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からくり競艇 ~黄金の波切り、魂のフルスロットル  作者: 水前寺鯉太郎
第6章:ダービー編

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第98話:厳島(いつくしま)の誓い ― ダービー編開幕 ―

安芸の宮島、神域に舞う「衆望」

2029年7月。

徳島・鳴門での伝説的な連覇から二ヶ月。からくり競艇公式YouTubeチャンネル「カササギ」の累計PV数は、世界的な熱狂を背景に1億4,500万という未踏の数値を維持していた。

舞台は、世界遺産・厳島神社の鳥居が海に浮かぶ、広島の聖地「宮島ボートレース場」へと移る。ここは速水誠が所属する山口支部の隣県であり、彼にとっては自身の出身地でもある「真の地元」だ。

瀬戸内海の穏やかな海面の下には、干満差による複雑な潮流と、神域としての厳かなマブイが渦巻いている。この場所で開催される「G1宮島ダービー」は、単なるレースを超え、誠が背負った「白銀の王」としての真価を問う、新たな神話の第一章であった。


宮島のピットは、夏の強い陽射しを反射して白く輝いていた。

そこには、鳴門での激闘を誠と共に戦い抜いた、野田あかりと大内胤賢の姿がある。

誠のレーシングスーツは、これまでの漆黒から、眩いばかりの純白へと新調されていた。傍らには、かつて闇に呑み込まれかけた面影を完全に消し去り、透明感のある白銀の輝きを放つ機獣・シロが静かに座している。

「師匠、宮島の潮は鳴門よりずっと気まぐれっす。でも、今の39号機なら、鳥居の向こう側の風も掴めるはずっす!」

あかりが差し出したのは、宮島の干潮時の浅瀬と、満潮時の重い水を両立させるために再調整された特殊プロペラ。表面には、貝殻のような虹色の光沢を放つコーティングが施されており、彼女はそれを**「潮干狩しおひがり用プロペラ」**と名付けていた。

「ありがとう、あかり。……シロ、準備はいいかい?」

(誠……。この島には、鳴門の渦潮とは違う『古い神様』がいやがる。面白いレースになりそうだぜ!)


だが、地元の王者を迎え撃つ広島支部の面々は、鳴門のライバルたち以上に「土着的」で強固な壁であった。

* 浅野家(土属性):

「忠義を貫き、決して退かず」。広島の守護神と呼ばれる一族。彼らは、誠が鳴門で見せた「空中戦(チルト3.5)」を、大地のような重圧で海面へと引きずり降ろそうと狙っている。

* 蔵野家(金属性):

一撃必殺の斬撃特化。鳴門で誠を助けた蔵野まいの従兄にあたる**蔵野剛ごう**が、誠の連覇に異議を唱える。

「速水誠……。鳴門の王者が、我らが安芸の宮島でどこまで通用するか、試させてもらう」

剛が駆る機体「黄金の断頭台ギロチン」が放つ鋭利な殺気が、ピットの温度をわずかに下げた。


前検日の夜。誠とあおいは、神社の参道を歩いた。

ちょうど七夕の季節。笹に飾られた色とりどりの短冊を前に、あおいが「誠くんは何を書くの?」と聞いた。

だが、誠が震える手で書き記したのは、意外な言葉だった。

『全人類のマブイが安らかであること』

一億人以上の衆望を一身に受け、その欲望と恐怖の濁流を知る誠だからこそ書ける、切実な祈りだった。その瞬間、誠の胸元のマブイ石が、厳島の鳥居から放たれる神聖な波動と共鳴し、かつてないほど清らかな鈴の音を響かせた。

主要勢力図:宮島ダービー「百鬼夜行」

| 勢力 | 代表レーサー | 属性 / 特徴 | 誠へのスタンス

| 山口・地元の意地 | 黒田 瑛人 | 鷲 / 重力 | 誠の師匠。王者の孤独と厳しさを教える。 |

| 瀬戸内の支配者 | 河田 元気 | 金 / 黄金の逃げ | 鳴門のリベンジ。干満差を計算した天才的航法。 |

| 西の巨人 | 今川 暢 | 水 / 10万マブイ | 規格外の重圧で周囲を平伏させる。 |

| 東の銀河 | 藤島 武士 | 木 / 精密茶道 | 「美しく勝つ」を信条に誠の旋回を否定。 |

| アウト屋三銃士 | C・サカモト | 風 / 野性の3.0 | チルト3度。大外からの空中戦を挑む。 |

2029年7月7日:初日12R「ドリーム戦」――空を懸けた火花

七夕の正午。宮島ボートレース場は満潮を迎え、厳島神社の鳥居の根元が完全に水に浸っていた。

六機のからくりエンジンが上げる地鳴りのような咆哮が、神域の静寂を切り裂く。


展示航走。真っ先にコースへ躍り出たのは、6号艇のクーロン・サカモトだった。

「誠……。チルト3.5が『神の領域』なら、俺の3.0は『野性の証明』だ。サウダージ(郷愁)を感じる間もなく、抜き去ってやるよ!」

サカモトの機体がチルト3度の仰角で水面を叩き、強烈な直線の伸びを見せる。対する誠は、シロと共に静かにスロットルを開けた。

「シロ、宮島の神様に挨拶だ。……行くよ!」

チルト3.5、セット。

誠の『白銀黒影』が、水面からふわりと浮き上がる。サカモトの「3.0」が激しく水面を叩くのに対し、誠の「3.5」は海面上数十センチの空気を掴み、さらに「上」から見下ろすような滑らかな軌道を描いた。

この展示の瞬間だけで、カササギのライブ視聴者数は1億5,000万を突破。二つの「空」が交差するたび、宮島の空気に青白い静電気が走る。


空中で火花を散らす若き二人を、ベテランたちが冷徹な眼差しで捉えていた。

「空中戦、結構なことだ。だが、茶の湯と同じく、無駄な動きは身を滅ぼす。美しくないね」

5号艇の藤島武士は、コアマブイ8万を指先一つの精密操作で統御。最短距離を縫う、鏡のような旋回を見せる。

「若さとは、脆いものだ」

今川暢は、10万マブイという絶大な「重圧プレッシャー」を水面に叩きつける。彼が通る場所だけ、波が恐怖に震えるように鎮まり、周囲の艇を吸い込もうとする磁場が生まれた。


そして、スリットライン。1億5千万人の心臓が止まる瞬間。

【速水 誠 ST .00】

「また……! またしても .00 だぁぁ!! 鳴門の奇跡は、神の気紛れではなかったのか!」

実況の絶叫が安芸の空に響き渡る。

誠の集中力は、宮島の鳥居が放つ古いマブイと完全に融合していた。彼にとって、大時計の針はもはや見るものではなく、自分の「魂の拍動」そのものとなっていたのだ。

初日12R:ドリーム戦・進入予想

| コース | レーサー | 戦術 / 覚悟 |

| 1 | 速水 誠 | 死守。 白銀の光でインから全人類の想いを運び出す。 |

| 2 | 河田 元気 | 隙あらば差し。 宮島の干満を知り尽くした黄金の刃。 |

| 3 | 今川 暢 | 重圧。 10万マブイの壁でインの誠を圧殺しにかかる。 |

| 6 | C・サカモト | 大外強襲。 野性のチルト3度。空中戦の覇権を狙う。 |


ピットの隅で、その展示リザルトを静かに見つめる男がいた。地元広島の重鎮・堀尾大輔。その傍らには、誠のシロに負けじと鋭いマブイを放つチワワの「源助」が座っている。

「速水誠……。鳴門の2連覇、見事じゃった。じゃが、ここは宮島。安芸の神々に守られたこの海で、他支部のガキが主役を演じられると思うなよ」

堀尾が低く呟くと、源助が「ワン!」と鋭く吠えた。

その波動が誠に届く。誠はヘルメットを被ったまま、静かに堀尾の方へ向き直った。

「堀尾さん。俺の空は、一人で飛んでるんじゃないんです。みんなが作ってくれた羽なんです!」

1億5,100万PVの熱狂が、宮島の鳥居を揺らす。

からくり競艇、新章。G1宮島ダービー

安芸の神域を舞台にした、魂の削り合いが今、幕を開ける。


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