第78話:鳴門の激流、衆望万魂祭(しゅうぼうばんこんさい)開幕!
次なる戦いの舞台は、四国の玄関口、徳島県鳴門市。**「ボートレース鳴門」**は、からくり競艇界においても最も予測不能な「魔の水面」として恐れられている。
「小鳴門海峡」の激流:
鳴門競艇場は、大毛島と四国本土を隔てる小鳴門海峡に位置する。瀬戸内海と紀伊水道を繋ぐ潮流は、最大時速20kmに達する日本屈指の「走る水面」であり、レーサーの旋回軸を無慈悲に狂わせる。
「本物の渦」の発生:
干満の差が激しい時間帯には、第1マーク付近に本物の渦潮が発生する。マブイ密度の低い機体は、この渦に「魂の浮力」を奪われ、文字通り水中へと引きずり込まれる。
万魂石と衆望:
ここで開催される『衆望万魂祭』は、会場中央に鎮座する巨大な霊石「万魂石」が鍵となる。これは、全世界のファンが中継端末を通じて注ぐ「期待のマブイ」を受信し、レーサーに供給する増幅器である。レーサーは、背負っている「期待の重さ」を制御し、出力へ変換する器としての資質を問われる。
2029年5月。誠の連覇がかかるSGレース『衆望万魂祭』が幕を開けた。
ピットに到着した野田あかりが、走るように流れる海面を見て息を呑む。
「……すごい、潮の流れが速すぎるっす! 海が、海が走ってるっすよ!」
昨年の覇者として黄金のバイザーが輝くヘルメットを被る誠の前に、全国の強豪たちが集結した。「連覇なんて甘かばい」と闘志を燃やす佐賀の大峰。「お前の密度を試させてもらう」と不敵に笑う王者の河田。そして、その中心には徳島のレジェンド、幸田文哉が静かに佇んでいた。
このレースの異質さは、万魂石を通じて流れ込む数千万のファンの「衆望」にある。
(誠、感じるか? 去年よりずっと重い……。数千万人の『奇跡を見せてくれ』っていう祈りが、濁流となって流れ込んでくるぞ!)
シロの毛並みが黄金色に変色し、誠の体内で浜名湖にて形成された「マブイの核」が、衆望を吸い込んで白熱していく。
「……重い。でも、苦しくない。これが……みんなの力なのか」
誠は初日12R、ドリーム戦1号艇に指名された。隣には河田、大峰、守屋あおい、西野、そして地元の主・幸田。からくり競艇界の頂点が集う「神々の激突」である。
「みんなの期待を、俺の密度で、誰にも届かない勝利に変える!」
誠は、大内胤賢が激流と万魂石に合わせて極限調整した39号機に乗り込んだ。プロペラにはナノ研磨された特殊合金を採用。圧縮マブイを一点集中させ、水を切り裂くのではなく「空間そのものを貫く」仕様だ。
『衆望万魂祭』主要エントリー
| 艇番| レーサー | 属性・特性 | 備考 |
| 1 | 速水 誠 | 白銀の針 | 1,000マブイを極限圧縮。 |
| 2 | 河田 元気 | 絶対逃走 | 85,000マブイ。黄金の支配者。 |
| 3 | 大峰 幸太郎 | 龍神の牙 | 潮流を力で捻じ伏せる重量感。 |
| 6 | 幸田 文哉 | 無心の透徹 | 鳴門の主。マブイを「無」へ還す。 |
大時計が回る。鳴門の渦潮が逆巻き、激しい水しぶきが舞う中、誠の1,000マブイは衆望を取り込み、一筋の「ダイヤモンド・ポイント」へと昇華された。
スリット通過、コンマ03。
誠の航跡が渦潮を真っ二つに割り、1マークに向けて神速の最短距離を突き抜けた。
「行かせんたい、誠!」
大峰の重圧、河田の黄金の壁。だが、誠の密度は既に王者の壁をも透過する領域に達していた。
「……見えた、渦の中心! そこが、俺のターンマークだ!!」
誠はハンドルを鋭く入れる。39号機の先端から放たれた圧縮マブイの針が、鳴門の渦潮の「中心」を貫いた。渦の吸引力を逆に遠心力へと変換し、重力を無視した速度で旋回する。
「なっ……! 渦に吸い込まれるどころか、加速しただと!?」
西野が絶叫する中、バックストレッチへ抜け出したのは黄金の光を纏った白銀の狼だった。
2艇身のリード。しかし、後ろからは幸田文哉の「無」の波動が、音もなく、死神のような静寂で背中に迫っていた。
「誠くん。衆望を背負うということは、それだけの『影』も背負うということだよ」
幸田の6号艇が、誠の航跡にぴたりと重なる。連覇への道は始まったばかり。鳴門の夜空に、数千万の観衆の歓声がマブイとなって降り注いでいた。




