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からくり競艇 ~黄金の波切り、魂のフルスロットル  作者: 水前寺鯉太郎
第5章:誠の試練編

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第83話:九州連合の「逆襲」 ― 爆炎と龍神のライン ―

ボートレースは時速80kmを超える「水上の格闘技」であるが、同時に厳格なルールの上に成り立つ紳士のスポーツである。からくり競艇においても、マブイによる異能の力を行使しながらも、守るべき法規が存在する。これに抵触すれば**「減点」**が課せられ、予選突破や準優勝戦への進出が絶望的となる。

待機行動違反(マイナス7点):

スタート前の「待機行動」中に、他艇の進路を不当に妨害したり、不必要な蛇行を行う行為。マブイの圧力で他者をピット付近に押し込める過度な威圧も、現代では厳しくチェックされる。

不良航法(マイナス7点):

レース中、他艇の走行を妨げる強引な斜行、あるいは相手を転覆させる危険な接触。特に外側の艇が内側を抑え込む「絞り」の際、十分な間隔がないまま進路を塞げばこの違反となる。

失格行為:

転覆・落水・沈没、およびコンマ01秒のフライング(F)。これらは即座に「即日帰郷」という名の追放を意味する。

 鳴門の渦潮という過酷な条件下では、意図せずともこれらの違反に陥るリスクが高まる。誠を狙う「九州合同ライン」は、このルールの限界線を見極めた上での、極めて危険な「合法的処刑」を仕掛けようとしていた。

 2029年5月3日深夜。ドリーム戦の喧騒が去ったピット裏。月明かりの下、二人の「九州の雄」が向かい合っていた。

 「誠の野郎……福岡の時よりさらにマブイが硬くなっておるばい。並の『まくり』じゃあ、弾き返されるたい」

 西野貴志が忌々しげに拳を支柱に叩きつける。

 「ああ。ばってん西野、あいつの密度にも弱点はある。一点に固めすぎるあまり、側面への注意が疎かになっとる……おいが『壁』になり、お前が『炎』になれば、あのダイヤモンドも砕けるはずたい」

 佐賀の龍・大峰幸太郎。個人としての誇りを重んじる彼らが、打倒・速水誠のために**「九州合同ライン(ツイン・ボルケーノ)」**を組む。それはプライドを捨ててでも掴み取りたい勝利への執念だった。

 2029年5月4日。『衆望万魂祭』予選二日目。第11レース。

 1号艇に速水誠。対する3号艇に大峰、4号艇に西野。

 (誠、気をつけろ。三番と四番のマブイが……一つの巨大な生き物みたいに連動してやがる!)

 シロが低く唸る。大峰の重厚な重力マブイと、西野の高熱マブイが二重螺旋を描き、ピットアウトから誠を圧迫し始めた。

 「誠、聞こえるか。あいつら、ルールギリギリの絞りで、お前を1マークで挟み潰す気だ。普通に回れば確実に沈没ロストするぞ」

 大内の緊迫した声が通信に入る。

 「シロ、聞こえるか。相手がラインで来るなら……こっちは『音』で返す。お前の遠吠えを、タービンの回転数に同期させろ!」

 誠は、自分を締め付けていた大気圧ジャケットをあえて限界まで緩めた。一点に固める「静」の密度を捨て、シロのマブイを機体の振動と共鳴させる。

 自機を「見えない高周波の壁」で包み込む新技術――『共鳴装甲レゾナンス・アーマー』。本番のレースという極限状態で、誠は未完成の理論を強行突破ブレイクスルーさせようとしていた。

 大時計の針が動く。「3……2……1……!」

 誠は1コースからコンマ08の全速スタート。だが、その右隣、大峰と西野が翼のように誠を挟み込む軌道で突っ込んできた。

 「もろたばい、誠! 龍神の壁にひれ伏せ!!」

 大峰が右舷に強引に寄せ、重力障壁を展開。誠を渦潮の中心へと追いやる。同時に、大峰の影に隠れていた西野が、誠の「頭」を押さえに飛び出す。

 「ツイン・ボルケーノ、噴火たい!!」

 二つの巨大なプレッシャーが39号機を圧殺しようとした瞬間、誠はシロの「咆哮」の周波数を最大へと引き上げた。

 「ウォォォォォォォン!!」

 機体全体が目に見えない高速で振動を始める。大峰の重力は接触した瞬間に霧散し、西野の炎は高周波の壁に弾かれて逆流した。

 「なっ……何だ!? 俺たちのマブイが弾かれる……!?」

 驚愕する九州勢を尻目に、誠は挟み撃ちのエネルギーを逆に自機の振動の糧に変え、1マークを最小半径で旋回。共鳴装甲を纏った39号機は、鳴門の渦潮さえも「振動の節」として利用し、水面を滑るのではなく空中を震わせながら突き抜けた。

【衆望万魂祭 予選二日目 11R:1マーク通過後】

| 順位 | 艇番 | レーサー | 戦術・状態 |

| 1位 | 1 | 速水 誠 | **『共鳴装甲』**によりハサミ撃ちを無効化。 |

| 2位 | 3 | 大峰 幸太郎 | 誠の振動に弾かれ減速。西野と接触寸前。 |

| 3位 | 4 | 西野 貴志 | 全噴射が逆流。機体に軽微なダメージ。 |

 「……シロ、やったな。俺たちのマブイは、広がり、震え、世界と共鳴できるんだ!」

 誠の白銀の瞳は、さらなる高みを見据えていた。背後では、九州合同ラインが脆くも崩れ去り、大峰が悔しげにハンドルを叩く音が鳴門の渦にかき消されていった。

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