないんだからさ」
「その割に上から目線!」
「弱いんだからもっとしおらしくしておいてくれ。まぁすぐに倒してしまうがなっ!」
——5分後
ブンッ! ズドン!(上空をかすめる)
ブンッ! バキィ!(全然関係ない木が折れる)
ブンッ! ドガシャァ!(自分の足元の地面を掘る)
ノイの放つ一撃一撃は世界の終わりかと思うほどの破壊力なのだが、とにかく信じられないほどかすりもしない。
「いや、いつまで戦っているの!?」
「あぁすまん、俺の攻撃は確かに軍最強なのだが如何せん9割がた当たらなくてな」
「余計な特性積んでやがる……、そんな0か100かの博打性能いらないんだけど、安定して敵を倒してほしいんですけど」
「それだとロマンが足りなくないか?」
「いらないんだよなぁ、ロマンは」
「あ、あのー……」
あまりの当たらなさに攻撃を避ける必要すらなくなった人間の旅芸人たちが逆に気まずそうな顔でジーク達を見ている。
ジークはトボトボと人間の旅芸人の前まで歩いていき、ペコリと頭を下げた。
「あ、すんません。ちょっと身内の作戦会議いいすか?」
「え? あ、はい、どうぞ……。僕らここで待ってますんで……」
人間の旅芸人たちは、あっさりと短剣を鞘に収め、草むらの縁に腰掛けた。
敵ながらものすごく空気を読んでくれている。
ジークはノイを少し離れた場所に引っ張っていくと、小声で詰め寄った。
「おい大佐。お前そんなんでよく軍の大佐やってたな」
「巨人族軍との戦いで他の戦士が苦戦しているときに武功を上げまくったからな」
「あぁ~あいつら巨大だからその分当てやすいのか、ていうかそういう時しかかつやくできないんじゃあ……」
この時、ジークの脳裏に王都での王様のあの顔がフラッシュバックした。
『今、前線の兵を割く余力がまったく無いのだ』
『我が軍の最高火力を一人、特別に同行させよう!』
(……待てよ。あのおっさん、もしかして……)
ジークは冷や汗を流しながら、ノイの無駄に爽やかな横顔を見た。
(こいつ、火力だけは無駄に高くて周りの被害がデカい上に、絶望的にポンコツだから扱いに困って俺に押し付けたんじゃねえだろうな……!?)
「おーい、鬼さんたちー。そろそろ戦闘再開していいですかー?」
遠くから、待ちくたびれた旅芸人が声をかけてくる。
「あ、すんません! 今戻りまーす!」
ジークは旅芸人に手を振り返すと、絶望に満ちた顔で天を仰いだ。
【ジークの パーティーに お荷物(大佐)が くわわった!】
「よし、ジーク! 次こそは俺の超大技であの人間どもを消し飛ばしてくれよう!」
「お願いだからもう誰も狙わないで!! あと通常攻撃を覚えて! お願いだから!!」
前途多難すぎる「めでたしめでたし」をぶち壊す旅。
この時はまだ次に仲間になる奴らがこれ以上の「大災害」だとは知る由もない――。




