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からくり競艇 ~黄金の波切り、魂のフルスロットル  作者: 水前寺鯉太郎
第5章:誠の試練編

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第91話:スリットの閃光 ― 四人の修羅と零の境界 、漆黒の秒針

2029年5月13日、木曜日。SG『衆望万魂祭』は、ついに決勝進出を懸けた運命の「準優勝戦」当日を迎えた。

 ボートレースのスタートにおいて、0.01秒の遅速は天国と地獄を分かつ。だが、からくり競艇における極限は、そのさらに先にある。

タッチスタートの恐怖:

「.00(コンマ・ゼロゼロ)」。それは大時計の針と自艇の舳先が、1000分の1秒の狂いもなく完全に一致した瞬間にのみ現れる数字である。からくり競艇において意図的にこの数値を叩き出す者が現れたなら、それは人間が時間の概念を超越した証、あるいは「魔」に魅入られた証と言える。

万魂石の「深紫色ディープ・パープル」:

会場中央の万魂石は、8,800万人という未曾有の衆望を吸い込み、禍々しい深紫色へと変色していた。石から放たれる高周波のハミングは観客の三半規管を揺さぶり、鳴門の空には不気味な光のオーロラが走っている。

 準優勝戦12R、スタート展示。

 速水誠の39号機が放つのは、力強い排気音ではない。「……シュゥゥ」という、周囲の熱量や音をすべて吸い込んでいるかのような、不気味な吸気音インテーク・ノイズだった。

 「(誠、見ろ。大時計の針が……止まって見えるぜ)」

 誠の影として寄り添うシロの瞳は、どろりと溶けた溶岩のような深紅に染まっている。誠の視界には、もはやライバルたちの姿はない。ただ暗闇の中に引かれた、鮮烈な「死の境界線スリットライン」だけが浮き上がっていた。

 全艇がラインを通過した直後、実況の声が恐怖で裏返った。

 「な、なんと……! 1号艇・速水誠、スタート展示は……『.00』! 究極のタッチスタートです!!」

 絶対王者・河田がコンマ08、レジェンド幸田がコンマ10。誠は助走段階だけで、超一流たちを「0.1秒」も突き放したのだ。

 「……ありえない。あんなの、人間が制御できるタイミングじゃないっす……」

 5コースの野田あかりは、震える手でハンドルを握り直した。誠のマブイが周囲の時間を歪めている――それは整備士としての直感が告げる「壊れた世界の予兆」だった。

 展示で死神の数字を見せつけられたライバルたちは、萎縮するどころか、逆に「極限の集中」で答えた。ここで退けば二度と誠の背中は捉えられない。

 大時計の針が真上を向く、その刹那――。

 「な、なんだこのスタートは!? 全艇、全速! ラインが……消える!!」

 速水誠、再びの**.00**。

 闇に染まった瞳が時間を物理的に静止させ、黒銀の機体がスリットを「消失」するように通過した。

 だが、他も負けてはいない。幸田が.01、あかりが.02、河田が.02。上位四人がコンマ02秒以内にひしめき合う、競艇史上類を見ない「超絶スリット」が完成した。

【準優勝戦12R:展示リザルト(極限の予兆)】

| 枠番 | レーサー | ST | 状態・マブイ |

| 1 | 速水 誠 | .00 | 「死神の領域」。時間知覚の超越。 |

| 2 | 河田 元気 | .08 | 「驚愕」。王者のプライドが揺らぐ。 |

| 5 | 野田 あかり | .12 | 「解析」。誠の闇を必死に調律しようと試みる。 |

| 6 | 幸田 文哉 | .10 | 「静観」。本番での牙を隠し持つ。 |

 1マーク、四方から高密度マブイが誠の1号艇へと収束する。多重属性のエネルギーが衝突した瞬間、鳴門の海面に巨大な爆発が発生し、高さ10メートルの水柱が視界を奪った。

 (誠! 全部まとめて喰らっちまうか!?)

 シロが黒い牙を剥き、誠の神経系に禁忌の雷鳴を流し込む。衝撃波が吹き荒れる中心で、誠だけが異常な静寂の中にいた。

 「……みんな、重いよ。でも、その重さが、今の俺の燃料だ」

 誠は黒影の出力を最大に開放した。自分に向けられた攻撃エネルギーをすべて「引力」として利用し、推進力へと変換する禁断の旋回。

 『黒銀・大渦旋回ブラックホール・ターン』!!

 他艇が激突の反動で失速する中、誠だけが重力を無視した加速でバックストレッチへと抜け出した。

 誠は独走態勢に入った。だが、コックピット内にはマブイ石が焦げたような、異様な腐食臭が充満している。

 「(誠……。もう一回だけあいつらの魂を喰わせろ……。そうすれば、俺たちは本物の『神』になれる……)」

 シロの意識は、もはや誠の意識と区別がつかなくなっていた。背後からは、一条の光となった幸田文哉が猛追する。

 「誠くん! その力は君をどこへも連れて行かない! 立ち止まれ!!」

 幸田の叫びは、誠の心に届くのか。それとも、黒銀の機体はこのまま鳴門のすべてを飲み込んで崩壊するのか。準優勝戦は、まだ終わっていない。

【準優勝戦12R:1マーク通過順位】

1位:速水 誠(1号艇) 『大渦旋回』で他を吸収。だが機体から異臭。

2位:幸田 文哉(6号艇) 『光の追撃』。誠の闇を裂き、背後に張り付く。

3位:野田 あかり(5号艇) 『整流の意地』。河田と並走し、執念で追う。

4位:河田 元気(2号艇) 『王者の盾』。誠の闇に戦慄しつつ3位争い。

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