表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
からくり競艇 ~黄金の波切り、魂のフルスロットル  作者: 水前寺鯉太郎
第3部:誠の試練編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
81/185

九枚目の肖像

〇・〇〇一秒の写真判定の死線の果て。ハナ差三センチという奇跡の質量差で、速水誠が九州合同ラインの合法的処刑包囲網をその内側から完全ハッキング撃破し、執念の一着をもぎ取っていた。


 チェッカーを抜けた三十九号機は、すべての霊子ボイラーの火を完全に失い、曳航される救助艇の先で、冷たい抜け殻のようにピットへと帰還した。俺はコックピットのシートに深く沈み込んだまま、指先一つ動かすことのできない、完全な精神フリーズに陥っていた。


「誠!! 目を覚ましてよ、誠!!」


 守屋あおいが、泣きながら俺の体に抱きつくが、俺にはヘルメットのバイザーを自ら脱ぐ腕の感覚さえも、もう一ミクロンも残されていなかった。


「速水、誠さん……。たったの一千マブイの出力で、ここまでの走りを……。あんた、本物の化け物たい……」


 ピットへ帰投した宮地さんが、その全身を激しく震わせながら、畏怖の目を以て俺を凝視していた。

 山口支部の試運転ピット、そのトタン壁の薄暗い影の中から。守屋あおいが震える両手を自らの胸の最中心へと強く、強く当てたまま、その凄絶な光景をじっと動けずに凝視していた。


 彼女の携帯端末の奥、部屋の壁の写真データのフォルダが、ついに「九枚目」へと臨界突破を遂げた。あおいの薄紫色の瞳には、深い悲しみと、そして、ある狂気的な絶対の決意の灯火が、細く鋭く、妖しく灯っていた。


「……誠くん。どうして、私のあの警告を全部無視して、そんなに自分の身体をボロボロに壊す禁忌の力にまで手を出しちゃうの……。でも、もういいわ。これ以上お前を、私以外の誰にも、一ミクロンも触れさせない……」


 九枚目の写真。そこに写っていたのは、かつて山口の夕暮れの平水面で、二人だけで並んで静かに笑い合っていた――あの頃の、あまりにもあどけない俺の肖像だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ