38 守ってみせますわ!
ルイティーの結婚は確実のものとなり、コレンがどれだけ両親に訴えても無駄だった。コレンやルイティーの様子はマーベリックからミアーナに伝えられたが、ミアーナからロマにその話をするつもりはなかった。
ルイティーの再婚の話題が大々的に発表された次の日、たまたまミアーナはロマと会う約束をしていた。二人で「ティアトレイ」を購入し、ミアーナはご満悦だったが、隣を歩くロマの表情は暗かった。
そのことに気がついたミアーナは、慌てて彼女を気遣う。
「ロマ様、どうかされましたか? 気分が優れないようでしたら、どこかでお休みになりますか?」
「違うのよ、ミアーナさん」
ロマは立ち止まると、ゆっくり首を横に振って、ミアーナを見つめる。
「私、あなたに謝らなければならないの」
「どうしてでしょうか。ロマ様に何かされた覚えはないのですが……」
ロマから謝られなければならないことなど、ミアーナには思い浮かばない。ロマが話し出すのを待っていると、彼女は「場所を変えましょうか」と言って、彼女の父が出資しているレストランに向かった。
ロマの姿を見ると、店員は何も言わずとも奥にある個室に彼女たちを案内した。四人がけのテーブルに向かい合って座って雑談していると、注文していた飲み物が運ばれてきた。二人とも、温かい紅茶を選んでいた。ミアーナがカップを手に取ろうとした時、ロマが話し始めた。
「お父様から聞いたわ。コレン様が無理矢理、あなたをスココ男爵と再婚させようとしていたのでしょう?」
「そのお話のことでしたら、お断りいたしまたし、気になさらないでくださいませ」
断ったのは確かだが、フラティナに思うように会えなくなったバンハは、それがミアーナのせいだと逆恨みしていた。そんなこともあり、買ったばかりのティアトレイの最初のターゲットは、バンハになるのではないかと思っていた。
「気にするわ。だって、コレン様は王太子という立場なのよ? 自分の妹が可愛いからって、そんな理由で人の人生を自分の望み通りにしようなんて間違っていますもの」
シルバートレイを握りしめて話すロマに、ミアーナは苦笑する。
「お気持ちはとても嬉しいですわ。ですが、ロマ様に悲しい気持ちになってほしくはありません」
「……ありがとう。でもね、どうしても気になるのよ」
唇をかみしめるロマをミアーナは黙って見つめ、彼女が話し出すのを待った。
「実は、私が嫌だと思うならコレン様との婚約を解消してもいいと言われているの」
「それは、どなたがそうおっしゃっているのですか?」
「国王陛下よ」
俯き加減だったロマは、顔を上げてはっきりと答え、話を続ける。
「できることなら、婚約を解消したくないの。でも、自分の妹のことばかり考えている今のコレン様は次の国王にはふさわしくない」
「コレン殿下は、ロマ様のことも大事に思っていらっしゃいますわ」
フォローするつもりはなかったが、ロマはまだコレンに気持ちがある。そんな時に、彼のことを悪く言うのは避けたほうが良いとミアーナは感じた。
「ありがとう、ミアーナさん。でね、あなたにお願いがあるの」
「……どのようなことでしょうか」
「コレン様と話をしようと思うの。だけど、私では彼に甘くなってしまうかもしれない。だから、あなたも一緒に話を聞いてくれないかしら」
「私はかまいませんが、もし、ロマ様にとって納得できない答えをコレン殿下が返された時はどうなさるおつもりですか?」
「……国王陛下のお言葉に甘えて、婚約を解消するわ」
(ロマ様は、本当に正義感の強い方なのね。コレン殿下は彼女を愛しているくせに、こんなことにも気づかなかったのかしら)
ロマの真剣な表情を見て、意思が固いことを感じとったミアーナは頷く。
「承知いたしました。お誘いいただけましたら、ご一緒させていただきますわ」
「ありがとう」
重かったロマの表情が明るくなり、ミアーナは優しく微笑んだ。
(少しでも気が楽になってくれたのであれば良かったわ)
コレンとの話し合いの日程は、改めてロマから連絡をしてもらうことになり、今日のところは大まかな約束だけして別れた。
公爵邸に帰り着いたミアーナが馬車を降りると、使用人たちと共にマーベリックが出迎えてくれた。
「おかえり。良い一日だったか?」
「ただいま戻りました。とても有意義な一日でしたわ。あの、マーベリック様、お時間がありますでしょうか。お話ししておきたいことがあるのですが」
「構わない。場所を移動しようか」
「では、私は一度部屋に戻らなければなりませんので、十分後に談話室でお話をさせていただいてもいいでしょうか」
「わかった」
このまま話をしてもいいのだが、長時間、ロマと話をしていたため化粧が崩れている。無意識のうちにマーベリックの前では少しでも綺麗な自分でいたいと感じていたミアーナは、化粧を直すために部屋に戻った。
そして約十分後、談話室で待ってくれていたマーベリックと合流し、ロマたちの話し合いに同席することを話した。
「コレン殿下も私情を挟みすぎたな」
「私もそう思いますが、真実を知ったことで、ロマ様がそこまで深く考えるとは思っていませんでした」
「彼女の父親は厳格で有名だし、彼女も普段はおっとりしている分、怒ると怖いということは、同学年の一部では知られていた。コレン殿下もそれは知っているはずなんだがな」
ロマとマーベリックは同い年で、同じ学園に通っていたため交流があった。そのため、ロマの性格を把握していたようだ。
「そうだったんですね。社交界ではそんな噂は流れてきませんでした」
「言いふらす奴がいなかったからだろう」
「マーベリック様もそうですものね」
「どういうことだ?」
「ロマ様が実際はこんな人だと言いふらしたりしなかったでしょう?」
ミアーナが微笑むと、マーベリックは苦笑して頷く。
「そんなことをする必要もないし、人が怒るということは何か理由があるはずだ。おもしろおかしく話す話ではないだろ?」
「そうですわね。特にロマ様の場合はよっぽどのことだと思います」
マーベリックは少し間を置いてから、ミアーナに尋ねた。
「話し合いだが、二人で大丈夫か?」
「はい! 私にはこのティアトレイがありますのでご心配なく! これでロマ様のことも必ず守ってみせますわ!」
ミアーナが満面の笑みでメイドが持ってくれていたシルバートレイを受け取り、マーベリックに見せると、彼は呆れた顔をした。
「持ち歩いているのか」
「ぜひともマーベリック様に見ていただきたくて、メイドに持っていてもらったんです。こちら、改良されたばかりの新バージョンのようでして、とても軽くて持ち運びしやすいんです。しかも、お試し価格ということで安くなっていたんです」
「改良された?」
「はい。今までとは違い、二つに折りたためるようになっているそうなんです。できれば扇くらいの大きさに折りたためればいいんですけど贅沢は言えません」
「……そうか。手に入って良かったな」
嬉しそうに話すミアーナを見たマーベリックは、ティアトレイの良さがいまいちわからなかったものの、彼女が満足しているのなら良いかと微笑んだ。




