4.少年
二人が出会ってから数日後、ライリーはアキラが通う学校を訪れた。学生生活をアキラがどう過ごしているのか見てみようと思ったからだ。透明人間である彼は誰にもばれることなく、学校に忍び込むことができた。
教室をのぞくと、アキラが席に座って本を読んでいた。今は休み時間らしい。いつもとは雰囲気が違って見えた。ライリーといるときは饒舌なのだが、ここでは物静かで、どことなく周りと距離を置いているように感じた。そして、気になることを耳にした。
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「お前、何で『トウメイ』なんて呼ばれているんだ?」
学校が終わり、ライリーはアキラの部屋を訪れていた。アキラはライリーが黙って学校に来たことを怒った。
「それについては悪かった。授業参観みたいなもんだよ。学校での姿に興味があった」
「僕は学校での姿なんて見られたくなかったよ」
アキラは机の引き出しからノートを取り出し、ペンで何かを書いて、ライリーにそれを見せた。そこには『當間明』と書かれていた。
「『トウマアキラ』って漢字でこう書くんだよ。アキラは漢字で『明るい』って書くんだ。明るいって『メイ』とも読むでしょ? 『トウマ』の『トウ』と『メイ』で『トウメイ』。これが僕のあだ名。僕って目立つタイプじゃないし、影が薄いっていうか、いるかいないかわからない存在なんだよね。僕もそれを受け入れている」
「何で?」
「見えなくなれば、自由が得られるじゃないか」
「は?」
「みんな誰かのことを気にして生きている。悪口を言われていないかなとか、こんなことを言ったら相手を傷つけてしまうんじゃないかなとか。それって疲れることなんだよ。透明になって見えなくなれば、誰も存在を気にしないし、そういった窮屈さから解放されると思うんだ。この眼鏡はそういう意味でかけていて、レンズを通して見ることで少し世界がぼやけるっていうのかな、僕だけが異空間にいるような気がしてくるんだよね」
アキラはかけている眼鏡を指差しながら説明した。
「僕は本物の透明になりたいな、君みたいに」
アキラは目を輝かせた。ライリーは少し考えてから、こう答えた。
「まあ、いいんじゃないか。俺も仲間が増えるのはうれしいし」
「本当?」
「ああ。これで俺は野垂れ死にしなくて済むから、こっちにとっても好都合だ」
「え?」
「気づいてないようだから教えるが、俺は全身傷だらけなんだ。怪我をしても病院に行けないから自力で治す。風邪を引いても同じだ。大きな病気にでもなったらどうなるんだろうって不安でいっぱいになる。俺が死んでも気づく奴なんていないから孤独な最期を迎える予定だったが、お前が透明人間になれば俺の本当の姿が見えるようになるはずだし、そのときは埋葬してくれよ。俺が死んだ後、お前は野垂れ死にするしかないだろうがな。そういうことも考えて俺みたいになりたいなんて言ったんだよな?」
ライリーの声には怒りが混ざっていた。沈黙がしばらく続いた。
「……ごめん、そこまで考えていなかった」
「そうだろうよ。だから、透明になりたいなんて言えたんだ。俺はここに存在しているのに誰にも見えていない。認めてもらえない。じゃあ、何のために存在しているんだ? 俺は自分の色がないことが嫌で嫌で仕方がない」
そう言い残して、ライリーは部屋から出ていった。アキラがそれに気づいたのは、いくら声をかけても返事がなかったことと、いたときには感じていた存在感みたいなものが消えたのがわかったからだ。
あれから、ライリーはアキラの前から姿を消した。




