37 ルイティーの誤算
読んでいただきありがとうございます!
この話はルイティー視点のお話になります。
ロマはルイティーと容姿がかなり似ており、コレンが彼女に夢中であることは周知の事実だ。
ロマは自室にいるというので、メイドに案内してもらい、彼女の部屋に向かった。ロマは手紙を書いている途中だったようで、コレンが部屋に入ると、ペンを置いてにこりと微笑んだ。
「ごきげんよう、コレン様。今日はここまで足を運んでいただき、誠にありがとうございます」
ロマはおっとりしたタイプの女性で、動作だけでなく話す口調もゆっくりだ。そんなところもコレンが彼女を好きな理由の一つだ。
「手紙を書いていたのかい?」
「はい。最近、お友達ができたんです」
嬉しそうに微笑むロマを見て、コレンも表情を緩ませる。
「君がそんなに嬉しそうにしているということは、とても良い人なのだろうね。僕にも紹介してくれるかな」
「もちろんですわ。……ですが、コレン様はすでに知っておられる方です」
「僕が?」
「はい」
見当がつかないコレンが首を傾げると、ロマは満面の笑みを浮かべて答える。
「ファトミマ伯爵家のミアーナさんです。お会いしたことはなくても、お名前くらいはご存知でしょう?」
「え」
衝撃の事実に、コレンは間抜けな声を上げて動きを止めた。
「あら、どうかされましたか?」
「あ、うん、いや。その、ミアーナのことは知っているけど、その、あまりいい噂を聞かないものだから、君の友人にふさわしくないんじゃないかと思ったんだ」
「それはどういうことでしょう?」
怪訝そうな表情でロマに見つめられたコレンは、それ以上、ミアーナの悪口を言うことはできなかった。
ロマとの幸せな時間が終わると、コレンは王城に戻り、早速、ルイティーの元に向かった。何も知らないルイティーは兄を笑顔で出迎える。
「おかえりなさい、お兄様。ミアーナのことについて色々と考えていたんだけど聞いていただけますか⁉」
「……そのことなんだけど」
「どうかされましたか?」
表情が暗いコレンを見たルイティーは、不思議そうに首を傾げた。
「ごめん。ミアーナの件は手伝えない」
「は?」
「本当にごめん。やっぱり僕は王太子だから、国民全ての幸せを願わないといけないんだと気がついたんだ」
胸の前で腕を組んでうんうんと頷くコレンをルイティーは責める。
「どういうことですか! 一体、何があったと言うんです⁉ 味方してくれるって言っていたじゃないですか!」
「そのつもりだったんだけど、話を聞いてみたら、ミアーナは思ったよりも良い人そうだよ。ルイティー、君も変なことは考えないで真面目に生きたほうがいい」
ロマはルイティーとロコッドの浮気に不快感を示しており、ミアーナを気の毒に思っていた。しかも、今、貴族の女性で流行っている「ティアトレイ」という商品名で防具にもなる、シルバートレイを一緒に買いに行く約束までしていた。
「ティアトレイ」は、一般的な丸型のシルバートレイと見た目は変わらず、女性が抱きかかえるくらいの大きさのものである。
「じゃあね、ルイティー。今回は力になれなくて本当にごめん。また、顔を見に来るよ。それまでいい子にしているんだよ」
「いい子にしていませんから来ていただかなくて結構です!」
ルイティーはコレンが出ていった扉に向かって枕を投げつけた。
「ミアーナの奴! お兄様まで味方につけるなんて!」
(もうお兄様にも頼れない)
そう思ったルイティーはミアーナに恨みを持つ人間がいないか考えた。そこで思い浮かんだのはヨーカだった。
「そうだわ。あの女と連絡を取ればいいのよ! あの女に色々と動いてもらいましょう」
兄を呼び出して、あの女――ヨーカに連絡を取ってもらおうと思った時、彼女の侍女が神妙な面持ちで部屋に入ってきた。
「どうかしたの?」
「あの、ルイティー様、罰が決定したとのことで、国王陛下がお呼びです」
「……え?」
軟禁状態が続くだけだと思っていたルイティーは、侍女の言っていることがすぐには理解できなかった。彼女が状況を頭の中で整理する時間はなかった。侍女に手を引かれ、ルイティーが大広間の中に入ると、奥には厳しい表情の両親と兄と弟が椅子に座っており、一斉に彼女を見つめた。
その手前には大勢の貴族が壁に沿って立っており、その中にはマーベリックとラゲクもいる。
「ここで失礼いたしします」
侍女はルイティーに一礼して、大広間から出て行く。一人にされたルイティーは生まれて初めて人の視線が痛いと感じた。
「あ、あの、お父様、何か御用でしょうか」
「侍女から何も聞いていないのか?」
「い……、いいえ。私への罰が決まったとは聞いています」
(スココ男爵と結婚しろって言うんでしょう?)
結婚の話は、国王から直接聞いたわけではないため、ルイティーは心の中で叫んだ。
「そうだ。これから、その罰を発表する」
(はいはい。結婚すればいいんでしょう!? 貧乏暮らしにはなるかもしれないけど、義理の姉が好きなら私に手を出すことはないもの。男爵家で自由にさせてもらうわ)
気持ち悪いと思う相手と結婚しても、今よりも自由になるのなら良いと思った時、国王が口を開く。
「お前にはロンド王国のキラフロイ王子の元に嫁いでもらう」
「……え?」
キラフロイ王子は、ロンド王国の第三王子だ。彼は湯浴みが嫌いで、十日に一度の間隔で体と頭を拭くだけで湯浴みはしない。そのため、暑くてよく汗をかく時期には体臭がきついことで有名だ。逆にルイティーは湯浴みが好きだし、清潔な男性が好きだった。
「ち、父上、お待ちください。あ、あの、私の結婚相手はスココ男爵ではなかったのですか?」
耳を疑って固まってしまったルイティーの代わりにコレンが尋ねると、国王は鼻で笑う。
「最初はそのつもりだった。だが、彼は婚約者ができるかもしれなくてな」
「そ、そんな、誰ですか!?」
「何を馬鹿なことを言っている。お前がスココ男爵をミアーナという女性に紹介したのだろう?」
呆れた顔で答える国王に、コレンは必死に訴える。
「あ、あ、あの、父上、ミアーナ嬢はスココ男爵との婚約を断ってきたんです! ですから、ルイティーに」
「遅い」
「……え?」
「もう遅いと言っているんだ。スココ男爵をルイティーの結婚相手にできないとわかってから、新たに相手を探したんだぞ。どれだけ大変だったと思っている。それに先方も嫁に来てくれるなら大歓迎だと言っている」
「あ、あ、そんな」
コレンは涙目になってルイティーを見つめた。
「そ、そんな、嫌です! 大体、結婚は私への罰なのでしょう? そんな理由で結婚するなんてキラフロイ王子にも失礼ですわ!」
ルイティーは珍しく正論を言い、首を横に振って必死に拒否した。しかし、国王は冷めた目でルイティーを見つめて言った。
「心配するな。今回の話は全て話してある。ロンド王国側は罰としての結婚でも気にしないと言っている」
「い、嫌、嫌です! 結婚したくありません!」
キラフロイは、湯浴みできない環境にいるわけではないのに、わざと湯浴みをしない。綺麗好きのルイティーには、そんな人と一緒に浸食を共にすることを想像するだけで気分が悪くなった。
拒否し続けるルイティーに、国王は冷たく言い放つ。
「いいか、ルイティー。お前もわかっているように、これは罰だ。もし、誰かを恨むとするなら、自分かスココ男爵にミアーナを薦めたコレンを恨むんだな。それがなければ、お前はスココ男爵に嫁ぐだけだったのに」
「嫌よ。そんな、なんでこんなことになるの⁉」
ルイティーは涙を流しながら床に膝をついた。そんな彼女を見ていられなくなったのか、王妃は悲しそうに目を伏せた。
「そんな……っ。ごめん。ごめんよ、ルイティー。こんなことになるなんて思わなかったんだ!」
コレンはルイティーに駆け寄り、涙を流しながら謝罪した。




