6.自分の色
二人は女性と子犬に別れを告げた後、路地裏へと移動した。ここでしばらく雨風をしのぐことにしたのだ。
「ライリーはさ、さっきみたいに今までもたくさん誰かを助けてきたんでしょ? 前に体が傷だらけって言っていたのは、それによってできたものでしょ?」
「……相手には俺のことが見えていなくても、俺には見えているからな。危険な状況が目の前で起こっていたら放っておけない。まあ、助けても気づかれないし、別に見返りを求めているわけじゃないけど、でも毎回小さな虚しさは残るんだよな。そういえば、お礼を言われたのは今回が初めてだったな」
そこまで言って、ライリーは黙った。
「……泣いているの?」
「泣いてねえよ! これは雨粒だ!」
「内側から溢れ出ているそれは、涙だよ」
雨で濡れて体から滴り落ちている水滴とは別に、二か所から別の水滴が流れていた。
「……泣いているところを人に見られるのも初めてだ。感謝されるって、こんなにうれしいもんなんだな」
ライリーは手で涙を拭ったが、それでも次々と溢れ出してくる。アキラがハンカチを差し出した。それを受け取り、涙を拭った。
「あのとき、アキラが来てくれて助かった。一人ではどうしようもなかったから。俺も助けられたんだ。アキラのおかげだ。ありがとう」
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「前に、君は透明だから自分の色がないって言っていたよね? 僕、あれから考えていたんだけど、ライリーって海みたいなんじゃないかと思うんだ」
「唐突だな。どういう意味だ?」
「僕たちの目には海って青色に映るんだ。でも、海の水をすくってみると、実際は透明で色がない。なぜ青く見えるのかというと、海面が空から来る青い光を反射しているから。それと、太陽の光にはいろんな色が含まれているんだけど、青以外の光は水が吸収してしまうんだ。だけど、青はそのまま水の中を突き進む。その青が僕たちの目に映って見えているんだよ」
「つまり何だ? 海にも自分の色がないから俺と同じだってことか?」
「海の青は、ほかからの作用で生まれた色で、今ではそれがすっかり自分の色になっている。何かによって生まれた自分も、それも自分の色なんだ。ライリー自身は透明だけど、僕の目には色をもって見えているっていうこと」
「うーん……、抽象的で、よくわからないな」
「ここでいう色っていうのは、赤とか青とかの話じゃなくて、僕の目に映る君が、君自身の色になり得るってことだよ。僕の目に映る君は、一人の人間として実体を持っているっていうこと。だから、ライリーは孤独じゃないんだよ。僕が見えているんだから」
「……俺は、もう透明じゃなくなったんだな」
人に認めてもらえることが、こんなにもうれしいことだなんて。
ライリーは再び溢れた涙をハンカチで拭いた。




