九枚目の肖像
〇・〇〇一秒の写真判定の死線の果て。ハナ差三センチという奇跡の質量差で、速水誠が九州合同ラインの合法的処刑包囲網をその内側から完全ハッキング撃破し、執念の一着をもぎ取っていた。
チェッカーを抜けた三十九号機は、すべての霊子ボイラーの火を完全に失い、曳航される救助艇の先で、冷たい抜け殻のようにピットへと帰還した。俺はコックピットのシートに深く沈み込んだまま、指先一つ動かすことのできない、完全な精神フリーズに陥っていた。
「誠!! 目を覚ましてよ、誠!!」
守屋あおいが、泣きながら俺の体に抱きつくが、俺にはヘルメットのバイザーを自ら脱ぐ腕の感覚さえも、もう一ミクロンも残されていなかった。
「速水、誠さん……。たったの一千マブイの出力で、ここまでの走りを……。あんた、本物の化け物たい……」
ピットへ帰投した宮地さんが、その全身を激しく震わせながら、畏怖の目を以て俺を凝視していた。
山口支部の試運転ピット、そのトタン壁の薄暗い影の中から。守屋あおいが震える両手を自らの胸の最中心へと強く、強く当てたまま、その凄絶な光景をじっと動けずに凝視していた。
彼女の携帯端末の奥、部屋の壁の写真データのフォルダが、ついに「九枚目」へと臨界突破を遂げた。あおいの薄紫色の瞳には、深い悲しみと、そして、ある狂気的な絶対の決意の灯火が、細く鋭く、妖しく灯っていた。
「……誠くん。どうして、私のあの警告を全部無視して、そんなに自分の身体をボロボロに壊す禁忌の力にまで手を出しちゃうの……。でも、もういいわ。これ以上お前を、私以外の誰にも、一ミクロンも触れさせない……」
九枚目の写真。そこに写っていたのは、かつて山口の夕暮れの平水面で、二人だけで並んで静かに笑い合っていた――あの頃の、あまりにもあどけない俺の肖像だった。




