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からくり競艇 ~黄金の波切り、魂のフルスロットル  作者: 水前寺鯉太郎
第5章:誠の試練編

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第84話:招かれざる「暴風」 ― ポンコツ会の乱入と弟子の執念 ―

徳島・ボートレース鳴門の第11レースは、もはや通常の競艇の枠を超えた「魂の摩滅戦」へと突入していた。

 満潮に向かう潮流と、レーサーたちが撒き散らす高密度マブイが激突し、水面は物理法則が崩壊した「流動する戦場」と化している。ここでは機体性能以上に、レーサーの精神が過酷な「不協和音」にどれだけ耐えられるかが勝敗を分かつ。時速80kmを超える直線の攻防では、わずか1ミリの操舵の狂いが、機体の粉砕と魂の消失ロストに直結するのだ。

 誠が『共鳴装甲レゾナンス・アーマー』で西野の爆炎を弾き返したのも束の間、混沌が牙を剥いた。

 「おいおい主役を忘れてもらっちゃ困るぜ! 誠、お前のその綺麗な密度を、木端微塵に分解してやるよ!」

 耳を劈く金属音と共に急浮上したのは、森田勝司。

 彼は「ポンコツ会」の異名を持ち、旧式タービンや歪んだ装甲を組み合わせた、一見「ガラクタ」にしか見えない機体を操る。だがその実体は、意図的に不規則な振動を生み出し、相手の調和を根底から破壊する「撹乱のスペシャリスト」だ。

 森田の放つ「異常振動マブイ」は、誠の共鳴周波数を外部から激しく撹乱した。

 39号機が共振現象を起こして激しくガタつき始め、計器類は火花を散らしてブラックアウトする。誠の視界は振動で二重、三重にブレ始め、ダイヤモンドの如き密度は泥水のように濁り、霧散しそうになっていた。

 「誠さんを止めるのは、俺の役目たい!!」

 隙を突き、大峰の愛弟子・宮地明が「弾丸」となって誠の懐に飛び込んできた。彼は昨日の師匠の屈辱を晴らすべく、自身のマブイを削るほどの熱量を注いでいた。

 宮地が連れるのは、驚異的な探知能力を持つビーグルの**「つよし」**。

 「行け、毅! 誠さんの密度が綻んだ瞬間を嗅ぎ分けるたい!」

 宮地のマブイが毅の嗅覚神経と完全同期し、毅は特技のベイ(鳴き声)を上げた。異常振動によって生じた、誠の防壁のわずか数センチの「マブイの空白」。毅はその急所を見逃さず、宮地の機体は最短距離で誠の内側を抉り取った。

 「ぐっ……ハンドルが……重い……!」

 誠の両腕は、過負荷と**「異常振動症バイブレーション・シンドローム」**ですでに感覚を失いかけていた。右からは森田のノイズ、左からは宮地の鋭い差し。そして背後には西野の爆炎。絶体絶命の包囲網が完成した。

 (誠、あきらめるな! 綺麗にやろうとするから負けるんだ。不規則すら飲み込む、さらなる『混沌カオス』になればいい!!)

 シロがマブイ・コアから全エネルギーを逆流させた。それは、レーサー保護の安全装置をすべて焼き切る「禁忌の接続」だった。

 シロは誠の麻痺した神経系に直接マブイを流し込み、誠の意志を介さずにハンドルとスロットルを機体と「直結」させた。39号機から、白銀の閃光に混じって不気味な黒い雷鳴が走り始める。

 万魂石を通じて注ぎ込まれる数千万人の「期待(衆望)」が、誠の極限の苦痛と混ざり合い、未知の「重力エネルギー」へと変質した瞬間だった。

 「……う、おおおおおおおお!!」

 誠の瞳から光が消え、すべてを飲み込む漆黒の引力が宿った。異常振動を「自らの鼓動」として吸収し、宮地の差しを「空間の歪み」として受け流す。

 鳴門の1マークに向けて、四艇が突入する。誠の放つ黒き雷鳴が水面を物理的に染め上げ、周囲の潮流さえ強引に引き寄せていた。

【予選二日目 11R:最終周・隊形】

1位:速水 誠 「黒き覚醒」。異常振動を喰らい、漆黒の雷鳴を纏う。

2位:宮地 明 「神速の嗅覚」。誠の胴体に肉薄するが、重力に弾かれる。

3位:森田 勝司 「振動の魔王」。誠にマブイを喰らわれ、愕然とする。

4位:西野 貴志 「爆炎の執念」。最大火力をチャージするも、射程外。

 「な、なんだあのマブイは……!? 誠、お前……人間を捨てたか!?」

 森田の絶叫。宮地の機体「毅」が誠に触れる瞬間、存在しないはずの重力を検知して機体が弾け飛んだ。誠の意識は鳴門を超え、万魂石の深淵へと繋がっていた。黒い雷鳴を引いた39号機が、垂直に近い角度で第2マークを旋回し、すべてを影に吸い込んでゴールした。

 1着、速水誠。

 だが、ゴールを駆け抜けた機体は抜け殻のように水面を漂った。ピットに牽引された誠は、シートに座ったままピクリとも動かない。

 「……誠! 大丈夫?」

 あかりが駆け寄るが、誠にはヘルメットを脱ぐ力さえなかった。誠のマブイ石から溢れ出した「負の衆望」が、その精神を削り取ったのだ。

 その様子をピットの影から見つめる守屋あおいは、震える手を胸に当てた。

 「……誠。そんな力に手を出すなんて。それじゃあ、私たちが一緒に見ていたあの『白銀の景色』には、もう戻れないよ……」

 誠が手にしたのは輝かしい予選1着。しかし、その代わりに失った「何か」が、衆望万魂祭に暗い影を落としていた。

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