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からくり競艇 ~黄金の波切り、魂のフルスロットル  作者: 水前寺鯉太郎
第5章:誠の試練編

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第69話:崩壊の連鎖、龍が駆ける「一筋の道」

からくり競艇が放つ熱狂の正体は、水面上のバトルだけではない。スタンドで叫び、あるいは端末を通じて自らのマブイを注ぎ込む観客たちが手にする「舟券ふなけん」こそが、この競技を動かすもう一つの巨大な歯車である。舟券を買うということは、レーサーのマブイと自らの運命を同期させる行為に他ならない。

主要な舟券の種類:

単勝・複勝: 1着、あるいは2着までに入る艇を当てる基本。

2連単・2連複: 1・2着を当てる。連単は着順通り、連複は順不同。

3連単: 1〜3着をすべて着順通りに当てる。「万舟まんしゅう」と呼ばれる高額配当の源泉。

鉄火場の歩き方:

ファンは「出走表」で勝率やペットとの相性を解析し、「展示航走」でエンジンのマブイの音(仕上がり)を見極める。締切直前、マークカードに欲望と希望を刻み込む瞬間、スタンドのマブイ濃度は臨界点に達する。

 誠が走る第11レース。人々の願いは「誠の奇跡」か、あるいは「龍の復活」か。握りしめられた舟券には、博多の夜を焦がす熱量が凝縮されていた。

2.孤狼の結末、心中走法の崩壊

 第11レースは最終周のバックストレッチ。

 誠が『ハエトリグサ』で命がけで奪った「負のマブイ」。そのダメージで誠の機体は沈黙したが、同時にそれは新見航平とキム・テヨンを繋いでいた「絶対のライン」を致命的に脆くしていた。

 「テヨン、耐えろ! あと半周で終わる……っ!」

 新見が自身のマブイを逆流させてまでテヨンを支えようとするが、平衡感覚を失ったテヨンの機体は大潮の猛烈な引き波に抗えなかった。二人で一つの軌道を描く「心中走法」の一角が崩れた瞬間、新見の背後に致命的な空白が生まれた。

 「……新見、ごめん。もう、感覚が……」

 テヨンのマブイが途切れ、二人の機体を繋いでいた青い放電が、強化ガラスが砕け散るような音と共に霧散した。孤狼たちの「鉄の結束」が崩壊した瞬間であった。

3.王者のマブイ、黄金の龍神旋回

 「好機チャンスたい、宮地! 誠が命ば張って作ったこの道、一歩も譲るな!!」

 雷鳴のような咆哮が響く。「佐賀の龍」大峰幸太郎だ。減点7という絶望の淵に立たされた男は、最も危険な「内側の隘路」へ迷わず舵を切った。大峰の機体から溢れ出す圧倒的なマブイは、黄金のオーラとなって水面を支配する。テヨンの引き波を『龍神旋回』で真っ二つに割り、新見の懐へと最短距離で突き刺さる。

 「これが、泥をすすり、風を喰らって生き残ってきた、おいたちの競艇たい!」

 大峰に続き、弟子の宮地明が外側を完全ブロック。逃げ場を失った新見を「佐賀の壁」が包囲する。

 その時、漂流していた誠の意識に俊樹の声が届いた。

 (誠……僕の『無』を、君のノイズの中に流し込むよ。少し、涼しくなるはずだ)

 俊樹のマブイゼロの波動が周囲の毒を中和し、オーバーヒートした39号機の回路が息を吹き返した。誠が目を開けると、黄金の龍、それを追う雷、そして無音のステルスが、崩れ去る新見コンビを抜き去っていく光景がスローモーションで流れていた。

 「みんな……。俺たちが繋いだ道、走ってくれてる……!」

4.救済の白銀、ピットの残照

 ゴール板を駆け抜けたのは、執念の龍であった。

【予選4日目 11R 確定リザルト】

| 着順 | 枠番 | レーサー | 決まり手 | 備考 |

| :--- | :--- | :--- | :--- | :--- |

| 1 | 4 | 大峰 幸太郎 | 差し | 減点を跳ね返す執念の白星。 |

| 2 | 6 | 瓜生 俊樹 | 差し | 混乱を突き、ステルス入着。 |

| 3 | 5 | 宮地 明 | まくり | 師匠を援護し、表彰台死守。 |

| 4 | 2 | 速水 誠 | - | 奇跡の再始動。4着完走。 |

| 5 | 1 | 新見 航平 | - | 連携崩壊。 |

 ピットに戻った誠を、泣きじゃくるあかりと、震える手で迎える真理子が待っていた。「誠くん。もう二度と、あんな危ない橋は渡らせないわ」

 一方、新見航平はテヨンの元へ駆け寄っていた。「テヨン! 目を開けろ!」

 誠はフラフラする足取りで新見に歩み寄った。「新見さん。……そんな走りじゃ、いつか本当に彼を殺してしまう」

 新見は誠を鋭く睨んだが、その瞳には拒絶だけではない「揺らぎ」があった。新見の手は、誠のマブイが残した「白銀の微熱」に触れ、わずかに和らいで見えた。

 福岡の空に夕焼けが広がる。大峰は首の皮一枚で望みを繋ぎ、誠はその走りでファンの心に「白銀」の名を刻み込んだ。

 「さて、誠。毒を食らって強くなるのは機体だけじゃない。君の精神もまた、一つ殻を破ったようだね」

 大内胤賢が不敵に笑う。博多の潮は再び満ち、選ばれし者たちの「準優勝戦」が幕を開けようとしていた。


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