44 話を聞いてもらうことにします!
ミアーナは今までに多くの人から恋愛の相談をされていたが、彼女自身の恋愛経験は、ほぼないに等しい。
初恋をしたことはあるが、それは幼い頃の話で、年の離れた従兄に対してのものである。当時の感覚など覚えているはずもなく、現在、マーベリックに対して感じている気持ちが恋なのか、判断できずにいた。
マーベリックといるとドキドキするし、ロコッドといる時には一切感じなかった楽しさというものを感じる。
(これは恋なの? それなら、今すぐ結婚しましょうと言ったほうがいいの?)
マーベリックからはゆっくり考えてくれたらいいと言われているのに、せっかちな性格のミアーナは、すぐに答えを出そうとしてしまう。
「ああ、誰に相談したらいいのかしら」
勤務開始前の自室で、ミアーナが大きなため息を吐いた。今日は天気が良いからか、窓の外からは鳥たちの歌うような鳴き声が聞こえてくる。普段ならば、この鳴き声をほほ笑ましく思い、今日も頑張ろうと気合を入れていた。
それなのに、最近は上手く切り替えることができなかった。
「ミアーナ様、そろそろお時間です」
部屋から出てこないミアーナを不思議に思ったのか、扉の外からメイドの声がした。
「ありがとう、すぐに行くわ」
ミアーナは両頬を叩いて気合を入れ、仕事モードに入ることにした。
ラゲクの側近はミアーナも含めて3人おり、そこにマーベリックが加わって、四人で動いている。仕事が忙しい日は別だが、ラゲクも含め全員が休みの日が七日に一度。それ以外の六日間は三人で動き、一人が休むことになっている。
今日はマーベリックが休みの日だった。そのことは前からわかっていたのに、顔が見られないというがっかり感で複雑な気持ちになった。
(屋敷内にいることは確かだし、会いたくなればいつでも会えるのよね)
「……だと思うんだけど、どうかな?」
(って! 仕事に集中しないと! 顔を見たら見たで落ち着かないんだから、今日はミスなく、ちゃんとやるわよ!)
「ミアーナさん、聞こえていますか?」
「は、はい!」
顔のすぐ真横で声をかけられて、ミアーナは飛び退りながら返事をした。
「体調がわるいのなら、今日は休んでも大丈夫ですよ」
「彼の言う通り、今はそう忙しくない。休める時に休んでおきなさい」
「体調はいいんです! ただ、勤務中なのに考え事をしてしまっていました。本当に申し訳ございません」
ミアーナが頭を下げると、側近二人は不思議そうに顔を見合わせた。
(二人とも優しいけれど、仕事には厳しいから、仕事中に他のことを考えていたらきっと怒るわよね)
側近二人ともに男性で、一人は先日の面接の中で選んだ一人で、年齢はミアーナよりも十歳年上の物腰柔らかな男性。もう一人はラゲクの父に仕えていた男性だ。
彼は少し前に隠居していたのだが、のんびりした生活に飽きてしまっていた。ラゲクから声がかかった時は、妻が横で不満そうにしていたにもかかわらず、二つ返事で了承していた。彼の妻の様子を見て、ラゲクが逆に遠慮したが譲らず、最終的には妻からも「夫をよろしくお願いいたします」と頭を下げられていた。
聞いた話を思い出しながら、ミアーナが反省していると、年配の男性が微笑む。
「誰だって悩む時はありますよ。家族が病気だとか深刻なことではないのですね?」
「はい。深刻ではありません。ですから、すぐに気持ちを切り替えます」
宣言したミアーナに、もう一人の側近が提案した。
「ミアーナさんのように若い女性の悩みですと、私どもよりもご友人のほうが話しやすいでしょう。近いうちにご友人と話をしてみてはどうですか」
「くだらない話なので相談してもいいか迷っておりまして」
「悩んでいるということは、ミアーナさんにとってくだらない話ではありません。そして、ご友人だってそう思うでしょう」
「……そうですね」
(私だって人に相談された時、くだらないなんて思わなかったわ)
多少の例外はあったが、そのことを除けば悩んでいる人を馬鹿にすることなんてなかった。
「ありがとうございます! 話を聞いてもらうことにします!」
誰に聞いてもらうと決めたわけではなかった。だが、二人に勇気づけられたミアーナは、いつもの調子を取り戻すことにした。




